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「市民の公共」をつくる

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講師:足立千賀子(千葉県助産師会助産師)、小池博幸(我孫子市市民生活部市民活動支援課主査長)、福嶋浩彦(東京財団上席研究員、消費者庁長官、前我孫子市長)※肩書きは当時
講義日:2012年6月2日(土)
文責:週末学校事務局 冨澤太郎

本講義の目的

「公共」とは本来、市民のものである。これまで、「公共」は行政が担うのが当たり前という意識が支配的だったが、近年は「官民連携」や「協働」と呼ばれる取組みが進み、全国に多くの事例がある。そんな中、しばしば見られるのが、コストカット、さらに言えば人件費の抑制を目的とした取組みである。もちろん効率的な行政サービスを目指すのは当然だが、「何のため」、「誰のため」ということが抜け落ちていないだろうか。
本講義では、千葉県我孫子市の市長として、3期12年(1995年~2007年)にわたり、市民自治の理念の下で「民と官の連携」を追求した福嶋浩彦氏を講師に招き、いま一度、公共の本質と、その担い手について考える。
NPO・企業など様々な「市民の主体」と、主権者である市民の意思で動く「市民の政府(自治体)」が真摯に対話し、対等な関係で連携することによって、より豊かな公共を実現するという思想や実践について学ぶ機会とする。
また、講義の後半には、同市の「提案型公共サービス民営化制度*」を通じて、従来、市の保健センターが行ってきたお母さんお父さんへの出産・育児教室「しあわせママパパ学級」を民間に委託した事例を取り上げて議論する。民間の事業者(助産師会)から、事業が「官」から「民」へ移管された当時の様々な問題と、それらをいかにして乗り越えてきたかなど、実際の体験を聞くことで、本来の「民」と「官」の連携の意義や課題についてより深く考える。

講義

【第1部】福嶋浩彦氏による講義

●「主権者市民」、「事業者市民」、「受益者市民」
どの自治体でも、市民と行政が「対等な関係」でパートナーシップを組む「市民協働」ということが言われている。この「市民協働」の「市民」とは誰のことを指しているのか。この言葉がはやり始めたころ、「市民は主権者であり、行政と『対等な関係』で連携するのはおかしい。行政は市民の〈しもべ〉であるべきだ」という批判があった。実は、行政と対等な関係で連携するのは「主権者市民」ではなく、社会のさまざまな分野において事業や活動を行っているNPO、企業、自治会、ボランティア団体など「事業者市民」を指している。つまり、「協働」とは、「主権者市民」によって支配・コントロールされた〈しもべ〉である行政が、「事業者市民」と対等な関係でパートナーシップを組み、「受益者市民」にサービスなどを提供してメリットをもたらす。そして、地域の課題を解決していくということだ。
市民は、3つの立場をみんなが持っている。自治体職員も、選挙の時は「主権者市民」として投票し、週末にボランティアで地域活動に参加すれば「事業者市民」となる。また、地域に暮らしていれば、「受益者市民」として様々なサービスを受け取る。自分が今、どの立場に立っているのかを踏まえ権利や義務を考える必要があり、「協働」という言葉だけが先走りすると、市民と行政の関係が訳の分からないものになる。

●協働は「受益者市民」のために行う
協働とは「事業者市民」と「行政」の2者の関係ではない。2者が連携して働きかける相手である「受益者市民」が一番大事である。例えば、障害者の支援に取り組むNPO法人(事業者市民)と市の障害者支援担当課(行政)が“対等な関係”で連携し、障害のある人(受益者市民)の地域における自立生活をサポートする。これが「協働」だ。
したがって協働は、「事業者市民」と「行政」の2者の利益のためであってはならない。しかし、行政は「NPOと取り組んだ方が安上がりにできる」、NPOは「行政と一緒にやると行政がお金を出してくれる」と、お互いに「協働」を都合良く利用していないだろうか。協働は「受益者市民」のために行うものであり、行政独自でやるよりも、NPOだけでやるよりも、連携してやったほうが「受益者市民」の利益になるから協働するのである。
従って、うまく協働ができているかどうかは、「受益者市民」から評価してもらう必要がある。行政が「わが市のNPOは責任感があり、地域づくりの大きな力だ」と言い、NPOが「うちの市の行政は理解があり、柔軟に対応してくれ、良いパートナーだ」と言い、互いにどんなに褒め合っていても、受益者市民が自分たちのためになっていないと評価したら、良い協働とは言えない。逆に、行政とNPOがどんなに喧嘩しながらやっていても、連携の結果が受益者市民に役に立っていれば、それは良い協働だといえる。

●公共はすべて市民のもの
「新しい公共」という言葉も使われるようになったが、本来、公共すべて市民のものである。そもそも「官の公共」など存在しない。政治家や役所の「公共」など存在させてはいけない。政府・行政は、市民が市民の公共をつくるための道具である。
しかし現実はどうか。これまでの公共は、主権者である市民の意思と乖離した行政が、一方的な決定権を持って公共を支配し、自らの都合で勝手に民間に下請けに出してきたのではないか。下請けに出す量を増やしても「新しい公共」にはならない。
公共は、①自治会、ボランティア、NPOなどが活動する「コミュニティ」、②企業などが活動する「市場」、③コミュニティや市場では提供しづらいものを、市民の税金を使って提供する「行政」― の3つの領域で成り立っている。これを全て新しくする必要がある。
1つには、コミュニティを変える。強くする。そのためには、ボランティアなど自発的な活動をより豊かにするとともに、 事業NPOなど契約に基づいて活動する市民事業者を育てることも重要な課題である。
2つには、市場を変える。企業が社会的責任を果たす市場にする。つまり、その社会に有益な物やサービスを提供することによって企業が収益をあげる市場にする。このような市場に変えていく上で、消費者としての市民の選択が重要な力になる。
3つには、行政を変える。これは、前回の講義で述べた、しっかりと主権者市民の意思に基づき決定や執行を行う「市民の自治体」をつくるということである。
そして、これらを踏まえ、コミュニティ・市場・行政 ― 相互の関係性を変える。市民の意思に基づく市民の自治体が、民間と真摯に対話し、合意した役割分担と適切な連携によって地域を創っていく。これが「市民の公共」であり、「新しい公共」であると考える。

●コスト削減という勘違い。求めるのは質の向上
税金を使って行う行政の事業であっても、それを実施するのは公務員である必要はない。その事業をより良く行える実施主体に発注するのが自治体の役割である。
ただし、「最も安く」実施するところに発注するのではない。より良くというのは、「質」が最も大切なのである。しかし現状は、コスト削減のためにNPOや企業にやらせているというケースが圧倒的に多い。だから、コストは下がったとしても、サービスの質がどうなったか十分な検証がされていない。また、コストが下がったのも、担い手である民間の職員の給与が自治体職員よりも安いためコストが下がっただけ、というものがほとんどだ。これでは、同一労働・同一賃金の原則を行政が先頭に立って壊していることになる。
こんなことはもうやめなければならない。「質」で判断して、民間に任せることが重要だ。もちろんコストを無視するということではなく、費用対効果は厳しく見る必要があるが、根本は市民にとっての質である。質で判断すれば、かなりの部分は民間に移る。結果として行政の総コストが下がるという効果をもたらす。しかし、一つ一つの事業を安上がりにやろうという発想で進めると、いろいろな歪みが生じてしまう。
「質」で実施者を決めるとき、最も高い質でやるのは、企業か、NPOか、行政か、などと抽象議論をしても意味がない。例えば、我孫子市に音楽ホールがあるとしたら、それを市民のために最もよく運営するのは、株式会社音楽企画なのか、NPO法人我孫子市音楽家協会なのか、我孫子市教育委員会文化課のスタッフなのか、あくまで具体的に検討するのである。教育委員会文化課が一番良くやるなら、その場合は直営ということになる。
これは、役所内の会議では決められない。どの分野に民間の力が蓄積されているのか、誰がどんな技術を持っているのか、役所の中では分からない。民間との対話が不可欠だ。

●我孫子市での試み
我孫子市は市の全ての事業・事務(約1,100)の内容や予算(人件費を含む)を公表し、「これは我孫子市役所より私の方が市民のためにより良くやれる」という多様な民営化の提案を募る「提案型公共サービス民営化」を始めた。提案は、外部の専門家や市民で審査する。<行政が民間に出したいもの>ではなく、<民間がやりたいと思うもの>を、市民の利益の観点で審査した上で民間に移すのである。言い方を変えれば、行政の仕事を全てオープンにして、民間の側から民間の手で行政の仕事を奪い取ってもらうのである。
ところで、「質」と言ってもいろいろな「ものさし」がある。例えば、駅前にある行政サービスセンターでの証明書の発行は、通勤者などが多く利用するので、一秒でも速く発行することが大事な「質」となる。しかし、同じ証明書の発行でも、高齢化が進んだ住宅地にある行政サービスセンターでは、高齢者が迷わず、不安やストレスを感じることなく、必要な書類を手に入れることが大事な「質」となる。
つまり、求められる「質」は様々である。役所は、行政の視点で「質」を決めつけようとする傾向にあるが、受益者市民の視点で「質」を考えることが大切だ。質を測る「ものさし」を行政が決めたうえで「質」の競争をするのではなく、質を測る「ものさし」自体を、民間の発想で自由に提案してもらうことが重要だと考える。
民営化を進めると「行政にノウハウの蓄積がなくなる」と懸念する声も聞く。まず大切なのは、社会全体として、そうしたノウハウを有していくことだ。しかしながら、行政としてもノウハウを有しておきたいというのはよくわかる。その点では、公務員の人材登用そのものを変えていくことになるのではないか。これまでの採用は新卒者が多かったが、これからは、民間(企業やNPOなど)で経験を持った人材に行政へ入ってきてもらう割合が増えるだろう。それにより行政としても、社会全体としても、ノウハウを蓄積していくことが可能となるはずだ。従来の公務員とともに多様な人材が、行政の立場からも「公共」を担っていくことになるだろう。

【第2部】パネルディスカッション
講義の後半からは、小池博幸(我孫子市市民生活部市民活動支援課主査長)と足立千賀子(千葉県助産師会助産師)にも登壇いただき、実際に「提案型公共サービス民営化制度」を通じて、事業が「官」から「民」へ移管された際の課題や、それらをいかにして乗り越えてきたかなど、実際の体験を聞いた。

● 「民」と「官」の対話から見えてくる成果と課題・・・小池博幸(我孫子市市民生活部市民活動支援課主査長)
前述のとおり、平成17年度から我孫子市では全事業・事務の内容(人件費を含む)を公表し、民間から委託をはじめとした多様な民営化の提案を募る「提案型公共サービス民営化制度」を実施してきた。公共における「官」と「民」の役割分担を根本的に見直すことで、市民にとってより充実した質の高いサービスの展開を目指している。
「市民事業者」が民営化の提案をするにあたり、公開されている事業内容を見るだけでは、具体的に自治体がどのような業務をどのように実施しているのか分からない。そのため、同制度を利用して、いきなり提案をすることは容易なことではないことを踏まえ、提案を検討している事業者と関係する担当課が事前に相談や協議をするようにしている。市民活動支援課として、実際にNPOと提案にむけた相談や協議をしてきた経験をもとに、同制度の成果と課題についてお話したい。
まず、大きな成果としては、①NPOの意識の変更、②民営化の促進、③事業(サービス)の質の向上・コストの削減があげられる。特にNPOの職員たちの間で「自らが公共サービスを担う、またその担い手を育成していく」という意識が高まった。また、同制度を通じて、コミュニティ・ビジネス支援事業の委託を受けていたNPOが独自財源によって事業を継続することとなり民営化が進んだ。このように民間(企業やNPO)が得意とする分野において、これまで行政になかった新たな発想で事業が実施されることで質の向上が図れたと同時にコストの削減にもつながった。
課題については、「事業者市民」と「行政」に分けて整理したい。まず、「事業者市民」については、担い手不足が大きな課題だといえる。既存事業の実施に手一杯であり、新規事業を始めるインセンティブは高くない。また、これまでの担い手の高齢化が進んでおり、担い手が減っているのも現状だ。
年々、質の良くない提案が増えているように感じている。提案について事前に市と協議することをお願いしているが、いきなりの申請で申請書の記載内容が行政への批判であるものもあった。「事業者市民」側の同制度の意義に対する理解にも課題があると考えている。
行政については、職員の意識が大きな課題だ。相談に来た市民や民間団体からは「担当課の協力する意思が希薄で積極性が感じられない」という声が聞かれた。また、複数の課にまたがった事業を統合する形での提案があったが、行政の都合によって内部での調整がつかず、結果的に「保留」となり委託・民営化にならなかったこともあった。
福嶋氏の話にもあったが、職員に対して実施した同制度に関するアンケートには、「民営化を進めると行政にノウハウの蓄積が無くなってしまう」と懸念する意見があった。特に専門職の職員からはこうした懸念や抵抗感があるように思う。しかし、私個人としては「民営化」を進めることで、蓄積が無くなるということはないと考えている。おそらく「行政の蓄積」ではない別の形で「社会全体の蓄積」となっていくのではないだろうか。

●受け手である受益者の満足によって、自分達の取り組みは続いてきた・・・足立千賀子(千葉県助産師会助産師)
「提案型公共サービス民営化制度」を通じて、従来、市の保健センターが行ってきた子育て初心者向けのお母さんお父さんへの出産・育児教室「しあわせママパパ学級」という事業を5年にわたり、受託してきた。その経験をもとに、事業の担い手側としての意見を交えてお話したい。
助産師と聞くと病院に勤務する助産師を思い浮かべるかもしれないが、地域で出産や保健指導を行っている助産師もたくさんいる。地域で活動する助産師は、従来、自治体の実施するプログラムを一部受託し、講師として一時間程度の講義に参加するのが通常である。自治体によって予め決められたプログラム内容であるため、助産師は意見することができず、母子のために何かをやりたいという思いは実現できないでいた。市が次年度の事業計画を行う際も、助産師の意見は求められずに、次年度のプログラム内容が一方的に通知されるものだった。千葉県のある自治体の保健師に対して、私が意見を言った際には、「あなたは意見を言う立場に無い。やりたくなければ関わらなくても良い」と言われたこともあった。せっかく思いがあり、専門的な技術や知識を兼ね備えている助産師という人材を活かしきれていない現状に対して、「もったいない、どうにか地域の母子のために活動できるようにしたい」と考えていた。

このような問題意識をもっていたところに、我孫子市保健福祉部の職員の方から「提案型公共サービス民営化制度」について紹介があり、ぜひ提案してみないかと声をかけていただいた。この話を受けて、助産師が本当にやりたいことを実現させたいと思った。早速、事業提案をすることに賛同してくれた助産師会の助産師、栄養士などのメンバーで集まり、提案企画を考えた。
企画会議を経て、市との打ち合わせに臨んだが、何か違和感があった。最初は慣れないことによる違和感かと思っていたが、徐々に市の職員に「自分達の仕事を手放したくない」という意識があるからということが分かってきた。「できれば前のとおりにやってほしい」と言われ、私達が一生懸命つくった新しい企画は否定されてしまった。これを受けて、「自分達のやりたいことはできない。前と何も変わらない」と言って、企画に参加してくれたメンバーの何人かが辞めてしまった。後日、市の管理職職員にクレームの電話をした。「担当者は何も分かっていない。市の管理職と事業担当者の意識にギャップがありすぎるのではないか」とストレートに意見をぶつけたこともあった。こうしたやり取りを経て、辞めてしまったメンバーの代わりとなる新しいメンバーを募り、市と協議を続けた。様々な苦労を乗り越えて、採用が決まったときは本当に嬉しかった。
やはり行政と民間団体の双方、お互いに理解しようという気持ちが大切なのだろう。前述のように「手放したくない」という姿勢を露骨に示す職員は一部であり、多くの職員が複雑な思いの中で、自らの担当事業を委ねている。そうした気持ちを感じる中で、私は「助産師会にお願いしてよかった」と言ってもらえるように頑張ろうと思った。
一度受けたものについて責任をもって取り組むことは当然だが、助産師会はいつでもこの事業を辞める自由があると考えている。受け手の受益者や担い手である自分達が満足して実施できない条件になった場合は、無理をして継続する必要はない。助産師会のメンバーには、次年度も事業を継続するかどうか、毎年必ず意思確認をするようにしている。
担い手に辞める自由があると同時に、行政にも辞めさせる自由があるのではないか。どちらに拒否権があるというものではなく、まさに「対等な関係」において、住民にとって必要なことをするためにはどのようにするのが良いのかを考えていくことが重要だ。
実際に事業に取り組むにあたっても様々な困難があったが、やはり私達がこの事業を投げ出さずに続けることができたのは、受益者の方々がとても満足していたからだ。「単なる知識ではなく、知恵ややり方を実践的に学べるので満足している」という声がたくさんあった。また、担い手である助産師もやりがいを感じることができた。「我孫子市の母親学級は楽しい!」という助産師の声も聞くようになった。
制度を通じてやらせてもらうとはいえ、結局は人と人との関わり合いだ。お互いに「歩み寄りたい」という姿勢がなければ事業がうまくいくはずがない。私たちに嫌なことを言ってきた保健師に対しても挨拶をするなど、丁寧に接することを心がけてきた。
地域には様々な人材がいる。そうした人材が地域のために動けるようにするためにも、人と人とのかかわりを丁寧にして、様々な人とつながっていってほしい。

研修生の声

研修生は、役所の都合と理屈で市民に何かをさせることが「協働」ではないことを再確認し、受益者市民のために「民」と連携することが「協働」の本来の意義であることを学ぶことができた。
講師3名全員から何よりも職員の意識が重要であるという話があった。自治体職員が「民」の担い手に委ねることは、自らが一生懸命に取り組んできたことを否定することにもつながり、抵抗感を感じることがあるかもしれない。しかし、常日頃からそもそも何のために、誰のために実施するのか考えていれば、おのずと受益者市民のためになることが実施されるようになるのだろう。
事業の担い手を考えるうえで、やはり市民との対話が欠かせない。足立氏の言葉にもあったように「人とのかかわりを丁寧に、大切にすること」というメッセージが多くの研修生の心に響いたようだ。机上の書類や役所の法律・制度ではなく、常に人と向き合っているということを意識し、日々の仕事に取り組んでいくことだろう。

関連レポート

2012年度
・ 「自治をつくる」 福嶋浩彦(レポート)
・ 「自治をつくる」(動画)
・ 「『市民の公共』をつくる」 足立千賀子、小池博幸、福嶋浩彦(動画)

2011年度
・ 「官民連携の現場から」 (レポート)

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