2016年度のプログラムが終了しました(更新日:2016年12月21日)

2014年度国内調査~熊本県水俣市~:「ここに生きる希望」

キーワード:

調査地:熊本県水俣市
日程:2014年6月27日(金)午後 ~ 29日(日)午前
文責:週末学校事務局 石川絵里子

本調査の目的

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「まちづくりはそこに住む人々の『想い』から始まる。」週末学校では、このメッセージを一貫して伝え続けている。この「そこに住む人々の『想い』」とはどのようなものだろうか。そして、そこからスタートしたまちづくりとは、どんな様相を呈しているのだろうか。

水俣病という苛烈を極める苦難を抱えながら、地域の自然や風土、そして人と人とのつながりを再起させ、人々が“ここ”に生きる希望を作ってきた熊本県水俣市。本調査では、その地を実際に訪れ、混乱の渦中に身を置きながらも、地域の再生のために尽力し続けてきたキーパーソンらにお会いする。そして、対話や議論を通じて、彼らの地域に対する想いや哲学を肌で感じると同時に、この地域が発する熱量に触れ、真のまちづくりとはどのようなものなのかを探る。

地域に向き合う実践の中から「地元学」を生みだした吉本哲郎氏によると、「水俣は魂の最も深いところが震えるまち」とのこと。地域の現場を日々担う参加者達は、水俣のまちづくりから何を学ぶだろうか。

プログラム内容

本調査は、「地元学」プログラムの一環として、昨年度から実施している。昨年度と同様、上記の目的をかなえるために、地域の再生に尽力してきたリーダー達や水俣病認定患者のご家族、水俣の未来を担う若者グループなど、数多くのキーパーソンにお会いした。

行程は以下の通り:

<6月27日(金)>
minamata2 午後
○講義、体験:「杉本水産 環境マイスターのものづくり現場」
・体験:不知火海の漁師メシ(昼食)
・講義:杉本肇さん(杉本水産)
○見学:水俣病資料館
○講義、体験:「天の製茶園 環境マイスターのものづくり現場」
・講義:天野茂さん、浩さん(天の製茶園)
・体験:囲炉裏の間での談話会(夕食)

<6月28日(土)>
午前
○講義、体験:「頭石(かぐめいし)村丸ごと生活博物館の取り組み」
・講義:勝目豊さん(同博物館代表)、山口和敏さん(同博物館生活学芸員)、冨吉正一郎さん(水俣市職員)
・体験:勝目豊さん、山口和敏さん「村めぐり(案内)」
・体験:頭石のお母さん方「食めぐり(家庭料理)」(昼食)
午後
○発表:「私の地元学」発表
○講義::吉井正澄さん(元水俣市長)「私のまちづくり履歴から~職員に期待したいこと~」
minamata3 ○談話会(夕食)@あさひ荘
・談話:「『あばぁこんね』の若者達による地域づくり」
・環境マイスター達の物産展示
・談話と唄:やうちブラザーズ「人生健康が一番、笑いが一番」  など

<6月29日(日)>
午前
○講義:沼田悦子さん(ごみ減量女性連絡会議メンバー)「女性パワーで元気な水俣づくり~ごみ減量女性連絡会議~」
○講義:笹原和明さん(モンブランフジヤ)、永里寿敏さん(みつば薬局)、松木幸蔵さん(水俣市職員)「水俣中央商店街の取り組み」
○体験:水俣中央商店街散策

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個別のプログラム内容そのものについては昨年度調査レポートや参加者レポート(ページ下部に掲載)に譲るとして、このレポートでは、あえて水俣市職員の方々(元水俣市職員である吉本氏を含む)にフォーカスを当てて記載したい。というのも、昨年度参加者の率直な感想として、水俣のまちづくりを「特別な経験をした水俣だからこそ出来たこと」、「すごいと思うが自分のまちでは出来ない」と感じた人が散見されたためだ。水俣を特別視して終わってしまわず、学びを自らの地域に生かしていくには、まずどう考えればよいだろうか。参加者と同じ行政職員に光を当てることで、そのヒントとなれば幸いである。

上記の問題意識を踏まえて、今年度は、水俣の取り組みをより身近に自分ごととして捉えられるよう、2つの工夫を凝らした。1つは、参加者の移動用マイクロバスに吉本哲郎氏にも同乗してもらい、同氏が水俣市職員当時どのような心境でその地域に通ったのか、現在の取り組みをどのように見ているかなど、移動中にその場その場で語ってもらったこと。もう1つは、参加者らと同世代の水俣市若手・中堅職員で、実際に地元学を実践し地域住民と様々な変化を生み出してきた経験を持つ方々からもじっくりお話を伺ったこと。これらを通じて、吉本氏やその後進の方々がそうしてきたように、まずは目の前にあることから向き合うことの大切さを感じてもらうことを狙った。

新水俣駅で吉本氏とともにマイクロバスに乗り込んだ参加者らは、まず杉本水産の位置する茂道地区に向かった。チッソ本社とエコパークを横目に市街地を抜け、元々の海岸線沿いにうねって走る国道を進むと水俣病多発地域へと入る。茂道湾へと向かうため国道を右に曲がると、吉本氏が語りだす。初めて杉本家を訪れる時に何度自分に“逃げるな”と言い聞かせたことか、その後何度この曲がり角を曲がったことか、「そんな始まりだったんですよ」と当時の思いを語る。吉本氏とて、それが水俣再生の原点になるだなんて、当時は思っていなかったことだろう。こんな調子で、参加者達は3日間、吉本氏の水俣に対する思いに触れることになる。

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杉本水産では、着くなり早々杉本家の漁師メシをご馳走になる。“来なきゃ分からん”、“食べなきゃ分からん”、“会わなきゃ分からん”が吉本流地元学のモットー。これは2日目にご講演いただいた吉井正澄氏(元水俣市長)の“行政職員は「現場、現実、現物」を知り尽くしてほしい”というメッセージともつながる。さて漁師メシ。お味は“食べなきゃ分からん”ですから、このレポートでは写真からご想像いただくしかない。

杉本家の受難と復活の歴史に学んだ吉本氏は、それを水俣再生の物語に翻訳していく。その行動に多額の予算がついたわけでも、市を挙げての大型プロジェクトが立ち上がったわけでもない。始まりは、あの曲がり角を“逃げるな”と自分に言い聞かせて曲がったこと。そして、何百回何千回と茂道地区に通う中で個と個の信頼関係を築きあげていったこと。一人の人間の小さな行動の積み重ねが、化学反応を起こし、変化のきっかけとなっていく。杉本家というひとつの家族の歴史の中に「一即全」があったように、吉本氏の行動の中にもまた「一即全」があったと言えるだろう。

吉本氏が杉本家と培った信頼関係のあり方は、後進の水俣市職員にも受け継がれている。その一人が、村の自然・生活全てを展示物として見立てたいわば“屋根のない博物館”「村丸ごと生活博物館」の取り組みに関わり続けている冨吉正一郎氏だ。この取り組みは市内4地区で行われており、私たちが訪問したのはその第1号である頭石(かぐめいし)地区だが、いずれの地区でもその運営を全て住民が主体となって行っている。冨吉氏もかつての吉本氏と同様、頭石地区に足繁く通ったようで、「週に何回くらい通ったのか」という参加者からの質問に、「さぁどのくらいでしょう、1日に2~3回来る事もありましたから」と冗談交じりの答えが返ってきた。

行政職員である冨吉氏と頭石地区住民で同博物館を担う勝目豊氏や山口和敏氏との間には、“行政がやってあげる(行政がやってくれる)”とか“住民に参加してもらう(住民がやってあげる)”とかいう感覚が一切感じられない。むしろチームや仲間・相方といった雰囲気だ。講義をする三人の間の空気だけでも、それを感じることが出来る。勝目氏・山口氏の講義をじっと聞いていた冨吉氏が、行政マンである参加者らがより理解しやすいように補足し、それを聞いていた両名が今言っているのはこれと後ろから絵地図を出してきたりする。上下や主従の関係は一切なく、お互いがお互いの立場を理解し、個と個の信頼関係を築いている。

信頼関係を築くと一口に言っても、そう簡単なことではない。市職員有志と菓子店による「スウィーツのまちづくり」という取り組みの中心メンバーだった松木幸蔵氏によれば、自分たち市職員有志は職務時間外の活動として始めたにも関わらず、菓子店側からは行政に対する不満がしばらく語られ、取り組みそのものの話にはなかなかたどり着かなかったそうだ。これに対し松木氏ら有志メンバーは、しばらくは聞き手に専念し、意見を持ち帰って担当課ともきちんと相談をしたと言う。「勤務時間内外問わず、市民からみれば自分たちは市役所職員であることに変わりはない。出来ないことはなぜ出来ないかきちんと説明することを繰り返し、徐々に信用してもらえたと思う」と松木氏は語る。

両氏に共通するのは、「行政参加」(吉井正澄氏)という意識だ。行政が主導することに住民に参加してもらうのでも、住民が必要と思うことを行政がやってあげるのでもない。住民が動き出したとき行政も一緒になって動く、住民を行政が後押しするという姿勢だ。こんなエピソードがある。冨吉氏は生活博物館の担当課から異動することになった時、地区の一軒一軒を回り、「皆さんの取り組みに参加させてもらい、勉強させてもらい、ありがとうございました」と挨拶したそうだ。冨吉氏にすれば、その時感じた素直な気持ちでそのように挨拶しただけかもしれないが、行政が主導する事業に「住民参加」してもらうというケースが多い昨今では、「ご参加いただきありがとうございました」と言う人が多いのではないだろうか。「公」を担うのは行政だけではない、地域の担い手はあくまでも住民だという意識が骨の髄まで染み込んでいなければ、このような発言はとっさには出てこない。

「行政参加」意識の例をもう1つ。市内女性団体の連合体でごみの分別や減量化に取り組んでいる「ごみ減量女性連絡会議」の事務局は水俣市が担っているが、この会議自体の主導権は完全に住民側にある。過去にこの事務局を担当したことのある元村仁美氏(2011年度週末学校参加者)は、「自分たちは場を用意して、皆さんの意見を記録し、それをメンバーと共有しただけ」と言う。そうは言ってもやはり行政が色々やるのではと聞きなおしても、「皆さん本当にたくさんの意見やアイディアを持っているので、市がどうこう言う必要は全くない。記録するだけで精一杯でしたよ」と笑いながら答えが返ってきた。住民は地域のことなんか何も考えていないと思い込んでいる行政マンが多い中、この答えは参加者らにとって意外だったのかもしれない。

この地からにじみ出る課題の深刻さや学びの深さゆえ、やはり今年度も多くを学んだが自分はではどうすればいいのかと感想を寄せた参加者は多かった。しかし、吉本氏や水俣市職員の方々が率直に述べてくれた経験や思いを思い起こせば、実は自分もそれに似たものを持っているのではないだろうか。すぐさま大きな変化を生み出せないと焦るのではなく、目の前にあること・いる人に真摯に向き合うことで、少しずつ水俣での学びを活かしていくことが出来るのではないかと思う。そしてその時、“水俣市のあの職員の方は、あの時こうした・こう考えたと言っていたなと”その姿勢を思い出すことが出来れば、自分自身の姿勢も徐々に変わっていくのではないか。全ての事柄に「一即全」が宿るとの教えを心の支えに、小さなことから取り組み、変化を生み出していってほしい。

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参加者の調査レポートは、以下のとおり:

○倉田麻紀(広島県尾道市)『過去に学び、ここに生きる希望を作った水俣物語』

○嶋田准也(石川県能美市)『いろいろな想いが繋がり、未来への希望を感じた町』

○棚町佳菜(福岡県大刀洗町)『水俣で感じた一人ひとりの想い~「あるものを生かす・つながる」まちづくり~』

○中尾大樹(長崎県佐世保市)『水俣における悲しみの希望への転換 その狭間に見たもの』

○長岐孝生(秋田県北秋田市)『水俣を感じて~想い~』

○中嶋健二(静岡県浜松市)『本質的な豊かさの気付き』

○宮川和也(福井県福井市)『水俣で感じたこと』

関連レポート

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2014年度
・国内調査「天の製茶園:環境マイスターのものづくり現場」(レポート)
・国内調査「頭石村丸ごと生活博物館」(レポート)
・国内調査「私のまちづくり履歴から~職員に期待したいこと~」(レポート)
・国内調査「女性パワーで元気な水俣づくり:ごみ減量女性連絡会議」(レポート)
・国内調査「水俣中央商店街の取り組み」(レポート)
「地元学」吉本哲郎、横尾ともみ(レポート)

2013年度
2013年度国内調査~熊本県水俣市~(レポート)
・国内調査 「天の製茶園:環境マイスターのものづくり現場」天野茂、浩(レポート)
・国内調査 「頭石(かぐめいし)村丸ごと生活博物館」勝目豊、山口和敏(レポート)
・国内調査 「私のまちづくり履歴から~職員に期待したいこと~」吉井正澄(レポート)
・国内調査 「杉本水産:環境マイスターのものづくり現場」杉本肇(レポート)
「地元学」吉本哲郎、横尾ともみ(レポート)
「あるもの探しで地域を元気に:川南地元学」河野英樹(レポート)

2012年度
「地元学の実践」吉本哲郎、横尾ともみ(レポート)
「あるもの探しで地域を元気に:川南地元学」河野英樹(レポート)

2011年度
「地元学の実践」吉本哲郎(レポート)
「研修生の『地元学』」(レポート)

2010年度
「町や村の元気をつくる地元学のすすめ」吉本哲郎(レポート)