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課題発見と課題解決

キーワード:

講師:内田和成(早稲田大学ビジネススクール教授)
講義日:2012年5月20日(日)
文責:週末学校事務局 冨澤太郎

本講義の目的

地域を取り巻く「課題」と呼ばれるものはたくさんある。あなたは数ある課題の中から、自分が取り組むべき課題を選び、その解決に取り組んでいるだろう。しかしあなたが課題だと思っていることは、果たして本当の課題なのだろうか。それよりももっと大切な課題はないのだろうか。実はそれは課題によって引き起こされている事象に過ぎないのではないだろうか。
また、課題と言うと、自分の手には負えないとてつもなく大きな課題を挙げる人もいる。解決できない課題をいくら並べても、その解決に着手できないようでは住民のためにはならない。
自治体であっても企業であっても、本当の課題を見出すことは実は難しい。本当の課題を見出せないがゆえに、せっかくの努力が無駄に終わってしまっている事例はいくらでもある。本講義では、課題解決のプロとして実際の現場で活躍してきた内田和成氏に、問題の本質を見極めるための思考方法について学ぶ。後半はケーススタディを交え、実践的なトレーニングを行う。

講義

●あなたは「仕事ができる人」か
皆さんは「仕事ができる人」と聞いて、どんな人をイメージするだろうか。
データ入力が速くて、資料作成が的確な人を思い浮かべるかも知れない。もちろん速く的確に物事を進めることは重要である。しかし、エクセルの入力が速い人や色鮮やかなパワーポイント資料を作れる人が「仕事ができる人」とはいえない。なぜならば、テクノロジーの発展に伴い、作業の方法は大きく変わるからだ。パソコンやスマートフォンが良い例だろう。また、組織においては、人件費のかからない若い社員が新しい方法を習得し、作業をした方が効率的である。つまり、作業が早いだけでは簡単に若い人に置き換えられてしまう。
また、課題を解決する力を持っている人が「仕事のできる人」と思い浮かべた人もいるかもしれないが、それだけでは十分ではない。解決に取り組む課題を誤ると、どんなに作業が早く、解決する能力があったとしても、いつまで経っても課題を解決することはできない。何かを達成するためには、与えられた課題を解決するだけでなく、解決するべき課題を見つけることが重要なのだ。
つまり、「仕事ができる」ということは、課題を発見する力があることだと私は考える。ピーター・ドラッカーの言葉を借りれば、「経営における最も重大なあやまちは、間違った答えをだすことではなく、間違った問いに答えることだ。」ありとあらゆる仕事において、真の課題に気づく力こそ、最も必要なことだろう。

●間違った問いに取り組んでも、課題は解決しない
課題解決に取り組む上で、よく起こる間違いは単なる現象を課題と捉えることだ。日常生活に近い事例で考えてみたい。近所に経営不振に陥ったレストランがあるとしよう。そのレストランの課題は何か尋ねたところ、お客さんからは以下のコメントがあったという。

  • 味がまずい
  • 行くのに不便
  • 駐車場がない
  • 内装のセンスが悪い
  • 価格が高い
  • 店主の態度が悪い

これらは一見課題のように見えるが、実は単なる現象や観察事実にすぎない。内装のセンスが悪く、店主の態度が悪くても、料理が美味しいために行列ができるお店はある。また、それほど美味しいわけではなくても、アクセスがよく、価格もリーズナブルで、いつも賑わっているというお店もある。
上記の現象だけをもって、このレストランの課題を解決することはできない。大事なことは、その奥にある「論点」(真の課題)に気がつくことだ。例えば、現象や観察事実から一段踏み込んで、「価格の割りにまずいのでリピート客が来ない」、「車で行かないと不便な場所にあるのに駐車場がない」などといった「論点」を考えなくてはならない。
「論点」として様々な課題が見えてくるが、全てを解決することはできない。全てを解決しようとすると解決策に矛盾すら生じることもある。解決に必要なリソースの問題もある。スジの良し悪しや優先順位をつけ、ある状況における最も解決するべき課題を予め見極めることが重要だといえよう。

「論点」を考えるうえで、2つのことに気をつけてほしい。1つ目は、時間と状況によって「論点」は変わるということだ。状況が変われば、課題を見出す問いも当然変わってくる。例えば、ある自動車製造会社が需要に対して生産が追いつかないため、いかにして生産台数を増やすかということが課題であった。しかし、景気低迷やリコール問題などをきっかけに、突然需要が減ったことで、この会社が解決するべき課題は大きく変わった。また、自治体や政府においては、東日本大震災の前と後では、解決するべき課題が激変したことを皆さんは日々実感していることだろう。
そして、2つ目は、立場によって「論点」は異なるということだ。例えば、ある電子機器メーカー会社において、国内事業担当者と海外事業担当者の置かれている状況は異なる。国内においてはブランド力がある会社であれば、国内事業担当者にとっては、「いかに新たな商品を開発するか」が課題だ。その一方で、同じ会社でも海外におけるブランド認知度が低い場合には、海外事業担当者にとって、「いかにブランド力を上げるか」が課題となる。また、同じ会社においても、役員、課長、20代の社員ではそれぞれの立場や役割が異なるため、解決するべき課題は当然異なってくる。

●課題を見極める力を身に付けるためには、「意識的に」経験を積むしかない
解決するべき課題を見極めることが重要であることを述べてきたが、ではどうしたら課題を見極める力が身に付くのか。一言で言えば「経験」しかない。ただし、「意識的に」経験することが重要だ。
まずは、どんな課題があるのか考え、当たりをつけることだ。経験を通じて「スジの良し悪し」というものを肌感覚で身につけることを意識してほしい。「スジの良し悪し」には、①答えがあるかないか(解決できるのか)、②やったことのインパクト(効果の大きさ)、③実現可能性(実行できるのか)の3つの要素がある。例えば、数学のテストで8つの問題あり、最初の問題は簡単で配点が低く、徐々に難易度が上がり、配点が高くなるというものだったとしよう。一番難しい問題から取り組んで、その一問に時間をかけすぎて、ほとんどの問題を解くことができずにテストを終えることは避けたい。皆さんは、最初に簡単で配点が低い問題を速やかに解いて、難解で配点の高い問題にできるだけ多くの時間を残すだろう。このように深く考えなくても、感覚的に分かるという「スジの良し悪し」を身に付けていってほしい。
また、論理的に考えているだけでは、課題を発見する力は身に付かない。一般的に論理的なことは「左脳」を使い、感覚的なことや想像的なことは「右脳」を使うと言われるが、ぜひ自分の「右脳が」持つ力を活かしてほしい。つまり、率直に感じた感覚や思いついたことを大切にするということである。決して、感情的に好き嫌いを言うことではなく、直感的にいい加減にやればよいということでもない。
例えば、皆さんは、自分が付き合う友達をどのようにして選んでいるだろうか。ある評価基準をつくり、それを採点しながら友達は選ばないだろう。「○○さんとは、なんとなく気が合うから」というように、人と仲良くなるのではないか。また、今夜、何を食べるか決める際に、この一年間に食べた食事のメニューとその栄養成分を分析する人はいないだろう。多くの人は「○○を食べたい気分だから」、「最近、○○を食べていない気がするから、久しぶりに・・・」というように食事を選んでいるだろう。
思いのほか、我々が感覚的に、直感的に物事を判断する局面は多くあり、物事の本質を射ている場合が多いのではないだろうか。いつも論理的に、客観的に考えるだけではなく、直感的に、主観的に「自分だったらどうか」と問うことも非常に重要であることを強調しておきたい。

何が真の課題なのか直ぐには分からない。まずはある課題について3つほどの仮説を立て、試してみることだ。自分の考えた仮説があたっているのか、間違っていたのなら何が違ったのか考えることで、自分の感覚を磨くことができる。
インターネットが普及し、簡単に情報が集められる時代になった。その結果、我々は何も仮説を立てずに情報収集をする傾向にある。しかし、よく考えずに調べると、調べる作業に時間がかかり、何が本質なのか分からなくなってしまう。まずは考えて仮説を立て、何を調べるのかを明確にしてから調べるようにしてほしい。そうすれば、自ずと作業にかかる時間が減り、仕事の質も上がるだけでなく、課題を見極める力も養われる。

繰り返しになるが、「作業」と「仕事」は違う。「作業」をしていると、ついつい「仕事」をしていると勘違いしやすい。しかし、「仕事」とは課題を解決すること、そのための課題を発見することだ。それはどんな組織においても同じことだろう。
組織の中で働いていると、なかなか自分の思うように行かないことも多々ある。しかし、まずは自分の立場における課題に対する「論点」を考え、自分ができることからはじめて、それぞれの自治体や地域の課題解決に向け取り組んでいってほしい。

研修生の声

研修生は、課題を発見することについて深く考え、いままでの自分の仕事の取り組み方や課題解決のアプローチ方法を見直すこととなった。課題解決のためには、課題を見つける力が重要であり、その力はいままでとは少し違う視点で経験を積むことで養われるという気付きがあったようだ。これから研修生は、本講義で学んだことを活かして、それぞれが解決するべき課題を見つけていくことだろう。
研修生によるコメントは、以下のとおり。
 「自分がどうにかしなくてはいけないと思っていたことが課題ではなく、ただ難題を考えていたことに気がついた。解ける課題を解いていくことが仕事なんだと感じた。」
 「『勘』を磨くという言葉が印象に残った。自分が持っている感覚をとぎすますことで、普段気が付かないことにも気が付けるようになりたい。」
 「ロジックで固めた例題で学ぶよりも、実践で『意識的に』経験をして、場数を踏むことが自分の成長につながると感じた。まずは自分のできることから始めたい。」

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・ 「課題発見と課題解決」 内田和成 (レポート)