2016年度のプログラムが終了しました(更新日:2016年12月21日)

「地元学」

キーワード:

講師:吉本哲郎(地元学ネットワーク主宰)、横尾ともみ(地元学ネットワーク)
日時:2014年6月8日(日)講義、各研修生による地元での個別実施、6月28日(土)発表
文責:週末学校事務局 石川絵里子

本プログラムの目的

workshop

まちづくりに取り組むとなったら、あなたならまず何をするだろうか。よそのまちの成功事例を取り入れてみたが、数年後になぜかうまくいかなくなった、という話はよく耳にする。現地視察をし、予算も労力も費やし、万全の態勢で取り組んでも、失敗に終わってしまうのはなぜだろうか。

「地元学」は、まちの元気を作っていくために、「ここ」に学ぶことからスタートする。事例集もコンサルタントの分析もいらない。自分たちで地域を歩き回り、「ここ」にあるものを探していく。人と交わり、多くの気付きを重ね、行動を繰り返すことで、地域が持つ力・住んでいる人々の力を引き出していく。そして、これまでの枠を飛び越え、自由に発想し、新しい価値を生み出していく。

地域に入り、住民の話を聞き、足元にあるものに気付くために必要なのは、どのような姿勢だろうか。水俣は、水俣病という世界に類例のない困難な課題を抱えながらも、まちを再起させ、新たな地域の価値を生み出した。その渦中に身を置き、実践の連続の中から「地元学」を生みだした吉本哲郎氏から、地域に向き合う哲学を学びとってほしい。

プログラム内容

今年度の本プログラムは、以下のような流れで行った:

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①事前課題として、(1)「環境クイズ」、(2)地元の方々への簡単なインタビュー、(3)地域の方お一人の「一代記」の作成の3点を行う。

②東京にて、「地元学」について吉本氏の講義を聞き、地元学とは何かを学び、その底流にある哲学や地域の人々の想いについて考える。その上で、自分の地域でどのように実践するか、他の参加者とともに考える。

③各自の地元に戻り、約3週間かけて地域を調べる。そして、絵地図やスライドなど思い思いのやり方で工夫してまとめる。

④まとめた「私の『地元学』」成果物を持って、吉本氏の待つ水俣市に向かい、皆の前で発表する。

●地域の信頼を得る“方法”

まず、事前課題では、例年行っている「環境クイズ」と地元の方々へのインタビュー(詳細は講義レポート2013年度の講義レポートをご参照)に加え、今年度から、地域の方お1人の「一代記」作成を行うこととした。「一代記」とは、その地域で暮らす一個人の方から話を聞き、聞いたことを文章にまとめ、地域の方々と共有するというもので、地元学実践時の表現方法の1つ。地域で暮らす年長者の方々の頭の中には、日々の生活の知恵や時代の中で必死に生きてきた経験が豊富に詰まっており、これらを丁寧に聞き出し文字に起こすことで、それぞれの地域の価値を見出す材料とすることが出来る。聞き出す内容は、子供の頃の遊びから若い頃の仕事の苦労話、家族の様々なエピソードや集落での自分の役割など多岐に渡り、話が進むにつれて話し手の人生の“年表”と時代背景、その時代における地域のあり方までもが見えてくる。話し手は、話を聞いてくれるなんて嬉しいと元気になり、その様子を見た聞き手は、もっと深く聞きたいと思うようになる。そして、この繰り返しが信頼関係を生み出していく。

参加者らは、何の講義もなく幾ばくかの参考資料だけでこの事前課題に取り組むこととなり、当初は戸惑ったようだが、「地域の中に入っていくために特別なことをする必要はなく、まずは話を聞かせてもらうのでよいのだと思った。またそれが面白い」、「足元に近い地元のことほど自分で調べるしかないことに気付き、やっていくうちに地元への愛着が増していった」、「これまではそこに何があっても不思議に思わず、当たり前と済ませていた。知っているつもりだった地元のことが最も分かっていなかった」など、これまで気付かずにいた地元の価値を認識する機会となった模様。同時に、「進めていくうちに人との出会い一つ一つを大事にしていなかった自分に気付かされた」、「この実践によって気付いたことは言葉で伝えられる以上に深かったのではないかと思うが、私自身はまだそのうわべだけしか理解していないと思うし、行動を積み重ねていかなければ意味がないと感じた」など、自身の地域に対する向き合い方を顧みた参加者も多かったようだ。

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参加者が作成した「一代記」は、ページ下部に掲載しているので、ぜひご覧いただきたい。

なお、これらの成果物には、吉本氏が参加者21名全員分に目を通し、よりよくするためのアドバイスを送っている。多くの参加者に対して共通して送られたアドバイスは、文字のサイズを12ポイント以上にすること、印象的だった言葉などを使って小見出しやタイトルを工夫すること、そして話し手ご本人に読んでもらいその反応を聞いてくることの3点。一見表面的なアドバイスにも見えるが、1点目は受け手・相手の立場に常に立って考えること、2点目はインタビューから学んだ地域の価値をきちんと意義付けすること、3点目は一度限りのインタビューで終了してしまわず、さらにやりとりを続けることで信頼関係と地域の価値への理解を深めていくことが大事ということ、このような学びが含蓄されているように思う。

●何のための地元学?

次に、東京にて「地元学」について吉本氏の講義を聞き、水俣で「地元学」が誕生した経緯やその底流にある哲学、水俣の人々の想いなどを学んだ後、それぞれの地元にて地域調査をスタートした(講義の詳細は、2012年度の講義レポートをご参照)。地元学の基本は、「地域を歩く」、「人の話を聞く」、「まとめる、つくる」、「発表し共有する」というプロセス。このうち、最初の3ステージを各自の地元で行った。調べ始めると止まらず、数日徹夜に近い状態でまとめたという参加者もいたという。

最後のステージである「発表し共有する」は、昨年度と同様、水俣での国内調査期間中に行った(2014年度国内調査の詳細はこちら)が、発表日の前夜には、各自が持ち寄った成果物に対して吉本氏らから個別指導が入り、多くの参加者が手を加えることになった。そうなった原因は、“役立てるために調べる”という地元学本来の目的を意識していない参加者が多かったため。地元学は決して物知り学ではなく、成果物をそこに暮らす多くの人々と共有し、地域の価値、ひいては「ここに生きていく希望」を共に見出していくための材料づくりなのだ。目に見えることから目には見えないことに辿り着き、それを共有していくためには、伝えたいことを明確にし、見る側の立場に立って意識的に作成しなくてはならない。ガイドブックのように網羅的な絵地図に強弱をつけたり、行政言葉の堅苦しいタイトルから聞いて頭に絵が浮かぶフレーズに変更したり、きれいにまとめようとしていたスライドに手書きで驚きや感動したことを書き込んだりといった“化粧直し”が施されていった。後日寄せられた感想でも、「公務員は何に役立てられるかと考えることは苦手。調べたことを役立てるのではなく、そもそも発想が逆ということを学んだ」、「自分が知りたいことに深入りしすぎてしまい、調べることばかりに注意が行ってしまう。地域の人があるものを発見し、それを役立てていくんだということを忘れないようにしなければ」などといった声が多く寄せられている。

参加者が作成したそれぞれの力作「私の『地元学』」は、ページ下部のリンクからご覧いただける。

さてその後、各参加者は作成した「私の『地元学』」をそれぞれの地元でどのように活用しているだろうか。単なる学びに留まらず“役立てる”という趣旨からすれば、本プログラム終了後も地元学は続いている。さらに、吉本氏によると、地元学は最低5回やらないとその本質は見えてこないという。このレポートを読むことによって各参加者がそのことを思い出し、行政よがりではない手触り感のあるまちづくりを進めていってくれることを切に願う。

一連のプログラムを終えた参加者の感想は、以下のとおり。参加者それぞれの学びのプロセスが感じられるレポートとなっている:

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○相場毅正(群馬県太田市)『「知ったかぶり」をやめて「志高ぶる」』

○柿崎知洋(秋田県秋田市)『地元学の実践について』

○倉田麻紀(広島県尾道市)『知ろうとしなければなにも見えてこない』

○児島拓(千葉県佐倉市)『地元学の実践』

○嶋田准也(石川県能美市)地元学の実践について』

○棚町佳菜(福岡県大刀洗町)『地元学レポート』

○中尾大樹(長崎県佐世保市)『地元学の効用について』

○長岐孝生(秋田県北秋田市)『地元学の実践 ~発見~』

○前川美帆(栃木県足利市)『私の「地元学」~知っているつもりは、今日からやめよう~』

それぞれの「一代記」

クリックする、実物をご覧いただけます。なお、話し手ご本人から、公開のご了承を頂けた方の一代記のみ掲載しています。

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○相場毅正(群馬県太田市)『相場真江(七十四歳)は人生の分岐点に決断した その先に待っていたのは・・・』

○江田寛(大阪府門真市) 『淀井慧(さとし)さん七十四歳 何事も楽しんで取り組むこと!』

○柿崎知洋(秋田県秋田市)『人は謙虚でなければならない 鎗目昌充さん』

○倉田麻紀(広島県尾道市)『未来のために幸せの種を蒔くポジティブおばあちゃん!』

○児島拓(千葉県佐倉市)『小菅登女さんの花とお茶に人は集まる』

○嶋田准也(石川県能美市)『庄川良平六十七歳、半生を語る 横浜で九谷焼を売り、故郷石川能美市へ』

○棚町佳菜(福岡県大刀洗町)『「95年を振り返って見るといろいろあったねえ 今のところ私は幸福です」と丸林政人さん』

○出南力(北海道栗山町)『西山政子さん「働き、支え続けたおばあちゃん」』

○中尾大樹(長崎県佐世保市)『「わが青春に悔いなし」佐世保市宮崎房江さん(八十才)の場合』

○長岐孝生(秋田県北秋田市)『一代日記』

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○中嶋健二(静岡県浜松市)『先生と私』

○花岡慧(長野県安曇野市)『安長野は豊科に生きる』

○貮又聖規(北海道白老町)『九州のおなごたいっ!赤崎寿子さん』

○宮川和也 (福井県福井市)『天谷直樹さん 土地があって人間がいるんでないんやね。人間が行くところにいろんな土地がある』

○宮坂文利(長野県岡谷市)『花岡徳美さん(73歳)は諏訪湖と共に昭和を生きた』

○山川正朝(兵庫県豊岡市)『大海を渡った男 竹森明光(63歳)』

それぞれの「私の『地元学』」

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クリックすると実物をご覧いただけます。

○相場毅正(群馬県太田市)『調べてみたら、私の家は戦国時代の城だった・・・太田のシンボル金山と相場屋敷~足元にあった太田の豊かさ』

○岩津圭介(千葉県柏市)『軍郷、柏の過去から見える未来の柏』

○江田寛(大阪府門真市)『そうなんだ!!かどまれんこん(今)昔ばなし』

○柿崎知洋(秋田県秋田市)『川尻・川元ききある記』

○倉田麻紀(広島県尾道市)『いわしじまんMAP~岩子島に生きる~』

○児島拓(千葉県佐倉市)『京成線最後の秘境~隠された財宝を探せ~』

○嶋田准也(石川県能美市)『さとやまめちしき~能美の里山豆知識~』

○棚町佳菜(福岡県大刀洗町)『ホンニネ ホンニよいとこ 大刀洗 ~大刀洗音頭を歩く~』

○出南力(北海道栗山町)『オオムラサキの森づくり~ひとりぼっちのエゾエノキから~』 『まちを見守る御大師山(おだいしさん) 』

○中尾大樹(長崎県佐世保市)『SASEBO REPORT 地図/声/写真』

○長岐孝生(秋田県北秋田市) 『親方様(長岐家本家)六つの神と生きる七日市本郷』

○中嶋健二(静岡県浜松市) 『浜松の馬込川に住む生き物』

○花岡慧(長野県安曇野市)『かつては不毛の地?~水の流れから地域の成り立ちを探る』

○貮又聖規(北海道白老町)『自然と共生したアイヌの豊かな大地~知恵が育む食文化(いま・むかし)~』

○前川美帆(栃木県足利市)『足利庭園物語~家主が長く守り継いできた庭園から足利の昔と個性をひも解く~』

○宮川和也 (福井県福井市)『東山を囲んで:ふるさと岡保地区』

○宮坂文利(長野県岡谷市)『行峠の松に振り回された、ここ数日の出来事。』

○山川正朝(兵庫県豊岡市)『豊岡市竹野町竹野浜の海と風に生きる』

○山本彩乃(山口県周南市)『水がつなげる長穂念仏踊と龍文寺』

○吉住公宏(宮崎県都城市)『ゆかいな妻ケ丘 てげてげ新聞』

○六郎万淳一(山口県周南市)『手を合わせてお通り下さい~大津島のお地蔵様~』

関連レポート

2013年度
2013年度国内調査~熊本県水俣市~(レポート)
・国内調査 「頭石(かぐめいし)村丸ごと生活博物館」勝目豊、山口和敏(レポート)
・国内調査 「私のまちづくり履歴から~職員に期待したいこと~」吉井正澄(レポート)
・国内調査 「杉本水産:環境マイスターのものづくり現場」杉本肇(レポート)
「地元学」吉本哲郎、横尾ともみ(レポート)
「あるもの探しで地域を元気に:川南地元学」河野英樹(レポート)

2012年度
「地元学の実践」吉本哲郎、横尾ともみ(レポート)
「あるもの探しで地域を元気に:川南地元学」河野英樹(レポート)