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(国内調査)頭石村丸ごと生活博物館~熊本県水俣市~

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調査先:熊本県水俣市 勝目豊(同博物館代表)、山口和敏、地区のお母さん方
調査日:2013年6月29日(土)
文責:①愛知県豊橋市 大橋史明、②広島県神石高原町 伊藤邦夫、長野県大町市 大塚裕明(2013年度参加者)

本調査の目的

「まちづくりはそこに住む人々の『想い』から始まる。」週末学校では、このメッセージを一貫して伝え続けている。この「そこに住む人々の『想い』」とはどのようなものだろうか。そして、そこからスタートしたまちづくりとは、どんな様相を呈しているのだろうか。

水俣病という苛烈を極める苦難を抱えながら、地域の自然や風土、そして人と人とのつながりを再起させ、人々が「ここ」に生きる希望を作ってきた熊本県水俣市。本調査では、その地を実際に訪れ、混乱の渦中に身を置きながらも、地域の再生のために尽力し続けてきたキーパーソンらにお会いする。そして、対話や議論を通じて、彼らの地域に対する想いや哲学を肌で感じると同時に、この地域が発する熱量に触れ、真のまちづくりとはどのようなものなのかを探る。

以下では、村の自然や生活全てを展示物として見立てたいわば「屋根のない博物館」を住民の方々自身が運営する頭石(かぐめいし)地区を訪れ、勝目豊さん、山口和敏さん、地区のお母さん方にお会いした際の参加者レポートを紹介する(国内調査全体については、こちらを参照)。

参加者レポート①:愛知県豊橋市 大橋史明

●頭石地区について
湯の鶴温泉から更に奥へ入っていくと、石垣に組まれた棚田の景色が広がる頭石地区へと至る。頭石地区は、水俣市街から15キロ奥の鹿児島県境に位置する谷筋の集落である。かつては、林業で栄えたが、外部の人が訪ねてくることはほとんどない集落である。
頭石地区は、平家の落人がこの地に流れ着き、棚田を拓いて密かに暮らし始めたのが、最初とされている。水が豊富で、水路や洗い場など水場に合わせた暮らしを見ることができ、棚田に水を張った様子に古き日本を見ることができる。
平成14年に村丸ごと生活博物館の認定を受けたことで、外部からの訪問者を迎えるようになり、新たな雇用を生み出すなど地域の活性化を模索している。

●村丸ごと生活博物館について
村丸ごと生活博物館は、平成13年に水俣市が農山漁村地域において、住民と地域の活性化支援を定めた元気村づくり条例の柱となっている生活文化の保存、地域外住民との交流、経済の調和に沿ったものとなっている。
頭石地区は、村丸ごと博物館として第1号の認定を受けており、現在水俣市内の4地域が認定を受けている。指定地区は、生活を案内する博物館として、申し込みを受けて訪問者の受け入れを行っている。受け入れ時には、住んでいる人々が自ら訪問者を案内し、「生活のたび」を提供しており、道具や建物だけでなく知恵や技も含めて村の生活を丸ごと訪問者に見てもらうため、丸ごと生活博物館と呼んでいる。

 

●頭石地区の生活博物館~勝目さんより
12年前に村丸ごと生活博物館の認定を受けた頭石地区は、50年前に500人近くいた人口が120人まで減少している。家の建築方法が変化し、木材需要が減少してきたため基幹産業である林業が衰退したためで、増加しているのは、猪と耕作放棄地という状況であった。 また、認定を受ける前は、地域内の田畑の2割以上が耕作放棄地となっており、40世帯中36世帯が兼業農家であり、1世帯あたりの耕作面積は2・3反であった。
そのようなときに、吉本先生と知り合い、頭石地区へ来てもらって週に1回、話をしてもらうようになった。そして、村丸ごと博物館をやってみようということになった。
地域の住民に呼びかけたところ、郷土料理作りや職人などの生活技術を持っており、訪問者の体験を手伝ってくれる生活職人に15名、地域の自然や生活文化、産業などを調査・研究する人で、認定を受けて地域の案内・説明を行う生活学芸員に8名がなり、活動が続いている。
活動を始めてみると、最初の内は変化がなかったが、2年目くらいから大学や大学院の教授、学生などが都会から訪れてくれるようになってきた。そして、中学校しか出ていない私に指導をお願いに来るようになり、とてもうれしかった。
また、まかないとして出していたものを弁当にして売るようになった。家で普段食べている物が、売れるのかという意見もあったが、週1回で最初は15食で始めたところ、評判になり今では200食を売るようになった。
そうすると、最初はスーパーなどで野菜を買ってきて料理をしていたが、たくさん売れるようになると地元で栽培をしなければということになってきた。食べてもらえるとやる気になるもので、それまで耕作放棄地だったような土地でも野菜を育てるようになり、お母さんたちが元気になってきた。今では、イベントなどで依頼されることも増え、持って行くようになった。
今まで売れるとも思っていなかった地元の作物が売れるようになると、耕作放棄地を再開墾して野菜を作るようになるのは、とてもうれしい変化であった。ひたすら縮小していくばかりであった集落が明るくなってきた。
これからは、待っているだけでは駄目な時代である。湯の鶴温泉は、いい温泉なのに人が来なくなった。人が来るように売り込んで、第2の黒川温泉を目指していけばいい。私たちは、能力を持った人を活用するために動いている。そして、動いてから行政へもやってほしいとお願いするようになった。何もしていないのにお願いするだけでは駄目で、動いてからお願いすると動いてくれるようになった。
気持ちは「高齢者よ大志を抱け」であり、今後は若者が働ける場つくりをしていきたい。

●村丸ごと博物館のこれからの役割
頭石地区では、小学校の児童数は27人で中学校は昨年統合されて閉校した。
地域では、子どもたちを巻き込んだ活動も大切にしており、学校と協働で教育活動を行っている。昨年は、子ども達と野菜を作ったが、ほとんどの野菜がいのししにやられてしまった。そんな中うまく育った大根で水俣市の郷土料理であるかんつけを作った。また、子どもたちから、自分たちが育てた玉ねぎを使ったカレーを作り、招待をしてくれたのはうれしかった。
今後は、サラリーマンの子育てを助ける仕組みを作りたい。
私は、百姓の子でありながら百姓を否定しながら育てられてきた部分があり、百姓や林業についてここで育ったにも関わらず何も知らなかった。それは、百姓の業を子どもに教えてこなかったためであるが、今後は、業を子どもに伝えていきたいと考えている。
子どもたちには、休みの日の1日、半日でも良いから来てもらって、ここで百姓の業、川や森には何がいてどのように捕まえるのかということを伝えていきたいと考えている。
サラリーマン家庭の子どもでも、ここに来れば様々な体験ができる教室を受けることができる仕組みづくりをしていきたい。
私は、目標を決めれば何とかなると思っている。最終的な目標は、やはり雇用を生み出し若者が生活をすることができる所としていくことである。そして、都会から人が訪れて、お金も落として行ってもらえれば、地域も活性化するし、外から来る人にとっても魅力ある地となる。

参加者レポート②:広島県神石高原町 伊藤邦夫、長野県大町市 大塚裕明

●屋根のない博物館
水俣市内から約15キロ、鹿児島県との県境に位置する頭石集落は、平家の落人が流れ着き棚田を開いてできた40世帯、人口120人の小さな集落である他の中山間地域の歩みと同じように、主要産業である林業が外材の輸入により没落し、人口の流出に歯止めがかからないまま、温泉街の華やかさは色あせ、増えていくのは荒廃地と鳥獣ばかりというのが現状であった。
解決に向けての取組みが進まない中、地域に誇りを取り戻し、ここに住んで良かったと思えるような考えを取り戻すため、村(集落)をまるごと博物館とみなして、地元の人たちが自ら生活学芸員として集落を案内し、建物や道具、知恵や技など、あるがままの生活を訪問者に見てもらう仕組みをつくりあげた。
平成13年に制定された水俣市元気村づくり条例によって集落が第1号の認定事例として指定され、徐々に外からの訪問者が増えていく中、集落や地元の人たちに変化が生じてきた。1つは、そとの人が体験して話を聞くことで感動し驚いてくれる姿を通じて、今まで当たり前と感じていた暮らしが、実は深みのある素晴らしいものであることに気付くことができたという点、2つめは、人に見られることで、「おもてなしの精神=化粧っ気」が出てきたことが大きな変化として挙げられる。

●あるもの探し
地域の力を引出し、人の魅力を磨くためには地元と外の人が協力して、底力を見出すことにある。そのためには、「ここには何もない」ではなく、「あれもある。これもある。」という視点に気付くことがとても重要になってくる。
生活丸ごと博物館に認定されるためには、地元の人たちが自ら地元を調べる研修を行い①聞取り、写真撮影 ②情報整理・紙にまとめる ③絵地図を作成 という3段階のステップを歩みながら自分たちの地域に何があるのか、自治を行うきっかけ作りを、双方が驚きや感動を共有しながら当たり前の生活を価値あるものに昇華していくこと行程を必須としている。

●まとめ
世代を超えたふれあい、遊休地の扱いに悩む若い人達を応援するサラリーマンお助け隊などの具体的な地域の盛り上げ策が自然に湧き上がってくる姿に、今後の過疎と向き合う地域が活力を見出す一つのきっかけがあるのかもしれないと感じた。
説明いただいた学芸員のみなさんは60~70代の方だったが、その目は活力にあふれ、「old people ambicious(老人よ大志を抱け)」と話すその姿は、とても眩しく印象深かった。

●実践
共通の悩みを抱える中山間地域の参加者2名でまとめました(絵地図参照)。

関連レポート

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