2016年度のプログラムが終了しました(更新日:2016年12月21日)

2013年度国内調査~熊本県水俣市~

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調査地:熊本県水俣市
調査日:2013年6月28日(金)午後 ~ 30日(日)午前
文責:週末学校事務局 石川絵里子

本調査の目的

「まちづくりはそこに住む人々の『想い』から始まる。」週末学校では、このメッセージを一貫して伝え続けている。この「そこに住む人々の『想い』」とはどのようなものだろうか。そして、そこからスタートしたまちづくりとは、どんな様相を呈しているのだろうか。

水俣病という苛烈を極める苦難を抱えながら、地域の自然や風土、そして人と人とのつながりを再起させ、人々が「ここ」に生きる希望を作ってきた熊本県水俣市。本調査では、その地を実際に訪れ、混乱の渦中に身を置きながらも、地域の再生のために尽力し続けてきたキーパーソンらにお会いする。そして、対話や議論を通じて、彼らの地域に対する想いや哲学を肌で感じると同時に、この地域が発する熱量に触れ、真のまちづくりとはどのようなものなのかを探る。

地域に向き合う実践の中から「地元学」を生みだした吉本哲郎氏によると、「水俣は魂の最も深いところが震えるまち」とのこと。地域の現場を日々担う参加者達は、水俣のまちづくりから何を学ぶだろうか。

プログラム内容

本調査は、「地元学」プログラムの一環として、今年度初めて実施した(地元学の詳細は講義レポートを参照)。わずか2日間の滞在であったが、地域の再生に尽力したリーダー達や水俣病認定患者のご家族、水俣の未来を担う若者グループをはじめとして、数多くのキーパーソンにお会いすることが出来た。行程は以下の通り:

<6月28日(金)>
午後

○見学:水俣病資料館
○講義・体験:天野茂さん、浩さん(天の製茶園)「環境マイスターのものづくり現場」
○談話会(夕食)@天の製茶園

<6月29日(土)>
午前

○講義・体験:「頭石(かぐめいし)村丸ごと生活博物館
・講義:勝目豊さん「頭石村丸ごと生活博物館の取り組み」
・体験:山口和敏さん、勝目豊さん「村めぐり(案内)」
・体験:頭石のお母さん方「食めぐり(家庭料理)」(昼食)

午後
○発表:「私の地元学」発表
○講義:吉井正澄さん(元水俣市長)「私のまちづくり履歴から~職員に期待したいこと~」
○談話会(夕食)@あさひ荘
・談話:松木幸蔵さん(水俣市職員)「スウィーツのまちづくり」
・談話:「『あばぁこんね』の若者達による地域づくり」
・やうちブラザーズ「人生健康が一番、笑いが一番」(談話と唄)
・環境マイスター達の物産展示   など

<6月30日(日)>
午前

○講義・体験:杉本肇さん(杉本水産)「環境マイスターのものづくり現場」

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初日、汚染された海を埋め立てて造られたエコパーク内に位置する水俣病資料館を見学した後、車を走らせ一気に山を駆け上り、標高600メートルに位置する石飛高原で完全無農薬・無化学肥料でお茶を栽培し、水俣市環境マイスターにも認定されている天野茂さん、浩さん親子にお会いした。お茶づくりに対するこだわりや石飛地区を大切に思う気持ちはもちろんのこと、天野家の突き抜けた明るさと、それに引き寄せられるかのように自然と周りに人が集まる様子に驚く。まじめで一生懸命なだけではだめ、何事も楽しく、どんどん人を巻き込み仲間を増やして、“真剣に楽しむ”という感覚を肌で感じることが出来た。

2日目午前、鹿児島県との県境に位置する谷筋の集落、頭石(かぐめいし)地区を訪れ、「村丸ごと生活博物館」の勝目豊さん(同博物館代表)と山口和敏さん、地区のお母さん方にお会いした。この博物館は、村の自然・生活全てを展示物として見立てたいわば「屋根のない博物館」で、地区に住む住民自身が地元学を通じて「あるもの探し」をした結果、自発的に設立に至ったもの。まさに、本質的な住民自治の姿を見ることが出来る。運営も、もちろん住民自身が主体的に行っており、「生活学芸員・生活職人」である勝目さん、山口さんに集落をご案内いただいたり(「村めぐり」)、地区のお母さん方が地区で取れた野菜等を使って作る家庭料理を頂いたり(「食めぐり」)した。お二人が活き活きと、また誇らしげに、次から次へと地区内を案内する姿や、お母さん方が楽しそうに料理をふるまってくださる姿に惹きつけられ、自然とこちらも笑顔になる。また、活動は地区内に留まらず、市の中央商店街等と連携してお弁当や食材を売ったりもしているそうだが、これは地区外に働きに出ざるを得ないサラリーマン世代を助けるために地区内で雇用を生み出すことを目指しての取り組みだそうだ。“活力ある地域”などといった言葉をよく耳にするが、具体の積み重ね以外にそれは実現出来ないことに、改めて気付かされた。

午後、頭石地区から宿に戻り、「私の地元学」の発表を行った後、元水俣市長の吉井正澄さんにお話を伺った。1994年、水俣病慰霊祭で水俣病に対する市の責任を認め、公式に謝罪、1995年には、村山政権との交渉の末、未認定患者の政治的決着を図ったというキーパーソン中のキーパーソンだ。以降、内外からの反対意見や利害関係に阻まれながらも、環境都市という軸のもとに「もやい直し」を進めてきた。
吉井さんはご自身の経験を「奈落の舞台回し」と呼んでいるが、ひとつのまちの中で起きた住民同士・患者団体同士の対立がどれだけ熾烈だったのか、その複層的な分裂がこのまちでの生活をどれだけ過酷なものにしていたのかを、絶妙な語り口で伝えてくださった。これまで目にしてきた水俣のまちづくりは、計り知れない苦しみや悲しみの上に成り立っているのだと感じた。 また、自分達の世代では難しくても世代を超えて水俣の再起を図るという覚悟、環境に徹底的にこだわり水俣で生きていく希望を生み出すという信念を繰り返し伝えてくださった。その経験から生まれた、あくまでも主役は市民、行政は後押し(「市民参加」ではなく「行政参加」)であり、それこそが民主主義の原点であるというお考えは、含蓄のあるメッセージであった。

夜の談話会では、吉本さん、吉井さんや奥様の征子さんに加えて、水俣市職員で「スウィーツのまちづくり」を推進した経験のある松木幸蔵さんや、水俣でものづくりを行う若者が集い物販等を行う「あばぁこんね」のメンバー、“人々が水俣に生きる希望を持つためには、笑いが必要”との考えの元、パフォーマンス活動を行っているコメディアングループ「やうちブラザーズ」メンバーにもご参加いただき、活動内容を紹介してもらった。食事をしながらの和気あいあいとしたやり取りの中から、この若い世代の皆さんが、吉井さんや吉本さん世代の意を受け継ぎ、水俣のまちづくりを推進しているということが分かった。彼らの間の空気感からは、世代を超えてまちを想う共通の価値観や深い信頼関係がにじみ出ており、人々の想いから出発したまちづくりの有り様を見せていただいたように感じた。

最終日、一気に海まで下り、不知火海のイリコ漁師・みかん農家で、水俣市環境マイスターにも認定されている杉本肇さんにお会いした。杉本さんは、水俣病患者として、政治的決着以前の偏見と差別の渦巻く時期から「語り部」を長年務めた杉本栄子さん(故人)の長男。本業では、“食べ物が原因で発症した病気は、食べ物で直す”をモットーに、無添加のイリコ作りや無農薬のみかん作りを行っている。患者家族として「語り部」の活動を行う他、前日の晩にパフォーマンスを披露していただいた「やうちブラザーズ」としても活動を行っている方だ。
イリコづくりの現場を見せていただくとともに、家族が受けた差別や過酷な生活の様子、水俣病からの再起をはかる取り組みの様子などをお話いただいた。不自由な体を持つ母への複雑な想いや、子どもの頃から小さな弟達の面倒を見ざるを得なかったという精神的な負担、一度は水俣から逃げるように離れ、それでもやはり水俣病に向き合おうと覚悟を決めたときの心境など、聞いていて言葉を失ってしまうほどの内容をお話くださった。前日に披露していただいたパフォーマンスが、単なるお笑いではなく、家族や地域の苦しみの上に成り立っているということも痛感した。地域に生きることの本質や、覚悟を決めるということがどういうことなのか、肌身をもって感じずにはいられなかった。

以上は、2日間のプログラム内容と事務局メンバーとしての所感を、参加者達の事後レポートも参考にしつつ簡単に記載したものである。参加者の中には、調査後しばらく経っても水俣で見聞きしたことを消化しきれないと言う人もおり、この地が抱える課題の深刻さや複雑さ、人々の想いの強さ、そこから得られる学びの深さを示していると言えるだろう。また、日々それぞれの地域の現場を担う参加者一人ひとりの目に映る水俣はもちろん一様ではなく、以下リンク先の調査レポートもぜひご覧頂きたいと思う。ただ、皆が共通して感じたのは、「時間を要するとしても、まちづくりはそこに住む人々の力だ」、「希望のないところで人は動かない」と言ったことのようだ。この「魂の最も深いところ」が揺さぶられた経験を、それぞれのまちに希望を生みだす力としていってほしいと思う。

参加者の調査レポートは、以下のとおり:
○大塚裕明(長野県大町市)『「知ること」と「感じること」』
○大原佳瑞重(福岡県春日市)『私が水俣で学んだこと~地元学は「ここに生きる希望づくり」~』
○久保田健太郎(千葉県千葉市)『地域づくりは希望づくり』
○椙本学(山口県萩市)『はじまりは「想いと行動」から』
○田中のり子(栃木県茂木町)『マイナスをプラスに~逆境を救う水俣の笑顔~』
○富樫充(新潟県村上市)『つながりのある水俣市を感じて』
○松本小牧(愛知県豊明市)『水俣が教えてくれたもの』
○山元勉(鹿児島県薩摩川内市)『現地で学ぶ真実~公害を経て、今を生きる水俣市民との交流~』

関連レポート

2013年度
・国内調査 「天の製茶園:環境マイスターのものづくり現場」天野茂、浩(レポート)
・国内調査 「頭石(かぐめいし)村丸ごと生活博物館」勝目豊、山口和敏(レポート)
・国内調査 「私のまちづくり履歴から~職員に期待したいこと~」吉井正澄(レポート)
・国内調査 「杉本水産:環境マイスターのものづくり現場」杉本肇(レポート)
「地元学」吉本哲郎、横尾ともみ(レポート)
「あるもの探しで地域を元気に:川南地元学」河野英樹(レポート)

2012年度
「地元学の実践」吉本哲郎、横尾ともみ(レポート)
「あるもの探しで地域を元気に:川南地元学」河野英樹(レポート)

2011年度
「地元学の実践」吉本哲郎(レポート)
「研修生の『地元学』」(レポート)

2010年度
「町や村の元気をつくる地元学のすすめ」吉本哲郎(レポート)