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官民連携の現場から

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講師:足立千賀子(千葉県助産師会助産師)、小池博幸(我孫子市市民生活部市民活動支援課 主査長)、新保寛子(我孫子市 前健康福祉部長)、山下浩二(高浜市行政管理部 主幹)
講義日:2011年6月4日(土)
文責:週末学校事務局 稲垣亜希子

本講義の目的

本講義では、独自の官民連携事業を実施してきた自治体職員と民間事業者を講師に招き、行政側から見た「民との連携」の難しい点や、受益者である市民の声などを、現場の視点から紹介する。
「公共の担い手は多様である」とは言うものの、行政サービスの民営化が進むことで、サービスの質は低下するのではないか、やはりコストカットが本旨なのではないか、といった行政側が拭いきれないもやもや感に対し、実際に現場で問題に直面し、民間事業者や住民と共に乗り越えてきた行政職員の体験を聞き、「官民連携」の真の意義について学ぶ機会とする。

講義の第1部では、千葉県我孫子市の提案型公共サービス民営化事業、および愛知県高浜市の高浜市総合サービス株式会社について、それぞれの現状や課題について聞く。形式も内容も異なるが、「官民連携」の事例として取り上げられることが多い両制度の、教科書では紹介されることのない面に焦点を当てる。
第2部では、パネルディスカッション形式で、第1部の講師のほか、福嶋浩彦氏の講義で紹介された千葉県我孫子市の「しあわせママパパ学級」が、官から民へ移行した際の双方の当事者にも加わっていただき、現場で直面した様々な問題と、それらをいかにして乗り越えてきたかと言う率直な「現場の声」を聞く。

講義

[第1部:我孫子市と高浜市の官民連携について]
●提案型公共サービス民営化事業の現状と課題 
提案型公共サービス民営化事業とは、千葉県我孫子市のすべての事業(人件費を含む)を公表し、民間から委託・民営化の提案を募る制度。公共における「官」と「民」の役割分担を根本的に見直し、市民にとってより充実した質の高いサービスの展開を目指している。講師として、市民活動支援課で長年同事業に携わってきている小池博幸氏をお招きした。

<課題・苦労した点>
行政側の課題として、①職員に「自分の仕事が取られてしまう」との意識があること、②市役所の敷居が高いことの二点が挙げられる。①官民連携と聞くと、「民間に委託・民営化すると、自分たちの仕事が取られてしまう」と感じ、拒絶反応を示す職員がいるのが現実である。事業を委託・民営化する場合には、余剰となる職員をきちんと処遇するということを予めきちんと示しておくことが重要である。実際のところ、事業が一つ委託・民営化されたところで、業務は他にもたくさんあり、職員が余ってしまうなどと言うことは起こり得ない。また、②市役所の敷居が高いというのは住民から見てどこに何を聞いたらわからないということが大きい。加えて、市役所の総務課などは、住民が普段訪れない部署であり、気楽に足を運べる雰囲気ではない。そこで対策として、市民活動支援課の職員が提案者と共に動き、行政側と民間側のコーディネーター的役割を務めるなどの工夫をしている。

次に民間側の課題として、①提案内容の質が必ずしも期待していたレベルに達していないことこと、②提案者が行政に過度な期待を持ってしまうこと、③提案側の意識が行政に依存する面が強いこと、④提案件数が年々減少していることの四点が挙げられる。①と②は連関しあうのだが、本制度では、私たち市民活動支援課の職員が、民間の提案者とともに提案を作りこむ作業を行うため、応募に至った時点で必ず採用されると言う期待を提案者側は持ってしまいがちである。このため、提案が採用されず、クレームを受けたことも一度や二度ではない。しかし、事業の目的を達成できないレベルの提案は、サービスの質を落とすことになるため、採用できない。私たち市民活動支援課の職員が、民間事業者が実施を希望している事業についてきちんと説明をしても、事業者の中には事業の内容さえも理解しない方もいる。何度説明しても理解されず、やむを得ずそのまま提案を提出することになるのだが、これでは採用されるに至らない。③提案者自身に「行政の下請け」と言う意識、つまり、行政が言う通りやっていれば自分たちはよいと思っていることも多々あり、行政側と民間側、双方の「官民連携」に対する意識が十分でないことが分かる。その結果、本事業は、昨年度までに3回募集を行ってきたが、④年々提案数が減少している。

<本制度を経て、完全に民営化した事例>
平成18年3月に実施した第1次募集の際、市内のNPOから「コミュニティビジネスの起業講座」、ならびに「NPOの運営力を高める講座」を実施する提案があり、採用された。その後、同NPOは自主財源で同講座を実施できるようになったため、市の事業としては廃止になった。同講座は現在もNPOの自主事業として継続実施されている。

<我孫子市の今後の方針>
我孫子市は今後も提案型公共サービス民営化事業を継続していく方針。同時に、公共の担い手となるNPO等の民間事業者の支援も展開していく。この点が他の自治体には見られない、我孫子市の官民連携事業の特長である。「制度の存在」と「民間事業者の数の拡大と質の向上に対する支援」、この両輪で今後も我孫子市の公共をつくっていきたい。
加えて、職員の意識を変えていくことも非常に重要である。数年前から、新人研修の一環として、市の事業を取り上げて、本来の事業主が官であるべきか、民であるべきか、もしくは官民連携で実施するべきか、と仕分けるワークショップを開催するなど、職員の意識改革に積極的に取り組んでいる。

 

●高浜市総合サービス株式会社の役割と課題
高浜市総合サービス株式会社(以下、「総合サービス」)は、平成7年に高浜市が100%出資して設立されて以来、「官」である高浜市が実施してきた公共サービスを、「民」の立場から担ってきた。現在は、高浜市役所の窓口業務などを一手に引き受けているが、一方で、同社が「一社随契」の対象となることに対し、説明責任を求められる機会が増えてきている。講師には、森貞述前市長の秘書として、同市長の市政を支えてきた山下浩二氏をお招きした。山下氏は今年3月まで3年間、総合サービスの総務課長として市から出向していた。

<総合サービスの役割>
総合サービスは、元はと言えば市の職員数削減を目的として設立された会社であった。総合サービスが設立された平成7年当時、高浜市の職員数は359名。他の自治体と比較して、平均より少し多い程度であったが、その内、技能労務職に就く職員(大半が50歳代の給食調理員)が40名いた。市税に占める人件費の割合を低くするべく、給食サービスを民間委託しようという話になった。しかし、当時、高浜市には委託先がなかったため、同社設立に至ったものである。当初の目的であった技能労務職の人数削減は、平成11年頃までに達成された。なお、突然総合サービスに転籍した訳ではなく、緩やかな移行だったため、職員からの反発もなかった。
森・前市長が、①公共サービスは市役所が独占するべきではなく、民間の担い手と分担するべき、②地域でお金を回す仕組みを作る必要があるとの方針だったことから、総合サービスに市役所のパートナーとしての役割を担わせることにし、公共の担い手の一つとして新たに生まれ変わらせることにした。

<総合サービスが担う公共の例>
1.障害者の雇用
平成12年に介護保険制度が導入された際、総合サービスとして何が出来るか、養護学校や福祉団体等、関係者とよく協議した。その結果、フルタイムで働くことが出来ないために、企業では雇用できない障害者の存在が浮き彫りとなった。2時間ずつしか働けない方を4人雇えば、1人がフルタイム8時間働いた分の仕事が出来ることになる。そう考え、総合サービスで障害者の雇用を進めることにした。一般の企業は法定雇用率以上の人数を雇うことはなかなかできないが、総合サービスにはそんな制約もない。市が100%出資している会社なので、専門的な知識や意見が必要なときは、市の担当部署に相談したり、関連団体に協力してもらうことも容易であり、総合サービスの利点を活かせている。

2.市役所の窓口業務
平成12年から市役所の窓口業務を請け負ってきている。窓口業務を受託するに当たり、まず議論となったのが、「公務員がやるべき仕事はどこまでなのか」であった。窓口業務に関して言えば、証明書の発行者は首長であり、発行するかしないかの判断は公務員に委ねられている。であるならば、申請を受け付けることや実際の発行手続きを行うのは公務員である必要はない、と考え、早速市長と共に、国、県、地元の労働局に赴いて相談をした。初めは、そんな話は聞いたことがないと呆れられたが、窓口業務の担当者が公務員でなければならないとは、地方自治法 に明記されていないことを逆手にとって主張した(制定当初は公務員以外が窓口業務を行うことを想定していないので、明記されていないのは当たり前なのだが)。当時は国が三位一体改革を進めていたこともあり、事業を開始することが出来た。
次に、窓口業務の担当者として、女性の活用を考えた。高浜市には結婚を機に退職して育児に専念している女性が数多くいることに気付いた。彼女たちが働ける時間は、子どもが学校に行っている時間に限られていたが、その時間帯は、ちょうど窓口を開設している時間帯にぴたりとはまったのである。地域で雇用を生み出したことで、森市長のもう一つの目標であった、高浜市内でお金を回す仕組みが一つできたことになる。
導入から10年以上経ったが、総合サービスによる窓口業務は、市民から非常に評判が良い。窓口対応をサービス業とみなして対応したことで、市民からは好評を得ることができたと考えている。

<総合サービスの「問題点」:随意契約>
昨年の事業仕分けでも指摘されたことだが、各種事業を随意契約で継続していることが問題だとして、高浜市は総合サービスありきで民間委託を進めているのではないかと非難されることが多い。しかし、現実には高浜市の業務委託先は、①社会福祉協議会、②シルバー人材センター、③まちづくり協議会、④NPO、⑤総合サービス、の5つ。これに市役所を含めた6つの組織のうち、いずれが公共サービスの担い手として最適か、と言うことを考えながら各事業を実施している。総合サービスが受託している事業は、一部に過ぎない。
実際に総合サービスが随意契約で実施しているのは窓口業務と給食サービス事業のみ 。その他の事業は、すべて入札形式でやっている。ちなみにシルバー人材センターやまちづくり協議会などの、市から業務委託を受けている他の団体は、全て随意契約である。

窓口業務が随意契約になっている理由は、総合サービスと同等の専門スキルを持っている団体が他にないから、と言う単純なものである。給食サービスに関しては、総合サービスのみがアレルギー食への対応が出来るから、と言うもの。高浜市は自校方式(学校ごとに給食を作る方式)を採用しているため、各校に1~2名しかいない児童用にアレルギー食を作ることは、民間事業者からすればコストが合わず、ライバルがいないのが現状なのである。
そもそも「明らかに地域にとって利益があると認められるのであれば、随意契約でもよい」 と言う最高裁判所の判例もあり、問題であると認識していない。今後も総合サービスは、①地域で雇用を生むこと、②採算度外視の事業も出来ること、を特長としてきちんと掲げ、市民にも説明しながら事業を進めていくこととしたい。

 

[第2部:パネルディスカッション]
第1部に登壇した小池氏と山下氏に加え、我孫子市の「しあわせママパパ学級」の実施主体が官から民へ移行された際、現場を経験された新保寛子氏と足立千賀子氏を交えて、パネルディスカッションを行った。新保氏は保健師として、長年我孫子市民の健康づくりに励んできた。健康福祉部長を最後に、今年3月に我孫子市役所を退職されている。足立氏は千葉県助産師会の助産師として、長年我孫子市や周辺地域の母子保健に携わってきている。モデレーターは東京財団研究員兼政策プロデューサーの亀井が務めた。

亀井: 本日午前中の講義で、「官民連携」について色々と話し合ったわけだが、そもそも「官民連携」とは何か、と言うことがはっきりしていない。我孫子市も高浜市も、首長の強力なリーダーシップの下、それぞれの制度が推進されてきたのは事実である。しかし官民連携を進めるに当たって、重要なのは首長の存在だけだろうか。まさに現場を担う職員は、どのような役割を果たすべきか、その際に大切なことは何だろうか。

小池: 我孫子市で言えば、福嶋氏のリーダーシップが大きかったことは事実である。でも、それに職員が引っ張られて従っていただけかと言えば、そうでもない。そもそも福嶋氏は、「市民自治のまちづくり」を方針に掲げて市長に就任し、それを達成するために「市民との共働のまちづくり」を推進してきた。そのための手段として、様々な施策が打ち出されていくなかで、職員の意識も徐々に変わってきたと思う。具体的には、各種事業の実施に当たり、当該事業を官がやるべきか民がやるべきか、と言うことを考えるようになった。また、事務事業評価を実施しているが、全ての事業に対し、民との共働が可能か等、検討する項目が設けられている。そんな流れで先ほど紹介した提案型の制度が作られて、職員に受け入れられ、実行されてきている。提案型の制度は、福嶋氏が市長に就任した直後からあった制度ではなく、実は退任する直前に導入された制度である。決して福嶋氏のトップダウンではなかったことがお分かりいただけると思う。

山下: テクニカルなことを言うと、官民共働の際に最も大切なことは、双方が対等な関係にあること。高浜市ではそこの部分を担保するため、高浜市と民間事業者の間で必ず契約を結ぶことにしている。
私たち自治体職員の心がけとして大切なのは、「タイミングを逃さないこと」と「試しにやってみること」だと思っている。何かを始めるときに、様々な関係者に細かく根回ししていたらタイミングを逃す。私たちは常に腹の中に色々なアイディアを温めておき、タイミングが合った時にすぐに出せるようにしておく必要がある。高浜市の例で言えば、介護保険制度の導入を契機に、社会福祉協議会との連携を開始したわけだが、正直言って見切り発車だった部分はある。また、総合サービスで窓口業務を開始した際も、綿密な下調べをして入念に準備をしたわけではなかった。いずれも、時流を逃さないことの方が大事だったと考えている。また、高浜市では実は我孫子市の提案型公共サービス民営化制度を真似して導入してみたことがあるのだが、高浜市には馴染まなかったためにすぐにやめた。「タイミングを逃さないこと」と「試しにやってみること」は、いずれも上層部の理解がないとなかなか難しいのは事実だが、アイディアをより持っているのは現場で働く職員である。上層部の理解を取り付けて、後はどんどん自分のアイディアで進めていこう。

新保: 何よりも職員の資質が大切。官民連携の担当者に限った話でなく、公共を担う者として自治体職員は全員、「生活者の視点」を持って仕事をする必要がある。

亀井: 皆さんのお話から、現場を知っていること、日頃から自分の中で企画を温めておくことの大切さが分かった。いずれも「制度ありき」ではない、と言うことが共通しているように思う。また新保さんがおっしゃった「生活者の視点」を持つことは、非常に重要なポイントであると感じた。
それでは次に具体例として、我孫子市で「しあわせママパパ学級」を開始するときのお話を伺いたい。実際に新しいことを始めるとなれば、それぞれの立場で様々な葛藤があったことだろう。足立さんと新保さんに、当初どういうことに戸惑ったかなど、それぞれのお立場でお聞かせ願いたい。

新保: 先ほどの山下さんの話にも出てきたが、平成12年に介護保険制度が導入されることになり、私たち保健師の業務内容は様変わりし、仕事量も急増した。市職員はみなそうだが、私たち専門職は特に、自身の役割にプライドを持って仕事をしている。だからこそ、ママパパ学級を民間委託すると言う話があった際は、自分たちの仕事を民間に委ねることに強い反発が、私自身にもあったことは事実である。本来は市職員として自分たちが、我孫子市の母子に対する継続的なサポートをしていくことが必要であると考えていたし、また私たち自身そうしたいと言う思いを持っていた。一方で、他の業務にも忙殺され、なかなかそれが適わないと言うジレンマに苦しんでいたときに、思い浮かんだのが足立さんだった。足立さんたちならば、ママパパ学級の仕事を責任を持って引き受けてもらえるだろうし、私たちよりも質の高い事業を実施してもらえるだろう。何の曇りもなくそう思え、すぐに足立さんに連絡をした。

足立: 「足立さんたちならば」と言ってもらえて何やら面映い。新保さんより提案が来たときは、地域の母子保健に携わる身として、胸躍る嬉しさを感じたことを良く覚えている。それまでもママパパ学級で講義をする機会はあったが、市が企画したものの一部分を依頼されただけであり、継続性のないものばかりだった。しかしその時の我孫子市からの提案は、全てを一から自分たちで展開できると言う嬉しさがあった。

一方、実際に事業を引き継ぐ段階になると、事業を譲る方(官)も譲られる方(民)も、双方初めての経験であり、情報の受け渡しなど、色々と難航した。もちろん新保さんは官民連携事業の真の意義を理解されていたからこそ、ママパパ学級の民間委託を決断したのだと思うが、現場の保健師さんたちからは、「上の人たちが決めたことだから仕方ないとは言え、本当は自分たちがこの事業をやりたい、助産師には渡したくない」という意識がひしひしと伝わってきた。「あわよくば事業を取り戻したいと思っていた。あなたたち(助産師たち)が、『もうできない、事業をお返しする』と言い出すのを待っていた」という発言まであった。事業を開始して3年目から、ようやく互いに信頼しあって円滑に事業を進めることが出来るようになった。今になってみれば、事業に対するそれだけの想いが保健師さんたちにもあったからこその態度だったと理解できるが、当初は「そもそも市側が提案してきた事業なのにも関わらずなぜだろう、現場の保健師さんたちは、官民連携の制度の趣旨を全く理解していないのではないか」、そう感じていた。

新保: そこまでとは知らなかったが、私自身も市役所の中で随分バッシングにあっていた。なかなか現場の職員とまで意志の疎通を図ることは実際出来なかったが、上司や私の周りにいた職員十数人とは事業の趣旨についてよく話し合い、理解をしてもらっていた。

亀井: スムーズに事業が回るようになってからのことばかりが語られがちだが、やはり現実には導入当初は様々な葛藤があったことが分かる。そうしたなか、何より大切なのは立場を越えた信頼関係であり、最後は住民にとってよりよいものを作り上げるというお互いの使命感だろう。
次に伺いたいのは、そうは言っても官民連携事業をやっていて良かったと思うところはどんなところか。公共にとっての果実と、もしあれば自分自身にとっての果実、それぞれお聞かせ願いたい。

山下: 総合サービス、他の民間企業、NPO、社団法人等、どこの組織が受益者である高浜市民にとって、最も有益な事業を実施できるか、と言うことを考えて選択できるようになったことは、高浜市にとって明らかな収穫であろう。ただ、公を担う民間事業者の数の拡大と質の向上がまだまだ必要である現状を鑑みると、市職員が民間団体のお手伝いをしたり、夜の会合に出席したり等々、(コミュニケーションコストと言う概念があるならば)「共働」はまだ当面コスト高になるだろうと考えている。

小池: 提案型サービスが全ての事業の予算を人件費も含めて公開することで、官側の透明性が高まったと言える。その結果、官と民の距離が縮まったと感じている。このことはまさに我孫子市にとっての果実と言えよう。また「提案型」という形を取ったことで、官民双方が「公共を担うのは誰なのか」と言うことを考えられるようになったという気がしている。自分自身の果実、と思えることは正直なところないのだが、市の事業を完全に民間化し、市の事業としては完全に廃止できたこと(先述の事例)は、「市民自治によるまちづくり」に寄与できたと言えるかもしれない。

新保: まさに足立さんたちにめぐり合えたことが、我孫子市にとっての大きな果実だと思っている。質の高い事業を実施してもらえることに疑いがないから。

足立: 私たち助産師にとっては、母子保健に対する知識、技術、最新情報を我孫子市のお母様方に提供できていることが、何よりの果実。また個人的には、他の自治体では出来ないことを我孫子市でできている、という満足感が非常に大きい。他の地域の助産師会からも、事業を手伝わせて欲しいと言うオファーがたくさんあるくらい、我々専門団体にとってはやりがいのある事業である。

亀井: 最後に、現在の最大の課題は何か、そしてそれをどう乗り越えようと考えているか。

新保: 事業を民間委託したからと言って、市の職員は事業の実施を任せっぱなしにしてはいけない。例えば福祉関係部署の職員であれば、あくまでも市民の健康を守る立場として、民間事業者に市の事業を任せるリスクをきちんと認識しておく必要がある。また、民間事業者が現場で把握したことを、我々行政側ともシェアしてもらえるよう、民間事業者との連携を上手に行わなければならない。

小池: やはり官と民、両方の意識を高めていくこと、すなわち「公共の担い手が誰であるか」を常に考えてもらうことが重要である。そのためには、まずは職員が地域にどんどん入って行って、市民と対話するべき。そうすれば市民の意識もおのずと変わってくるだろう。

山下: 官民連携事業に限ったことではないが、私たち行政職員の仕事は本来、「いいアイディアを出すこと」であって、日々のルーティンワークをこなすことではない。誤解を恐れずに言えば、毎日「いかに早く帰るか」を考えるとよい。ルーティンワークに追われて残業して疲れていては、いいアイディアなんて浮かぶわけがない。行政職員はみな、その自覚を持って、毎日早く帰りましょう(笑)。

亀井: 本講義を通じて感じたことは、結局なにごとも制度ありきではないということ。生活者の視点を持って、この事業は官がやるべきか、民がやるべきか、と前提条件なしで見ることが大切だと感じた。本日はありがとうございました。

研修生の声

新保氏の「行政職員は自身の仕事にプライドを持っていて、他人に渡すことに抵抗がある」という発言は、「自分も『この事業は自分にしかできない』という意識を持って、仕事を抱えている部分が少なからずある」と、研修生にとっては共感できる部分が多かったようだ。行政側の意識の壁はまだまだ高いと感じた。一方で、民間事業者が責任と情熱を持って事業の実施に当たっていることが分かったことも、研修生にとって大きな収穫だったと見受けられた。
本講義の目的は、官民連携の「成功事例」と言われるものを紹介することではなく、「そうは言っても実際のところどうなんだろう」というもやもやした部分に切り込むことに主眼を置いた。講師が率直に事業の導入に至るまでの話をしてくださったことで、行政側の葛藤、民間側の戸惑い、いずれもくっきりと浮かび上がった。これまで公を独占してきた行政は、自身の仕事が「誰のため」の仕事なのか、と言うことを常に考えて日々の業務に当たる必要がある。「誰のため」に仕事をしているのか、それを考えれば官民連携は決して難しいことではない、そう感じられる講義だった。

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2011年度
・ 「官民連携の現場から」 (動画)