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市民の公共をつくる

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講師:福嶋浩彦(東京財団上席研究員、前我孫子市長)
講義日:2010年6月13日(日)
文責: Y. K(研修生)

公共は市民のもの
「公共」とは大きく言えば社会のことです。それは、役所や官僚の社会、政治家の社会ではなく、市民の社会でなければいけません。つまり公共は「市民の公共」しかありません。「官の公共」など存在してはなりません。政府・行政は、市民が「市民の公共」を作るための道具の一つです。
「新しい公共」とは、本来の「市民の公共」に他なりません。従来の公共は、主権者である市民の意思と乖離した官が、一方的な決定権を持って公共を仕切り、官の勝手な都合で民に下請けに出していました。民も公共を担っていたのですが、官の下請けで担っていたため、公共=官という認識が出来てしまったのです。

<コミュニティ><市場><政府>3つを変える
市民社会は、自治会やボランティア、地域の助け合いなどの「コミュニティ」、企業が営利活動を行う「市場」、税で仕事をする「(地方)政府」の3つの領域福嶋トライアングル.jpgで構成されます。
新しい公共を実現するには、コミュニティを変え(強化し)、市場を変え(企業が社会的責任を果たす市場にして)、政府を変え(主権者市民の意思で動く政府をつくり)、さらに、コミュニティ・市場・政府―相互の関係性を変える必要があります。
コミュニティを強めていくには、自発的で任意に活動する領域に加えて、契約による義務を果たして公式に活動する領域(図のトライアングルの真ん中の部分)も取り込んで、その主体を育てていくことが重要です。この非営利・非政府・公式の主体は事業NPOや協同組合などの市民セクターですが、まだまだ日本社会では弱いのです。

【右図解説:福嶋氏がスウェーデンの政治学者ペストフ氏の図と東洋大学の根本教授の図を応用したもの】

民と官の関係性を変える
さらに、新しい公共を実現するには「コミュニティ」「市場」「政府」互いの関係性を変える必要があります。とくに官が民に下請けに出す構造を変えることが不可欠です。下請けに出す量を増やしても、少しも新しい公共にはなりません。下請けに出す目的はコスト削減でした。民間の能力が生かされてコストが下がったならば素晴らしいですが、多くの場合、直営の時の行政職員の給料より民間の給料が低いので、コスト削減になったに過ぎません。こんなことを続けていたら、行政が先頭に立って「同一労働・同一賃金」の原則を壊していると言われても仕方がないでしょう。本当に行政にどうしてもお金がないのなら、特定の事業を民間に移し、そこで働く民間の人の給料を30%下げるのではなく、行政の正規職員全員の給料を3%下げるほうが、遙かに財政的効果があります。現状は、民間を犠牲にして行政職員の既得権を守っているのではないでしょうか。
我孫子市の提案型公共サービス民営化制度は、市役所がやっている全部の仕事=1,100を例外なく対象にして、この仕事は市役所がやるより自分のNPO、自分の会社がやったほうが市民にとって良いサービスが提供できる、という提案を求めるものです。提案は、外部の専門家とサービスの受け手の市民と行政で審査して、市民の利益になると判断できたら実施主体を民間に移します。これは、行政が自分の都合で「民間に出したいもの」ではなく、「民間がやりたいもの」を民間に移していく制度です。言い方を変えれば、行政が抱え込んでいるものを民間の手で奪い取る制度です。
税金を使った事業であっても、実施は民間でやるか行政がやるか、質を基準に民fukushima3_1.jpg間との対話で決めていく。その過程で費用対効果もきちんと検証する。それを通して、民と官の役割分担を見直し、民と官の連携を最適なものにしていくのです。
また、質で決めるというとき、行政が質の内容を全て設定してしまったら、行政の決めた質の物差しの範囲での競争になってしまいます。我孫子市の提案制度は、質を測る物差し自体を、民間から自由に提案をしてもらいます。さらに、質の判断には、サービスの受け手の市民の参加が必須です。

「豊かな公共」と「小さな政府」
少子高齢化を考えても、地球環境問題を考えても、格差(貧困)問題を考えても、公共の果たす役割はますます大きくなります。しかし、それに伴って官を大きくするのは財政的に不可能ですし、官が肥大化した社会は決して住みやすい社会ではないでしょう。
コミュニティや市場において公共を担う民の主体を豊かにする。税の投入は大きく減らせないとしても、税を使った事業の実施主体は適切に民に移し、行政組織はスリムで効率的なものにする。そして官は、民の活動を下支えし、公共全体をコーディネートする役割をしっかりと担う。こうした「豊かな公共」と「小さな(地方)政府」という視点が大切だと考えます。

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2011年度
・ 「『住民自治』と『公を担う民』」 福嶋浩彦 (レポート)
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・ 「自治体財政の自立」 福嶋浩彦 (レポート)
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