2016年度のプログラムが終了しました(更新日:2016年12月21日)

(2014年度国外調査)ケーススタディ: ポートランドプラン(多様性を反映した包括的戦略計画)策定プロジェクト

キーワード:

調査先:オーク・グローブ、METRO
調査日:2014年8月27日
文責:福井県 福井市 宮川 和也(2014年度参加者)

2004年に東京財団が自治体職員向け人材育成プログラムを開始して今年で11年。初めの5年と、その後6年とで、プログラムの形態と内容は異なるが、一貫して実施してきているのが、米国オレゴン州ポートランド市での調査である。今年もポートランド州立大学(Portland State University:PSU)とのパートナーシップの下、11回目となるポートランドプログラムが実施された。

ポートランドプログラムは、具体的な事例を切り口にして、地域における実践者や様々なステイクホルダーたちとの意見交換から、ポートランドにおける住民参加を考えると言うアプローチを取っている。1週間と言う短い期間で可能な限り学びを深める工夫の一つだ。事例は、①ポートランドプラン(多様性を反映した包括的戦略計画)策定プロジェクト、②ライトレール(軽量軌道:LRT)延伸に伴う新駅建設プロジェクト、の2つ。7泊9日の本プログラムは、上記2事例を中心にして、(1)市内探索、(2)講義、現場視察・ヒアリング、(3)イブニングサイトビジット、そして(4)特別セッション(イノベーション・ラボ)で構成された。

以下は、ポートランドプラン(多様性を反映した包括的戦略計画)策定プロジェクトに関する参加者レポートである。

参加者レポート

1L6R0644

・ポートランド市の長期戦略計画策定の概要

・ビジョンPDXの策定(2005-2008)について

(1)概要

向こう20年間を見越したポートランド市のビジョンを、コミュニティの意見を聴きながらつくりあげた。ポッター市長のもと2年間かけて策定。報告書は「開発」「経済」「環境」「教育」の5項目にまとめられ、次の「ポートランド・プラン」の指針となった。

(2)手法 住民ボランティア40名程度で構成する「ビジョン委員会」が中心となり、住民の意見を集めた。

あらかじめ「4つの質問」を9か国語で準備し、イベントの開催、ディスカッション、聴衆との対話型演劇、一対一のインタビュー、アンケートなど、様々な手法で、約17,000人の住人から回答を得た。

<4つの質問(要旨)> ① ポートランドのどこを一番評価していますか?その理由は?
② 現在、ポートランドで何が一番変わってほしいですか?
③ 20年後の未来を想像してみてください。市に対するあなたの希望が全て実現したら、私たちの市は、どんな風に良くなっていますか?
④ あなたが今描いたポートランドが現実のものとなるために、私たちが今できる一番大事なことは何でしょうか?

住民意見の収集に、コミュニティへの助成金プログラムを活用。助成金を受けたNPOや地域組織、劇団など、29団体が意見収集活動に携わった。

・ポートランド・プランの策定(2009-2012)について

zu1

(1)概要
2035年に向けて、ポートランド市の戦略的方向性を示すプランとして策定された。予算要求やプロジェクト提案などを審議する際、市の長期目標に照らした評価基準となることを目指した。重点課題は「公正性」「教育」「繁栄」「健康」の4分野とした。

(2)実施主体
アダムス市長の担当部局であった、都市計画及び持続可能性対策局(BPS)が主導でプロジェクトを進めた。

(3)手法
3年間かけて、3つの段階を経て策定した。

<第1段階(2009秋-2010.3)>
BPS主導で(他部局の職員も協力)、ポートランドのコミュニティ状況を把握する調査を行い、結果をレポートにまとめた。レポートは、コミュニティ・ワークショップ等を通じて住民に審査してもらい、改善を図った。また、住民からの意見徴集やアンケート調査により、住民が考える開発の優先順位や関心事項を明らかにし、調査報告書を公表した。

<第2段階(2010.4-2010.8)>
 ポートランド市が、長期目標・目的の草案を公表し、ワークショップ等を通じて、ポートランド市民による見直し、優先順位づけ作業が行われた。

<第3段階2010.9-2011.5>
市職員が中心となり、優先目標を達成するための具体的な活動戦略づくりを行った。市は住民イベントを主催し、住民がコミュニティ開発について学んだり、市職員にコメントやアイディアを伝える機会を作った。

BPSは、コミュニティ主催のイベントや民間企業、NGO等を積極的に訪問し、ポートランド・プランの周知をするとともに、住民からの意見を得た。

(4)ステークホルダー(主要関係者)について

① BPS内「地域連絡調整担当グループ」
都市計画の専門家からなるBPS内のチーム。メンバーそれぞれに担当地区があり、地区住民との信頼関係を築いていた。各地区の現状把握と、各地区へのプランの周知及び住民参加の推進に貢献した。

② 市役所内の他部局及びその他の行政機関
プランの第2段階において、公共住宅局や学校区は、アンケート配布や広報を手伝った。また、ネイバーフッド・インボルブメンをト局(ONI)は、住民参加のノウハウをBPSと共有した。

③ コミュニティ参画委員会(CIC)
P1040634 2009年7月に16名で結成された。ポートランド・プランへの住民巻き込み・参加推進のための目標を設定するとともに、プランの各段階の終了時には、定量的・定性的な評価基準により、達成度を測定し公表した。また、住民への効果的なアプローチ方法などを市職員に助言した。

④ 地域ベースではないコミュニティ組織
市は、ポートランド・プランをポートランド市全域の様々な住民の価値観を包括的に反映したものにするため、従来の意思決定プロセスから排除されていた「地域ベースではないコミュニティ」についても、関連コミュニティと協力関係を築いたり、コミュニティイベントに出向くなど、信頼関係の構築に力を注いだ。

⑤ ビジネス・事業経営者
BPSの職員とビジネス界との話し合いの結果、ビジネス界を対象としたアンケート調査や、ワークショップなどが行われた。

(5)ポートランド・プランの基本戦略
① 健康的でつながりのあるまちづくり
② 運搬や運輸の荷動きや商取引部門への土地の提供に関する戦略
③ 若者の成功を支える戦略

・総合計画の改定(ポートランド・プランの実行)について

(1)概要
ビジョンPDX及びポートランド・プランの策定にあたって、何千人もの住民から意見を聴き、市の将来像を作り上げてきた取り組みを礎とし、総合計画を全面改定する。政策指針が法的拘束力を持つことで、この先20年間の土地利用、交通計画、設備投資活動を規制できるようになる。

(2)手順(作業計画)
タスク1 住民参加推奨計画の策定
タスク2 調査・分析
タスク3 代替案の検討
タスク4 政策案の選択
タスク5 実施(財源の特定及び具体的措置の決定)

(3)ステークホルダー(コミュニティ巻き込みを推進した主体)について

① コミュニティ参加委員会(CIC)
BPSが詳細な住民参加計画を作るのに協力するとともに、「7つの住民参加原則」を活動指針とし、総合計画にポートランドの全ての人々の声を反映するために、市職員やPSC(都市計画及び持続可能性対策委員会)に、住民参加推奨の取組持続と改善のための提案を行った。

<7つの住民参加原則>
1 パートナーシップ(住民の意思決定への関与)
2 早期段階からの参加
3 信頼関係とコミュニティのキャパシティ構築(学びの機会の提供)
4 包括性と公正性(多様な背景を持つ人を見つけ、参加を推奨する)
5 質の高いプロセスのデザインと実行(住民参加の進め方と手法)
6 透明性(オープンで分かりやすいこと、時間的余裕を持った情報共有)
7 住民参加促進責任(市長、公選議員を含む市政リーダー、市職員等)

② ポートランド・プラン諮問グループ(PPAG)
市長に指名された住民で構成

③ 政策専門家グループ(PEG)
BPSがCICと協議して設立。8つの政策分野に分かれている。各分野の専門技術・知識を擁し、コミュニティまたは行政を代表する15~25人で構成しており、総合計画に盛り込む政策提言の策定、審議に関わり、市職員に助言を行った。

<8つの政策分野>
(1)コミュニティ参加 (2)教育と若者の成功 (3)ネイバーフッド中心地域開発(4)住宅地開発と地域との適合性 (5)経済開発 (6)インフラの公正性、 (7)ネットワークづくり (8)河川流域の健全性確保と環境保全

④ 都市計画及び持続可能性開発委員会(PSC)
ポートランド総合計画改定の主要諮問機関で、最終的に市議会に改定案を提出する母体である。定期的に会合を開き、住民を招待した公聴会も実施している。PSC委員は、CICの一員でもある。また、会合の合間にはPEGにも参加し、改定プロジェクトの進捗状況把握に努めている。

⑤ 市議会
ポートランド総合計画改定の最終意思決定を行う。

(4)現状
コミュニティイベント、会合、マッピング作業、ワークショップ等(2013.1~2013.12)の住民参加により寄せられた意見と、PEGが審議した提案を参考に、2014.7に、市は改定草案を作成し公表した。PSCによる審議と公聴会を経て、2014年秋に市議会に提出される予定。

・国外調査におけるパネルディスカッションの概要

1L6R0653

(1)ポートランド市の地域に根差した長期戦略計画の策定
(BPSボブ氏、ONIポール氏、BPSマリー氏によるディスカッション)

① なぜコミュニティの巻き込みが必要か(ボブ氏)
・市の意思決定にあたり、市民の意思をしっかり確認できるから
・問題解決にあたり、コミュニティのリソースを活用する必要があるから
・総合計画では、早い段階から市民の巻き込みを図った。(ポートランド・プランの反省)

② PEGのミーティング進め方(ポール氏)
・市民12名、行政の専門家12名で構成し、会議の進行役は外部の人を雇った。そのおかげで、市民と行政が対等であるという雰囲気を出せた。
・ミーティングのたびにアンケートをとり、次回の改善点を聞いた。

③ PEGで政策形成時に配慮したこと(マリー氏)
・環境正義に取り組んだが、環境を特出しした政策ではなく、環境への配慮がある「強い政策」を作ることを心がけた。
・弱者(低所得者)の視点が抜けないように配慮した。
・政策の優先順位、用語の適切さ、平等性、公平性を検討した。

④ コミュニティの意見を取り入れる
・リエゾン(地域との連絡担当職員)を雇い、議論に参加していないコミュニティに出向き、ニーズを取り入れることで、計画に厚みを持たせる。
・政府がリーダーシップを取って、ネイバーフッドアソシエーション(マジョリティ)だけでなく、マイノリティの声も取り入れていくというメッセージを出すことが重要。
・公聴会やテクノロジーを活用し、市民と情報を共有し、市民からコメントを受ける環境を整えた。

⑤ 市民との合意形成
・長期計画の場合、市民の納得を得ることがとても大切。
・議論は全て記録に残し、問題点は全て把握するようにする。
・ファシリテーターは、問題点を挙げたメンバーと直接会い、次回の会議に備える。
・どうしても合意に至らない場合は、政策を細かく分けて部分的に実施していくか、長期的に検討していくかを検討する。

(2)長期戦略計画の策定:コミュニティ活動家の視点
IMG_2017 (ロイス氏、アーリーン氏、ニータ氏、ジェイソン氏によるディスカッション)
※ 政策提言の策定と審議に関わった4人。3人はPEGのメンバー(市民側)。

① メンバーの自己紹介
・ロイス氏   … ニューヨークで行政に携わった際に、多様性、コミュニティへの気づきがあった。のちにPSUに勤め、その後、市民参画や教育に携わった。
・アーリーン氏 … ハワイ生まれで祖父母は日本人。祖父母から教育と政治が大切と教わった。移民が多い地域に住んでいる。
・ニータ氏   … 北米先住民。先住民・若者ファミリーセンターに勤めている。先住民として、被害者ではなく、生存者という立ち位置から物事を見るようにしている。

・ジェイソン氏 … 先住民・若者ファミリーセンターに勤めている。コミュニティ参加にとにかく興味があった。

② コミュニティへのアウトリーチ(ジェイソン氏)
・コミュニティ全体に働きかけるより、コミュニティのリーダーを特定し、リーダーに情報提供していく方が効果的。 ・リーダーを探すには、対話し、質問し、人と会わせること。

③ スクールベースアウトリーチ(ルイス氏) ・将来のリーダーである子供を教育する。長期計画の意味や、合意形成のプロセスの複雑さを実感させる。
・移民家族の場合、子供は英語を話せるが親は話せないケースがあるので、子供への働きかけは有効。

④ 市民参画への不安(ニータ氏、アーリーン氏)
・市民参画の政策づくりに取り組んだが、どの程度出来たか不安。
・取り上げられなかった提案について、その理由を知りたい。自分の声を聞いてもらえているのか分からず、不安になる。

⑤ どんな市職員が信頼できるか
・誤りを素直に認め、意見を取り入れて前に進める職員
・コミュニケーションを取り、信頼関係を築ける職員

⑥ 市職員として心がけるべきこと
・少数意見も拾う
・個人との関わりを大切にする
・リーダーを発掘し育てる
・忍耐力(リーダーの成長を待つ。自分と違う意見を持っても受け入れる)

・所感

長期計画策定のケースを読み、現地で講義を聴くことで、ポートランド市が、いかに緻密に計画し、コミュニティや市民を巻き込んで行ったかを知ることができました。市職員の忍耐強さと熱意があったからこそ、住民の積極性が引き出されたのだと思います。

ケースを読んだときに驚いたのは、総合計画改定に先立って、まず、「作業計画」の承認を議会から得ているという点です。手順を踏んだ丁寧な仕事が文化として根付いているのだと感じました。また、市民参画のイベントについて、一つ一つ「Level of Involvement」を評価している「資料D」の存在も素晴らしいと思いました。どの段階で、どの程度の住民参加が必要かを計算し、意識的に仕事をしている証拠であり、これが、いただいた「ガバナンスモデル」で言うところの「強い行政」の仕事ぶりかと感銘を受けました。

講義では、どの講師も共通して、個人やマイノリティを尊重する姿勢を見せ、リーダーの大切さを説かれていたのが印象的でした。システムや手法はもちろん大切だけれど、なんと言っても一番大切なのは個々の人間だというメッセージをいただいたような気がして、講師の方々の人間らしさ、温かさに安心感を覚えました。

関連レポート

2014年度
・  2014年度国外調査~米国オレゴン州ポートランド市~:住民主体のまちづくり

・ (2014年度国外調査)ケーススタディ:ライトレール(軽量軌道:LRT)延伸に伴う新駅建設プロジェクト

・ (2014年度国外調査)イブニングサイトビジット:Our United Village(アワー・ユナイテッド・ビレッジ)

・ (2014年度国外調査)イブニングサイトビジット:ビーバードン市多様性推進諮問委員会

・ (2014年度国外調査)イブニングサイトビジット:レンツ・ネイバーフッド・アソシエーション

・ (2014年度国外調査)イブニングサイトビジット:都市計画及び持続可能性対策局

・ (2014年度国外調査)イブニングサイトビジット:SWNI(スウィニー)

・ (2014年度国外調査)イブニングサイトビジット: 全米退職者協会・エルダーズインアクション・高齢化問題研究所

2013年度
2013年度国外調査(米国オレゴン州ポートランド)(レポート)
米国の合理的配慮から「公」のあり方を再考する

2012年度
2012年度国外調査(米国オレゴン州ポートランド)(レポート)