2016年度のプログラムが終了しました(更新日:2016年12月21日)

ポートランド研修の目的と概要

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調査期間:2011年7月30日(土)~8月7日(日)
文責:週末学校事務局 稲垣亜希子

ポートランド研修の目的

7月30日から8月7日までの9日間、週末学校のプログラムの一環として米国オレゴン州ポートランド市へ調査に訪れた。ポートランドでの研修実施は、東京財団が市区町村職員向け研修を開始した2004年から連続して8回目となる。今年も、東京財団と長年パートナーを組んでいるポートランド州立大学(PSU)にプログラムを担っていただいた。
今年のプログラムのテーマは、昨年に引き続き「住民主体のまちづくり」。住民参加が盛んなことで知られるポートランドだが、具体的にポートランド住民は自分たちのまちづくりにどのように参加をしてきたのか。そしてその過程で行政はどのような役割を果たしてきたのか。現地の方へのインタビューや意見交換を通じて、異国の地と言う非日常の空間で、「そもそも何のための住民参加なのか」を肌で感じることがポートランド研修の目的であった。
「住民主体のまちづくり」と言う大テーマの下、今年は各論からのアプローチを試みた。研修生が具体的な事例を通じて、それぞれに共通する本質部分を抽出することを狙った。1週間と言う短い期間で本質に迫るためには、具体的な事例を切り口にすることが効果的と考えたからである。


PSUが用意した具体的な事例は4つ。各事例の詳細、また事例を通じて考えることができた点などについては別レポートで詳述することにして、ここでは事例のタイトルのみ紹介しよう。

事例1: 公共交通機関の運賃無料ゾーンの変更に関する住民の合意形成プロセス
事例2: スーパーマーケットの建て替え工事に対し、ネイバーフッドアソシエーションの果たした役割
事例3: コミュニティガーデン増設に向けたポートランドの官民連携
事例4: 使い捨てレジ袋の廃止法案成立に至るまでのプロセス

いずれも「ポートランドらしさ」に溢れる事例であり、ポートランドにおける住民自治の本質が浮き彫りとなるものであった。

プログラムの概要

ポートランド研修の初日、これからの1週間を過ごすに当たって、次の2つの問いが与えられた。
1. ポートランドで住民参加が盛んな理由はなにか
2. (住民参加を促進するために)自身の自治体、また自分自身は何を変えればよいか

日本と異なる国を訪れる海外研修だけに、制度や仕組みの違いのみを見てしまうと、「文化や慣習の違い」の一言で片付けてしまう恐れがある。週末学校のポートランド研修は、単なる視察旅行になることを避け、研修生が日米に共通する普遍的な本質を抽出できるようなプログラムとなるように心がけた。まさに、上記2つの問いは、この日米に共通する普遍性を見つけ出すための重要な問いであった。

ポートランド研修プログラムは、日曜日の市内探索から始まった。研修生は関心のある事例ごとにグループに分かれ、公共交通機関や自転車を利用して市内外を動き回った。ここでの主目的はポートランド住民へのインタビュー。「住民参加」について考えるにあたり、まずはポートランド住民の自治に対する率直な考えを聞くことが狙いである。私が同行した事例2のグループは、当該スーパーマーケットの建て替え工事が行われている現場を訪れ、周囲の人々に対し、「スーパーマーケットの建て替えに伴い、ネイバーフッドアソシエーションがスーパーマーケットとの話し合いを行っていたことを知っているか」、「あなたはネイバーフッドアソシエーションの活動に参加しているか」、「なぜ参加している/していないのか」、「議論した内容は行政に伝わり、政策に反映されているか」、「ポートランド市政に満足しているか」など、上記4つの事例を足がかりにしながら、本質を聞き出すことを心がけた。結局朝から晩まで、いくつもの地域で、30人近くの人々にインタビューを行った。

月曜日以降は、アメリカの行政や市の監査に関する講義の合間に、各事例の関係者を訪れ、意見交換を行った。具体的に面会した方々は、公共交通機関を運営している公的機関TRIMETの担当者、レジ袋廃止法案の成立に尽力した市職員、コミュニティガーデンを運営するNPOの代表者、大型スーパーマーケットと住民の話し合いの場を作ったネイバーフッドアソシエーションの代表者など。いずれの方々も我々の訪問を快く受け入れていただき、率直な意見交換を行うことができた。
一日の終わりには必ず振り返りのセッションが設けられ、理解できた点/理解できていない点/疑問に思う点などを共有した。また夜はネイバーフッドアソシエーションの定例会や、近隣市の市議会傍聴などへ小グループで出かけ、住民参加の現場を肌で感じる機会も得ることができた。

今年のポートランド研修は具体的な事例を切り口にしたことで、大学の教室を離れ、現場に赴くことが多くなったが、このことが更に研修効果を上げた。何しろ同じ話を聞くのでも、教室で聞くのと現場で聞くのとでは大違いである。重機がうなり、土埃が立ち上る工事現場のすぐ横でその工事に至る話を聞くと、どれだけ時間がかかろうが、納得いくまでスーパーマーケット側と工事について話し合う必要があったことが否応なしに理解できた。

朝早くから夜遅くまで出ずっぱりの忙しい毎日ではあったが、その分、研修生にとって学ぶことの多い充実した9日間となったようだった。

研修生の声

市内探索、講義、関係者との意見交換、夜の現場訪問、全ての場で上記の2つの問いを考え続けることで、研修生は多くを考え、悩み、議論してきた。

ある研修生は、ポートランドの行政職員は「積極的に地域に出て行き、地域住民に認識されている。住民がやりたいことがあれば、行政はできる限り応援し、後方支援をする。地域に課題があれば、お互いに何ができるか考え、一緒に汗をかく。」と分析し、「このようなことを地道に積み重ねていったことで、住民と行政が信頼しあい、現在の住民自治が息づくポートランド市を構築してきた」と考えた。
また、ある研修生は、「『自分がなんとかしよう』と考えること自体が間違っていて、自分たちの役割は住民のサポートなのではないか」と気づいた。
そして、なにより、「とにかく住民が常に主役でなければならない」ことを肌で感じ、再確認できた研修生が多かったように思う。

文化や慣習が違えども、自立した自治体であるための大原則が「住民自治」であることは変わらない。自分たちのまちは、自分たちが責任を持ってつくる。そうすることで住民は自分の住むまちに誇りを持つことができ、そのことがポートランドを魅力的なまちに見せているのであろう。
米国であれ日本であれ、丁寧に、時間をかけて、納得いくまで徹底的に話し合う姿勢が住民に共有されることが、住民自治への第一歩である。今回のポートランド訪問が、研修生たちがそのことを実感し、そのために行政がすべきことを改めて考える機会となったことを期待したい。

関連レポート

住民の合意を形成する~公共交通の無料ゾーン政策見直しの事例から~
住民自治の現場~ネイバーフッド・アソシエーションの事例から~
研修生レポート① 「公(Public)という庭の志高き庭師を目指して」
研修生レポート② 「ネイバーフッド・アソシエーションに見た彼らの豊かさ」
研修生レポート③「ポートランドが生み出す住民主体のまちづくり」
「公共を担うのは誰なのか~ポートランドを訪れ、日本の自治を考える」 冨田清行(東京財団 政策研究事業ディレクター兼研究員)