2016年度のプログラムが終了しました(更新日:2016年12月21日)

事業仕分けの実践を通じて学んだこと

キーワード:

講師:荒井英明(厚木市こども未来部こども育成課 課長)、石井聡(逗子市秘書広報課 秘書係長)、伊藤伸(構想日本政策担当ディレクター、内閣府行政刷新会議事務局参事官)、亀井善太郎(東京財団研究員兼政策プロデューサー)※肩書きは当時
講義日:2011年7月17日(日)、18日(月・祝)
文責:週末学校事務局 冨澤太郎

本講義の目的

前回の講義を通じ、本来の『事業仕分け』の意義は、行政の現場で行われている仕事について、公開の場で、外部の目や住民の視点を取り入れながら議論し一定の結論を出すことで、自治体が担うべきサービスの明確化につながることであることを学んだ。(第4回2日目のレポートを参照。)そして、すべての自治体職員が、行政が行っている仕事について、どのようにお金が使われていて、どのような成果を目指して行っているのかなどを考えながら、かつ住民にわかりやすく伝えることの重要性を確認した。
本講義は、事業仕分けの概要や意義を理解したことを踏まえ、実際に「事業仕分け」を体験する。具体的には、①研修生自らが担当している業務を対象に模擬で事業仕分けを行い、自らが説明者、仕分け人を体験することで、行政事業の課題の探り方やその背景にある考え方を我が身のものにするきっかけとする。②実際に行われる自治体の「事業仕分け」(神奈川県藤沢市)を傍聴する。

講義

やはり頭で理解をするのと、実践してみるのでは大きく違う。研修生は、事前研修において、事業仕分けの本来の意義について学んだが、今回の事業仕分けの実践を通じて、事業仕分けに対する理解が深まっただけでなく、行政職員として多くの気づきと学びがあったようだ。研修企画に携わった事務局メンバーとして、研修生による模擬事業仕分けを通じて見えてきたことをレポートしたい。

※ 講義当日のスケジュールは、【講義概要】を参照

● 事業シートは、住民(納税者・受益者)に対して、わかりやすい資料にする
今回の模擬事業仕分けの事前課題として、自らの自治体で実施されている(原則自身が担当している)事業に関する「事業シート」を作成した。
事前研修でも学んだとおり、事業シートとは、個別の事業について議論するために、事業概要、成果実績等が記入された概要説明書であり、納税者・受益者である住民が読むことを意識して作成しなければならない。住民に対して、税金がどのように使われているのか、そして、住民が負担した税金が、どのように住民の役に立っているのかということを示すのが事業シートの重要な役割であろう。
しかし、研修生が実際に作成した事業シートの多くには、事業の必要性が明確でないものや、目的が具体的に記載されていないものが多くあった。また、目的を達成するために具体的にどのような手段や方法をとっているか、事業シートを読んだだけではわからないものもあった。事業シートは、行政が行う事業の受益者であり、納税者である住民にとってわかりやすいものでなければならない。そのためには、住民の視点を意識して事業シートを作成する必要がある。
また、実際に事業仕分けをやってみると、事業シートに必要な情報がわかりやすく書いていなければ、事実確認に議論の時間がとられてしまい、せっかくの事業仕分けの議論が深まらないことにもなってしまう。

● まずは事実を明らかにする
今回の模擬事業仕分けは、事業仕分けの原則の一つである「全面公開での実施」とした。当日は、合計43名の一般傍聴者が参加した。傍聴者の方には、「市民判定人」として参加いただいた。市民判定人方式は、構想日本が推奨している手法で、研修生の議論を聞き、最後に事業の判定をする方式。仕分けの対象となった事業を実施している自治体の住民になり、自らの納める税金が使われている、自分も受益者になるかもしれないといった視点で判定人となった。

私自身も含め、判定人にとって、今回、取り上げられた事業について説明を聞くのは初めてだ。実際の事業仕分けにおいて、市民判定人は事前に事業シートを読みこんでいるものの、事業の概要を熟知していることは稀である。よって、まずは事業内容を確認し、受益者が誰で、どんな受益があり、そのためにどれだけの税金が投入されているのかを明らかにすることがまず重要だ。
しかし、実際に研修生による議論では、こうした検討に必要な事業の基本的な情報、目的、対象者(受益者)、実施方法、補助金の流れ、委託先である事業実施団体の概要などをきちんと共有しないまま、いきなり「そもそもなぜやるのか」、「コストに見合った成果があるのか」という研修生が想定していた“論点”に走ってしまった。これでは、事業の全体像が見えないまま議論が進み、表面的なものに終始してしまう。
特に、議論の冒頭は、論点の検討に必要な“事実”(特に数字)について、傍聴している住民と共通理解を得たうえで、深い議論に入ることが大切である。

● 仕分け人はチームプレーで議論を深める
研修生は、事業仕分けの議論に入る前に、その準備として事業における“論点”を考えてきていた。しかし、研修生によっては、その事前準備にとらわれてしまう傾向にあったようだ。
上述のような問題も見られたが、より深刻なのは全体の流れが見えていないことだ。予め自分が考えてきた質問ばかりを聞こうとするのではなくて、別な仕分け人の質問を自分なりに解釈し、その場の議論の流れを大切にしながら仕分け人同士がパス回しをするようにやり取りを回すことで、事業仕分けの議論は深まる。個人プレーで攻めても、ゴールにはたどりつかない。丁寧に議論の球をパス回しして、初めて決定的なシュート、つまり、論点の本質に迫る質問や具体的な改善策の提案へと持ちこむことができる。
また、質問は、単発的に一問で終わる必要はない。端的な質問を複数回重ね、論点をつくことで議論が深まる。一人の仕分け人が小出しで質問をしている間、他の仕分け人は、その議論を聞きながら、さらに議論を深める質問や他の重要な論点について考え、次の質問をする機会に備える。
いきなり一つの質問で、事業の本質的な課題にたどり着くことは難しい。傍聴している住民にも分かりやすいように、丁寧に質問を重ね、事業の課題を明らかにしていくことが重要である。

● 判定結果ばかりにとらわれず、議論の中身に注目すべき
事業仕分けとは、説明者と仕分け人チームの勝ち負けを争う議論ではないが、どうしても事業を“守る”説明者と“責める”仕分け人という構造に陥りがちだ。実際に、研修生も「説明者を議論で負かせなかった」、「不要の判定を受けなかったので勝った」といった感覚を持った人もいたようだが、それは事業仕分けの本質を理解しているとはいえない。
また、「不要」の判定を説明者の力量不足にしてしまう誤解もしばしば現実に見られる。必ずしも説明者がきちんと説明をしなかったから、議論に勝てなかったから「不要」という判定になるのではない。
事業仕分けにおいては、事業の判定結果よりも、結論に至るプロセス(事業仕分けでの真剣な議論)を通じて、事業の課題を明確にすることが重要である。

仕分け人が事業における課題を指摘する。説明者はそれを受けて、なぜその事業が必要なのかを説明する。住民がより豊かに暮らすため、そもそも必要なのか、そのやり方が最も適しているのか、得られる便益に対しコストが見合っているのか、その土地に暮らす人々が一緒になって考え、より良い地域や自治体行政の姿を考えることが事業仕分けの本質の一つだ。
事業仕分けとは、行政の使えるお金が減っていく中、住民と行政がともに取捨選択を行うためのツールであり、やはりそこに住民の目は欠かせない。住民が議論を理解し、判定に参加するためにも事業仕分けは重要な役割を果たすことだろう。

研修生の声

今回、多くの研修生にとって、初めて事業仕分けを経験することになった。実際に模擬事業仕分けに取り組んで、以下の声があった。

「仕分け人として、判定人(住民)に判断材料を示すことができるような質問をしたつもりであったが、論点が行ったり来たりして、詰め切れなかった。ある程度、論点に切り込んでも本質的な議論までいたらなかった。」
「説明者を担当した際、行政職員の立場での説明に終始し、住民に事業の必要性を訴えかける言葉を持ち合わせていなかった。」
「まずは担当業務の事業シートを作成し、事業の本質を探ることで、見直しをするべきところは改善を行っていきたい。担当業務への理解を深めていき、業務の意義をしっかりと考えていきたい」
「自分の仕事(事業)を進めていく中で、常に、自身の仕事はそもそも何のために行っているのか、住民のためになっているのか、税金を使って行うものなのかを考えながら行っていきたい」

事業仕分けの実践を通じて、研修生は納税者・受益者の視点で自らの業務を見直すことの重要性を学んだ。研修生が学んだことは、事業仕分けだけに限らず、これからの日々の業務にも活かされることだろう。