2016年度のプログラムが終了しました(更新日:2016年12月21日)

キーパーソンから拡がる地域の輪

キーワード:

講師:御手洗照子(T-POT代表取締役)
講義日:2009年8月23日(日)
文責:静岡県浜松市 大澄憲雄(研修生)

 T-POT代表取締役の御手洗照子氏を講師に迎え、地域活性化に取り組む二人のキーパーソンにお話を聞いた。
 一人目は「民」のキーパーソンである長崎県波佐見町の西海陶器株式会社 代表取締役の児玉盛介氏。波佐見町を基点とした、行政や若者との連携などネットワーキング、人の集め方などの具体例をお話いただいた。二人目は「官」のキーパーソンである常滑市環境経済部商工観光課の浜崎博充氏。行政の立場から前向きに地域活性化に取り組むキーパーソンとして、常滑市の取り組みの現状、成果、問題点などをお話いただいた。
 それぞれの地域活性に関する具体的な取り組みを聞き、その共通点を探り、官民の連携、市民ボランティアの存在、時代にあった経営感覚の必要性などについて考えた。

「西海陶器株式会社」代表取締役 児玉 盛介 氏のお話

児玉best.jpg 長崎県波佐見町から来ました。祖父まで窯元をしていましたが、戦時中に必要な原料等が確保できないこともあって事業を閉鎖し、戦後は父と父の弟で、陶器問屋を始めました。有田焼で有名な有田町の隣であることからも分かるように、周辺は焼き物の産地です。

 私が大学を卒業したころ、実家が事業を拡大するということで東京に支店を出したため、36歳まで東京支店長を務めました。その後、実家に戻って代表取締役に就任し、現在に至ります。

 窯業については、平成2~3年をピークとして、現在は全体的な売上が3割程度に落ち込んでいます。波佐見町においても、2,000人程度いた関係者が、現在は600人程度となっています。
 人と人との信頼関係・ネットワークを築くため、毎月第一金曜日の午前6時30分から勉強会を開催しています。毎回20人以上が集まり、朝食を食べながら、それぞれの特技や情報を持ち寄って色々な意見交換をします。また、バスツアー等を行って、地域の歴史や文化等についても勉強をしています。これらの取組を通じて各自のレベルアップを図っています。

 今まで手がけた事業としては、「文化の陶 四季舎」(児玉氏の祖父が使っていた作業場・窯でピザが焼けるように改良し、現在は飲食ができる交流スペース)、「まちの駅 くらわん館」(陶芸の館・即売も実施)、「HANAわくすい」(雑貨店)、「モンネルギ・ムック」(喫茶店、バー)、「梵」(ヨガ道場)、「陶農レストラン『清旬の郷』」(地産地消を推進し、農業の活性化を期待されたレストラン)等多数に上ります。その他、東京においてやきものプロ養成講座を開催し、消費地のバイヤー(商社等)に波佐見焼を知ってもらう機会を設けました。波佐見焼の歴史や製品ができる工程等、実演やイラストで説明を聞くことができたと大好評でした。

 これらの取り組みを行う際、私が最も重要だと考えていたことは、心から信頼のできる友人、先輩、同僚(同業者含む)及び部下(事業遂行を信頼して任せることができる地域住民含む)と、時間をかけてネットワークを構築することです。この人の輪ができれば、紆余曲折はあるものの、適材適所で事業構築することができます。
 だから私はこうした環境を作り出す努力を今までも、現在も行っており、その結果「元気な波佐見町」が実現しつつあると考えています。

 皆様には、常に世界に目を向けて欲しいと思います。
 20年ほど前、アメリカに陶器の店を出店させて成功しました。ヨーロッパは新たな陶器の参入が難しいのでやめましたが、これからは中国が有望です。中国には大規模生産工場はあるものの、小ロットの製品がないため、富裕層のニーズに合った製品が少ない。そこで受け入れられるチャンスがあるのです。
 海外のビジネスパーソンは、パスポートの2~3冊所持が当たり前、住むところも世界各地にあるのが当たり前ですから、役場職員ももう少し世界を広く見ることが必要だと思います。

常滑市環境経済部商工観光課 浜崎 博充 氏のお話

 愛知県常滑市には焼き物散歩道があり、映画20世紀少年のロケ地として活用されました。
 市長も2秒くらい映っているので、機会がありましたらぜひご覧ください。

浜崎best.jpg さて、常滑市は人口約5万5千人、財政規模は一般会計が約200億円、他都市と異なるのは、競艇事業収入があることです。平成5年には約40億円の競艇事業収入があり、このお金を使って施設をたくさん造ったため、現在、それらの維持管理費用が財政を圧迫しています。ただ昨今の景気低迷等により競艇事業収入は激減しているのですが、新たにできた中部国際空港の収入がその分をある程度埋めているため、他都市より恵まれているかもしれません。この中部国際空港を活用した観光事業を推進するため、様々な取組をしています。

 常滑市は、先ほどの波佐見焼と同じように常滑焼という焼き物の産地です。造っていたものは、土管や焼酎瓶といった大きな物が多く、現在は急須も有名です。また、最もポピュラーな形の招き猫は、常滑市が発祥と言われています。昭和初期には300~400本もの煙突があり、毎日黒い煙を排出していたため、スズメも真っ黒と言われるほどでした。

 常滑市にはINAXの本社があるのですが、創始者の伊奈長三郎氏が自社株(伊奈輝三氏も含めて計150万株)を寄附してくださったので、この運用益(約6000万円/年)を活用して、長三賞陶業展や常滑焼関連施設の運営など焼き物に関する取組を継続しております。またINAXライブミュージアムがあり、企業と協力して焼き物のPRもしています。

 私が携わった仕事の中で最も大きなインパクトがあるのが、とこなめ招き猫通りの整備です。道沿いの壁に39体のご利益招き猫を設置し、壁面の頂上に高さ3.8m・幅6.3mの巨大招き猫を造成しました。これは平成15・16年度に中心市街地活性化推進協議会の部会で構想を練り、平成18年度に宝くじ助成金を活用して整備しました。
 地域活性に携わっていると、やはり人が大事ということを痛感します。常滑市には昨年度から常滑市観光協会常滑支部長に就任された木下幸男さんという方がいらっしゃるのですが、この方はぐいぐい突き進んで周囲を巻き込んでしまう凄い方です。例えば観光マップを作成する際、中部国際空港事業会社に協賛金を求めたところ断られたので、「分かりました。なら空港はマップに載せません。」と言い切ってしまいました。あわてた事業会社から、最終的には協賛金を出したいとお話があった等、色々な逸話があります。

 私は市役所職員になって16年目ですが、3年目の時に上司から「今までの人達と同じことをして仕事をしていると思うなよ!同じことなら誰でもできる!」と言われたことがあります。だからいつも自分だったらどうするか、何ができるかを考えながら仕事に取り組んでいます。

「T-POT」代表取締役 御手洗 照子 氏のお話

御手洗best.jpg 私自身が地域を歩きながら見つけた官・民のキーパーソンのお二人には、多くの共通点があると思います。「町おこしに必要なのは『よそ者、ばか者、若者』と言われるが、これは『客観的に町の良さが分る人、熱い心を持った人、先の見通しを持った人』という意味ではないか」とお話しました。お二人はまさにこれらの要素を内在している方達だと思います。

 そしてもう一つ、あえて岡目八目的なキーパーソンの資質を挙げるとすると、それは「親戚のおばちゃん」目線とでも言いましょうか、地域の人達にまつわる生活の細部にまで関心を持ち、それをよく知っていること、数字に表れない人々の暮らしや考え方にも目配りが出来ていることだと思います。これは地域起こしには不可欠なことで、「神はディテールに宿る」という言葉はこの領域にも言えるのだと思います。

 本日、ご紹介した両者の取り組みは、それぞれの歴史や文化を表に出し、PRする仕掛けにより成功しています。でも、この二つの地域も実はこれからが本当の勝負だと思うのです。まずは仕掛けありきなのですが、その成功は始まりであって終わりではありません。人が地域に魅了されるのは仕掛けではなく、その地域に自然に生まれたものにだからです。なぜならそこにこそ、その地域らしさが一番よく表れるからです。自然でいうところの実生(みしょう:鳥や虫や風が運んできた種子等が発芽して、自然の庭が出来上がる状態)とでも言いましょうか、仕掛けである木々に、鳥や虫の役を担う若者たちを含む様々な人々が集まりその種を運んで行く。種の落ちた場所には新しい芽が出る。例えば手作りの店や工房、作業所ができ、新しい通りが生まれ、輪を広げていく。点が線となり面となる。そういう自然発生した生き生きとした場所こそが地域の一番の魅力になるのだと思います。

 お二人は強烈な個性、熱いハートと行動力を持った仕掛け人ですが、志があれば道は必ず開かれます。実際に動いてみることが大事です。それを皆様に切に願い講義の総括とさせていただきます。ご清聴ありがとうございました。