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課題発見と課題解決

キーワード:

講師:内田和成(早稲田大学大学院商学研究科、早稲田大学ビジネススクール教授)
講義日:2011年5月22日(土)
文責:週末学校事務局 稲垣亜希子

本講義の目的

地域を取り巻く「課題」と呼ばれるものはたくさんある。私たちは数ある課題の中から、自分が取り組むべき課題を選び、その解決に取り組んでいる。しかしそれよりももっと大切な課題はないのだろうか。私たちが課題と考えているもの、実はそれは課題によって引き起こされている事象に過ぎないのではないだろうか。
ピーター・ドラッカーは次のように言っている。「経営における最も重大なあやまちは、間違った答えを出すことではなく、間違った問いに答えることだ」。
間違った課題に必死に取り組んでも、それは時間の無駄に過ぎない。時間は有限なのである。
そうは言っても、私たちの目の前に課題(のように見えるもの)は山積していて、どれが正しい課題であるかは誰も教えてくれない。正しい課題は自ら設定する必要がある。

内田和成氏は、長年実際の現場で活躍してきた課題解決のプロである。現在は早稲田大学ビジネススクールで教鞭をとる内田氏に、問題の本質を見極めるための思考方法を学んだ。

講義

●解決不可能な問題の例:普天間「問題」IMG_1200.JPG
課題と言うと、得てして人は自分の手には負えない、とてつもなく大きな課題を挙げがちである。解決できない課題をいくら並べても、その解決に着手もできないようでは住民のためにはならない。
例えば、「普天間問題はまだ解決していない」と言う発言を良く耳にするが、さて、普天間「問題」とはどのような問題だろうか。
「基地周辺に住む住民の安全が守られないこと」だけが問題であれば、解決方法は辺野古に移すことかもしれない。しかし「沖縄県に米軍の基地が集中しすぎている」と言うことであれば、基地を他県や他国に移そうと言う議論になる。では「日本の安全保障」の観点からは?いや、それ以前に「日米関係」を考えるとどうするべき?
一つ一つの問題には、それぞれ対応策が考えられるのだが、全部ひっくるめて「問題」としてしまうから、結果的に解決不可能な「問題」になってしまう。普天間「問題」はその典型例であると言えよう。

●課題と事象を見極める
課題と事象を混同して「問題」とされることも多い。しかし事象を課題として、問題解決を図ろうとしても、無駄な時間と労力を消費することになってしまう。
例えばある会社に泥棒が入ったとしよう。これは会社にとって問題であるが、解決するべき問題は「泥棒が入ったこと」ではない。泥棒が入ったことは事象に過ぎないのである。考えるべきなのは、泥棒が入ったことでどのようなインパクトが会社にあり、それにどのように取り組むか、なのである。
会社の防犯体制に問題があったのだとすれば、ガードマンの人数を増やす、セキュリティシステムを導入する、などの対策が考えられる。損害が大きかったのならば、まずは損害額を算定し、その金額を如何に穴埋めしていくかを考えなければならない。トップへの報告が遅れた場合は、社内の報告体制に問題があると考え、レポーティングの方法を変える必要がある。泥棒に入られた会社が、万が一警備会社だったとしたら、会社の信頼失墜は避けられず被害は甚大だ。上記とは別の対策が求められる。
企業の場合、経営資源に限りがある中で利益を最大限にするべく、やることとやらないことを絞り込む必要がある。捨てる課題もたくさん出てくるのである。地方行政の場合は、自治体の利益のために事業を実施しているわけではない。まず、自治体のミッションは何か、と言うことを考える必要があるが、その場合でも、課題解決に当たっては、事象と混同することなく、的確に論点を設定する必要があることは企業とも共通している。自治体が何も捨てずに、すべてをやるべきだと言うのは大きな誤解である。


●課題抽出
IMG_1148.JPG それでは自分が取り組むべき課題を、具体的にどのように抽出すればよいのだろうか?
内田氏の紹介したケーススタディに取り組み、課題抽出作業を実際に行ってみると、一つ一つの小さい問題点の指摘は簡単だが、それでは根本的な問題がどこにあるのか、如何にしてそれを解決するか、と言うことを考えることが難しいことが分かってきた。

課題を抽出する際の具体的な作業として、内田氏は次の4点を挙げた。①課題と思われることをリストアップすること、②解決すべき課題を絞り込むこと、③課題を確定すること、④見落としがないか、全体像で確認すること。

4つのステップの中で、最も大切な部分は、言うまでもなく②課題の絞り込みである。内田氏は、「勘を働かせること」と「筋の良し悪しを見極めること」の2点をコツとして挙げた。

勘と言われても、そんな曖昧なもので課題を設定してしまって良いものなのだろうかと不安になる。しかし様々な事象や条件が複雑怪奇に絡み合っているのが現実社会。「勘を働かせろ」とはすなわち、意識して様々な経験を積んで、自分なりの判断基準を作れ、と言うことを意味している。
筋の良し悪しの判断は、a)そもそも解決可能な問題か(答えがあるか)、b)答えがあるとして、解決することが可能であるか、c)解決したらどれだけの効果があるか、の3点から行う。どれか一つでも欠けると、その論点は「筋が悪い」ということになる。

最後に、課題は解く人によって異なることも認識しておく必要がある。同じ組織に属していても、立場が変われば解くべき課題は変わって来る。担当職員が解くべき課題、課長が解くべき課題、部長が解くべき課題、首長が解くべき課題、それぞれ次元が異なる課題を設定し、その解決に取り組んでいるのである。同時に、課題が時代によっても異なることにも注意を払う必要がある。

●内田氏からのメッセージ:「仕事」が出来る人になろう
IMG_1129.JPG 内田氏によれば、一般的に言う「仕事が出来る人」には3通りのタイプがあるという。「作業が早い人」、「問題解決が早い人」、そして「問題設定が出来る人」の3通りである。
「仕事」が目的を達成することだとすると、「作業」は目的を達成する「手段」に過ぎない。若いうちは早く、かつ正確に作業をこなすことが大切だが、いつまでも作業屋でいてはいけない。
「問題解決」には、分析力、他人を説得する力などが求められるが、そのための情報収集やインタビューだけに時間をかけすぎないように注意する必要がある。始めに仮説を立てて問題解決に当たった方が、途中で軌道修正もしやすい。また、常に二段上位の課題を解くよう、意識することも有効である。例えば、自身が担当職員だとすれば、係長ではなく課長の視点で問題を解くように心がける。そうすることで、自分自身の立場を離れて物ごとを考えることが出来るようになり、自身が取り組んでいる問題がより明確に浮かび上がってくる。
高い完成度とスピードで「問題解決」が出来るようになることが一義的には求められるが、組織人としてもう一段上のリーダーになるためには、正しい「課題設定」が出来るようになる必要がある。これまで述べてきたように、誰も正しい課題が何であるかは教えてくれない。リーダーは、課題を自ら設定し、他者をリードする必要がある。

講義の最後に、内田氏より好きな言葉の紹介があった。
「人は成功からは学べない」。成功を重ねても、満足だけが残り、何の蓄積もなされない。むしろ失敗をすることで、何が悪かったのか、次回はどうすれば良いのか、を考えることになるという。

何事も失敗を恐れずに取り組むこと。継続的な学習が何よりも大切であることを教えられた講義であった。

研修生の声

講義終了後、研修生からは「これまで、課題を設定せずに、解決方法ばかりを考えていた」、「課題と事象を混同してしまっていた」等の声が多く寄せられた。これまで取り組んできた「問題解決」のそもそもが間違っていたことに、多くの研修生が気付き、また、課題を的確に設定することの重要性を学べたようである。
「これまでは万人に共通する施策ばかりを考えていた気がする。目的とニーズから対象者が導かれることを学べたので、今後はより細かい、本当の住民ニーズに合った施策を立案していきたい」との具体的、かつ前向きな感想からは、前日からの一連の講義の内容が、研修生の中で有機的に結びついていることが分かる。
ただ「思考プロセス自体は理解できたが、自分の事業に当てはめて行くとなると難しい」という意見も聞かれた。慣れるまでは、課題を抽出し、更に選択していくと言う作業を、意識的に練習していく必要があるだろう。IMG_1439.JPG