2016年度のプログラムが終了しました(更新日:2016年12月21日)

地域の限られた資源で急速な高齢化をいかにして乗り越えていくか?

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講師:中野智紀(社会医療法人JMA東埼玉総合病院 在宅医療連携拠点事業推進室長)
日時:2014年6月7日(土)16:00~17:30
文責:福井県福井市 宮川和也(2014年度参加者)

本講義の目的

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自治体職員に「あなたの地域の課題は何ですか」と尋ねると、十中八九「人口減少」と答える。実際、全国の自治体において住民の高齢化が進み、地域によってはコミュニティの存続さえもが危うくなってきているのは事実であり、結果として、かつては機能していた地域の共助の仕組みが成り立たなくなってきている。それを補完するためにも現在国は、在宅を中心に医療・介護サービスを切れ目なく提供するシステムとして、「地域包括ケア構想」を進めているが、国の描くイメージだけが独り歩きしており、各地域でどのように実現するのか、その道筋は見えていない。そんな中、講師の中野智紀氏は、医師として埼玉県幸手市と杉戸町の地域包括ケアの体制つくりに取り組んでいる。

中野氏は、幸手市の大規模団地、幸手団地の一角にできた東埼玉総合病院に勤める糖尿病専門医であり、同地域に住む人々の暮らしを前提にした医療と介護の連携を進めるべく、地域コミュニティづくりに力を注いできた。「暮らしの保健室」を起点に、コミュニティデザイナーの発掘、多職種協働学習会の開催、地域防災での連携といった地域密着型の取り組みと同時に、こうした活動に参加できない人たちへのアクセスポイントを探るアセスメント調査も実施する。その結果、全国初の住民が主催する地域ケア会議が開催されるまでになった。

医師である中野氏が、医療とは直接的に関係のない活動にまで広く携わるのはなぜなのか。その目的はどこにあるのだろうか。中野氏のこれまでの実践を通じて考えたい。

講義内容

1 地域包括ケアシステムとは
① Aging in place
高齢者が住み慣れた地域(在宅)で自分らしく生きられるように、
② integrated care
事業者が連携し、その人に合ったケアを提供できる体制(サービス、システム、組織)を構築する。

課題 … 個人最適と全体最適のアンバランス
現実には、過剰なケアを受けている人もいれば、ケアが必要なのに全く届いていない患者も存在する。ベストなケアを実現するためには、「多職種協働」と「コミュニティをベースとしたケア」が必要である。

2 埼玉県利根医療圏における医療過疎化への取組

(1)2004年「新臨床研修制度」施行の影響
新制度により、研修医の都市部への集中、研修医のアルバイト禁止等による人手不足が生じ、地方の医療過疎化が進行した。
埼玉県利根医療圏においても、地域の基幹病院から糖尿病外来医師が引き揚げるなど、医療崩壊の危機に直面した。

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(2)病院完結型医療から地域完結型医療へ
埼玉県利根医療圏では、専門医がいる病院に軽症患者が多数受診する一方で、重症患者が非専門医(診療所)を受診するケースも多く、限られた医療資源が浪費されていた(医療の需給ギャップ)。
そこで、従来の「病院完結型医療」ではなく、地域を1つの医療機関と見立てる「地域完結型医療」の仕組みを構築し、病院(専門医)と診療所(非専門医)がお互いの特徴を生かしながら連携していく体制を作る必要があった。

(3)東埼玉総合病院の取組
東埼玉総合病院は、地域完結型医療を実現するため、病院(専門医)が持つ技術や情報をオープンにするとともに、地域医療を支える診療所(非専門医)の人材育成や、地域住民の医療教育(地域医療に対する認識を深めてもらう)などに、積極的に取り組み始めた。
① 2008年「地域医療再生へ向けたマスタープラン」(地域糖尿病センター)
② 2010年 NPO法人「埼玉利根医療圏糖尿病ネットワーク」設立
<ミッション>
住民を主体とした対話と支え合いによる地域の絆と地域医療の再生
<ヒューマンネットワークの構築>
地域での勉強会、定期的な訪問、市町村市民講座、医療スタッフ研修会

(4)Inter-professional Work(専門職連携)とDisease Management(疾病管理)
医療専門職の連携体制を構築し、患者の自己管理に関する教育を提供することにより、保健医療コストの抑制とサービスの質の向上を目指した。
① 糖尿病二人主治医制
病院の専門医と診療所のかかりつけ医が協力して患者を支える仕組み。
普段はかかりつけ医を受診し、年1~2回病院の専門医を受診する体制。
② 地域医療ITネットワーク「とねっと」
埼玉県利根保健医療圏医療連携推進協議会が構築したシステム。
IT技術により、複数の医療施設にまたがる診療情報等を共有化。
病院とかかりつけ診療所で、診療情報を共有。医療資源の有効活用に活かす。

3 地域コミュニティへの働きかけ

(1)やはり地域が主戦場
・潜在的なリスクを有しながらも、医療機関を受診しない患者がいる。
・地元の医療事情を把握しておらず、適切な医療機関を受診できない。
・家族機能・地域機能の低下
「大丈夫」と尋ねると「大丈夫」と答える … 大丈夫の向こう側が大切

(2)ケアカフェ@幸手(H24年度~)の開催
地域における統合的ケア(専門職間連携)の実現のため、地域の保健、医療、福祉介護、自立支援、住居などの専門家が一堂に会し、職種・組織を超えた「地域チーム」を立ち上げるための学習会を開始した。2年目からは地域再生に関わる住民も参加するようになり、ネットワークが広がった。
※ IPE(Inter-professional Education)(専門職連携教育)

(3)コミュニティケア拠点「菜のはな」の立ち上げ(東埼玉総合病院 H24年度~)
在宅医療連携拠点事業(厚生労働省)のモデル事業として開始した。メンバーは、中野さん、看護師の丑久保さん、社会福祉士の原口さん、専門事務職員の外園さん。住民が主体的に自らの健康の維持・向上に努めることができるようになるよう、仕掛けづくりや、取り組みのコーディネーター役を務める。
平成25年度からは、幸手市が実施主体となり、東埼玉総合病院を含む北葛北部医師会が事業委託を受けたため、市全体へ活動の対象が広がった。病院の単独事業でないため、患者を各機関(病院、かかりつけ医、介護事業者等)に適切に振り分けることができる。

(4)「菜のはな」の取組
0607_nakano_3 ① 地域のコミュニティカフェ(元気スタンド「ぷリズム」)やお寺にて、「暮らしの保健室」を定期的に開催。
※ 暮らしの保健室の構成因子(創る、奏でる、分かち合う、笑う、支える)
② 地域の把握(フィールドリサーチ、ヒアリング)
③ 住民ヒアリング
④ 健康生活アセスメント調査(幸手団地3,021戸)
※ 地域コミュニティに出て来ない人の所へは、こちらから行くしかない。
⑤「みんなのカンファ」の実施
※ 地域の人のケアについて情報交換し、適切に専門家につなげるように支援。

(5)「幸手団地健康と暮らし支えあい協議会」の設置
地域住民が主体的に健康づくりや支え合い活動を行うための組織として設置された(「菜のはな」のコーディネート)。会長は自治会長。会員は自治会、民生委員、病院の三者。オブザーバーに団地管理事務所、幸手市介護福祉課、幸手市消防本部が加え、地域包括ケアに「防犯・防災」の視点が生かせるようになっている。

参加者感想

地域包括ケアシステムの構築においては、医療・介護の専門家の連携体制の構築と、地域コミュニティの再生という2つの要素があり、その2つの要素がうまく噛み合った事例が幸手団地の事例ではないかと思いました。
中野先生は「手作り感」と表現されていましたが、地域包括ケアシステム構築のために、様々な関係者や地域に働きかける中野先生の手法は、まさに「懇切丁寧」「総当たり戦」であり、地域コミュニティにかける先生の情熱の強さを感じました。