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(国内視察) 荒川区の人事戦略構想 ~東京都荒川区~

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視察先:東京都荒川区
視察日:2009年7月3日(金)
文責:千葉県白井市 元田和寿(研修生)

36名の研修生は、3つのグループに分かれ、国に頼らない創意工夫の行政や地域活性化に取り組んでいる自治体を訪問しました(この回の概要はこちらをご覧ください)。東京都荒川区視察班は、全国の自治体に先駆けて実施した特徴的な人事政策を中心に視察しました。

 


 

 

arakawa_fujita1.jpg 平成21年7月3日、「東京財団週末学校」研修生13名は東京都荒川区を訪問し、藤田満幸管理部長、猪狩廣美同部参事・職員課長から、全国の自治体に先駆けて実施した特徴的な荒川区の人事政策について説明をいただいた後、ころばん体操(転倒予防体操)、南千住再開発、あらかわ遊園、第三日暮里小学校を視察した。
我々が視察させていただいたいずれの取り組みも、特区制度の活用、大学との連携、住基カードの多目的活用など自治体職員としての知恵を活かしたすばらしい取り組みであり、今後の研修生それぞれの自治体運営について非常に参考となった。
本レポートでは、特に荒川区の人事政策を中心に報告をさせていただきたい。

「区政は区民を幸せにするシステムである」
西川太一郎荒川区長は、平成16年に就任以来、区民の生活を支え支援していくという区の役割を明確化し、「区政は区民を幸せにするシステムである」を事業領域(ドメイン)の中心として区政を運営している。
区の仕事は、従来、計画を作り実行することが中心であったが、区民を幸せにするという観点から、その事業領域が無限に広がり、従来は公務から大きく離れたものであると認識されていたものも、公務となった。
このような区政の転換期において、区民を幸せにするシステムの下支えをする区の職員一人ひとりが従来のままでは、区民を幸せにすることはできない。そこで、その実現のためにいかにいい人材を確保し、育てていくかということが大きな課題となった。                          (写真右:管理部長 藤田 満幸 氏)

人材発掘・獲得のための説明会
荒川区は、人材発掘・獲得のため、大学における区長記念講演や説明会を実施したり、「行政ビジネス体験ツアー」として学生に区の取り組みの現場を見学させるなど、魅力ある荒川の情報発信を積極的に実施している。
特に、職員採用ホームページや職員案内パンフレットなど、非常にわかりやすい資料を作成している。このように荒川区においては「財」の新規発掘である職員採用に非常に力を入れている。

多様な人材の活用のために~新たな研修体系~
荒川区は、従来の人事管理的な人事政策から、総合的・創造的人事戦略への転換をめざして、平成19年度に「新しい時代に対応した人事戦略構想」を策定している。
人事戦略構想において、荒川区が求める職員像を、「区民の幸せを実現する仕事」に高い価値観を感じる職員、広い視野と長期的展望を持ち区民が求めていることを敏感に察知する職員、困難を恐れず新たな課題に果敢にチャレンジする職員、区民の信頼と期待に応えていくために常に行動を律し自らを磨き続ける職員、と定め、この職員像を目指す職員一人ひとりを応援し、さまざまな研修制度を用意している。
研修制度は、従来の公務員基礎研修、専門研修、階層別研修に加えて、入区3年を対象とした新人育成プログラム、階層別研修とは別に、30歳、40歳、50歳の職員がキャリアステージの転換期に、荒川区政が目指す方向を理解し自らを再認識するためのキャリアデザイン研修、キャリアデザイン研修受講後、個々人に必要な能力を向上させるため、自らが研修内容を選択することのできる選択制開発型研修とを新設した。
また通常の研修の他に、明日の区政を担う職員を育てるため、「荒川区職員ビジネスカレッジ(ABC)」を組織内に創り、1年次の教養課程と2年次のゼミ活動の2年間、毎年50人程度の職員をABCで教育している。1年次の教養課程においては、社会の一線で活躍している方々を招き、政治・経済・国際情勢など幅広い教養を身につける生きた講義を年間30回程度実施しており、2年次には、部長・課長などの管理職が指導教官として少人数のゼミを行っている。

荒川区の非常勤職員制度
荒川区の職員数は、2,376人(平成21年3月末現在)であり、うち非常勤職員は588人、再任用職員は224人であり、正規の職員は1,564人である。荒川区では、財政基盤の強化のため、職員定数の適正化に取り組んでおり、民間委託の推進などの施策と併せて、25年間で33.2%の正規職員の削減を達成している。
arakawa_igari1.jpg その一方、民間よりも区が主体となって実施した方がサービスの向上を見込めるものについては、業務改善や執行体制の見直しを行うとともに、専門的な知識や技能などを有する非常勤職員を採用し、区が主体となってサービスの提供を行っている。特に図書館の運営については、重要なサービスの拠点であるとして、唯一、東京23区内で荒川区だけが区直営で非常勤職員を中心に運営するなど、独自の特色を出している。
そのため、荒川区は、職員全体の4分の1を占める非常勤職員も重要な区政運営の戦力と考え、全国に先駆け、制度の改革を実施している。その中で最も象徴的な施策が、非常勤職員に対して実質上の「昇進の機会」を与えたことである。

非常勤職員は、一般的に報酬は経験や年齢等に限らず一律であり、その任用も原則一年以内とされている。荒川区では、非常勤職員の能力と経験に併せて、3つの階層、常勤の一般職員に準じた専門的業務を担う一般非常勤、専門的な分野における日常的な業務に携わるとともに企画立案的な業務を担う主任非常勤、主任非常勤の業務に加えて、管理・監督的業務を行う総括非常勤と設定し、賃金については上位の階層の賃金を高くする。そのうえで、経験と能力により、適切な評価・選考を経てそれぞれの階層で任用を行うものである。
しかし、今回の制度は、あくまでも地方公務員法が規定する範囲内での運用の変更に過ぎず、採用についても契約は一年限りであり、雇用における抜本的な解決策とはならない。とはいえ、上位の階層で「新たに」採用されることは、実質的な「昇給」となるため非常勤職員にとって大きな待遇改善であることは間違いない。(写真左:管理部参事・職員課長 猪狩 廣美 氏)

 

arakawa.jpg荒川区の人事政策を学んで
このように荒川区の人事政策は非常に充実しており、よく考えられたしくみである。このしくみがうまくまわり始めれば、近い将来、区長が目指す「区政は区民を幸せにするシステム」の大きな目標に対して、機能していくのであろうと思われる。
しかし、その一方で、荒川区が職員研修に要する経費として、年間1億1千万円が予算計上されており、この枠組みが、全ての自治体でそのまま実施できる訳ではないことも忘れてはならない。
また、非常勤職員の待遇向上に全国に先駆けて先鞭をつけたことは非常に評価すべきことではあるが、区の政策判断として、区が事業を実施する主体であると決定したことについて、非常勤職員が主体となってサービスを提供することが適切であるのか。また、同一労働同一賃金の観点からの問題として、非常勤職員と正規職員との格差など課題もある。
とはいえ、荒川区の取り組みは、荒川区という地域をよく理解したうえで、現状において、政策を実施してきていることは間違いない。これからの自治体の政策は、「住民を幸せにするため」をそれぞれの自治体に適した知恵を出し合わなくてはならない。荒川区の人事政策から強く実感した次第である。

(写真上:荒川区庁舎)