2016年度のプログラムが終了しました(更新日:2016年12月21日)

目の前の仕事を見直す

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講師:大澄憲雄(浜松市 総務部人事課組織・任用グループ 主任、2009年度週末学校OB)、岡田直晃(習志野市 財政部資産管理室資産管理課 主幹、2009年度週末学校OB)、高橋直子(北上市 生活環境部環境課新エネルギー係 主任、2010年度週末学校OG)、山根晃(足立区 福祉部北部福祉事務所 所長、2010年度週末学校OB)、亀井善太郎(東京財団研究員・政策プロデューサー)、他
日時:2013年7月13日(土)10:00~13:00講義・演習、7月27日(土)9:00~18:00および7月28日(日)9:00~12:00演習
文責:週末学校事務局 亀井善太郎、石川絵里子

本プログラムの目的

週末学校前半では、講義や国内調査を通じて、住民自治・地方分権・自治体における直接民主主義などといった原理原則を学び、地域の多様性を活かしたまちづくりのあり方や行政の役割について考えてきた。では、これまで学び考えてきたことを、自分自身の現在の仕事にあてはめるとどうだろうか。自分自身の何かが変わり、具体的な日々の行動の変化に及んだ人もいるかもしれないし、まだ何を変えたらよいのか、なかなか分からないという人もいるかもしれない。

原理原則やあるべき論を語り、分かったつもりになるのは簡単だが、それらは具現化しなければ本質的には意味がない。本講義および演習では、「目の前の仕事を見直す」と題し、文字通り、現在の担当業務を題材に自分自身の仕事に対する捉え方や姿勢を見直し、自分自身の思いや志といまの仕事の関係を改めて振り返るとともに、これまで学び考えてきたことを実践につなげる糸口を探る。

なお、本プログラムは、週末学校の最終成果物として各参加者が作成する「私の政策提言」にむけて、地域の課題を見出し、その解決策を探るためのいわば予行演習的な役割も同時に担っている。

プログラム内容

本プログラムは、本年度から実施を開始。プログラムの企画にあたっては、上記4名の週末学校OBOGの力を借り、各参加者が現在の担当業務を見直すための「私の仕事シート」を開発した。参加者らは、①事前課題として同シートの作成、②「課題設定と課題解決」についての講義を受講、③講義をもとにシートの記載内容を再考し加筆修正、④シートをベースに自らの仕事に対する捉え方について議論、というプロセスを経た。 ②の講義内容は、以下の通り。

講義内容

本講義は、東京財団週末学校の集大成ともいえる「私の政策提言」の大枠を示し、その理解を促すと共に、その前段として行う「目の前の仕事を見直す」についても併せて、その意義を伝えることを目的としています。

東京財団週末学校は全10回のプログラムです。すでに第4回を迎え、大きな流れとして見れば中盤に差し掛かったところです。第1回から第3回では地域のリーダーや現場の実践者の生の声を聞くことに注力してきました。また、第3回には熊本県水俣市を訪れ、そこに暮らす人から様々な思いや考えを聞いてきました。自らの地元学の実践も含め、いろいろなことを感じてきたと思います。はっとした言葉、心に残った言葉、いまでも鮮明に覚えている言葉、そして、自分自身で手と足と頭を動かして気づいたこと、考えたこともたくさんあったでしょう。

しかし、それらの学びがいかに自分自身の変化、それも何かしらの行動に結びつくかどうかが重要です。中には、まだ行動という意味では変化に至っていない人もいるかもしれません。自ら変わるということはなかなか簡単なことではありません。しかし、自らの変化が何なのか、そこに向き合ってこそ、こうしたプログラムに参加する意味もより深いものになるのだと思います。

●私の政策提言

皆さんは東京財団週末学校に応募するにあたって、応募用紙に地域の課題を踏まえた自らの役割について書いたことを覚えているでしょうか。そこで皆さんに考えてもらいたいのです。そもそも地域の課題(解決しなければならない問題)とはどんなことなのでしょうか。週末学校に来る前に考えていたことといまこれまでのプロセスを経てからで何か考えに違いは出てきているでしょうか。

皆さんがしばしばまちの課題として挙げる3つの課題を例として挙げてみましょう。

 高齢化
 住民と行政の対話を増やす
 まちの元気を増やす

いずれも多く言われていることですが、そのままでは課題にはなりません。例えば、高齢化であれば、高齢化そのものは現象であり、それによって生じている具体的な問題、例えば、皆さんからも指摘があった例「高齢者がまだまだ地域社会に参加できるはずなのに、そうした場が少なく、地域の担い手が減り、高齢者にとっても生きがいを失ってしまう」というようなことが課題となるのでしょう。また、「住民と行政の対話」も、それ自体は方法であり、対話が少ないから何が起きているのかといったことをきちんと分析した上で解決しなければならない問題を明らかにする必要があります。しばしば言われる「まちの元気」ですが、そもそも元気とは何か、そこを共有しないことには言葉の定義が曖昧で、何が課題なのか、お互いがわからないという問題に陥ってしまうことには予め注意をしておく必要があります。

いくつかの例を皆さんで議論していただいてわかったとおり、「本当の課題」を見つけるのはなかなか難しいことです。以下、本当の課題を見つけるためのヒントを例示しますので、これからのプロセスの中で実践できるようにして頂きたいと思います。

  “みんな”にとっての課題か?
— みんなとは誰のことか
— みんなにとって大切なことか
・ 「みんな」は数の大小の問題ではない、対象者は少なくても大切な課題もある
 課題を解決するとどうなるのか?
— ありたい姿と現状、そのギャップ
・ 具体的に何が違うのか、定性的な説明ばかりではなく、定量的な説明でありたい姿や現状の認識を共有していく
— 誰が、どうなるのか、具体的に
 解決できる課題か?
— 制約条件、リソース、段取り・・・
— すぐに解決できるならすぐやればよい
— 簡単には解決できないがやればできるはずが重要

課題の解決は一人ではできないことなので、課題を見出し、これを共有することこそが課題解決の第一歩です。となれば、重要なのは以下の3点です。

 まず大切なのは「ありたい姿」を具体的に持つこと
 そして、それを具体的に伝えることができること
 ありたい姿と比較した上で、現状の課題を具体的に伝えられること

さて、課題を見出すコツを少しは理解できたでしょうか。課題発見を踏まえ(それでも課題を発見できたとは言い難い、課題発見は課題解決を考えるプロセスでも続きますが・・・。)、課題を解決するとはどういうことか、皆さんに考えてもらうことにしましょう。

課題⇔真因⇔解決策の検討を行ったり来たりすることによって、その考えは深まっていきます。「課題はそもそも存在するのか、課題のインパクトはどうか、ありたい姿と現実のギャップはどうか」といった課題発見から始まり、その本当の原因である「真因」の分析に移ります。「なぜ」そうなっているのかを繰り返し、掘り下げていくことを通じて、課題の本質が何なのか、どこにあるのかを明らかにします。そこまでが明らかになれば、その真因を解消する方策としての解決策が出てきます。そもそも解決できない課題を取り上げては意味がないし、すぐに解決できるのであれば、それはすぐにやればよいわけで課題ではないということになります。この一連の思考の往復こそが課題解決のプロセスなのです。

そのためには、これまでの繰り返しも含めて、以下のポイントが重要です。

 課題のインパクトを見極める
— 但し、小さくても大切なこともある
 とことん事実に向き合う
— 定性的・抽象的なことではなく、定量的なことで考える
— 数字は大切だが、役場が持っている数字が現実とは限らない
(では、どうするか)
 「なぜ」を繰り返す
— つらいが、そうしないと本当の原因(=真因)は見つからない
— なぜを繰り返して真因が見えてこなければ課題が間違っていたということ

こうした思考の繰り返しは、いままでの「打ち返す」「こなす」「穴埋め」といった受注型(上司に言われたことを前例や横並びをベースに方法論だけ考えるやり方)のスタイルでは対応できないでしょう。現象と課題を取り違えてしまえば、手触り感の無い話や言葉の羅列になり、誰とも課題を共有できないようになってしまいます。また、他人事の批評や愚痴を繰り返してしまえば、意識を変えるという具体策のない、市長に伝えるといった当事者意識の欠けた提言となってしまいます。こうしたワナに陥らないために意識すべきは以下の4点です。

 課題⇔真因⇔解決策の繰り返しをきちんとやる
— なぜ、それでどうなの、具体的にどういうこと
— 自分の頭がどこまで考えられるかへの挑戦
— これでいっぱいいっぱいの感覚を持てるように
— 人の頭をつかう
 考えるための材料をきちんと揃える
 相手の頭に風景が浮かぶ言葉、自分の言葉を使う
 自分のこととして考える

なかなか簡単なことではないですが、自分自身が自治体職員を志した最初の気持ちを思い出し、また、日ごろの現場で感じる憤りまで含め、自分自身が何とかしなければならないと考えている課題を実際に解決するためのきっかけとして前向きに「私の政策提言」を位置づけていただきたい。これは研究論文でも卒論でもない、ましてや首長への提案でもないし、誰かにやらせるのでもない、自分自身のこととして捉え、次のアクションに伝えるために「私の政策提言」を作るのです。まさに「私の」という言葉の意味をしっかりと受けとめ、これからのプロセスを進めていただきたい。

●目の前の仕事を見直す

本プログラムでは集大成たる「私の政策提言」に取り組むまえに「目の前の仕事を見直す」ところから始めようと思います。いま、それぞれが担っている仕事をどう捉えているのか、そこを改めて考えることを通じて、「私の政策提言」に向けたスタートとしたいし、そもそも、自分自身の仕事に対する態度を考えるうえでもよい機会になるはずです。

今、あなたの仕事は何のためにやっていますか?
その目的に照らして、きちんとできていますか?
それはきちんと市民に伝わっていますか?
 あなた自身がそうしたことをわかっていますか?

これまで学んできた市民主権はあなたの日ごろの仕事ではどう活かされているのか、そこをわかっていなければ、これまでの学びは机上のもので止まってしまいます。

そうした視点を踏まえて、自らが担う仕事のあり方をそもそもから考え直すきっかけとするのが「目の前の仕事を見直す」ということです。

役場の論理は執行の論理であり、現状を肯定してしまい、方法論の目的化に陥りがちです。そうした役場の論理ではなく、当事者の視点で考えるというのが重要です。では、当事者の視点とは何か、そこもそもそもから考えることが必要でしょう。加えて、これは「私の政策提言」と同じですが、自分自身が考えるための材料があるのか、他人といっしょに考えるための材料はそろっていて、これを共有できているのか、といったことは物事をきちんと考え、次のステップを明らかにする上で不可欠なことですので、そうした準備を入念にしておくことも重要です。

もうひとつ、「目の前の仕事を見直す」で考えていただきたいのは、自分自身の思いや志といまの仕事の関係です。また、将来やりたいこととの関係も重要でしょう。それぞれがきちんとつながっているのか、自分自身の思いを込めた仕事ができているのか、案外、そこがつながっていない人が多いような気がします。しばしば、行政の仕事においては、思いを込めることは公平性の観点から問題があるという人がいますが、それよりも大切なこととして、皆さんの仕事を人が担っている意味を改めて考えてみる必要があるのだと思います。機械でもできる仕事ならば機械にやらせればよいのです。人が担っているということは、その場で考え、その場に応じた動きができることにこそ価値があるのです。思いを持つ人が担っている意味を皆さんにも自分自身の日ごろの活動や思考も含め改めて考えていただきたいと思います。

改めて、自分の仕事について、自分の頭の中にあることをきちんと出し、情報を共有し、議論を促すためのフレークワークを紹介します。 以下に検討のための論点の例を示します。議論は「目的」から出発します。まず目的として議論すべきは「住民から集めた税金を使って行う、住民にとって意味ある事業かどうか」ということです。しばしば、事業立ち上げ時から時間が経過している場合には、立ち上げ時からの社会のニーズの変化とそれに対する対応がどうかを見ておくことも重要でしょう。また、目的を検討する場合には、しばしば神学論になりがちなので、目的単体で検討せず、「成果・課題」に照らして、具体的な議論に落とし込むことが重要です。

しばしば、行政での議論は「方法」や「ネクストステップ」といった下部(How?)が中心となりますが、そもそも目的や目標がおかしければ、また、成果が出ていなければ、そうした議論は無意味です。議論としては上部(What?、Why?)を明らかにしたうえで、これを踏まえた下部の議論を行うという順番がよいでしょう。

最後に、この議論の準備として「私の仕事シート」という本フレームワークに沿ったテンプレートがありますので、この記入方法等に関する注意をします。事前準備として、皆さんには「私の仕事シート」を作っていただきましたが、大半の皆さんが作業として穴埋め式に言葉を埋めただけの紙になってしまいました。シートの冒頭にも書いていますが、これは住民や同僚に説明し、いっしょに考えるための材料です。作業として自分の考えをきちんと伝え、住民も含めた多様な視点を取り入れ、明日からの改善等、新たな自分自身の視点を作り出すためのものです。であれば、以下のポイントに留意していただく必要があります。

住民によくわかる言葉でわかりやすく
— 行政用語や関係者しかわからない言葉は厳禁
— 定量的説明と定性的説明、それぞれをうまく組み合わせる
— ましてや穴埋め問題に答えるテストではない
⇒ あなたはこれで自分の仕事をきちんと伝えられますか?
 住民の多様な価値観を踏まえた視点を取り入れる
— “目的” と“成果・課題”、その関係を明らかにしながら考える
— 現状を肯定するだけの頭から転換する
— ネクストステップ(何かしらの改善)の仮説を自ら見出す、そして、他人の知恵を借りる

多様な視点を自らに取り入れることを意識することによって、新たな改善のヒントが生まれるはずですし、自分自身の仕事への向き合い方への気付きもあることでしょう。
本日の講義を振り返り、人といっしょによりよいものにしていくための準備も含めて、改めて、自分自身のやり方を見直していただきたい。

事務局所感

講義を経て、1人1人の「私の仕事シート」を題材に参加者全員による議論を行ったところ、自らの仕事の課題を新たに見出した人もいれば、自分自身の仕事の目的をきちんと説明できず、現在の仕事に対する自分自身の向き合い方そのものの甘さを指摘される人もおり、抽象的に理解している(と思っている)考え方を、自らの日々の業務にあてはめて考えていくことの難しさを痛感した参加者も多かったようである。

漠然とあるべき論を語るだけでは、物事は動かない。週末学校前半で「一即全」という考え方を学んだが、細部に宿る問題の本質は、目の前の仕事に向き合うことを通じてこそ見えてくるのではないだろうか。この「目の前の仕事を見直す」プロセスをきっかけに、原理原則を日々の自分の行動に照らし合わせて考える姿勢を身につけ、次の改善策を一つひとつ見出すことで、住民自治や多様性あるまちづくりを実現していってほしい。