2016年度のプログラムが終了しました(更新日:2016年12月21日)

手づくり自治区~自治をつくる実践に学ぶ~

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講師:辻駒健二(川根振興協議会会長)
講義日:2012年6月2日(土)
文責:週末学校事務局 冨澤太郎

講義の目的

豊かな地域をつくるためには、「行政にさせにゃならん」、「住民に言われたことはせにゃあかん」という要求型の自治ではなく、住民自らが議論を重ね、決定をして、自分たちでやるという提案型の自治を実現することが必要だと、辻駒氏は断言する。
川根振興協議会は、産業振興、福祉、防災、伝統文化保全など幅広い分野において活動を展開している住民総参加の自治組織である。同協議会の発足は1972年。暮らしを守る「防災」という全住民に共通する課題から活動を始め、その後、暮らしの安全・安心、楽しさ・豊かさに関する地域課題に対してひとつひとつ丁寧に取り組んできた。
農協が経営していたガソリンスタンドと食品・生活雑貨店が赤字経営のため撤退。地域住民にとって生活基盤であったガソリンスタンドと店舗の閉鎖は、川根地区にとって大きな問題であった。辻駒氏は「みんなで支えれば赤字にはならない」と投げかけ、住民の合意形成に努め、同協議会が経営に乗り出すことになった。多少値段が高くても、住民が地域のガソリンスタンドと店舗でお金を使うことで、住民自らがお互いに支えあい、地域の暮らしを守ってきた。
その他にも、同協議会は車の運転できない高齢者のために、「もやい便」という配車サービスを実施したり、廃校になった中学校を地域交流の拠点となる宿泊研修施設(エコミュージアム川根)にして自主運営するなど、行政に任せるのではなく、住民自らの手による地域づくりを行ってきた。
川根地区の取り組みは「住民自治」の先進事例として取り上げられるが、すべてがうまくいっているわけでもない。地域に暮らし、活動することは必ずしもきれい事だけではすまないものだろう。本講義では、同振興協議会の取り組みに焦点を当てた昨年に引き続き、今年は20年間にわたり同協議会の会長を務めた辻駒氏の考えや地域に対する思いを聞くことで、本来の「自治」の姿や「地域」が公共を担うことについてより深く考える機会とした。
(川根振興協議会の取り組みについては、2011年度の講義レポートを参照。)

講義

●「地域に生きる」ということ
私は、広島県安芸高田市の川根という地域に生まれ育った。5人兄弟の長男だった。広島で仕事をして暮らしていたが、長男ということもあり川根に帰ることを親父と約束した。嫁は帰ることに反対したが、親父と約束したことだからと言って、強引に帰ることにした。
私が地域に帰ってきた時は「親孝行で偉いなぁ」と地域の人たちに迎えられた。しかし、しばらくすると「どうせ広島で食いはぐれたから、この土田舎に帰って来たんだ」と言われるようになった。隣に蔵が建てば腹が立つというものだ。自分の子どもは、いい学校に進学し、いい企業に勤めていて、経済的にも安定している。都会に家を建てたのでもう帰ってくることはない。しかし、自分の家のことを思えば、自分の子ども一人は帰ってきて家をついでほしいというのが本音だ。でも、残念ながら誰も帰ってきてくれないのだ。
結局のところ、隣のことを言い始めたら切りが無いことだ。みんな、あきらめて仕方なしにいまの場所に住んでいるというのが実態なのだ。 家では、親父と嫁がいつも喧嘩していた。大変な騒ぎだった。一日の仕事を終えて家に帰ると、家に入るだけで喧嘩したかどうかが分かるぐらい仲が悪かったものだ。
しかし、70代の親父の体調が悪くなり始めると、嫁は親父に優しくなり、面倒を見るようになった。ある日、娘が一人で入浴ができない親父の背中を流している姿を見たときに、「帰ってきてよかったなぁ」としみじみ感じた。
親父は77歳まで生きた。家族や地域の方々によって支えられ、親父はまさに川根という地域に生かされてきたという気がした。正直、早く親父が亡くなれば、また広島に出ることができると思っていた。しかし、親父の死をきっかけに自分が川根という地域でいかにして生きていくかということを真剣に考えるようになった。

●行政はパートナー。要求型ではなく、提案型の自治を
川根振興協議会は40年にわたり活動を続けてきた。全戸加入で会費は一戸1,500円の自治組織だ。わずか250戸程度の地域でこの振興協議会の会長を務めて20年になる。いろいろなことをやってきたが、行政の役割は重要なものであったと考える。
一つ例をあげたい。旧高宮町の役場との協働により「お好み住宅」という定住促進を目的とした町営住宅の整備に取り組んだ。20年間住み続けると払い下げるという条件のもと、住む人が家の設計を自由に決められるようにした4LKDの一軒家だ。しかし、最初に私が役場の担当者に提案をしに行くと、「制度がない、例がない」とつき返された。私は、「では制度はいつできるのか、例はいつできるのか」と返すと、「国の事業なので分からない」という。「国のことは関係ない。高宮町のことで話しに来たんだ」と議論した。その後、町長とも議論をして、「辻駒さんの地域に対する思いは十分に分かりました。自分たちも勉強させてください。ぜひ一緒にやってみましょう」と言ってくれた。その後、わずか1ヶ月ほどで、町が借金をして、町営住宅をつくることで協働事業が始まった。現在、この住宅があることで川根地区の小学校は廃校にならずに存続している。 私なりに分析をして、行政はパートナーと考えている。「要求型ではなく、提案型の自治をしよう。守りではなく、攻めの活動をしよう」といつも言っている。今までどおりにやってもらおうと消極的になるのではなく、どんな暮らしをしたいか考えて、新たなことを生み出していく意欲、積極性が大事だ。住民が行政に頼って生きるのではなく、自分たちがどう生きるか、自分たちの地域は自分たちで守っていくという住民の意識が大事なのだ。
地域住民がしっかりと取り組めば、行政のやるべきことも見えてくる。自分たちだけではどうしてもできないこともあるのも事実だが、まずはどうやったら自分たちでできるか知恵を絞らねばならない。地域の住民がボーっとしていると、役場の職員もボーっとする。自分たちがしっかりすれば、役場の職員もしっかりするというものだ。

●自分たちの手で、暮らしを守り、豊かな地域をつくる
今まで住民は行政に与えられたものを受け取るだけだった。要するに「人間の幸せ」に関わることすべてを行政に頼っていたということだ。しかし、行政に頼るだけでは、自分たちの暮らしは豊かにならないし、自分たちの地域を守ることはできないだろう。せめて「人間の幸せ」の分ぐらいは自分たちで守らなくてはならない。
川根地区は、65歳以上の方が圧倒的に多い。高齢化率は47%になっている。高齢化が進み、若い人が少なくなり、地域や家を支える人がいなくて大変だという議論をよく聞く。しかし、逆に高齢者が若い人を支えるという考え方もあっていいのではないか。なんでも若い人にしてもらうという考えではなく、まずは年寄りがお互いに支え合い、自分たちで安心して暮らせる地域をつくらなくてはならないと考えている。まずは自分たちでできることを精一杯やること。そうすれば、若い人も一生懸命仕事をして、定年した後に帰って来たいと思える地域になる。何にもせずに、いつまでも帰ってこない若者のことを嘆いていても誰も帰ってこない。
川根地区からは通える高等学校はないため、15歳までしか地域に暮らせない。若い人が地域を出て行くことを止めることはできない。だからせめて15歳までは地域の歴史や文化をしっかり教えることだ。そうすれば、都会に出ていっても故郷での経験が人を大きく育てる。やはり人は帰るところがないと、人生迷うものだ。心に刻まれた故郷の思い出が自分の中で生き続けることで、いつか川根に帰ってこようと思えるようになるだろう。これまで「外に出て行くこと」を教育してきたが、自分の地域を誇りに思える教育をしていく必要があると考えている。

地域には知恵やエネルギーがあるものだ。それをどう生かしていくか、どう形にしていくかが大事なことだ。地域の方の理解と協力さえあれば、なんでもできる。施設の運営、事業の実施などを自分たちでやると、いままでボーっとして人たちにも「なるほど!」という気付きが生まれる。やはり地域づくりは自分たちの手でというのが基本なのだ。
ボーっとしていては地域の暮らしは守れない。どうしたいのかというのを自分たちで議論し、行政に提言をして、実行していくべきだ。道路が狭いならば、土地を出して道を広げればよい。学校が無くなりそうなら、子どもの居る世帯が住めるように住宅整備をすればよい。お店がなくなったら、自分たちで経営すればよい。働く場所がないならば、仕事をつくればよい。行政がやってくれないから何もできないという考えで止まるのではなく、どうしたらできるかを自分たちで考え、行政に提案しなくてはならない。

ある時、草刈をしてくれた地域の方が時給100円程度にしかならないことを嘆いていた。おそらく都会で時給1,000円の生活に慣れていたこともあり、戸惑いがあるのも仕方がない。しかし、川根地区では時給100円程度というのが当たり前だ。年金とあわせれば、時給100円でも生活できる地域だからだ。農地もたくさんある。自分が元気な限り、お米や野菜を育てて、それを売ることで食べていける豊かな地域なのだ。
また、田舎というのは近いもの同士が議論して、自分たちの生活を豊かにすることができるという可能性を秘めている。実に素晴らしいところだ。これからも地域の方々と議論をして、しっかりと汗をかき、自分ができることがある限り、それを精一杯やらせてもらいたい。

研修生の声

川根という小さな地区は、必ずしも研修生の自治体や地域と同じ状況ではない。しかし、実体験にもとづいた実践者の話はとても説得力があり、研修生にも分かりやすい話であった。「行政に頼るのではなく、自分たちで地域を守る」という、まさに「自治の本質」をお話いただいた。これは決して川根地区だけのことではなく、地域にかかわるすべての人が考えなくてはならないことだろう。
また、単に辻駒氏の自治に関する考えを聞くだけでなく、辻駒氏の川根という地域をよりよくしたいという強い思いを感じ取ることができた。辻駒氏の熱弁に感化され、「役所の中、机上のうえで考えるだけでなく、自分も地域の中に入っていく勇気が湧いてきた」という声も聞かれた。これから研修生は「前例がない、制度がない」と言い訳をして「ボーっと」せずに、住民や地域が何を求めていて、行政として何をするべきなのかを考えていくことだろう。

関連レポート

2011年度
・ 「手づくり自治区~自治をつくる実践に学ぶ」 (レポート)

・ 「手づくり自治区~自治をつくる実践に学ぶ」 (動画)