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本来の「事業仕分け」の意義

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講師:伊藤伸(構想日本政策担当ディレクター、内閣府行政刷新会議事務局参事官)
講義日:2011年6月26日(日)
文責:週末学校事務局 冨澤太郎

本講義の目的

予算削減のツールとして、2009年11月に政府が実施したことで注目を集めた「事業仕分け」。この事業仕分けは構想日本が名付け親で2002年から実施されていたことは意外と知られていない。
事業仕分けの目的は、予算削減だけではない。地方自治体が行っている行政サービスのそもそもの必要性や実施主体(国・県・市町村・民間など)について、行政の現場で行われている仕事について具体的に議論することで、①自治体が取り組むべきサービスの明確化、②国・地方間の役割分担の再整理、③地方に対する国のコントロールの原因のあぶり出しも重要な要素である。
事業仕分けは、全面公開と外部の視点の導入という必須条件のほか、住民が仕分け人や判定人として参加するなど、納税者であり受益者でもある住民の視点を積極的に取り込んできた。その結果、予算の削減だけではなく、住民の主体的意識、納税者意識の醸成や自治体職員の意識改革といった効果をもたらした。
本講義では、「事業仕分け」の生みの親である「構想日本」の仕分け人の話を聞くことで、事業仕分けを通じて行政の仕事を見直す必要性とその意義について学び、「自治」についてさらに深く考える契機とする。また、次回に行う事業仕分けの実習が、実のあるものとなるように事前準備も行う。

講義

siwake1-1.JPG● 事業仕分けは、単に財政改革ではなく、公共の担い手や担い方を考えるためのもの
2002年に構想日本が、事業仕分けを始めた当初、その目的は歳出削減ではなかった。事業仕分けの目的は、公共の担い手や担い方を問い直すことであり、あくまで行政改革を進めるためのツールである。加藤秀樹氏福嶋浩彦氏の講義(第1回1日目)でもあったように、「官と民」、「国と地方」の役割や責任の分担について、行政の現場で行われている具体的な仕事の見直しによって洗い出すことが、持続可能な地方行政の実現につながるとの問題意識から、事業仕分けは始まった。
「市民協働」や「官民連携」という言葉が良く聞かれるが、現在でも「官」の下請けになっている場合が多いと感じる。また、国、県、基礎自治体の役割分担が明確にされていないことで、国の方針が基礎自治体に伝わらないことや、住民の声が国・県に伝わらないことが多々ある。こうした、いまだ「官」が独占する公共、そして役割分担が明確でない国と地方の関係性が、行政への不信感を作り出し、結果として何かあればすぐに行政の責任にしてしまう住民感情の要因になっているのではないか。いま一度行政の仕事を見直し、本来あるべき行政の仕事や公共のあり方を考えることが求められているのではないだろうか。

「事業仕分け」とは、行政の事業を、そもそもの視点から、抽象論ではなく具体的な事務事業一つひとつを「現場」の視点で洗い直すことによって、個々の事業の無駄だけではなく、その事業の背後にある制度や国と地方の関係など行財政全体の改革に結び付けるものだ。
国の事業仕分けによって、事業仕分けのイメージは国民に広く伝わったが、残念ながらその本来の意義は多くの人に伝わっていない。そこでまず、事業仕分けの基本原則を確認したい。以下の原則を満たしていないものは、事業仕分けとは呼べない。

1.予算項目(事務事業レベル)での議論
抽象的な議論で終わらせないために、大きな括りではなく個々の事業を対象にする。価値観の是非を問うのではなく、実際に行われている事業が本当に必要で、適切な形で実施されているのかを議論する。

2.「そもそも論」
過去の経緯や制度にとらわれることなく、住民、国民にとってそもそも必要かどうか、必要ならば、どの主体が担うか(官か民か、国か自治体か)、ゼロベースから議論する。
仕分けを行っていると、多くの自治体において、前例踏襲で、問題提起がなされず、継続されている事業が見られる。「政省令、通知で決められているからやっている」という説明者に対して、「その政省令や通知がなかったらどうするか」と聞くと、答えることのできない人がいる。「補助金がもらえるからやっている」という答えも多いがこれも同じだ。これは、本当に行政のやっている仕事が必要か、住民のためになっているのかということを日々考えていない証しだ。

3.外部の視点
こうした議論をするうえで、外部の視点が欠かせない。事業仕分けで議論をする「仕分け人」は、いろいろな立場の専門家がいて、現職の自治体職員も多い。「わが地域の特殊な事情」と言い、前例だけで事業の妥当性を説明する人がしばしばいるが、全国各地の事例を見ている仕分け人から見れば、特殊性でもなんでもないことが殆どだ。また、実務に精通していることも、具体的な指摘をするうえでは非常に重要だ。
「町のことを何も知らない『よそ者』がやってきて、勝手に判定しているから、精緻な結論にはならない」という意見を良く聞く。しかし、内部の人間だけでの議論だと、どうしてもしがらみなどによって前提条件ができてしまう。事業仕分けではすべてがゼロベースでの議論になり、また、外から見た新たな視点により、これまで気が付かなかった論点が見えてくることがたくさんある。

4.全面公開
誰もが事業仕分けを傍聴できるよう全面公開で行う。しかも、あらゆる広報ツールを使って、積極的に傍聴の案内を行う。この点が、自治体が独自に行う事務事業評価などとは明らかに違う点だ。「公開の場に出せない情報もあるだろう」、「公開だと形式的な議論で終わってしまうのでは」といった意見を言う人がいる。しかし、出せない情報とは何か考えてほしい。個人情報は出せないが、年収300万円以下の人が、自治体の人口に対してどれくらい住んでいるのかといった分布の情報は、公開できないことはない。むしろ、抽象的な議論に終わらないためにも、そうした自治体の現状について、実際の情報をもとに議論をするべきだ。
また、議論の公開によって、住民の行政への理解が深まり、関心が高まるという効果も大きい。住民は行政が税金を使って何をしているのか見えないということが多くある。本来、納税者が自らの納めた税金の使い道を知ることは当然であり、行政の説明責任は常にあるはずだ。
例えば、公民館の維持管理事業について、利用者の立場からすると映画を見られるようになった方がいいし、壁などもきれいな方がいい。ただし、事業仕分けでは現状にどれだけの税金がかかっているかがわかり、さらに良くしようとすると相応の税金がかかるということがわかる。このように住民に考えてもらうことこそが、真の住民参画につながるのではないか。

5.「事業シート」の作成
住民から見てもわかりやすく、そして、より深い議論をするため、「事業シート」(PDF)をその事業を担当する職員が作成する。
「事業シート」とは、その事業の目的、内容、予算、成果などを統一フォーマットに基づいて記載するものだ。地方自治体では、事務事業評価が広がった際に類似の調書を作成するようになったが、国の場合、自民党の無駄撲滅PTが初めて事業仕分けを実施するまではこのような共通フォーマットのシートがなかった。そうなると、都合の悪いことは記載せず良い点だけをクローズアップして記載し説明することができるが、このフォーマットを使うことで、議論したくないことも記載しなくてはならないし、書いていなければ、仕分け本番で追及されることになる。

6.明確な結論
siwake1-2.JPG 事業仕分けでは、「不要、国県で実施、民間で実施、要改善、現状通り実施」といった“一定”の結論を出す。「30~40分という短い時間での議論で判定結果を出すのは乱暴だ」という批判を良く受ける。しかし、事業仕分けを実施するにあたり、仕分け人は事前に、事業シートの読み込み、同種の事例の調査、現場視察など情報収集を含めた準備に多くの時間をかけている。よって、30~40分あれば論点はある程度網羅できる(もちろん事業によって1時間程度かかるものもある)。逆に1日かければより正確な結論が出せるのか、半年かければ良いのか、と考えると、そうとは言えない。しっかりとその事業の論点について議論されるというプロセス、そして何よりも「結論を出す」ことが重要だ。世の中に結論を出せない会議がどれだけ多いか考えれば、結論を出すことの重要性は誰でも理解できるはずだ。
それは、事業仕分けの結果はあくまでも参考であり拘束力はないことにつながる。“一定”の結論である。事業仕分けの結果をどう活用するかを決めるのは首長の責任であるし、それを承認・決定するのは議会の重要な役割だ。逆に、「実質的な拘束力がないのであれば、パフォーマンスでしかない事業仕分けをやることに意義はない」という意見もあろうが、それではあまりに理解が浅い。住民の前で公開の議論をして、しかるべき理由によって出された事業仕分けの結果であるからこそ、これを覆す場合には、しかるべき説明責任が求められることはいうまでもない。そして、その覆された行政や議会の判断を住民がどう考えるか、そのプロセスこそが、自治体の自立、住民による自治を実現するために不可欠なのである。

7.第三者機関との共同準備
事業仕分けはガチンコで行う作業である。その趣旨を守るためには、以上の原則の徹底のために、外部の第三者機関との共同で準備することが必要だ。行政が単独準備を進めると、意識的かどうかは別として、「想定内」の仕分けになる恐れが高い。第三者が入ることによって、準備段階から緊張感が生まれ、それこそが事業仕分けの成功の基盤になる。


最近は、「事業仕分け=改革派」というイメージがあるため、これらの原則を満たすことなく、非公開あるいは事前周知がギリギリで傍聴者がごくわずかであったり、仕分け人や対象事業が行政の「お手盛り」になったりして実施される事業仕分けが増えている。こうした事業仕分けは、行政内部だけの議論と同じで、行政にとって都合のよい、はじめに結論ありきの議論に陥ってしまう。これでは、「事業仕分けをやりました」というパフォーマンスだけのもので終わってしまう。
jigyosiwake_logo.bmp こうした現状から、いま挙げたような事業仕分けの本質・原則を再確認するためにも、構想日本では「事業仕分け」のロゴを作成した。事業仕分けは、予算削減のツールとして注目を浴びたため、どうしても切る、削るというイメージが強い。しかし、本来の事業仕分けは、私たちの未来をつくるという視点で、現場の声や実状にもとづいて事業の必要性や本来あるべき姿を公開の場で議論することだ。「それは、未来を作れるか」というキャッチコピーに、住民と向き合って真剣に議論をする、そして未来向けた社会を作っていくという思いが込められている。事業仕分けとは、単に行政の仕事を削るのではなく、行政の仕事の本当意味の再構築(リストラクチャリング)を目指しているのだ。

※ 事業仕分けの趣旨に賛同した日本を代表する2人のプロフェッショナルがボランティアで作成。(マーク:森本千絵、コピー:岩崎俊一)



● 事業仕分けの成果

約10年近くにわたり実施してきた事業仕分けを通じて、様々な成果が見えてきた。主な成果に、1)歳出削減、2)国のコントロールのあぶり出し、3)住民参加の促進、4)職員の意識改革がある。
最も注目を浴びた成果は歳出削減だろう。滋賀県高島市では、合併後の財政破綻の危機感から、市の予算の約半分を対象にして事業仕分けを実施した。当時の市長のリーダシップのもと事業仕分けの判定結果をそのまま反映させた結果、総額22億円(予算総額の約10%)の予算を削減した。また、他にも広島県では、事業仕分けの議論をもとに、類似事業も見直すことを実施し、3億2千万円の財源を確保した。こうした歳出削減に向けた事業仕分けの実施が広まってきている。

ただし、繰り返しになるが、歳出削減だけが「事業仕分け」の成果ではない。事業仕分けの議論を通じて、国と地方の関係性における課題もより明確に見えてきた。本来であれば自治体の権限で事業を実施したいが、国の基準などの縛りがあるため、自主的に実施できないことが浮き彫りになった。本来、住民の一番近くにいる自治体がやるのが原則のはずだ。それにも関わらず、国の規制等が壁となり、できない事例が多く見出されてきている。(長野県栄村前村長の高橋彦芳氏(第2回2日目)の問題意識もここに通じている。)

また、先にも述べたように、事業仕分けによって住民の行政への参画も進んできた。住民の目線で重要な論点について中身のある議論がされる事業仕分けが全面公開されることで、住民自身が自らの地域の行政を考える機会となっている。
事業仕分け当日は、主に三つの形で住民参画がなされる。1)事業仕分けの当日の「傍聴者」、2)外部の仕分け人とともに事業仕分けを行う「市民仕分け人」、3)そして、仕分けの議論には加わらず、聞いた上で評価をする「市民判定人」の3つだ。
市民判定人は、公募ではなく無作為抽出で選ぶ。一班20~30名の市民が、仕分け人の議論を聞いた上で、多数決で仕分け結果を「判定」する方式だ。この仕組みを最初に導入した際は、住民の視点だけでは、「利用者の利益を守るといった偏った視点で現状維持に近い判定が多くなるのでは」という懸念があったが、やってみると、「自らが納めた税金がこんな風に使われているとは思っていなかった」という声のように、納税者の視点で判断を下し、またコメントを述べていた。
外部の仕分け人よりもその自治体に暮らす住民の判定にはより重みがある。住民が判定することで、単なる結論ではなく、住民への説明責任を果たす過程が重要となり、議論の中身まで考えることにつながった。その意味では、事業仕分けにおける住民参画の意義はさらに増したといえる。

事業仕分けを実施する中で、職員の意識改革という成果も見られた。事業仕分け実施後の自治体職員アンケートの回答には、「説明責任の重要性を痛感した」、「外部の視点で事業の見つめ直すきっかけになった」といった声もあり、もちろん個人差はあるものの、事業仕分けがきっかけとなり、職員の問題意識が高まったといえる。やはり、役場の中で机の上で考えるよりも、さまざまな角度から意見を闘わせるという意味で実践から学ぶことが多いということだろう。

siwake1-3.JPG● 論点とは開かれた議論を通じて住民に明らかにするべきこと
事業仕分けを実際に行う際に、考えて欲しいのは「論点」を見つけることだ。「論点」とは、事業仕分けにおいて、議論するべきポイントだ。つまり、事業シートを見てどのような“切り口”があるかということ。例えば、「対象者は明確になっているか」、「目的を達成するのにその手段は合っているのか」、「目的に照らして設定している成果目標は適切か」、「ゴールに向けてどこまで達成しているのか」という議論のポイントのことだ。お金がかかっているか、人件費が幾らかなど費用対効果をみることだけが「論点」ではない。
事業仕分けを通じて、明らかにするのは結論だけではなくて、議論するべきポイントだ。単なるお金の話や“不要”、“要改善”といった判定結果ではなく、事業の全体を見て、その必要性や意義などについて考えることが重要である。議論のプロセスとそこに住民がかかわることが大切なのだ。
また、この「論点」を説明者と仕分け人双方が把握していなければ、説明者と仕分け人の議論がかみ合わず、表面的な議論に終わってしまう場合が多い。逆に双方が「論点」を捉えていれば、事業仕分けの議論がとても深まる。

次回は、実際に研修生が現在担当している事業、もしくは以前担当していた事業などを題材に模擬で事業仕分けを実施する。実際に「事業シート」を記入する際の留意点としては、主に以下の点があげられる。

・目的を分かりやすく
住民にも分かるように書くこと。複数の目的が混在していて目的があいまいだと、手段が適切なのか見えなくなるうえ、事業成果も明確に見ることができなくなる。

・事業対象は明確に
事業の受益者は誰なのか明確でないと誰のための事業かわからない。また、対象となる人の数だけでなく、全体の人口数に対して何割程度の人数かという情報もあると、議論が深まる。

・事業内容がイメージできるように
事業内容が分かりやすく記載されていないと、事実確認に時間がかかってしまう。初めて事業を知る人でも実施内容が分かるように分かりやすく記入することが重要。また、指定の枠では説明しづらいことがあれば、表や図などを使った補足資料を添付しても良い。

・実績と成果
活動実績(アウトプット)と成果(アウトカム)は異なる。
実績と成果が混在し、事業を実施する意義が見えていないことが多くある。成果とは簡単に出てくるものではなく、定量的に図るのが難しいことがあるが、事業の目的と照らし合わせて、何が成果なのかしっかりと考えてほしい。

・事業の評価
事業の評価を記載する欄には、きれいごとを書くのではなく、自治体として課題であると考えていることであれば、それをはっきりと書くことで議論がより深まる。

今回の研修は、事業仕分けの手法を学ぶことが主な目的ではない。作成した事業シートをもとに議論することで、「論点」を見出す力を養うこと、そして、行政の仕事における課題を見つけることが目的だ。“不要”という判定結果を出したい事業を模擬事業仕分けするのではなく、自らが取り組む仕事における課題を見つける機会にしてほしい。そして、「論点」を見つけ、課題を見出す力を養うことで、これまで見えていなかった視点で行政の仕事を見る機会としてほしい。

Q&A

siwake1-4.JPGQ 事業仕分けは首長のリーダシップがないと実施できないのか?
A 首長のリーダシップが無くても、担当職員の問題意識から事業仕分けを実施する自治体はある。構想日本が関わる平成23年度の事業仕分けの半分ほどが担当職員の意思によって実施することになった。決して首長の意思がないとできないというわけではない。執行部を説得して実施する自治体もたくさんある。

Q 外部の仕分け人が市民判定人を誘導しているという意見もあるが、外部仕分け人と市民判定人の判定結果に違いはあるか?
A 外部の仕分け人は、客観的な視点で事業の「論点」を議論の場に出しているだけだ。説明者も議論の中でしっかりと回答をしていれば、市民判定人は双方の議論を見て判断をしているため、決して外部仕分け人が誘導しているわけではない。
ただし、説明者がしっかりと「論点」をつかんで、議論に応じることができないと、議論が深まらない。論点が出尽くされ、議論が深まったうえでの、判定をするためにも、説明者と仕分け人の事前準備が重要となる。

研修生の声

講義を終えて、研修生からは次のような声があった。

「事業仕分けは事業をやめたいか、やめたくないかではない。コスト削減ではない。どのような課題があるのか洗い出すもの。行政の仕事の再構築であることが分かった。」
「国や県からの仕事は進めることが前提だった。市民によって良い事業かどうか、税金を使う事業なのかどうか考えなくてならないという気付きがあった。」

報道による国の事業仕分けのイメージを持っていた研修生が多くいたが、本来の事業仕分けの意義について理解が深まったようだ。また、事業仕分けというツールを使って、住民自治や行政の仕事について考えることの重要性を学んだ。次回の研修では、実際に研修生が模擬で事業仕分けを行う。実践においては、今回の講義で得た気付きや学びが活かされることだろう。

当日配布資料

「本来の事業仕分け」の意義(PDF)