2016年度のプログラムが終了しました(更新日:2016年12月21日)

事業仕分けの実践

キーワード:

講師: 構想日本事業仕分けチーム
日時: 2012年7月1日(日)9:00~12:00 (講義)、7月14日(土)9:00~18:00 模擬事業仕分け(演習)、7月15日(日)9:00~12:00 事業シート検証(演習)
文責: 週末学校事務局 石川絵里子

本プログラムの目的

5月以降のこれまでの講義では、「公とは何か」、「自治体における直接民主主義」、「官民連携のあり方」、「論点思考」、「地方分権」等を学んできた。では、今のあなたは、これらを自分の担当業務や自治体の現状にあてはめて考えられているだろうか。

「事業仕分け」の1つの大きな特徴は、抽象的にあるべき論を語るのではなく、個別具体の事務事業に関する議論を通じて、「公」の範囲やその担い手・担い方をひとつひとつ問い直していくということにある。これまでの講義で学んだことを「わかったつもり」のままにしておくのではなく、事業仕分けという手法を利用し、自らが関わる個別事業を改めて見直してみよう。

一連のカリキュラムによって、事業仕分けそのものの理解はもちろんのこと、実際に事業シートの作成や事業仕分けそのものへの参加を通じて、その背景にある考え方を理解し、自らの日々の仕事につなげていくことを目的とする。

第4回(7月1日)では、講義を通じて、事業仕分けの本来の意義や仕組み、事業シート記入時の心得を学ぶ。その後、一度地元に戻り、自分の書いた事業シートをもとに、改めて必要な情報収集・課題分析を行う。第5回(7月14日)の模擬事業仕分けでは、説明者・仕分け人・市民判定人、それぞれの立場を実際に経験することを通じて、納税者であり受益者でもある住民の目線で、自分たちが進めている行政の仕事の目的や成果を明確にすることを体得する。納税者・受益者である市民判定人が的確な評価結果を出すため、説明者は十分に事業の説明が出来ているのか、仕分け人は様々な視点から的確な論点を提示できているのか等を考える。最後(7月15日)に、自分の書いた事業シートをもう一度見直し、自身の担当事業・業務について、把握すべき情報、見落としていた観点を改めて見極め、今後の実務につなげていく。

事業仕分け=歳出削減、という表面的な捉え方で終始せず、一連のプロセスにじっくり取り組む中で、今自分がしている仕事とは何か、改めて考えてみてほしい。

プログラム内容

本プログラムは、①事前課題として、自らが担当する事業について事業シートの作成、②事業仕分けについての講義を受講、③講義をもとに事業シートの記載内容を再考し、加筆修正するとともに、住民に十分な説明が出来るよう情報を収集、④模擬事業仕分けを実践、⑤実践後、改めて自身の事業シートを見直す(事業シート検証)、という5つのプロセスを経た。

まず、事前課題では、現在まさに担当している事業について各自事業シートを作成し、その上で事業仕分けの講義を受けた。講義概要は、以下の通り。

講義「事業仕分けとは」

●具体からあるべき姿を考える
研修生の皆さんに書いていただいた事前アンケートによると、事業仕分け=コストカットというイメージを持っている人が多いようだが、2002年の事業仕分けスタート時に、財政的な視点は全くなかった。行政の守備範囲はどこまでなのかを、ある程度定量的に、現場の具体的な仕事の中から精査していこうという、行政改革の視点で始まったものである。

行政改革の視点は、主に2つある。1つ目は「官と民」の役割分担を再考するという視点である。これまでは、「公」を行政が独占的に担ってきたのではないか。本来、民で担うべきことは民が行い、それをいかにして行政がサポートするかという流れで考えるべきところ、順序が逆になってしまい、行政がまず担い、その中でどうやって民間の領域を広げていくかという発想になっているのではないか。「官と民」の役割分担とは、これを本来の姿に変えていこうという視点である(参考:2011年度レポート「公は官か?」)

2つ目は、「国と地方」の関係を見直す、国が決めたことを都道府県が伝え市区町村が実施するという縦の関係を見直す、という視点だ。国から地方へ権限・財源を移すべきと言っても、ただ漠然とあるべき論を述べるだけでは、具体的に進めることができない。何を移譲すべきなのか、具体的に木を見ていこうというのが事業仕分けで、部分最適を見ながら全体最適を考えていく、木を見ながら森を考えるという作業である。

●民主主義の健全化を目指す
事業仕分けには3つの特徴がある。1つ目は、事業仕分けはあくまでも「手段」だということだ。つまり、実施する自治体の目的によって、そのやり方自体が変わってくるということだ。目的が予算削減であれば、予算額の大きな事業を集めて仕分けを行うこととなり、職員の意識改革が目的であれば、企画・管理部門も除外せず全庁的に事業選定を行うことになる。住民参画を目的に据えるとすれば、この後説明する「市民判定人方式」で実施することになる。今回の週末学校では、自身の担当事業・業務を見直すということが目的なので、皆さんには部門を問わず、まさに今担当している業務について事業シートを作成してもらった。

2つ目の特徴は、事業仕分けは事前査定ではなく、事後チェックであるということだ。役所的に言うと「PDCAサイクル」の「Check」にあたる。事業の根拠とされる基本計画や趣旨説明がどんなに立派でも、実際にどうお金が使われたのかを見なければ、事業が本当に役に立っているかどうかは判断出来ない。事業計画と執行状況の関連性をチェックすることによって、実際に目的にかなう事業となっているかどうかを見るのが事業仕分けだ。

3つ目の特徴は、事業仕分けが最終的に目指すのは、民主主義の健全化であるということだ。事業仕分けは、この後説明するように、「公開性」と「外部性」を原則としているが、この大原則を通じて住民の当事者意識を高めていくことができる。これに対し、民意を政治・行政に反映させるのは議会(決算委員会)の役割ではないか、という意見が出されることが多い。これは全くその通りだが、組織的にも慣例的にも実際に議会がそのように機能していないからこそ、事業仕分けが数多くの自治体で実施されている。また、仕分けに参加した住民の意見だけで民意と言えるのか、という意見もあるが、逆を言えば、それらが民意でないとも言えない。仕分けで出された住民の意見や評価結果を最終的にどう判断するかは、首長や議会次第である。

●5原則と成否を左右するもの
事業仕分けには、5つの原則がある。1つ目は既に述べたとおり、抽象的な議論・結論で終わらせないために、議論の対象を具体化し、出来る限り細かな事務事業レベルを対象にするということ。2つ目は、外部かつ現場の視点を取り入れるということだ。実際の現場を熟知している外部の識者・経験者が仕分け人として参加することで、行政内だけでは出てこない論点が提示され、議論にリアリティが生まれる。また、前例や横並びを排し、事業の必要性をゼロベースで考えることが重要であるため、外部の視点は欠かせない。3つ目は、誰もが事業仕分けを傍聴できるよう全面公開で行うということ。住民に開かれた場で議論することにより、仕分け人と事業を説明する行政の双方に緊張感と結果に対する責任が生まれる。また、仕分けを傍聴する住民にも、個別具体の事業に関する議論を通じて、納税者としての当事者意識をもってもらうきっかけとなる。4つ目は、統一フォーマット化された「事業シート」を作成するということ。事業シートには、事業の目的や内容はもちろん、これまでの事務事業評価等では省かれてきた費用対効果や成果指標なども記載する。事業シートを通じて、事業の問題点が明確になると同時に、自分の担当事業の意義をきちんと説明する材料ともなる。5つ目は、一定の結論を出す、ということだ。公開の場で明確な結論を出すことによって、行政が改善すべき点が住民にも明らかになり、実現により近付く。また、仕分け結果を最終的にどう判断するか検討する必要があることから、行政内の議論をスタートさせるきっかけにもなる。これが、事業仕分けに必要な5原則である。

対象事業の選定については、先程も述べたように目的によって事業の選び方が異なってくる。選定においては、仕分けで議論すべき論点・議論の切り口を、あらかじめ確認しておくことが重要である。どんな論点・切り口で検討をすれば、その事業の妥当性を判断できるのかをきちんと認識しておくことが、その事業を仕分ける意義に関わってくる。その上で、利用者・納税者の視点、対象事業の規模、事業類型の多様性などを考慮に入れて事業を選定していく。財源や法令等で国・都道府県と関わりのある事業も、国と地方の関係性を見直すために対象とすべき。行政内部の事務管理的な性質のものは、優先順位は少し低くなる。対象事業の選定は、仕分けの成否の大きな部分を占め非常に重要である。また、事業仕分けをやるやらないに関わらず、事業選定の視点は、外部評価委員会や事務事業評価の重点分野の選定等においても取り入れていってほしい。

仕分け当日は、まずその事業がそもそも必要かどうかということから議論をする。説明に立つ多くの行政の方々が、昭和何年から始まった歴史ある事業である等、過去からの経緯を述べて事業の必要性を訴えることがあるが、事業の必要性と過去からの経緯とは別のことである。過去の経緯やしがらみを一旦横に置いて、あくまでも現在のお金の使い方はその目的に照らして効果的・効率的になっているかを考えることが重要である。

事業仕分けの成否は、当日の議論だけで決まるのではなく、仕分け結果をどう反映するかまでを含めて決まる。事業仕分け実施後の対応として、まず行政は、それまでに打ち出してきた総合計画等の全体ビジョンと仕分け結果との整合性を確保することが必要である。その上で、仕分け結果を反映する場合には、廃止・予算削減といった判定結果のみならず、議論を通じて出された指摘や意見等も取り入れていくことが重要。一方、仕分け結果を覆す場合には、開かれた場での議論の方向性や結論を変えることとなり、説明責任を伴う。逆に、きちんとした説明がなされた上で仕分け結果とは異なる判断をするのであれば、いわゆる「仕分け違反」には当たらないと考えている。行政が、市民に対して、きちんとした理屈を持って納得のいく説明ができるかどうかが問われていると言える。

●歳出削減につなげるには
仕分けの成果としては、まず歳出削減がある。滋賀県高島市では、合併後の財政破綻の危機感から、市の予算の約半分を対象にして事業仕分けを実施した。当時の市長のリーダシップのもと事業仕分けの判定結果をそのまま反映させた結果、総額22億円(予算総額の約10%)の予算削減が実現した。数字上の成果に加えて、旧町単位での事業の重複を整理統合出来たということも、合併を経験した自治体にとっては示唆に富む。また、広島県では2回事業仕分けを行ったが、仕分け実施後、類似事業を横断的に検証することと、仕分け結果の反映状況を翌年度のみならず翌々年度も継続して検証する(“垂直”展開)ことによって、総額約47億3千万円の財源確保を果たしている。これらの事例から分かることは、あくまでも事業仕分けは各自治体が行うものであり、仕分け結果が活かされるかどうかは自治体の取り組み次第だということだ。

仕分け結果を反映させるための工夫としては、第三者委員会を設置した愛知県高浜市や、市長の選挙マニフェストに仕分け結果の対応方針を明示した新潟市、議会にて仕分け結果の議論を深堀りした神奈川県藤沢市の例などがある。解は一つではなく、議会や住民との関係性など、各自治体の状況に応じて、自分達のグッドプラクティスは何なのかを考えて進めていくことが重要である。

●住民参画の促進~納税者の視点を引き出す~
住民参画の促進にも、仕分けは成果をあげている。まず仕分け実施前には、対象事業の選定委員会に住民も参加し、どのような事業を俎上に載せるべきか議論をする。仕分け実施当日には、住民が傍聴に訪れるだけではなく、仕分け作業そのものに「市民仕分け人」もしくは「市民判定人」いずれかの立場で住民が参加する。このうち、「市民判定人方式」を採用する自治体が、現在非常に増えている。これは、無作為抽出で選出された住民が、仕分け人の議論を傍聴した上で判定を下すというもの。この方式には、多くの市民に当事者意識を持ってもらえるという利点がある。行政の素人である住民が、仕分け人の議論を聞いただけで的確な判定を下せるのか、という意見もあるが、実際には、事業の中身を知ることを通じて行政“サービス”の受け手から納税者の視点に変わり、結果的に結論やコメントは全うなものとなる。

この市民判定人方式は、民主主義の健全化に向けた一つのツールになり得ると考えている。無作為抽出によって選ばれた住民が行政の意思決定に関与するという方法は、ドイツにて市民討議会という形で始められたものであるが、参加案内に対する住民からの返答率は、ドイツでは約5%とのことだ。事業仕分けにおける市民判定人方式の場合の返答率は、ばらつきはあるものの大体5%前後となっており、事前の周知広報に力を入れた奈良市では1割を超えた。一般的に日本人は行政への関心が薄い、とよく言われるが、このような数字を見ていると決してそうではないのではないか、潜在的には関心があるが、行政の仕事について知らないがゆえに無関心を装っているだけではないか、と感じる。事業仕分けに限らず、審議会等であっても、無作為抽出による住民参加を進めていくべきだと考えている。

仕分け実施後には、仕分け結果についてパブリックコメントを募集したり、住民説明会を開催したりしている自治体がある。また、市民判定人として参加した住民に、次年度の事業選定委員になってもらうところもある。このようにして、仕分けをきっかけに住民とのつながりを深めるべく、様々な取り組みを展開している自治体が増えてきている。

●自治体や国の仕組みの再構築に向けて
職員の意識改革も、事業仕分けの成果として挙げられる。多くの自治体で、職員から「事業がそもそも必要なのかどうかを考えるきっかけになった」、「事業内容を分かりやすく伝えるにはどうしたらいいか考えるきっかけになった」等という声が上げられている。また、新潟市では、若手職員の意識改革をより促すため、30代前後の若手職員のチームを作り、対象事業を選定を行うなど、各地で様々な工夫がされてきている。積極的に職員が関われる環境を作り、各職員が当事者意識を持って参加することで、職員自身が大きく変わることができる。

事業仕分けはあくまでもツールであり、実施することが目的ではなく、仕分けを実施して何を達成したいのかを自治体自身が考えることが、何よりも重要である。そして、行政の仕事の具体的な見直しを通じて、自治体や国の仕組みの再構築に向けた議論を行う場であり、民主主義の基本であると言える。

模擬事業仕分け、事業シート検証

講義後、研修生は、まず、事前課題として作成した事業シートの見直しを各自行った。事業目的の欄に目的ではなく事業内容を記載している例や、事業目的と手段および活動実績・成果指標がずれてしまっている例が多く見られた。また、他自治体での類似事業の例などの比較参考値を記載出来ていない場合には、改めて情報を収集するなど、ほぼ全員がいずれかの形で加筆修正を要した。加筆修正のプロセスでは、週末学校OBOG数名も適宜アドバイスを行った。

その後、7月14日には、一般公開のもと模擬事業仕分けに臨み、9事業を対象に仕分け作業を行った。

30名の研修生中、説明者を務めた9名からは、「受益者や納税者の視点ではなく、担当者目線・行政目線だけで考えてシート作成や情報収集を行っていたため、質問に対して的確に説明出来ないことが多かった」、「そもそも事業の論点を自分自身が認識していなかったため、質問に対する十分な数値や情報を準備出来ていなかったと気付いた」、「事業目的と手段や成果指標が適合していなかったため、評価にむけて十分な説明が出来なかった」など、担当事業に対する捉え方の不十分さや模擬事業仕分けにむけた事前準備における認識の甘さを感じたというような声が多く聞かれた。また、「普段から漠然と違和感を覚えていた点が議論を通じて明確になり、事業の問題の所在を認識することができた」、「自身が課題と認識していた点が仕分けでも論点として取り上げられたことを受け、今後のあり方を検討するにあたって重要な観点であることを改めて認識した」など、事業シートの作成や仕分け作業を通じて、自身の仕事に客観的に向き合うことが出来たという声もあがった。

仕分け人を経験した感想としては、「表面的な質問に終始してしまい、事業の必要性を検討するための論点を十分に提示出来なかった」、「同じ行政職員としてある程度事業の内容を想像出来てしまうため、質問が住民目線ではなかったと講師の指摘で気付いた。住民が知りたい・知る必要があることを聞いていかなければいけない」など、仕分けを行う目的に立ち返って十分に質疑を行うことが出来なかったという感想が多く出された。

翌日7月15日には、グループに分かれ、各研修生の事業シートを改めてもう一度見直し、自身の担当事業について、把握すべき情報、見落としていた観点を改めて見極めるという作業(事業シート検証)を行った。事業の意義や目的をきちんと把握し、それに沿う手段や評価軸が何なのか理解出来ていないと、必要な情報が何なのか判断することも事業シートを十分に記載することも出来ない。模擬事業仕分けの際と同様、有り物の数値や文章で取り繕うのではなく、常日頃からどう担当事業に向き合っているのかが問われていると感じた研修生が多かったようだ。

事務局所感

本プログラムでは、事業シートの作成と模擬事業仕分けをツールとして、これまで週末学校で学んできた原理原則を自身の仕事に落し込んで考えられているかということを確認していったが、抽象的に理解している(と思っている)考え方を、自らの日々の業務にあてはめて考えていくことの難しさを痛感した研修生も多かったようである。これに対しては、講師や一般傍聴者の方々から、「その事業の公益性はどこにあるのか、というそもそもの視点が欠けていたのではないか」という厳しいご指摘も頂戴した。

行政のやっていることを正当化する理屈を考えるのではなく、納税者の視点・受益者の視点それぞれで考えた時に妥当かどうか、という視点を常に持って行政の仕事に取り組むきっかけとしてほしい。漠然とあるべき論を語るだけでは、物事は動かない。細部に宿る問題の本質は、目の前の仕事に向き合うことを通じてこそ見えてくるのではないだろうか。