2016年度のプログラムが終了しました(更新日:2016年12月21日)

研修生レポート③「ポートランドが生み出す住民主体のまちづくり」

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調査期間:2011年7月30日(土)~8月7日(日)
文責:青森県八戸市 榊亜衣理(研修生)

オレゴン州ポートランドを訪問した研修生の声をご紹介します。現地でのプログラム内容についてはこちらをご覧ください。

ポートランドが生み出す住民主体のまちづくり

広大なウィラメット川と森に抱かれ、都市と自然が美しく調和する都市、ポートランド。この地を訪れ、実際に見て感じたことをずっと自分の中で振り返ってきた。このまちは単に自然に恵まれた美しい都市、という表現には留まらない素晴らしさを秘めていた。今回は、この場をお借りし、皆様に報告したい。

都市の中心部ダウンタウンを実際に歩いてみると人口60万人の都市とは思えない静けさに驚く。その理由にしばらくして気がついた。自動車が少ないのだ。その代わりに、充実した公共交通機関が住民の足として身近にある。住民に聞くと、公共交通が便利だから、車がなくても不自由がないのだそうだ。
加えて、驚いたのは、人が道路を横断しようものなら必ず自動車が先に止まるということ。また、歩行者だけでなく、自転車に対しても決して無理な追い抜きをしないなど配慮が感じられる。自転車で市内探索をした研修生の中にはそれを実感した人もおり、初めて訪れたまちを走る不安もすぐに消えたという。このまちでは、歩行者と自転車を優先するマナーが住民の中で深く浸透している。

次に印象に残ったのは人だ。住民は気さくで、何でも話をしてくれる人が多い。住民にインタビューを行った際にそれを実感した。日本であれば、警戒して避けられてしまうのが大方だが、ポートランドでは様子が違うのだ。どの人も快く対応してくれる。少しはにかみながら話してくれた愛犬連れの年配の男性。ネイバーフッド・アソシエーション(以下、NA)の会合で出会った豪快に笑う顔が素敵な女性。そして、どの人も、私たちの質問に対する賛否、その理由は三者三様だが、根底にはいずれも明確な自分の考えを持っていた。
また、NAの会議を2度傍聴する機会に恵まれたが、いずれも年代、性別、人種も様々な住民が集まり、活発に意見を交わす。例えば、新路線の整備を通して地域活性化を図りたいとする行政に対し、バス停の設置場所、住居建替え等に対する制限の有無から開発の費用対効果まで、積極的な質疑応答がなされる。このやり取りを約1年間かけて行い、地域の総意を固めるのだという。「地域のため、みんなのためにはどうしたらよいのか」という視点で課題の解決に向け、熱心に議論する住民の姿がそこにあった。

公共交通機関を運営するTRIMET社で聞いた言葉も印象に残る。「無料ゾーンの政策変更について、もし最終的に住民の合意が得られなかったら、TRIMETはどういう判断を下したか」との問いに対する「合意が得られなかったら、政策変更はしなかった」という答えだ。2年もかけて利害関係者である住民や企業と合意形成に取り組み、それでも、最終的に合意が得られなければ政策変更はしないというのだ。それほどまで、このまちにおける政策決定過程の中心には常に住民の存在がある。

ポートランドというフィルターを通してみた、「住民主体によるまちづくり」の一つの形。「公」=「官」の日本と決定的に違う、「公」=「民」がうまくいっている典型例だった。そこからは、「自分たちのまちのことは、自分たちで決める」そういった覚悟と心意気が伝わってくる。住民が地域の一員としてまちの課題を共有し、解決に向け議論し、行動することを通して、まちはつくられ、そして住民も共に成長していく。これこそが持続可能な社会を実現していく大きな鍵となるに違いない。将来の希望に満ちた私たちのまちをつくっていくためにも、地域と真正面から向き合い、住民と地域の豊かさを育み変化を起こしていくこと、それが自治体職員の一人として自分に課せられた使命であると信じている。

関連レポート

ポートランド研修の目的と概要
住民の合意を形成する~公共交通の無料ゾーン政策見直しの事例から~
住民自治の現場~ネイバーフッド・アソシエーションの事例から~
研修生レポート① 「公(Public)という庭の志高き庭師を目指して」
研修生レポート② 「ネイバーフッド・アソシエーションに見た彼らの豊かさ」
「公共を担うのは誰なのか~ポートランドを訪れ、日本の自治を考える」 冨田清行(東京財団 政策研究事業ディレクター兼研究員)