2016年度のプログラムが終了しました(更新日:2016年12月21日)

(国内視察)観光を通じた地域活性化 ~愛知県常滑市~

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視察先:愛知県常滑市
視察日:2009年9月3日(木)~4日(金)
文責: 岐阜県高山市 平野善浩(研修生)、千葉県佐倉市 池澤龍三(研修生)

研修生36名は、3つのグループに分かれ、地域活性というテーマのもとに、独自の取り組みを行っている自治体を訪問しました(この回の概要は→こちらから)。愛知県常滑市の視察グループは、厳しい財政状況を直面する中、観光を通じて産業、文化など幅広く地域振興を行っている現場を視察しました。


1日目

「常滑市の観光施策等について」 常滑市長 片岡憲彦氏
片岡市長は、平成19年までの約30年間市職員として勤務した後、退職し市長となられた。職員の頃から、やきものの街常滑がなぜ観光地になっていないか不思議に感じており、各方面に働きかけ「観光協会常滑支部」を立ち上げた。
市長は、「住んでいる人が誇りを感じ、職員も街の素晴らしさを伝える」という気持ちを大切にしたいと観光振興への基本姿勢を述べられた。
また、常滑焼が高級品でなく生活に密着した製品として発展した歴史的背景や、伊勢湾に面し海運に優れ、良質の粘土が安定して確保できるという地理的条件について説明を頂いた。

「常滑市の観光・商工振興について」 常滑商工会議所会頭 杉江省一郎氏
杉江会頭は、「商工会議所は、片岡市長が若々しく夢を語り、市が様々な問題を抱え苦しい時でも前向きに取り組む姿勢を高く評価し、その手伝いをするという立場である。」と冒頭述べられ、商工会議所が市に対して要求する団体ではなく、市と連携して産業振興を推進するという立場を明確にされた。
杉江氏は、本年4月からは、市の観光協会長にも就任され、産業振興に加え、観光という大変幅広い内容の舵取りを行っておられる。これらの運営は、ボランティアで協力する「人材」により成り立っており、杉江氏は全ての責任者として、“よそ者・若者・ばか者”ががむしゃらに活動できる環境を提供している。
何かを行うには、やる人・手伝う人・責任を取る人が必要である。新しい考えや活動に対しては批判等が出る場合が多いが、それをはねのけるくらいの意気込みも必要である。
常滑市の観光資源を活用し、多くの観光客を誘致することによりこの街の良さを感じてもらうため、従前の「作れば売れる」という経営感覚から、おもてなしの気持ちを市民にも啓蒙した。また、先人・先祖・先輩に感謝する気持ちが大切であり、文化の伝承にはこの気持ちが不可欠であると強調された。
また、杉江氏はお話の中で、①常滑市のためという基本的な考えを持つ、②先人に感謝し伝統をどのように守り伝えるかを意識する、③物事に自然体で向き合い前向きに考えるという基本的な姿勢を何度も熱く語られた。

「やきもの散歩道散策」
ボランティアの案内人の説明を聞きながら「やきのも散歩道」を散策した。映画「20世紀少年」のロケ地にもなった町並みは、土管や焼酎瓶を積んだ土留め、窯の煙突、黒い板壁の建物と幅員2~3mの坂道で構成されており、懐かしさが溢れるものだった。
しかし、現在は現存する建物をそのまま利用し、内部を店舗に改修したものが多く、建物の老朽化がかなり進行しており、計画的に修繕する等の措置が必要と感じた。
散歩道の随所に空き地が存在するが、これは、古い建物の取壊しの跡地で、再度建物を建てるための基準となる隣接道路の幅員が足りないためである。また、都市計画での整備と観光資源としての町並み保存との考え方で対立する部分もあり、市の政策としての判断により方向性を決定する必要があると思われる。

「常滑の観光の取組みについて」 木下幸男氏
木下氏は、常滑市観光協会副会長、常滑市商工会議所まちづくり協議会運営委員長、常滑市観光協会常滑支部長を併任しており、全てボランティアで活動している。
常滑観光協会常滑支部の事業を紹介される中で、事業運営は市からの補助金等の財政支援に頼らず、自主財源での運営を目指しているという説明があった。具体的な財源確保の方法は、飲料水等自動販売機の売り上げの27%を商工会議所や観光協会に収納する仕組みや、駐車場に宣伝看板を設置し広告料を徴収する等の取組みを行っている。このような取組みは民間事業者の経営感覚により実現したのではないかと考えられる。
常滑市の観光振興活性化の中心となっているのは間違いなく木下氏という「人材」である。しかし、木下氏一人で活性化させた訳でなく、協力者や行政を巻き込みながら次第に大きな力とし、全体が活発に活動しているものである。
木下氏を中心に人が集まったのは、木下氏の①自分が先ず行動し見本を示す、②情熱で人は動く、③理屈でなく行動する人を評価する、というような情熱的な考え方に要因があるのではないだろうか。また、市長の政治的判断により観光立市を目指すという方針を決定したこともあり、官民の観光振興でのベクトルが一致し、官民連携がより効果的なものになったと考えられる。
次の「人材」は育てるものではなく自然に育っていると言う。常滑市の観光振興は木下氏以外の「人材」が中心となっても活性化し続けるものになっている。
木下氏がなぜ街の活性化ために膨大なエネルギーを投入できるかという研修生の質問に対して、木下氏は、「子供達はこの街で育っていく。大人は子供たちのために何かしなければならない。」と答えられた。この言葉の中に地域活性化の肝となるものがあるように思われる。

 

2日目

「長三賞(現代陶芸展・陶業展)について」 常滑市商工観光課 浜崎博充 氏
長三賞(ちょうざしょう)現代陶芸展・陶業展は、常滑市が主催する全国(陶業展は市内)公募展で、INAX創始者である(故)伊奈長三郎氏より陶芸陶業振興のために寄贈された基金を元に運営されている。
新しく審査員となられた鯉江良二氏(陶芸家)や入澤ユカ氏(INAXギャラリー顧問)は、非常に度量が大きく、個性の強い方々であるとのことであるが、この方々を招いた市の度量の大きさにも驚く。
また、審査会や展示会をやるというだけではなく、長三郎というジャパンブランド化を図っている点に、大変魅力を感じる。こうした発想は、自治体職員だけでは起こせない発想なのかもしれない。
このことは、「ドームやきものワールド展」をナゴヤドームで開催するという大胆な行動が、中日新聞社からの提案により実現したという事実にも現われているように思われる。
官と民をはじめ、様々な分野のキーパーソンが連携することによってもたらされる効果(パワー)は、「1+1=2」以上であるように思われる。

国際やきものホームステイについて」 IWCAT 市原 昌 氏
常滑市では、1985年から、やきものを通じた国際交流やまちづくりに熱心な市民が集まって「とこなめ国際やきものホームステイ実行委員会(The International Workshop of Ceramic Art in Tokoname、略称IWCAT)が組織され、毎年夏の期間の約40日間、海外から陶芸家等を招いて国際陶芸ワークショップが開催されている。
参加者は、これまでの25年間で延べ41カ国366名に上る。作品は、常滑焼まつりやINAX陶楽工房内ギャラリーにて展示されている。
また、制作の会場を常滑東小学校の工作室を借りて行っているところに興味深さを感じる。小学校の工作室に焼窯を設けているのは、さすがやきものの街といったところである。
ワークショップなどを通じて地元伝統産業を世界に発信するという取り組みをしている。
地元の施設資産と伝統資産を活用しながら、能動的なボランティアの方々により行う方法は、「ないものねだり」ではなく、「あるもの探し」の重要性を示唆しているように思われる。

「常滑の観光の取り組みについて」 常滑市観光協会常滑支部 副支部長 吉田信義氏
右手に常滑の街並みを、左手に涼しげな坪庭を眺めながら、廻船問屋瀧田家の離れで行われた茶と急須の話は、何とも清々しく、力強いものであった。
やきものの終着は急須であると言われるほどに、その技術は高い能力を要求されるようである。それは、単に美を追求した物とは違い、道具であることから何よりも機能を追求されるからであろう。そうした中、独自に創作した「お茶を天(ふた)でこす」という「ten.ro」という急須は、まさに美と機能の合作であるように思われる。
一方、やきものの世界にある伝統や歴史、文化とは裏腹なものとして、閉塞的な社会にある慣習や風習や時代とともに変わって行こうとする者への抵抗がある。その時に大切なのは、口ばかりで実際に自らは行動を起こさない者への明確な意思表示であり、行動力であるという。また、行動を起こして行く時に必要なのは人数ではなく、少人数でも良いからキーパーソンが必要であるということだ。

INAXライブミュージアム施設見学」INAXライブミュージアム 館長 辻 孝二郎氏
1000年近いやきものの歴史を持つ常滑市に本社を置く、株式会社INAX。その全国的ブランドINAXが手掛けるミュージアムだけあって、設計コンセプト、運営コンセプト共にセンスと個性に溢れている。
黒い壁と黒い屋根瓦(海からの塩害を防止するためにコールタールを塗っているらしい。)、そしてレンガ積みのミュージアムは、黒と茶にしっかりカラーコーディネイトされている。
常滑のやきものの特徴の一つは、ひたすら急須や土管に代表される生活道具や暮らしに使うやきものを作ってきたところにある。それは明らかに他の瀬戸や備前のそれとは違っている。その普遍的な生活に密着するという常滑の持つ風土を、「土」という世界中あらゆるところにある普遍的な素材をテーマに体験させ、訪れる者に自然に常滑の空気を感じさせている。
辻館長は、「やきものの街はやはりやきものを作っている現場であり続けない限り、魅力はなくなってしまうだろう。ものを作ることは、ひたすら楽しい。もの作りは人間の本能。」と言われた。街や建物に魅力があるかないかは、それらのものを五感で感じられるかどうかに掛っていることを教えられたミュージアムであった。
現在、隣接する旧常滑高校の跡地(既存校舎あり。)をさらに活用した拡張計画が市とともに進行中とのことであるが、市と民間のノウハウの結集が大変楽しみである。

「中部国際空港と地域との連携について」
第一種空港として2005年に開港した中部国際空港、通称セントレア(センターとエアの造語)。同じ第一種空港の成田国際空港の約1/3、関西国際空港の2/3の旅客取扱能力を持つ国際空港である。
最も特徴的なのは、商法上の株式会社として、国土交通省や近隣県市と民間企業等の出資のもと、「中部国際空港の設置及び管理に関する法律」に基づき指定会社として運営されている点であろう。
そのため、他の国際空港と比べて民間企業としての発想が豊かで、様々な取り組みが行われている。
具体的には、アメリカのチアダンスチームと知多半島のキッズチアダンスチームの交流がこのセントレア内のイベントホールで行われたり、全国の小学生や盲・聾・養護学校の児童生徒を対象とした社会見学の実施、空港分野の公共交通活性化・再生総合事業制度を活用した「とことこバス」の空港乗り入れ、スカイデッキの観光資源化、バス1台貸し切り40,000円での空港見学などがある。
特に、常滑市と常滑市観光協会、セントレアがタイアップして、スカイデッキを使って実施した盆踊り大会の開催は、正直信じられない出来事である。
空港は、日本全国に存在するが、空港のもつ魅力、集客能力を十分活かしている自治体は少ないかもしれない。ただわが県に空港ができれば良いという発想だけであったように思える。空港をそれぞれの地域にとっての共通の資産として捉え直すことの重要性を強く感じた次第である。
なお、セントレアのセンターピアガーデンの植栽は、常滑焼の巨大な器にしっかりと植えられている。