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(国内視察)海士町をプロデュースする人材 ~島根県海士町②~

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視察先:島根県海士町
視察日:2009年9月4日(金)
文責: 福岡県福岡市 冨重定(研修生)、奈良県葛城市 森井敏英(研修生)

研修生36名は、3つのグル-プに分かれ、地域活性化について先進的な取組みを行っている自治体を訪問しました。島根県海士町グループは、人口流失と財政破綻の危機の中、合併を選ばずに島の生き残りをかけたユニ-クな取り組みを行った自治体を視察しました。

海士町活性化の旗振り役は、民間企業出身の山内道雄・町長と「日本一安い給料で日本一働く町職員」といわれるスタッフたち。役場職員、議員らの給与をカットした資金を元に、「若者」「馬鹿者」「よそ者」を呼び込み、産業の創出や、多くのUIタ-ン。そして、地域活性化へとつないでいます。

※ レポート①は → こちらから

海士町産業創出課の取組みとその課題

日時:2009年9月4日(金) 10:45~12:00
講師:大江 和彦 (海士町 産業創出課 課長)ama7.JPG

1.攻めの実行部隊「キンニャモニャセンター」
「キンニャモニャセンター」は、交流と観光に取り組む「交流促進課」、第一次産業の振興に取り組む「地産地商課」、新たな産業と雇用創出に取り組む「産業創出課」の三課が共存するセンターです。この3つの課の職員は、電話のたらいまわしせずに、自分の仕事と直接関係なくても電話や窓口対応する能力を持つようにしています。また、定住希望者の多くは夜間や週末に電話を、観光客は休日を利用してくるので、役場職員の1/3が勤務し、365日オープン変則勤務を実施しています。さらに、職員が朝7時に老人宅の農家を回って集荷をし、9時半から従来業務についています。


2.「海」「潮風」「塩」をキーワードとした産業振興
ama5.JPG 島の新産業は、「作る」だけでは、本土に地理的要因で負けてしまいます。よって、地域のコミュニティと活性化を推進し利益を確保するための「加工」までを目指しています。役場主導で開発した事例として、①サザエカレー(現在JAに委託生産)②海士の岩がき「春香」③CAS(Cell Alive System)の海士の冷凍白いか。CASの本来の品質を一般に伝えることは、民間では難しい面が多くあり、役所が率先して行っています。

一方、民間が主導で開発した事例として、①「隠岐牛」のブランド化。建設会社の思いで実現しました。町役場は、構造改革特区申請による株式会社の農地取扱規制緩和に関わりました。②「塩」。UIターンの若者による製造と販売をしています。行政からのアクションとして、集落からの産品を「塩」をベースとした高齢化対策も含めて「梅干」「塩辛」「干物」など「塩」を使った事業を支援しています。


3.現状の課題、そして今後の目標
海士町にある14地区は、高齢化と限界集落に直面しているのが現状です。ふるさとを愛し愛着を持ってコミニュニティを強化させるために、物づくりや加工品の復活、集落に外貨が入るよう、U・Iターン者を積極的に受け入れています。
また、今後の目標は、海草を中心とした産業振興です。魚介類の生産量の減少、磯やけ、カーボンオフセットなど、海草を中心とした産業振興を海士町の産業振興に役立てることが出来ると考えています。

 


 

 

「海士町の自立」談義

日時:2009年9月4日(金)16:00~17:30
講師:佃  稔 (海士町 教育委員会 教育長)
大江 和彦(海士町 産業創出課 課長)
浜見 敏明(海士町 国民健康保険 海士診療所 事務長)
吉元 操 (海士町 教育委員会 学校教育課 課長)ama2.JPG
宮岡 健二(海士町 教育委員会 学校教育課 課長代理)

1.海士町の施策
◆産業振興について
「一村一品運動」に取り組む大分県湯布院町、大山町の取り組みを「中ノ島親類クラブ」という議員・職員40人のグループが自費で視察に行った。そして、「自立」をテーマに発想の転換、心の豊かさなどについて議論し、平成10年に第3次総合振興計画を立案した。施設整備を中心としたハードな政策から施設を活かしたソフトな政策へ重点を移した。自分たちが考え、自分たちの費用で、自分たちで行動する形で勉強してきた。
平成14年の山内町長就任で、一気に火が点き、平成15年キンニャモニャセンター建設し、新たな産業振興への挑戦を始めた。

◆教育・人づくりについて
東京への修学旅行に「ふるさと学習」の成果を一橋大学で発表する機会を組み込んだ。約半年前から事前学習をして、海士町についてそれぞれが調べ、6月の修学旅行の際に、一橋大学で発表をする。その後、夏休みを利用して、一橋大学の学生が海士町を訪問し始めた。それが、後にインターンシップへ発展し、海士町の民宿に就職した学生もいる。
また、「AMAワゴン」と題し、まちづくり・交流事業の一環として、現場の第一線で活躍する若手の一流講師と島外からの参加者20~30人を海士町に招いた。「出前授業」を称して様々な授業を行ってきた。これらの交流活動は、島の外からの人々との交流を通じ、外からの視点を得ると同時に、海士町ファンを生みだす契機となっている。

ama1.JPG2.意見交換
・海士町の改革の発端は、三位一体改革や合併問題による「島がなくなる!」という危機感であった。自治体職員として愛郷心が一番大切で、これによってモチベーションも大きく変わるだろう。
・やはり人のネットワークが大切である。人と接する機会が重要であり、人を大切にする町の姿勢は、フェリー乗り場や「キンニャモニャセンター」に自販機がないことにも表れている。
Q: 第3セクターの方が、フットワークが軽く、その役割が重要であろうが海士町ではどうか?
A: 海士町では、民間が事業に取り組んでも採算が合わない、そこに行政の役割があると考
える。
Q: Iターンの人たちの定住期間について、どう捉えているか?Iターンの人には、出来るだけ長く島にいてほしいと思うのか?
A: 数日でも、何年でも良いと思う。地域に溶け込んで、気持ちよく帰ってくれるのが良い。長期定住や永住してもらいたいと強くは思っていない。

 


 

視察を通じて(まとめ)

海士町の地域活性のカギは「人材」にあると考える。離島であるがゆえ、工場誘致などの方法が使えない環境にあったことを除けば、海士町が行っている地域活性の取り組みは、その自治体の環境に関係なく、他の自治体でも可能な手段であると考える。

1.海士町をプロデュースする人材~外からの視点をつくる~
今回の視察を通じて、海士町は、「自分の町をプロデュースする人材」が内外に多数いて、それらの人材を同じ目標に向かって成長させ、それらの人材のネットワークも推進している。
「海士町をプロデュースする人材」の特徴は、I・Uターン者で外部の視点を持っていることだ。外部視点の重要性は、この研修で学んだ事業仕分けでも(第5・6回講義「自治体の事業仕分け」)重要とされていたことに共通する。

2.ではどのようにして人材を育成してきたか。~交流が生みだすまちづくり~
海士町の場合、人材を発見し育てることの重要性を認識し、役場職員自らが活動をしている。外部の視点をえるために、交流は重要な手段であると考える。行政は、I・Uターンの者、「よそ者」が活動できる場を提供してきた。そして、海士町の従来からのネットワーク作りによって、I・Uターン者にとって魅力的な島となり、多数の「自分の町をプロデュースする人材」を育てることにつながったと考えられる。
海士町も「自分の町をプロデュースする人材」がすぐにできたわけではない。他の地域と大きく違ったのは、海士町のネットワークをベースとした情報収集力にあると考えられる。

3.海士町の方向性について
以下の順で人材育成が行われ、地場産業が育ってきていると考察する。
① 役場職員が発見し育てる。産業創出課、教育委員会と双方が協力し合う。仕事を提供するのではなく、活動の場を提供し、仕事は自分で作ってもらう。
② Iターン者が自分の町をプロデュースする人材へと育つ。起業し、新たな挑戦をしてもらう。
③ Iターン者が、新たにIターン者を発見し呼び寄せて育てる。
④ 高齢化と限界集落対策、島への愛着心、コミニュニティの強化。そして、産業創出、加工産品による収益の確保。
(例:Iターン者が作った「塩」を起点として民と官が連携をして産業振興を行っている)
⑤ 未来を見据えた産業振興。海草を中心とした新たな産業振興。
現在の海士町は③の段階から⑤の段階に向っていると思う。多くのIターン者、町を活性化させる人材が集まり、産業が発展し始めている。海士町総合振興計画「島の幸福論」の策定委員長の話や、役場新人職員のIターン者が、「仕事が面白くて仕方ない、給料の低いのはべつに気にしない」と述べていた。視察を通じて、海士町に自分の町をプロデュースする人材が多く存在していることを実際に見ることができた。

4.海士町の課題及び問題点
海士町は、離島ということを除けば、財政、少子高齢化など日本の自治体の未来を予見するような町だ。それらの課題に対し、海士町は先進的に対応してきているのは間違いない。あえて課題を挙げるならば、海士町の場合、いかに産業を、住民の収入源とし、ネットワークを強化しながら、それらの産業を成長させることができるかだ。新たな取り組みである「海草を中心とした産業振興」などが、農協や商工会と連携しながら、町の財政に影響する程度の収益力あるものになれるか、また、次世代の地域の子供たちが海士町のこれら取り組みをどのように理解し継続していくかも課題であろう。 
ただし、海士町の特徴的なところは、海士町ファンのネットワークを活用することで、自分の町をプロデュースする人材たちが、多方向から集まり、町の課題に取り組んでいることである。Iターンの若者世代が、行政と民間の間で育ち、官民の連携ができる環境が整っていることが、海士町の人材育成と「地域活性化のカギ」である。