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(2014年度国内調査)頭石村丸ごと生活博物館~熊本県水俣市~

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調査先:熊本県水俣市 勝目豊(頭石村丸ごと生活博物館代表)、山口和敏(同博物館生活学芸員)、地区のお母さん方、冨吉正一郎(水俣市職員)
調査日:2014年6月28日(土)9:00~12:30
文責:①山口県周南市 山本彩乃、②広島県尾道市 倉田麻紀 (2014年度参加者)

本調査の目的

「まちづくりはそこに住む人々の『想い』から始まる」。

週末学校では、このメッセージを一貫して伝え続けている。この「そこに住む人々の『想い』」とはどのようなものだろうか。そして、そこからスタートしたまちづくりとは、どんな様相を呈しているのだろうか。

水俣病という苛烈を極める苦難を抱えながら、地域の自然や風土、そして人と人とのつながりを再起させ、新たな地域の価値を生み出し、人々が「ここ」に生きる希望を作ってきた熊本県水俣市。吉本哲郎氏(地元学ネットワーク主宰)によると、「水俣は魂の最も深いところが震えるまち」とのこと。本調査では、その地を実際に訪れ、混乱の渦中に身を置きながらも、地域の再生のために尽力し続けてきたキーパーソンらにお会いする。そして、対話や議論を通じて、彼らの地域に対する想いや哲学を肌で感じると同時に、この地域が発する熱量に触れ、真のまちづくりとはどのようなものなのかを探る。日々の生活の中に生まれた苦しみを背負いながらも、地域への想いを胸に歩み続ける人々に会い、自身の地域に対する見方や姿勢を見つめなおしてほしい。

以下では、同市頭石(かぐめいし)地区を訪れ、村の自然や生活全てを展示物として見立てたいわば“屋根のない博物館”である「村丸ごと生活博物館」を体験した際の、参加者レポートを紹介する(国内調査全体については、こちらを参照)。設立当初から同博物館の運営を担う勝目豊さん、山口和敏さん、地区のお母さん方、および、行政の立場からその活動を支え続けている同市職員の冨吉正一郎さんにお会いした。

参加者レポート①:山口県周南市 山本彩乃

どこにでもありそうな普通の地区。そこでの生活の全てを展示物に見立て、「屋根のない博物館」とした。暮らしの技術を伝える「生活職人」も生活の知恵を授ける「生活学芸員」も、すべて地区の住人である。頭石(かぐめいし)では、生活学芸員が村を案内してくれる。彼らの説明をただ聴くだけではなく「これはなんだろう」、「あれはなんですか」と積極的に自分の好奇心を満たしてみたら、思わぬ発見や出逢いがある。それは、道に残された獣の足跡だったり空飛ぶトンボの種類だったり。どんな質問をしても、彼らは嬉しそうに答えてくれる。

●とにかく始めてみよう
katsume 頭石地区は、中山間地域にある。現在は、わずか30世帯の小さな地区だ。用事がなければ訪れない場所の一つだったそうだ。だが、今は少し違う。生活博物館に遠くからたくさんの人が訪れ、外国人が訪れることもある。

高齢化率が30%のこの地区は、このままでは地域がなくなってしまうのではないかと住民たちはもやもやを抱えて過ごしていた。何かしなければという強い思いを持った人達が、行政が提案した村まるごと生活博物館の第1号として活動を開始する。「とにかくやってみる。やってダメならやめればいい」と心に決め、勝目豊さんたちは地域を引っ張ろうとした。

「行政に乗せられている」とひどい嫌がらせを受け、妬まれることもあったが、「自分達のことは自分達自身が決めていく」という信念を持って耐え、活動を続けた結果次第に嫌がらせはなくなっていく。

●何もないと言わない
生活博物館を始めるために、地区のあるもの探しを行った。頭石地区の人々は「私らの住んでいるところには何もないから」と口々に言った。しかし、市の職員である冨吉正一郎さんは「何もないと言わないこと」と約束させ、地域にあるものを掘り起こしていく。

外からの視点は、自分たちが当たり前だと思っていたものに光を当て、それが他にはない物語のあるものだったと気付き、認識していく。案内を通じて、訪問者だけでなく地域の人自身が、自分の暮らす場所が素敵な場所なのだと誇りを持てるようになっていった。

そこから、良い意味で、地域に欲が出てきた。訪問者のために野菜を植えたり、環境を整え地域を綺麗にして訪問者を迎えようと掃除を始めたり、立て看板を付けたりと、「見られる」ということを意識して地域全体が化粧をしていくという変化が生まれてきた。

生活博物館の活動が、みんなが何かをするための理由づくりになっている。活動自体が地域の生活に張りを与えているようだ。

●お昼ごはん
yamaguchi 地域をぐるりと歩きまわった後はおなかもペコペコだ。いただいた昼食は、もちろん頭石地区で採れたものを贅沢に使って作られている。地域の女性たちが丹精込めて作った料理は、素朴だけれどあたたかくてどこか懐かしい気持ちになる。その土地で暮らしていたら当たり前に食べるものが、訪問者からは珍しい食べ物もある。

●想いが地域をつくる

私たちの日々暮らしの中に、実は文化や歴史が埋もれていて、知らず知らずのうちに消えてなくなっているのではないだろうか。あって当たり前ではなく、そこにあるものを認識することでそれがとても大切なものだと気付く。

山口和敏さんは、頭石を案内しながら「私たちは、生活の知恵や技術、環境について自分の子供に教えてこなかった。だから今伝えているんだ」と口にした。会話の中の何気ない一言だったが、私にはそれが彼にとって一番大切にしている気持ちなのではないかと感じられた。想いが行動を起こし、その行動が地域をつくっていく。お仕着せではない住民による地域づくりがここにあった。

参加者レポート②:広島県尾道市 倉田麻紀

■村丸ごと生活博物館について
tomiyoshi水俣市が平成13年9月21日に制定した『元気村づくり条例』に基づく取り組みである。 「水俣の農山漁村において、豊かな村づくり、風格ある村の佇まいづくり及び交流の促進によって元気村づくりを進めるため、必要な施策の基本となる事項を定める」ことを条例の目的に定め、補助金・助成金の交付はないが、施策の推進に必要な財政措置を講ずることとしている。

市の役割は、指定を受けた地区を支援し必要な基盤整備のための施策を講じること、住民の役割は、自ら進んで元気村づくりの推進に努め、市の実施する施策に協力することとしている。

指定を受けるためには、環境保全のための地区協定を結ぶこと、生活学芸員をおくこと、生活職人の育成に努めること、環境マイスターの育成に努める、といった条件がある。

■頭石(かぐめいし)について
頭石は水俣市街地から約12キロの山間部に位置する。途中に湯の鶴温泉という湯治場があるが、そこから頭石までは人家のないうねった山道を登り、ふと開けたとこで棚田が出迎えてくれる村だ。平家の落ち武者によって形成されたとの言われにも頷ける場所だ。

99%が山林で林業を営み、残り1%で自給自足の農業を営んでいた。戦後間もなくは林業で生計が営めた当時、70世帯500人が暮らしていた。

木造住宅の減少、安価な輸入木材などにより林業は衰退し、10年前は40世帯120名、現在は30世帯80名となっている。人口減少は若者がいなくなるだけでなく、高齢者は家をおいて施設に入所するため、高齢者も減少している。

湯の鶴温泉まで人は来るが、頭石に来るのは営業の人か、親戚に何かあった時だけという、ほとんど交流のなかった村に、いかにして若者や他地域の人が訪れる村になったのか。

■頭石村丸ごと生活博物館を始めるまで
平成14年8月5日に生活博物館の取り組みを始めた。

その1年前から人口減少が続く村で、将来立ち行かなくなる危機感を感じていたので、その1年前から農林作業部会を立ち上げ、村の中で協力して農機具などシェアして農作業を行うなど取り組んでいた。しかし、この取り組みがなかなかうまくいかず、困って市の農林水産課に相談していたところへ、中山間地の日の当らない地域に目を向ける条例として、元気村条例の紹介があった。地域でやることだから世界で初めて取り組むんだと乗せられて、話に乗ったのがきっかけで、村にも制度の説明に何度か来てもらったが、よく分からない。

そこで村の人たちから、話ばっかり聞いてもよくわからんばい、やってみんとわからんばい、と意見が出て、とりあえずやってみよう、という事になったのがはじまりである。

取り組みを始めると、メディアで取り上げられ、話題になったので、ねたみや嫌がらせも受けた。行政に騙されて、というのが多かったが、もともと行政に頼ろうとしていたのではなく、自分たちで何とかしようと、農林作業部会を立ち上げ取り組んでいたのだから、気にしなかった。

■始めてから
kagumeishi2 新聞・メディアも取り上げたため、まだ準備が出来ていない段階から申し込みがあった。とりあえずあわてて売りにするモノを考え、平家の落人の里という事でPRした。

始めたものの、何事も自分たちは当たり前に思っていることばかりなので、「ここには何もないのでは?」といいところが分からなった。そこで、都会から来た人に村を回って見てもらう事ことにした。すると、どこを見せても、自分たちがいつも当たり前に見ているものを、いいと言ってくれる。

ここには山、川、水がそろっていて、村人はなんでもない生活の場だが、町の人はわざわざ体験しに来る、そういう発見があった。

こうして、村ぐるみでがんばっていると、見た目の環境だけでなく、頭石の心の環境が変わった。行政も担当者は地域の家族になった。いつも見ているものが宝になった。地域を大事にするようになり、ゴミを見たら拾うようになった。女性が化粧をするように、村が化粧をするようになった。庭にちょっとした工夫をするようになった。実際地域の女性も化粧をするようになったり、活き活きとして、何かあったんかと心配して帰ってくるくらいだった。

実際Uターンで地元に帰ってくるようになり、若い中年層が増えた。人口は少ないがこの村の高齢化率は30%、子どもは20人強いる。

求めてばかりいないで、何かをやり、がんばっていると行政も動くことがわかった。

頭石の取り組みが話題になったことで、県知事の視察もあり、やりたいことを話したところ、県の方から加工所の建設や、村への入り口道路の拡張の話があった。実際に加工所は完成し、道路拡張も今年秋には着工される。

何の取り組みもしてなかったら、このような何もないと言われている30世帯ほどの村に、決して起こらなかった事だ。何もせずにいてはダメだ、黙っていたら何も起こらない。やってみてだめなら、やめればいいだけだ。頭石をどげんかせんばいかんばい、さみしゅうなるばい、そう思って取り組んできている。

■頭石のこれから

人が少なくなっても、限界集落になることは避けたい、笑って暮らせるようにしたい。かつては湯の鶴温泉が栄えていた。熊本の黒川温泉のように、湯の鶴温泉と頭石が一緒によくなるように考え、湯の鶴に泊まって頭石に来る流れをつくったらどうかと考えている。

吉本哲郎さんや行政の言うとおりにしているから今の頭石があるのではない。色々なことをきっかけにして、地域の人たちが自分たちの足元をみて、気付いて、動き始めて自分たちでやって来たから今がある。

傾斜のきつい地域で、どうやって暮らしてきたか生活の知恵を引き継ぎ、伝えていくかが課題で、50代~60代のサラリーマンとの繋がりを考えている。

棚田 農業・林業の事を考える。
防災 棚田を守る中で防災の必要性を訴える、若い人たちを支える。
環境 その中で環境を守る大切さを伝える。

この三つを連動させた関係づくりをやりたいが、これはなかなか難しい。しかし必ずやる。そういう思いで今もがんばっている。

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