2016年度のプログラムが終了しました(更新日:2016年12月21日)

減税自治体構想

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講師:山田宏(杉並区長)※肩書きは当時
講義日:2009年5月24日(日)
文責:週末学校事務局

 

厳しい時代だからこそ、百年の計を「減税自治体」構想で日本を変える

yamada_1_MG_3968.JPG 杉並区長の山田宏です。私はもともと中央志向が強く、前職は国会議員でした。区政には疎く、ほとんど関心もありませんでした。しかし、落選中にある支援者の方から手紙をもらったことがきっかけで、「国会議員も区長も、登山口が違うだけで登る『日本をよくする』という山は同じだ。杉並区の経営者とな り、杉並を日本のモデルにする」という志をもつようになり、区長選に出馬しました。区長に就任して10年間、その思いのみで改革を続けてきました。

自治の基本は、「財政の自立」にあるというのが私の基本認識です。財政の自立なくして、地方の国からの権限の自立はありません。地方が財政収入を地方交付税交付金に頼る現状では、自治体は自立心を持てません。なぜなら、お金は誰から貰うかによって人間の心は変わるからです。人間は、お金をくれる方に弱い。弱いから、その従属物になるのです。

いまの「三位一体の改革」後の実態も、まだここから脱却していません。10~15年前から、ほとんど変わっていないのが現状です。税源の移譲があってこそ、初めて地方の自立が生まれます。地方分権を成功させるためには、地方消費税をかなりの程度まで地方に委譲させる必要があると私は考えています。


長期的な目標が必要

このような厳しい状況の中で、自治体に何が出来るのかについて、考えるところをお話ししたいと思います。私は、毎年一定の予算額を積み立てていき、10年後にその積立金が生む利子で減税を行い始める「減税自治体」を主張しています。これは、財政支出のうちの一定額を毎年貯め続け、将来的にその運用益を通じて住民税を安くする恒久減税を行い、住民の税負担を下げるという考え方です。

視点を変えれば家計でも会社でも、当たり前にやっていることなのです。しかし、自治体の財政は基本的に「使い切り」です。税収が一時的に増えると、行政サービスを増やす。税収が減るとなると、サービスを切ることができず、足りない予算をまかなうために借金をする、という構図です。これでは、財政が悪化して当然です。将来展望を欠いた、「単年度主義」の使いきり予算のあり方を見直すということです。

この構想のきっかけは、2期生として参加した松下政経塾での松下幸之助氏のお話でした。松下さんは当時、「『無税国家』を研究したらどうか。たとえば、国の支出から毎年1割を貯金していけば、いずれ予算は利子だけでまかなえる計算になる」と、塾生に話されました。皆で議論しましたが、まだ20代 だった私は、無税国家などは不可能だし、それが必ずしもよい国ではないとも考えていました。

しかし、3期12年の任期満了も近づくにつれ、私が区を去ったあとも存続可能な杉並区の中期的・長期的な目標に何かふさわしいものはないか、模索 していたとき、「無税自治体」の構想が最適だと考えるに至ったのです。

杉並区の一般会計予算である約1500億円の1割を基金として毎年貯め、積立金を金利2%の複利で運用した場合どうなるか、計算しました。33年後に4分の1の減税、53年後に2分の1の減税、78年後に無税にできる、という結果になりました。78年後には利子だけで区の財政がまかなえるというこ とです。その後、研究会を設立させ、徹底的にシミュレーションをしましたが、経済状況やその他の条件をかなり厳しく見積もっても、10年後には10%、 20年後には15%の持続的な減税政策が可能だという確証を得ました。減税以外のプラスの効果ももたらされます。①財政のプールを作り、震災などの大災害 が起きた場合の対策費、②財政規律や愛郷心の育成、③納税額が高い富裕層が杉並区に流入し税収増となる、④民間の関連団体への規律の波及が見込めるといった点です。

いまは実現に向け、区の条例を作る準備をしている段階で、2010年2月、区議会に条例案を提出する予定です。この10年間の杉並区の債務の返済 と、基金の積立額を合計すると、区民サービスに回らなかったお金は、支出の約12.1%に相当します。住民の負担を下げつつも、行政サービスを向上させることは行政の永遠の課題ですが、それが決して難題ではないという事が分かります。

yamada_2_MG_4059.JPG 今後肝心なのは、区民の同意を得ることです。昨今の経済状況悪化で、「現在区民が置かれている問題に対して、税金を使って欲しい」いう声が充満しています。議会もほとんどが反対でしょう。私はいま理解を求め、新しい時代の日本のモデルを杉並が作ることの必要性を訴えています。明治維新以来、次世代からの「前借り」という視点で、政治が行われてきました。これは本来、行政としてあってはならない姿です。少子高齢化による高齢者への負担増といった深刻な問題が喧伝されている現在、次世代に富を残していくのも、私たちの義務であり役目であるはずです。
貯めた資金を運用する強固な体制を整えることも、将来的には大きな課題になるでしょう。たとえば、投資立国を政策として位置づけていることで有名なシンガポールが、ここ10年で20%前後の投資利回りで国の資産を運用しているように、安全かつ効果的に運用していくことが必要不可欠になります。

減税は政治の要諦

減税は、政治の要諦だと考えています。減税をするということは、役所の規制が減り、住民である納税者の自由が増えるということです。減税は、英国や欧州、米国の政治家では非常に関心が高い政策です。しかし、日本ではまだ真面目に減税が考えられていません。税金を大事に使おうというのは、無理な話で す。

なぜでしょうか。他人や会社のお金は無駄に使い、自分のお金は大事に使うのが人間の本性だからです。これを変えることはできません。「税金を大事に使いましょう」といくら訴えても、これは無理な話なのです。たとえば、各自治体が運営する美術館が、いま成功していると言えるでしょうか。コスト意識のない運営により、大半が厳しい経営状況に陥っています。

「いまだけ、自分だけ」という気持ちでは、他を思いやる気持ち、譲る気持ちは生まれません。だから、減税自治体を考えることが、時代に余裕を持たせることにもつながると考えます。厳しい時代だからこそ、百年の計は必要です。いまだけ、自分だけという考えでは、結局は行きづまります。私は、それを打破したい。このような考えをもった自治体の経営者もいる、ということを知っていただけたらと思っています。


主な質問

yamada_3_MG_3902.JPGQ: 「杉並区の常識を日本の常識に」ということですが、杉並区は、税収の仕組みにおいて東京都との関わりが強く、一般市とはかなり仕組みが異なっています。一般市において、減税自治体が可能なのでしょうか?

A: 杉並区は東京都の23区に属し、地方交付税交付金の不交付団体でもあります。交付団体からみれば、遠い先の話とお感じになるかもしれませんが、杉並区でも「減税自治体」はすぐに導入できるものでもありませんから、その基本的な考えだけでも理解していただけたらと思います。要するに、自治体の運営が、本当に歳入・歳出にふさわしいことが、いまできているのかどうかです。「平成の大合併」以降、まだまだ課題が多いと私は感じています。


Q: 将来的に減税がなされ、杉並区は税制が恵まれているとなると、税金を支払わないフリーライダーの流入が増えると思われます。そのとき、非課税世帯の扱いはどうなるのですか?

A: 非課税世帯の流入ですが、杉並区に高額納税者が流入するとともに、社会的弱者も流入してくるわけですから、いずれそれなりのところに落ち着く のだろうと思います。非課税世帯の増加に対しては、これは税制全体の課題として捉えるべきだと考えます。私は、所得税にはどうしても不公平感がでるので、 国全体がもう少し消費税にシフトしたほうが、税負担は公平ではないかと考えています。
杉並区は子育て支援、障害者支援の行政サービスの質は高いものがあります。だから、現状でも障害者の方、子育て世代の方が多く入ってきます。これはあり がたいことではあるのですが、本当は全国の自治体でもそういう流れが起こるべきだと考えます。


Q: 市で行政改革を担当していますが、市役所の職員が「多忙でそれは出来ない」という反応になることも多いです。職員の意識をどう高めていけば良いのでしょう か?

A: 全体で長期的な展望を共有することだと思います。ただ、長期計画がイコール長期的な視点につながるか、というとそうではないです。単なるノルマになっている可能性があります。「予算が減らされる」といったマイナスの思考回路に陥らないように注意し、気持ちが前向きになるようにしなければいけません。「10年後にはこういうサービスを提供する」といった、その市役所ならでは目標、つまり特色になる「山」を1つ持つことです。

 

当日配布資料

・ 杉並区の行財政改革の取組み(PDF)