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(2014年度国外調査)ケーススタディ: ライトレール(軽量軌道:LRT)延伸に伴う新駅建設プロジェクト

キーワード:

調査先: オーク・グローブ、METRO
調査日: 2014年8月26日
文責:秋田県北秋田市 長岐 孝生(2014年度参加者)

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2004年に東京財団が自治体職員向け人材育成プログラムを開始して今年で11年。初めの5年と、その後6年とで、プログラムの形態と内容は異なるが、一貫して実施してきているのが、米国オレゴン州ポートランド市での調査である。今年もポートランド州立大学(Portland State University:PSU)とのパートナーシップの下、11回目となるポートランドプログラムが実施された。

ポートランドプログラムは、具体的な事例を切り口にして、地域における実践者や様々なステイクホルダーたちとの意見交換から、ポートランドにおける住民参加を考えると言うアプローチを取っている。1週間と言う短い期間で可能な限り学びを深める工夫の一つだ。事例は、①ポートランドプラン(多様性を反映した包括的戦略計画)策定プロジェクト、②ライトレール(軽量軌道:LRT)延伸に伴う新駅建設プロジェクト、の2つ。7泊9日の本プログラムは、上記2事例を中心にして、(1)市内探索、(2)講義、現場視察・ヒアリング、(3)イブニングサイトビジット、そして(4)特別セッション(イノベーション・ラボ)で構成された。

以下は、ライトレール(軽量軌道:LRT)延伸に伴う新駅建設プロジェクトに関する参加者レポートである。

参加者レポート

・アーバングリーン

オレゴン州ポートランド都市圏内のクラカマスカウンティ(州政府の出先機関)の中の非法人化地域(市域に含まれないコミュニティ)であるオークグローブ(由来:美しい樫の木の小さな森)に活動拠点をおき、その使命は「都市の生態系を保護、保存し、健全で活気あふれるコミュニティを作り、オークグローブ住民の生活を改善すること」であり、「緑の多い」地域づくりを推進力として、地域の力を活用することをモットーとしている市民グループである。

・一人からの出発 -創設-

もともと住民同士の結束力も強いわけでもなく、比較的社会問題には無関心な地域であった。

しかし、一人の住民が、地域の抱える問題を住民同士で話し合う勉強会をきっかけに、それまで失われてきた地元への愛着心・仲間意識が芽生え、コミュニティが動き出した。そして、数人の勉強会から始まった集まりが、次第にグッド・ネイバーフッドアソシエーションとして組織化され、様々な活動していくなかで、コミュニティを大切にすることが自分たちの暮らしを豊かにするということに気づき始めた。そんな時、先を考えない近視眼的な開発によって、老齢の樫の木が伐り倒され、地域の自然生態系が破壊されるかもしれないという状況になり、これに対して少数の住民が立ち上がり、グッド・ネイバーフットアソシエーションを母体とした環境活動組織「アーバングリーン」が産声を上げた。

まさに、一人の想い、少数の住民から出発した出来事である。

・マックス・ライトレール計画

経済の発展を見越し、広域的な開発計画への取り組みの中で、ポートランド市とミルウォーキー市(オークグローブの北に位置する)の間の輸送ニーズと、住民の望む交通手段を見極める調査が行われた。その結果、両市を結ぶ「マックス・ライトレール」の導入が行政と住民により合意された。 7.3マイルにおよぶこの路線(オレンジライン)はポートランド都市圏で公共交通サービスを提供する特別目的行政体である「トライメット」により運営される。

このオレンジラインはポートランド州立大学と、ミルキーウェイ市、そして、オークグローブをつなぐこととなり、オークグローブが終着駅になる。この終着駅には、立体駐車場が建てられる。

Chips曰く、オークグローブの新駅は終着駅ではなくポートランドに向けての始発駅だという。前向き思考こそ、自由発想・イノベーションの始まりである。

・住民の反対-アーバングリーンへの求愛-

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昔から住んでいる人が多く、保守的な考えを持つ住民は新しいオレゴンを好まない。そのため、カウンティがお金を出すのはおかしいという団体も出てきた。メトロとトライメットは、事業完遂のためにこの反対の声を同意に変える必要があった。そこで、メトロと既につながりのあったアーバングリーンに駅にお金をかけることが意味あるものとするため、駅周辺住民の支援を取り付けるための協力を求めてきた。

・計画の光と影

〈光〉
雇用の創出が図られ、より良い交通サービスを住民が受けられ、経済効果も期待される。
〈影〉
駅舎建設予定地は、森林を切り開きアスファルトを敷き、商業ビル、駐車場などが無計画に建てられていた場所で、新たな建設で豊かな自然や健全な生態系がますます失われていく。

・始動 -アーバングリーンが始めたこと-

ネイバーフッドのような地縁組織がなかったことから地域の住民を集めることからはじめ、新駅ができて影響を受けるだろうすべての人に声をかけ、小さな集会を多く開いた。

集会では、「新駅はできることが決まっているが、黙っていては、一番簡単で一番安い方法で駅や駐車場、車両の収納庫などが作られてしまう。あなたは何を望むのか?この地域をどう開発したいのか?」と問いかけると、多くのアイディアが飛び出した。このアイディアをもってメトロ(広域行政組織)と話し合いを始めた。

 

・成功のカギ ―パートナーシップ-

メトロとの話し合いの中でから、双方とも自然の保護・保全のための活動を展開しているという点で共通しているが、それぞれ違った資源・強みを持っていることが明らかとなった。メトロは資金と専門家による事業のノウハウを、アーバングリーンは地元住民の熱意と豊富な地域情報をもっており、互いの力を結集することで、それぞれの持つ利点を活かして、駅と立体駐車場の計画を、持続可能でグリーンな開発ができると考えた。そこでメトロは、ネイチャーインネイバーフッドの助成金プログラム(「緑化」「再自然化」のための資本投資)に申請してみてはどうかと、アーバングリーンに助言をした。これが、パートナーシップの始まりとなった。

助成金申請の基準を満たすためアーバングリーンは、目的が一致しているトライメットとパートナーを組んだ。両者はより幅広いパートナーシップを構築するため多くの団体に声をかけた。その結果、オレゴン州やカウンティの行政部門をはじめとする地元団体など多くの組織とパートナーを組むことができた

・波及効果-大きくなるプロジェクト-

助成金の条件の範囲でしかプロジェクトを考えていなかったパートナーたちも、持続可能で、地域に根ざしたものにしようと当初の期待を上回る計画ができた。それは、フェンスの外側にオレゴンとポートランドを結んでいたトローリートレイルという交通軌道があったが、1950年代に廃止となって以来、手付かずでそのままになっていたものを公園局が土地を買い上げ、6マイルにわたり人と自転車が通れる遊歩道に替ることになった。また、開発によって取り除かれた樹木を捨てるのではなく再生させることも進め、遊歩道に隣接して、駅の利用者や周辺の人たちが憩えるように、その樹木を「自然の形にしておいて制植物が集まる」「ローカル芸術家の彫刻にする」などに活用して、公園化が考えられた。交通局の働きかけのおかげで、雨水処理・管理ができるようになった。これまでの行政が手がけてきた事業の中でも、なかったおもしろいアイディアであり、革新的であったこと、そして、それぞれの想いを共有することができたことで、より成熟したものになっていった。

 

・柔軟性を持った行政

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プロジェクトを進めていく中で、透明性をもって、プロジェクトの内容について説明責任を果たす必要がある。プロジェクトのステップごとに住民にフェードバックし、変更事項があれば対話を重ねて可能なものは変更していく。これはよりよいものにするためにパートナーの意見を取り入れていくこと、そして、税金を使ったプロジェクトであることから公開していく義務がある。

アーバングリーンもこの過程において、必ず会議に出席し、コミュニティの声がきちんと反映されているかを監視している。行政側もアーバングリーンがいることで、方向性を見失うことなく遂行できていることに感謝している。まさに、信頼関係から出来上がっているパートナーシップである。

 

・アーバングリーンが教えてくれたこと

1)自分でできることから始める
2)組織の中の一人の理解者を探し、対話を重ね、信頼関係を築いていく、理解者の理解者を巻き込み、多くのパートナーを見つけ出していく(成功のカギとなるが、最も難しいこと)
3)そのためには、変革する人となる勇気を持たなければならない
4)パートナーシップはお互いの持ちえる利点で補い合うことが必要である
5)対話は相手を尊重し、意見を出し続けさせることで、よいアイディアが膨らみ、合意形成につながる
6)関心をかき立てると同時に実現することの楽しさ(成功体験)を引き出す
7)革新的思考を常に持ち続ける(Thinking the outside box)
8)柔軟性を持った行政であること(住民へのフィードバック)
9)透明性と説明責任を果たす

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