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(国内調査)天の製茶園:環境マイスターのものづくり現場~熊本県水俣市~

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調査先:熊本県水俣市 天野製茶園 天野茂、浩
調査日:2013年6月28日(金)
文責:①栃木県茂木町 田中のり子、②山口県萩市 椙本学 (2013年度参加者)

本調査の目的

「まちづくりはそこに住む人々の『想い』から始まる。」週末学校では、このメッセージを一貫して伝え続けている。この「そこに住む人々の『想い』」とはどのようなものだろうか。そして、そこからスタートしたまちづくりとは、どんな様相を呈しているのだろうか。

水俣病という苛烈を極める苦難を抱えながら、地域の自然や風土、そして人と人とのつながりを再起させ、人々が「ここ」に生きる希望を作ってきた熊本県水俣市。本調査では、その地を実際に訪れ、混乱の渦中に身を置きながらも、地域の再生のために尽力し続けてきたキーパーソンらにお会いする。そして、対話や議論を通じて、彼らの地域に対する想いや哲学を肌で感じると同時に、この地域が発する熱量に触れ、真のまちづくりとはどのようなものなのかを探る。

以下では、標高600メートルに位置する石飛高原で完全無農薬・無化学肥料でお茶を栽培し、水俣市環境マイスターにも認定されている天野茂さん、浩さんにお会いした際の、参加者レポートを紹介する(国内調査全体については、こちらを参照)。

参加者レポート①:栃木県茂木町 田中のり子

水俣市内からバスで揺られること30分。海が見えなくなり、次第に民家も見えなくなり、気が付いたときにはバスの両側に杉、ヒノキが迫りきていた。心なしか、空気もひんやりとして冷たい。
目的地である石飛分校跡地に到着し校舎内に入ると教室が2部屋しかない。そこで一人の青年が「20代の時に吉本哲郎さんと付き合いだして、地元学の罠にはめられた」と笑った。彼こそが天の製茶園の天野浩さんだ。住んでいる地域をみんなで良くしたいという熱い思いを持つ浩さんは、父親の茂さんと無農薬の紅茶を作り出す水俣市の環境マイスターでもある。この天野さん親子と吉本哲郎先生に石飛地区を案内してもらった。

●道端の草にも意味がある
どのグループに入ろうか考える間もなく、気づくと吉本先生のグループにいた。事務局の石川さん、地元九州鹿児島県の山元さん、兵庫県の西原さん、愛知県の堂本さんと松本さん、埼玉県の城取さん中村さんと雨上がりの石飛地区を散策した。
どこにでもあるような葉っぱを引き抜き、「これ知ってるか」と吉本先生は聞く。見たことはあるけれど名前がわからない。ラミーといい、糸になる繊維を持ち、宮古上布の材料になる草だという。一人ニヤニヤと笑っていた山元さんが「眼鏡の曇り止めにもなる。ヨモギみたいなもんや」と教えてくれた。
整然と刈り取られた茶畑を指さし吉本先生が再度問う。「なんで平らに刈り取っているかわかるか」。「機械で刈るからです」と答えると「なんで機械で刈るのか、なんでそう思ったのか」と鋭い。物事をいろんな方向から考えることと、深く考えることを問われた一瞬だった。

●石飛合衆国
石飛地区は水俣市で唯一人口が増えている集落だ。戦後は50世帯あったが国の保障がなくなるとともに14世帯に激減。今は17世帯が暮らしている。地域の人たちが「石飛合衆国」と親しみを込めて呼ぶこの地域には神社がない。大きな負担としがらみになる神社の役がないために、若い人たちが入ってきやすいのだろう。吉本先生は「開拓の地だ」とも口にしていた。

●水俣を動かすアイデアの生家“バカン巣”
山アジサイと西洋アジサイの見分け方を教えてもらいながら歩くと、目の前に手作り風の建物が現れた。こここそ、地元学の生みの親である吉本先生のアイデアの半数以上がひらめいたゲストハウスこと「バカン巣」なのだ。豚舎の廃材を再利用し、サッシも窓も再利用品だという建物に入ると、大きな囲炉裏があった。みんなで車座になって座ると、確かに落ち着く。吉本先生は「人は、火・水・緑に集まってくる。囲炉裏に火があると人が集まってくるんだ。そしてそこで自由に発想する。不自由な発想はブレるからダメだ。会議はワイワイガヤガヤやるか真面目にやる分けてからやるといい。俺たちはバカが集まるからバカン巣会議っていう名前をつけた」と教えてくれた。ゲストハウスを建てるのに20万円かかったが、そのうち一番単価が高かったのが、リサイクル品がでないバイオトイレの便槽だそうだ。レストランと同様、トイレが綺麗でないとお客さんはこない。「味よりも清潔さを見るだろう?」とぼそぼそと話す吉本先生から意外な一言が飛び出し、驚いてしまった。

●なぜ無農薬なのか
茶畑のわきを通り、「なぜ、天野さんが無農薬でお茶を育てているか知っているか」と核心を突く質問をされた。吉本先生は「薬かけが面倒だからだ」と笑うが、それが本当の理由だとは思えない。
茂さんの奥さんは病気がちで農作業が手伝えない。水俣病で苦しんだ水俣市内で、農薬を使ったものを作りたくない。ましてや、食べ物でなった病気を食べ物で治そうとしている人がいる水俣で、自分の家族やお客さんが口にするものに農薬は使いたくない、という強い気持ちが根底にある。

●石飛の魅力は食にあり
水俣市の環境マイスターである天野さんの紅茶は、ほんのり甘く、アイスティにしても濁らず美しい琥珀色のままだ。在来種の強さ、水俣の風土、そして水俣に住む天野さん親子の想いがギュッと詰まっている紅茶は、水俣の誇りだ。高級和菓子メーカーの「とらや」の紅茶羊羹は、天野さんの紅茶が使われている。パッケージに天の製茶園の表記がなく歯がゆいが、大丸東京店、日本橋高島屋、羽田空港店で「どこの紅茶ですか?」と尋ねると、「熊本県水俣市で無農薬で紅茶を作っている天野さんのものです。日本で無農薬の紅茶を作っているのは天野さんだけです」と答えてくれて、少しほっとしたのを覚えている。
散策後、石飛分校で近所の方や天野さん宅で勉強している外国人研修生らと夕食をともにした。石飛地区でとれた野菜の煮物、塩むすび、ジビエの焼肉、山菜の天ぷらなど、山の幸が豊富に並べられ、石飛地区の旬の味覚をいただきながら天野さんはじめ多くの方たちと話すことができた。こうした会話の中から、地元を大事に守る人の心意気を感じることができるのではないか。少なくても私のノートには、石飛地区の良いところが絵地図となって残っている。

参加者レポート②:山口県萩市 椙本学

●「小さくうけて大きくもてなす」石飛地区
天の製茶園のある石飛地区は水俣市にある標高500mのところにあり、地形は盆地の底のようになっています。元々、開拓団の集落で、中心部から少し離れているなど、決して便利が良いとは言えない地域ですが、現在も17軒の家があり、20代4人、30代4人、その他の年齢層、合計で55人が住んでいる地域である。おもな産業はお茶で、現在7から8軒の農家があり、そのうち5軒は専業農家とのことでした。 当日は、水俣のキリマンジャロと言われる亀嶺高原を案内していただきましたが、標高は600m程度あり、あいにくの曇り空でしたが、晴れた日には水俣市街はもちろん、不知火海まではっきり見えるほど。360度美しい景色を見渡せるところがあるなど自然豊かなところです。 また、火を囲んで人が集まるゲストハウスがあり、そこで地元料理も提供されるそうで、年間500人が訪れるそう。モットーは「小さくうけて大きくもてなす」で、5人から10人ぐらい入ったらゲストハウスは満員ですが、コンセプトを同じくするお店等と連携して、お客様のいい意味での「たらい回し」を実践するなど、地域にとどまらず水俣市全体の深い交流に貢献している地域です。

●環境マイスターが作る和紅茶 ~美味しいものを作ろうという想い~
天野 浩さんは3代目。無農薬のお茶を栽培していて、緑茶・紅茶・ほうじ茶・ウーロン茶を栽培して、販売されています。お父さんの茂さんは高校3年生から茶業を営まれ、機械ではなく手仕事でできるものを最小限にと34年間、無農薬のお茶を育てていらっしゃいます。紅茶が嫌いなお母さんが納得するもの、美味しいものを作ろうという想いでつくられるその紅茶は、その味は焙煎すると甘くおいしく、香りも強いなど個性豊か。現在では、有名和菓子店「とらや」で採用されるなど、その実力は秀逸です。 ちなみに、茂さん、浩さんも認定されている「環境マイスター」とは、水俣市のHPによると、水俣病を教訓に、環境モデル都市づくりの取り組みを進めるため、「安心安全で環境や健康に配慮したものづくり」の推進と、職人の更なる地位と意識の向上を図ることを目的として、平成10年度に全国初の取り組みとして確立されたもので、現在35名が認定されており、いずれも、原料、生産、加工、販売、廃棄物のどの行程においても、自信を持って、環境や健康にこだわったものづくりを進めている職人ばかりとのことです。

●自分が動くことで周りが幸せになるか?~あばぁこんねの活動~
浩さんは、「モノづくりは小さいところに気が付けるかどうか」とおっしゃられ、森の菌と畑の禁の違いなどを語られたほか、目が届く、つまりは身の丈に合うものでなければ、結局、何かに頼り別の不幸が起こるなどと話をされましたが、中でも、「自分が動くことで周りが幸せになるか」という言葉には特に胸打たれることでした。その想いは、水俣弁で「じゃあ、おいでよ!」という意味を持つ「あばぁこんね」という20~30代の、水俣周辺地域で生活する若者が、業種を超えて自然発生的に集まったグループで、水俣の元気(食・自然・暮らし・文化など)をメンバー自らが知り、それらを水俣の内・外の方々に届け、伝えていきたいと思い活動していることにも通じているのではないでしょうか。

●まとめ ~利己主義と利他主義~
経済活動においては、生活を維持するうえで利益追求は必要だと思います。しかし、社会的責任やボランティア活動など他者利益を優先するという考え方も、現在社会において理想なことではと思います。 「人が進むべき正しき道」として、利己主義と利他主義のどちらが正しくどちらかが間違っているとは単純に出てくるような答えではないと考えたように、今回の訪問はとても考えさせられる訪問となりました。

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