2016年度のプログラムが終了しました(更新日:2016年12月21日)

「私の政策提言」について

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講師:冨田清行(東京財団ディレクター(政策研究)・研究員)、亀井善太郎(東京財団研究員・政策プロデューサー)
講義日:2012年7月1日(日)
文責:冨澤太郎

本講義の目的

多くの自治体職員にとって、日々の業務をこなすことが目的となり、本当に自身がやりたいこと、やるべきことが見えなくなっているのではないか。「なぜあなたはこの仕事をやっているのか」と聞くと、「前任者に引き継がれたから・・・」、「上司に言われたから、首長のマニフェストだから・・・」と答える人もいる。
 しかし、本当にそれで良いのだろうか。週末学校の趣旨は、そもそも行政が取り組んでいる仕事とは何のためかを考えるきっかけとなることである。そして、地域自らがその地域の豊かさについて考え、当事者である住民と自治体職員がよりよい地域をつくるために具体的に動き出すことを目指している。
 本プログラムの集大成として、研修生がそれぞれ「私の政策提言」を作成する。本講義では、その作成を始めるにあたり、「私の政策提言」とは何かを学び、地域の課題について考える機会とする。

講義

●現象にとらわれるのではなく、本当の課題を見つけることが大事
「私の政策提言」とは、本プログラムの集大成として研修生が自らの地域の課題について考え、その解決策を提言するものだ。
まずは地域の課題について考えてみたい。課題解決に取り組むうえで、本当の課題を見つけるこの重要性については、内田和成氏の講義(第1回2日目)で学んだ。単なる現象を課題だと考えて解決に取り組んでも、いつまで経っても課題は解決できない。
例えば、「住民参加を増やす」というのは課題だろうか。多くの自治体において住民参加を促す取り組みを実施していることだろう。仮に「住民参加を増やす」ことが課題だとするならば、それを解決するためには、どんな方法があるのだろうか。直接住民に会って話を聞く、ウェブサイトなどを活用して意見を求める、無作為抽出で住民が街づくりに参加する機会を作るなどいろいろありそうだ。
では、この課題を解決するとどうなるのか。「住民参加が増える」とどんな良いことがあるのだろうか。住民が主体的にまちづくりにかかわるようになる。行政が実施する事業と住民(受益者・納税者)が求めているものとのギャップが解消されるなどが考えられる。
ここで「住民参加を増やす」ということが課題かどうか、どちらが正しいということを問いたいのではない。「住民参加を増やす」ということにどんな意味があるのかをよく考えてほしいということだ。ニセモノの課題に取り組んでも本当の課題の解決にはならない。

地域の課題を考えることは容易なことではない。皆さんに考えてもらうための材料として、本当の課題を見つけるための切り口についてお話したい。

1.“みんな”にとっての課題か?
まず皆さんが「課題」だと考えていることは、「みんな」にとっての課題かどうか考えてみてほしい。そもそも「みんな」とは誰のことだろうか。「みんな」とは「わがまちの住民」のことと簡単に答えるかもしれないが、より具体的に考える必要があるのではないだろうか。つまり「課題」だと考えたことは具体的にどんな住民(事業対象者)に関わる課題で、それを解決することがなぜ自治体全体(みんな)にとって大切なのかを考える必要がある。

2.課題を解決するとどうなるのか?
まずは、地域の「ありたい姿」を思い描いてほしい。どのような地域にしたいのか、何を目指しているのかを考えることが重要だ。また、地域にとっての豊かさとはどんなことだろうか。どのようなまちをつくっていきたいのだろうか。
そして、「ありたい姿」という理想と現実にはギャップあり、そこに課題がある。よって、課題が何かを明らかにするためにも、現状を定量的に分析することが大切だ。定性的に語っても抽象的で実感していない人は問題そのものを理解することができない。できる限り具体的な数字を使って現状を明確にしてほしい。ただし、留意するべきは、役所・役場が持っている数字だけが事実とは限らないことだ。現状を把握するためにどんな数字が必要なのかも含めてよく考えてほしい。

3.解決できる課題か?
その課題は解決できる課題なのかを考えてほしい。様々な制約条件があるはずだ。人的、金銭的リソース、段取りなど、条件的な壁があり、解決できない課題の解決に取り組んでも意味がない。時間がかかるものもあるが、きちんと道筋が見えていないと途中でなぜ取り組んでいるのかが分からなくなってしまう。
よく自治体職員の意識を変えるという解決策があげられる。しかし、人の意識を変えることはそう簡単なことではないうえ抽象的である。変わったかどうか確認できない。何かに取り組んだ結果として意識が少しずつ変わるというものであり、それ自体が課題にはなりえないだろう。
一方で、中にはそれほど苦労をせずに解決できる課題もあるだろう。しかし、簡単に自分ひとりの力で解決できる程度の課題ならば、税金を使って自治体が解決に取り組む必要はないだろう。課題を小さく設定してハードルを下げすぎないように気をつけてほしい。
できないことはやらないとはいえ、簡単にできることを課題にするのでは意味がない。

●課題解決のプロセス:どうやって課題の解決策を見出すのか?
では、具体的に課題解決に取り組むプロセスについてお話したい。
課題がある程度見えてきたら、その理由を考えてほしい。「なぜ」そうなっているのか、課題の本質は何かを見出すために、「なぜ」と繰り返し自分に問うようにしてほしい。「なぜ」という問いに対して「○○だから」と答えていくように、少なくとも5回は繰り返すことで、課題の根源にある本当の理由、本当の原因(真因)が見えてくるはずだ。感覚的には「掘る」ようなイメージだ。もし「なぜ」と繰り返し問い続けても何も答えが出てこない場合は、そもそも課題だと思っていたことは課題ではないということだ。
そして、もし課題の真因が見えてくれば、後はそれに対応する解決策を考えればよい。誰とどのように取り組むのか。それは妥当かどうか、現実的なのかなど具体的な計画を作っていくプロセスに入る。
この「課題」、「真因」、「解決策」の3つを行き来して、本当に取り組むべき課題とその真因、そして実施するべき解決策を見出すのが、課題解決のプロセスだ。課題と考えることは本当に課題なのか、真因を探りながら考える。課題と真因が見えてきたら、それに対して何ができるのかより具体的に考えるというプロセスを繰り返すことで、表面的ではない本当の課題を解決する取り組みにむけて一歩を踏み出すことになる。

課題を考えるうえで、陥りやすいことについてお話ししたい。本当の課題は何かをよく考えることの重要性については繰り返しお話してきたが、繰り返し考えてもどうしても前に進めないということはある。それは考えるために必要な情報が不足しているために生じる。ただなんとなく考えても何も出てきはしない。考える材料を集めなければ、考えるプロセスは進まない。そのために材料を集めるのだ。
しかし、役所・役場にある既存のデータだけを眺めているだけでは十分な材料とはいえない。住民や現場の人たちの声を直接聞くことで今まで見えていなかったことがたくさん出てくるものだ。地元学の実践(第3回、第4回1日目)でも経験したことだろう。地域住民と直接やり取りすることで、単なる役所・役場の独りよがりではなく、地域住民が共感できる賛同・参加できるものにしていってほしい。既存の行政資料やメディアの情報を鵜呑みにするのではなく、自分自身が住民や関係者と直接話して感じたことを大切にし、それをその事実を知らない人にも理解してもらえるデータにしていくことも工夫してほしい。

●あくまでも「『私の』政策提言」
「私の政策提言」は本プログラムの卒業論文でも、市長に対する提言でもない。誰かにやらせることではなく自分自身がやることを宣言するものだ。あくまでも「私の」である。他人事や愚痴ではなく、自分ごととして取り組んでほしい。実際に課題に取り組むうえでは、妥協や周りへの配慮も必要な局面があるかもしれないが、まず課題を設定するうえでは、自分自身の考えを大切にしてほしいのだ。
よって、課題や提言に正解はない。皆さんの考えや思いを大事にして、当事者としてその課題に向き合うことが重要だ。
また、「私の政策提言」を作ること自体が目的化しないように気をつけなくてはならない。自分が考えた課題に対する解決策をいかに実現させるかということが大事であり、本プログラムが終了した後も、自らの提言と向き合い継続的にその解決に向けて取り組んでいくことを期待している。

●「地域をよりよくしたい」と志す仲間との共同作業
もちろん自分で考えることが大事ではあるが、一人で考え続けていても行き詰まることはある。その際には、全国から地域をよりよくしたいと志している仲間たちに相談をして進めてほしい。
7月中旬(第5回)9月下旬(第7回)の2回にわたり、皆さんが考える地域の課題とその解決策について6名のグループに別れて議論する。研修生である皆さんが主体となり積極的に意見交換を行い、お互いの提言をよりよいものにしていく機会だ。
また、東京財団の研究員5名がメンターとなり、6名の研修生の相談役となる。東京財団の研究員は、日々の活動において様々な課題とその解決に向けた施策を考えているため、課題を考えるプロセスに沿って、研修生の皆さんが地域の課題を考えるプロセスをサポートする。しかし、メンターは各種分野における政策の専門家ではあるが、皆さんの地域の実態や様子を理解して何か答えを持っているわけではない。地域の様子を一番知っていて、課題や解決策を見出すのは皆さん自身であることを忘れずに取り組んでほしい。
本プログラムは東京に集まる時だけのものではない。各回の間(講義を受けない間)に、自分の地域に戻って気がつくことや考えることがたくさんあるだろう。そうした気づきや学びをいかして、他の研修生やメンターと積極的に議論を重ねてほしい。地域をよりよくしたいと志す皆さんがお互いの知恵を出しあうことで、自分自身が実際に取り組む素晴らしい「私の政策提言」ができていくことだろう。

所感&研修生の声

課題を見出すことは簡単なことではない。「本当の課題は何か。講義を聞いた後もこの問いが頭から離れない。『みんな(地域)』の課題は何かと考えていると、アイディアが浮かんでは消え、浮かんでは消えの繰り返しだ」という研修生の声があった。これから研修生たちは自らの地域の課題は何かを問い続けることになるだろう。
また、成果物としての提言が大事なのではなく、提言の作成における考えるプロセス(試行錯誤、論点は何か、どんな『ものさし』があるか)が重要なのであろう。「いろいろ深堀りしていくことになると思うが、結局はその考える行為そのものが、今の自分の業務を足元から見つめ直すことになると思う」という声も聞かれた。
ただ地域課題を考えれば良いというほど単純なことではない。「講義の内容をとても理解することができた。しかしそれは頭の中だけの話であり、自分の腹に落としこめるようになるため、反芻していきたい」という声にもあるように、実現に向けて行動を起こしていくことを通じて、提言の内容がより深まっていくことだろう。これから30名がどのような提言を作成するのか楽しみである。