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地方議会の役割

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講師:中尾修(東京財団研究員、元栗山町議会事務局長)
講義日:2011年8月27日(土)
文責:週末学校事務局 坂野裕子

講義のねらい

「地方議会」とは何か。二元代表制において議会(議事機関)と首長(執行機関・自治体)は、より良い地域をつくるために、政策提案から執行までの政策過程全体にわたって、両者がそれぞれの特性を活かし、住民の声を汲み取りながら切磋琢磨することで、個別の利益代表ではなく、地域経営の代表者としてあるべきだ。
しかし、多くの自治体職員にとって「地方議会」や「地方議会議員」とは、本来あるべき姿とは大きく異なる存在であろう。時として「議会」は行政の邪魔をする存在に思え、地域を共につくるパートナーとは思えないのが現実ではないか。
講師である中尾修氏は、議会事務局職員として、栗山町の議会改革に携わり、栗山町議会への住民参加を実現してきた。その経験を踏まえ、提言書「市民参加と情報公開の仕組みをつくれ~地方議会改革のための議会基本条例『東京財団モデル』~」を示し、全国各地での講演活動等を通じ、本来の地方議会のあり方について積極的に提言してきた。同氏の栗山町での経験やその後の取り組みなどを通じ、議会および議員への理解を深める。
また、チェック機関としての議会だけではなく、意思決定機関として住民の声を反映し、自らの地域をより良くしたいと強く思い活動している議員との対話を通じ、自らが自治体職員として議会とどのように向き合い地域づくりに取り組むべきなのかを考え、自治体のパートナーとしての議会および議員の姿をより明らかなものにする。

nakao2.jpgいま、地方議会の何が問題なのか

○首長と議会の意見にズレはあって当然
二元代表制の制度は、首長も、議員も選挙で選ばれ、この2つは意見にズレがあるのは当然である。一方は1人で、もう一方は合議体であるためその性質からしてズレがあることはむしろ制度の優れた点である。しかしこのことに議会が気づかず、首長与党・首長野党と議会の中で対立をしてきた。
二元代表制の仕組みは「チェック&バランス」、「抑制と均衡」がとれた、制度的にはしっかりとしている。しかし、片方(首長)には主に執行を、片方(議会)には決定をという役割分担は、運用の中で、予算編成権を持っている首長側が圧倒的に優位になってしまっている。

○ 首長と議会は原則に基づけば緊張関係はうまれる
首長と議会の間でかなり厳しい対立が出ているところがある。今の名古屋の河村市長の市政のやり方、議会との対立はやむをえないと考える人はいるだろうか。昨年度の研修生は8割の人が賛同できると答えたが、今年度の研修生はわずか1割。物事は、点で見てはいけない。二元代表制の原理原則を考えれば、市長と議会の意見が異なることは当たり前であり、それを理由に十分な議論をせず実質的に市長が主導した議会の解散を行うやり方には疑問を感じている。
阿久根市の事例は否定的に見る人が多いだろう。首長と議会の権限の話について1つ事例を挙げると、副市長選任の議案を審議する際、当人がすでに議場に入っていた。本来説明員を求めるのは議長の権限、議場の備品を含めて建物の管理をしているのが市長である。普段から説明員は、市長、副市長、○○部長以下何人と議長がきちんと毎回要求し範囲を明確にしておくべきだったのに、これまで説明員として要求されていない職員も議場に入る馴れ合いがあったのではないか。そのため両者の関係がこじれると揉め事が起きるのである。原理原則を踏まえれば首長と議会の緊張関係は自然と生まれ、また変な揉め事は起きない。
ただ、最近起きている首長と議会の対立は、その首長にとって当面公選職である議会にぶつかることが優位だからだ。首長が本丸として目指しているのは、実は行政組織である公務員機構、硬直化した執行部にターゲットをおいている。首長と議会の対立は、言われたことしか仕事をしない公務員機構とそれを何のチェックもしてこなかった議会への批判とも言える。

○ 議会は議案について議論を行い、是々非々の対応をする
議会の存在意義は、首長提案の議案(または議会提案の議案)の完成度が高く、市民にとって有益かを様々な角度からチェックすることである。議員は、首長とは仕事が違う。首長が提案する議案にいろいろ注文をつける様子は、独任制のもので人気者の首長を複数の議員でいじめていると住民に映ることもあるだろう。しかしそれは誤解である。正当に選ばれた議員は、その自治体の地域経営が行き詰らないようにチェックしており、その役割を住民が理解しなければ、地方自治は進展しない。議会も機関として全体として民意を汲み取った上で、議案をチェックする。首長も民意をつかむ努力はするが、本来多様なメンバーで構成する議会のほうが民意の吸収は得意技でなければならない。

○ 議論ができない議会、 “議会の意思”が明らかになっていない
主権者である住民の言うことすべては聞き入れることができない。また限られた予算の中で選択と集中をしなければ自治体が成り立たず住民に痛みを求める場面も増えていくだろう。そのため議会は、住民の多様な意見を吸収した上で、議員1人1人がどう考えるか語り、議論というパスを回しゴールを目指す。すなわち合意形成をするという集団技を身につけることが必要だ。そしてその合意形成の過程を住民に示し説明をする。住民の意見も聞かず、説明もしないまま、首長の言いなりになっている議会は本来の役割を果たしていない。そもそも両者の関係が「抑制と均衡」である二元代表制の地方議会で、首長与党、首長野党は存在するはずないのだ。

○ 議員を選ぶ住民にも責任あり
議員を選ぶ住民にも責任がある。住民は議会に対して断片的な情報で批判をしすぎていないか。議会制民主主義とは、どのような形が理想なのか考えると、議会は細かい用事を頼む相手ではないことがわかる。自分でやれることは自分でやり、議会は地域経営、例えば利害が相容れない問題などの議論をさせる。人々の細かい要望を行政に伝えるだけの議員の役割に税金を使うことがよいのか。もう分け与えられほどパイは大きくないのだ。

議会を“あるべき姿”にするためには…

○ 住民との係わり合いが希薄な議会
本来地方議会には、徹底した情報公開と共有、住民参加が求められる。しかし地方自治法上、議会最も尊重しているのが会議規則であり、会議規則には、「市民参加」、「情報公開」、「評価」が埋め込まれていない。
議会の現在の課題として、埼玉県の前越谷市議会議長の石川氏は、もっと市民との関わりをつくっていこうと提案をしてきたという。石川氏は、議会改革の必要性を首長が訴え市民に賛同されている事例もあるが、議会が市民ともっと係わり合いを持っていれば、より民主的な議論として進めることもできたとの思いを強く持っており、今の議会の課題として、住民との係わり合いを深めることを挙げている。
また兵庫県三木市の大西氏は、議員1人として住民と対話をすることはあっても、議会として住民と対話できていないことが問題だと指摘した。住民にとって議会が見えにくいと言われるが、議会側から審議内容を積極的に知らせていく努力が必要だと述べた。

○ 全国初の「議会基本条例」
栗山町議会は2006年全国で初めて「議会基本条例」を制定した。この議会基本条例で、議会は議論の様子をすべて住民に見てもらう。主権者に積極的に関わってもらうことを宣言するものだ。憲法でも認められている自治体が独自に法律を解釈し条例を制定する権利を直接つかった。議会としては初めての事例だった。

○ 議会基本条例に欠かせない要素は
議会基本条例の欠かせない要素は、①議会がかたまりとして不特定多数の住民と公式に話し合う機会の確保(議会報告会や意見交換会)、②住民が陳情や請願について議会で見解を述べることができること。③議員間で討議することである。
議会の存在意義は、前述のとおり議案に対して賛成、反対という決定行為よりも、そこに至るまでにどのような議論が行われたかが重要であり、そこに市民参加があって専門的知見の活用があって、自由討議がある。繰り返しになるが住民に議論プロセスが市民に見えることが重要。水面下で誰か“偉い人”が決めるのではない。正式に議論をして決定する場こそが議会であり、今後、議員には自分の意見を正確に述べ議論をすることが一層求められている。議論を重ね結論を導き出すことが合議体である議会の真骨頂である。
今では議会基本条例は、全国各地で200以上制定された。これから制定予定の自治体が200ぐらいある。
自治体の予算縮減で、住民に負担を強いる決断が求められ、議会も説明責任を負う状況でこれまでの“口利き”では議会は存在意義を失う。そんな中、危機感を持った議会は、一斉に「議会基本条例」の制定を目指した。この5年の変化は、時代の変革や地方をめぐる問題について、住民、行政、国の考えが大きく転換しているその過渡期にあることを示している。
ただ、議会基本条例を絶対作らなければいけないというわけではない。制定しても意味ないところも多くあるのだ。「住民参加」や「情報公開」の重要なポイント、東京財団モデル3要素が盛り込まれないものは「ニセ条例」と言える。

○ 議会の役割は、肥大化した行政権を制御すること
行政は、企画をして予算をつけて執行し、自ら評価する。これら一連の行政行為を行政権として当然のように実施している。ちょっと冷静に考えると強権、もしくは独善に見えないか。行政権がここまで肥大化すると収拾つかない。そのため議会がここでやめるべきだと制御をかけるのは健全な姿である。むしろそういう姿がないとすれば議会が機能していないと言える。

○ 市民目線で事業全体を見直すことができるのが議会
そう考えると事業仕分けは本来であれば議会の仕事である。制度の改廃や、補助金の取捨選択は執行側ではなかなか判断できず、「一律何%削減」となりやすい。議会こそが市民目線で事業全体を見直すことができる代表機関のはずだ。
私が栗山町の議会事務局長をしていた当時、議員と相談をして決算委員会の初日に、補助金に特化して審議をやろうということになった。行政と同じように縦割りで審議する必要はない。国、県、町の補助金をすべて対象にし、どのような目的でどのような団体に補助金を渡すか確認をした。かなり昔から続いている補助金の中には役割を終えたようなものもあった。議会は、縦割りで出てくる予算書に横串をさす審議をする。行政職員にとっても本当はやめたくてもやめられない補助金がある可能性は大きい。行政側は、既得権が生まれたものを廃止するのは難しい。議会こそが得意であり、議会の重要な仕事として認識されるべきだ。
企画立案、予算編成、執行、確認という一連に行政の業務は、そもそも住民から委ねられたもの。これまで余分なことを行政はやっていた歴史がある。そしてそれが負債として残り、それをチェックできなかった議会はどうであったのか。健全だったのだろうか、今一度考えてほしい。

○ 議会を変えるための具体的な実践
oonishi2.jpg事例1.三木市議会の議会報告会
三木市で大西氏ら三木市議会議員の有志が実施した議会報告会では、議会の議案への対応に市民から不満の声がでたものが2つあったそうだ。しかしその判断理由をきちんと説明できない議員がいて、その議員は市民からの批判をこわがるようになった。一方市民からは、議員の本音を聞け、市民が議員を判断するよい機会なので、しっかり意見を言ってほしい言う要望も挙げられ、反応はよかった。住民の要望に応えられない部分については「承ります」ではなく「できない」とその理由も含め説明しなければならないと感じたそうだ。
議会報告会について議員は、大勢の市民が集まり成功したか失敗したかを気にするが、そうではなく自治のルールとして1年に1度市民の前に出ることが当たり前で、持続することが大事である。

 

 

ishikawa2.jpg事例2.越谷市機会 超党派議員による事業仕分け
越谷市議会では、石川氏が中心となって超党派議員による仕分けをした。越谷市議会32人のうち賛同をした14人での実施だった。きっかけは、東京財団の加藤理事長の話だった。  
行政に事業仕分けの実施を提案したが受け入れられなかった議員たちは、構想日本の指導のもと通常担当職員が行う事業説明も自分たちで行うことにした。市の事業について議員が説明できないことも問題だと考えたからだ。石川氏らは660事業のうち仕分けをする事業を選び、担当職員に話しを聞いたり現地調査をしたりして準備を進めた。およそ2週間、担当の職員と話し合いを重ね事業を徹底的に解剖していった。その作業中にも、議員と担当職員でまるで事業仕分けのような徹底的な議論が行われ、貴重な機会だと感じたと石川氏は述べた。
実施した事業仕分けには一般市民・傍聴者が110人集まった。110人のうち14人は市職員の部長クラスが様子を見に来たようだった。市民の感想では、議員による事業の説明について、7割の人に適切と評価してもらった。また全事業で実施してほしい、定期的にやったらどうか、傍聴人も意見を言いたいなどの反応もあった。また、なぜ行政職員が説明をしないのか、実際現場で苦労をしている職員の話しが聞きたかったという意見が多かった。
議員には普段、市長に対して、要望ばかりをしているが、そうではなくて議員に与えられた権限で、市の事業について詳細に分析することはできる。これまで常任委員会が4日間あるうち、議案審査は1日で終わっていた。こういうときに事業仕分けをするべきだと感じていると石川氏は述べた。日常の議会活動の中で事業仕分けをやる必要性があるという。事業仕分けの結果を市長に説明し、現在はどの程度予算に反映されたか確認している最中。現在議会改革に関連し、常任委員会で事業仕分けをしようと議論をしているそうだ。

行政職員として議会にどう関わっていくのか

○ 構造や制度をきちんと理解しているか
行政職員は、構造や制度を見ないで「現象」を見るだけで批判を言っている人が多いのではないか。地方議会の本来の役割を誤解している人が多い。繰り返しになるが、地方は首長と同様、議会も住民の代表であるという二元代表制がとられている。職員は二元代表制の理解と行動が求められる。しかし、実際には自分たちがやりたいことを邪魔する存在としてしか考えられていないのではないか。

○ 議会へ審議ができる十分な情報を入れ議論ができる土台をつくる
地方議会でも首長与党、首長野党というくくりがなんとなくあり、議案が出てこれば何でも賛成、一方で何でも反対というようになる。行政側は何でも反対の人には情報を入れず、何でも賛成する「私たちは与党だ」という議員には情報を早い段階からたくさん入れている。実はこういう職員がたくさんいる。それぞれ独人制の機関と合議制の機関、それぞれ代表。同じ情報を公平に入れて議論に加わってもらうというのが大前提のはずだが、大きな情報格差が生じる。大きな問題である。行政と議員の情報格差はすごい。情報も十分に渡さずに、議員はわかっていないと行政職員が言っていたら、それは間違っている。話し合いの土台ができていない。
また、人事権を持った首長を向いて仕事をしていると、議会の存在、その関係を間違える。職員は人事権者のために仕事をしているわけではない。

○ 議員も職員もともに学ぶ
職員と接する時間が若手の議員ほど少ない傾向にある。議案についてベテラン議員に説明をする際、同時に行政の仕組みの理解が浅いかもしれないが、若い議員にも職員の事業に対する熱い思いを説明してほしい。議会が何をすべき機関なのか十分わからないまま議員になっている可能性もあるので、日常的にそのような行動が大事だと思う。
異論を嫌うのではなく、異質を認める文化を作り上げてほしい。異論に対して自分の意見で戦っていかないと議会への理解は進まない。議会事務局に異動してきた40代の職員が「議会って大変な仕事をしているんですね」と言う。それほど行政にいる職員は議会を理解できていない。ぶつかり合ってやむを得ない制度、異質を認める制度ということを整理しないといけない。

地方分権の時代に役割を増す地方議会

○ 地方自治体は国と対峙できるか
国と地方は対等・協力の関係といわれているが、あなたの自治体はどうであろうか。さらに言えばあなた自身はどうだろうか。
最近では、前の復興担当大臣が辞めた後、各県の知事が「国と地方は対等・協力関係だ」と言っていたが、勝負が決まってからおかしいと言うのではなく、いつも国と対等・協力の関係にあるという意識をみなさん持っているだろうか。皆さんも仕事をする中で、この問題は国とは違う考えだということがあるだろう。

○ 地方議会は責任ある発言を
議会は、頻繁に意見書を国に出して、国に要望をしている。しかし意見書を軽い気持ち出しているように見える。国は軽い気持ちで出したような意見書は対応しない。そうした中、国が機敏に対応した意見書が1本だけである。道路特定財源を守れとの意見書である。
実は北海道など北国では同時に石油製品等を値上げに反対する2つの意見書を出していた。道路特定財源を守れというのは、ガソリン税、揮発税はそのままにしろという意見書。石油製品の値上げをするなというのは、ガソリン税を下げろということ。地方はこのようなねじれた意見書を出したのだった。これに対して、北海道の自治体の市長が地元の新聞に投稿する形で議会の決定はおかしいと意見したのに続き、連動して国交省も議会の決定がおかしいと発言した。その結果2つの意見書を採択した道内50の自治体は、道路特定財源を守るため、次々と石油製品等の値上げ反対の意見書を取り下げた。
しかし栗山町議会は、「両方とも住民の切なる願いとして議会が機関意思決定したものなので、変更しない」と、意見書を下げなかった。すると、栗山町議会議員は各党の国会議員から圧力がかかり、当時事務局長の私にも苦情が来た。しかし取り下げはしなかった。
意見書の内容についてどうこう言うつもりはない。地方議会としての意思決定した意見書の扱いについてその重さを考えてほしい。

○ 国と地方の対等・協力関係を実現するには
実際のところ首長は、中央との仕組みを考えると国の政策決定方針から逃れられない。それならば、議会こそが中央に縛られていないことに着目すべきである。国という圧倒的な力に対して総意を示すことができるのが地方議会であり、その積み重ねで国と真正面から向き合える唯一の代表機関のはずだ。long2.jpg

研修生の反応

研修生の多くは、仕事で議員と接する機会がほとんどなく、議会の役割そのものを誤解していたという感想が多く寄せられた。一方で、議会は民意のくみ上げが得意ではなく、また議員間での議論も不十分で、本来の役割を果たしきれていないとの指摘には、一同納得をしていた。
地方議会の課題は多くあるものの、住民自治を進化させるために、行政職員として議員に議論に必要な情報を十分に提供し、議論をして結論を導き出すという議会が機能するよう働きかける必要性も感じたようだった。