2016年度のプログラムが終了しました(更新日:2016年12月21日)

市民の公共をつくる

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講師:福嶋浩彦(東京財団上席研究員、中央学院大学教授、前消費者庁長官、元我孫子市長)、田中玲子(元我孫子市立緑保育園民間対策委員会)、森口敏也(同左)
講義日:2013年6月1日(土)
文責:新潟県村上市 富樫充(2013年度参加者)

本講義の目的

「公共」とは本来、市民のものである。これまで、「公共」は行政が担うのが当たり前という意識が支配的だったが、近年は「官民連携」や「協働」と呼ばれる取組みが進み、全国に多くの事例がある。そんな中、しばしば見られるのが、一部の事業についてだけ「協働事業」を謳っていても、大半の事業は行政の都合であるコストカット、さらに言えば人件費の抑制を目的として委託・下請けに出しているという構造である。もちろん効率的な行政サービスを目指すのは当然だが、「何のため」「誰のため」ということが抜け落ちていないだろうか。
本講義では、千葉県我孫子市の市長として、3期12年(1995年~2007年)にわたり、市民自治の理念の下で民と官の連携を追求した福嶋浩彦氏を講師に招き、いま一度、公共の本質と、その担い手について考える。
NPO・企業など様々な「市民の主体」と、主権者である市民の意思で動く「市民の政府(自治体)」が真摯に対話し、対等な関係で連携することによって、より豊かな公共、より豊かな市民の生活を実現するという思想や実践について学ぶ機会とする。
また、講義の後半では、我孫子市の保育園の民間委託に際して、園児の保護者の立場から対策委員会をつくり、質の高い保育園づくりに取り組んだ元保護者の皆さんをお招きする。 当時の活動の経過や考え方についてお聞きし、市民の視点、市民と行政の対話のあり方について学ぶ。

講義内容

公共の本質について、「協働」のとらえ方、主権者である市民とのかかわりを踏まえ、そのあり方について説いていただいたとともに、我孫子市における保育園の民間委託への市民のかかわりについて、具体的に参画いただいた方から実践のお話をいただきました。

●協働のとらえ方について

多くの行政で「協働」という言葉が使われています。市民と行政のパートナーシッププの元、お互い対等な関係で取り組むこととしていますが、本来、主権者である市民と行政は対等ではないはず。行政の協働のとらえ方があまりにもいい加減であるため、多用してきている状況です。 ここにある市民とは、主権者市民ではなく、町内会やボランティア団体、NPOなどの具体的な活動を行っている主体、いわば事業者市民とのパートナシップにより連携して取り組みを進めることを「協働」と呼んでいる状況です。 協働の関係にもいろいろあり、行政がNPO等に事業を委託する場合やNPOの取り組みに対し、行政が支援する場合もあります。たとえば、行政がNPO等へ事業を委託する場合、その中身を互いの対等の関係の下、すべてを相談して決めることでもなく、予算等は市であれば議会の議決を経て決められることであり、実施するべき事業も、市の実施方針に基づき進められます。 しかし、NPO等へ行政が支援する場合は違い、NPOの事業計画に基づき進められます。 つまり、協働はいろんな関係があり、単純に対等と言っても全部一緒に決めることや、すべてが同じ権利を有することでもありません。また、協働は、行政と事業者市民との関係だけではなく、そのことにより影響あるいはそのことへ働きかける受益者市民との関係があります。 協働は、主権者市民のコントロールのもとに、行政が、事業者市民と対等なパートナシップにより、受益者市民のためにサービスを提供することとなります。この全体像を押さえておくことが大切で、受益者市民からの評価をちゃんとすることが大切です。行政と事業者市民の二者のみの評価では、本当に受益者のためになっているのか不明で、よい協働とは言えないこととなります。

●主権者市民の合意を得る

前回の講義から「主権者市民」とちゃんと話し合い、施策を進めたいといった意見が多くありましたが、そう簡単にはいきません。事業者市民、パートナー市民は、目の前におり簡単にわかります。利用者、受益者市民も簡単にわかります。市民は、すべての立場になりえますが、「主権者市民」は全ての市民を示し、すべての市民と話しをし、合意をつくりが出すことは困難と思います。「主権者市民」一人ひとりが思いを持ち、何らかのかかわりを持っています。その思いを対話により生み出し、合意を得ていくことが、「主権者市民」から選ばれた代表者である首長、行政側の役目です。
皆さんは、行政の職員として、主体的な営みの中で、あらゆる市民と向き合い、ちゃんと合意できるタイミングを提起できるようにする必要があります。また、提起した場合、反対意見も出てきますが、ちゃんと向き合い、意見を言い、議論するべきであります。
意見を言いたい人が言える場をつくり、反対する人が意見を言い、互いにぶつかることで鍛えられ、市民の理解が深まり、行政も市民の立場に立てることとなります。

●公共(公)は市民のもの

「これまでの公共は、行政が担ってきた。これからの公共は市民と一緒に担う」という話をよく聞きますが、これは、嘘だと思います。
昔から、福祉サービスやボランティアなど市民と一緒に担ってきた。今までも一緒に担ってきたが、何が違うか、これまでは「行政の下請け」で担ってきた状況があります。
この構造を変える必要があります。しかし、間違っても行政側の都合で、下請けの量を増やすなどにより協働や「新しい公共」とはなりません。下請けの構造を変えることが「新しい公共」ということです。
つまり「主権者から離れてしまった官が、一方的な決定権をもって公共を仕切り、自分の勝手な都合で、民に下請を出していた」というのが、今までの公共の在り方ではなかったかと思います。

●コミュニティ、市場、行政の関係を最適化

これからは、市場(コミュニティ)、企業、行政がちゃんと最適な形で連携し、「公共の質」を高めることが必要ではないかと思います。
行政が、抱え込み離さないものも多くあるが、民間が得意な部分ではなく行政が不得意とするところ、コストカットするところを民間にアウトソーシングすることもあります。つまり、先に話した、最適な関係がとても歪んでいる状態にあります。
なぜならば、役所の内部のみだけで話をし、進めている。行政の一方的な決定権により、ことを進めていることにあります。それから、もう一つが、コスト削減でアウトソーシングすることがすごい歪みをつくっていることにつながっています。やはり、民間に移すことは「質」で移すということにしなければ、市民の理解は得にくいと考えます。民間のほうが「質」いいと考えますし、結果、コスト削減につながることもあります。
少し整理をすれば、税を使って何を行うのか。「主権者市民」のためにどのようなことを行うのかは、本質的に、首長や議会の選挙において「主権者市民」意志は反映されますが、実施する事業について税を使ってただ行うことではなく、その事業をもっとも高い「質」の業者に発注をしていくことが行政の仕事という発想の転換をしたほうがよいと考えます。その「質」の高い業者を選ぶときは、具体的な業者を示しながら、役所内のみでの選定ではなく民間と対話しながら決めることが大切と考えます。
また、行政の一つひとつの仕事に対し、民間に出すか出さないかを議論するのではなく、行政のすべての事業を対象とするべきと考えます。
つまり、行政が自分の都合で民間に出すのではなく、民間がやりたいものを民間に移すということが大切と思います。言い方を変えますと、行政の仕事を全部たなざらしにし、民間の皆さんに見ていただき、行政の手から奪い取ってもらうことが必要です。
先ほど言いました、行政の下請け構造から脱却し、民間の手に戻す大切な仕組みと考えます。
「質」と言ってきましたが、様々な質があります。ストレスや不安も感じずサービスを受けられるようにする必要がありますが、その質を図る「物差し」をちゃんと定める必要もあります。ただし、その物差しも行政で定めるのではなく、民間の考えを踏まえ「物差し」を提案していただく必要があります。
そして、その「質」を図るときに必ずそのサービスを受ける「消費者」がそこにいることが大切です。

元我孫子市立緑保育園民間委託対策委員会 森口敏也氏 田中玲子氏

-我孫子市立緑保育園の民間委託に際し、受益者市民としてどのように考え、どのように係わってきたかをお話しいただきました。-

本日のお話は、私たちが民間委託のお話を聞いて、どのような考えを以て、どのように係わってきたか、そして選考過程から引き継ぎにおいて、どのように参画をしてきたかについてお話をします。
私たちが一番濃く活動していたのが、平成18年6月に「民間委託」の話を初めて聞いてから数か月間で、市から話を聞き、これからかかわらないでどうする、これ以上悪くならないようにしたいという話を保護者の中で話をし、立ち上げたのが「対策委員会」でした。
実際、話をお伺いした時は、もう保育園は平成20年から委託をすることが決まっていて、平成18年12月までの業者選定、平成19年からの引き継ぎに大きくかかわらせてもらいました。

●初期の活動と諸問題について

説明会もそうですが、市の側から情報提供、情報開示が不足していて、もう少し話していただければという思いがありました。
実は、説明会の前に、我孫子市から「保育サービスの充実に関するアンケート調査」というものがありまして、その中で、「保育園を民間委託して延長保育をする」という項目もありました。私たちも、アンケートがあったかどうか記憶にないような状況で、回収率も30パーセント程度というものでした。
それで、説明会の中でどういった説明をされたかといいますと、「アンケート調査をしました。結果として延長保育のニーズがありました。なおかつ、市内にある多くの保育園な中でも、緑保育園のニーズが高めでした。よって、緑保育園を民間委託にします」といったアンケートの結果をベースとした説明の仕方でした。そもそも、アンケートで「延長保育」の意向について、聞かれれば「そうですか」と回答しますが、民間委託まで突っ込んだ内容ではなかったため、何を言ってだろうかといった感じでした。
担当の方は、アンケートの結果がこのようであったため、「保育園を民間委託にしますよ」といったシンプルなストーリーにしたかったのだと思います。市のほうとしては、背景に、委託して経費削減というのもあったかもしれませんが、数年前に行政改革の中で、職員の人件費削減というものがあり、民間委託を進めることにより実現を図るものと思いました。このような、話が、市の関係者の中だけで進められ、市民が参画して考えや意見を述べることなく進められてきた状況もありました。
最初の説明会の中で、このような背景などが説明されることもなく、参加した私たちの中では、疑問が多く出て、様々な資料の提示を求め徐々にわかってきました。
やはり情報開示というのは大切だなというのが私たちの中ではありました。
まず、民間委託を説明会の中で聞いた際に、保護者の中では「大反対」。なぜ、今まで不都合なく子どもたちを通わせる中、先生もみんな変わられる、今、不都合はないはずなのにありえないという思いでした。
そして、「メディア」に取り上げられる民間委託の報道では、民間委託は悪い例ばかりで、問題がなければ、メディアのネタにはならないと思い、民間委託すれば、保護者と保育士が対立するようなイメージでしかとらえていませんでした。
市が提示したメリットは、「夜間保育をします。夜食も提供します」というものでした。しかし、突き詰めて考えれば、コストカットにつながるもので、夜間延長保育まで行い、コストカットを行えば、保育士の待遇ダウンにつながり、保育の質を落とすのではないかと考え、絶対にまずいと思いました。
このように、説明会を聞いても「何のためにやるのか」わからないという状況でした。

●活動の方針の決定

説明会終了後の数か月間が一番内容の濃い時期で、夜中の1時、2時ころまでメールで議論したこともありました。 まず、私たちが話を受け、どう対応していくかということで、まずは、このようなことにかかわってくれる人を集めることから始め、対策委員会の立ち上げに向け進めていったわけです。めんどくさいことにかかわりたくないという人も多いかと思いますが、最初から10数名ほど賛同者がいらして、思っていたより関心を持っている人が多いと感じました。
これからどう活動していくのかわからない状況でしたが、市からの話を受け「良い、悪い」の判断もできる状況でもなく、「検討グループと推進グループ」を組織の中で作り、反対の立場や賛成の立場でそれぞれ検討進めることとしましました。
賛成、反対などの検討を進める中で、市との話し合いなくして検討することはできないと、メンバーの中では意見が一致していて、市へも、その旨伝えていました。今後のコミュニケーションをする上ではよかったと思っています。
そして、検討を進める中で、各メンバーの思いや考えを市長へ伝える必要があるとして「要望書」を作成することとしました。

●保護者の意思確認

私たちも保護者の代表として、市との話し合い等をするわけですが、全ての保護者の考え同じというわけではなく、保護者会の総会で、私たちメンバーが市との交渉を進めることを承認いただき、保護者の意向を確認するため、対策委員会で、意向確認のアンケートを複数回も行いました。私たちの対策委員会が保護者と離れないように気を付けてきたところで、定期的な「たより」も発行をしてきました。
しかし、やってきた中で、取り組みに対する気持ちの差は、ほかの保護者の方と空気感の違い、溝があるところと感じていたところで、それを埋めるには難しいと感じました。
先進的に取り組んでいる他の地域への勉強に行ったり、取り組みを進めている方においでいただき、保護者の皆さんにお話しをしていただいたりもしました。私たちは、市と話し合いをして進めるとしたスタンスをとっていましたが、うまくいっていない市では、それが行われていなく、保護者自らが閉ざしている状況もありました。
私たちが納得したのは、市長との懇談会を開催していただき、説明を受けたてからでした。最終的には、民間委託を受け入れ、その方向にもっていこうと委員会でなったわけですが、そこに大きく影響したのが、市長との懇談会でした
。 私たちが気になったのは、保育園で働く保育士さんはどのように思っているのかということでした。市としては、施設は委託等を進めるが、保育士さんの退職を促すということはせず、雇用を保証するというもので、保育士さんの中では、市にたてついて存続させるということはなかったです。あとは、反対運動をした場合、それがどこまで続くのか、子どもが卒園してもなお反対運動にかかわる方もいらっしゃった状況があり、これはしんどいなと思いました。
断固反対を貫くことは、市と敵対関係になることで、9月から始まる選考委員会で蚊帳の外におかれることは絶対に避けたいと思っていました。

●選考過程から引き継ぎ

今の話で、9月から始まる受託事業者選考委員会があったのですが、私たちも賛成反対という議論もあったのですが、賛成となった場合、最初から意思決定への関与を進める必要があるとして参画してきました。
選考し、引き継ぎが始まるとそこで様々な課題が出てくるはずで、その際、保護者が蚊帳の外におかれてしまうことも避けたいと考えていました。そして、市、委託業者、保護者3者で保育園の運営について話し合う「運営員会」を設置することも決め、かかわっていく中で、市や委託先の業者だけでなくサービスを受ける市民も意思決定にかかわっていくことの大切さを感じたところでもあります。

●市側との信頼関係の確立

私たちも市との関係は重視していたところでありますが、市も私たちに対し、様々配慮いただき、選考委員へも多く参画させていただき、市と私たちの間に互いを尊重しあう関係が作れたように思います。
選考委員の選定に当たっては、市対保護者の関係ではなく、協力して民間委託を進めていこうという「同志」というようなものになっていったように思います。そして、いい業者をどのように選定するかということで、選考基準の策定ではかなり議論したところで、当事者の立場で選考基準を提案し、かなりの部分で取り入れていただきました。
選考過程で最も重視してきたところは、今まで緑保育園で行ってきた「質」維持したいというところでした。維持したい「質」とは何か、ずっと議論をしてきましたが、「自然を活かした保育」を求めたいと思っていました。子どもたちにとって、環境が変わることが一番怖かったため、そこを継続することを重点に考えました。
事業者選定の際の評価において、申請業者は各項目をクリアすることは最低ラインであり、その中で委託にたる業者を選定する必要があると感じています。

●まとめ

係わってきた中で良くなかったと感じたところは、政策決定の在り方について、もう少し市民に参画をさせてほしかった点と、情報開示を具体的に行ってほしかった点です。 良かった点として、信頼協調関係ができ主体的に係わることができたことです。
このような公共政策に関しては、市民が主体的に係わっていくべきであろうと思いますが、行政に求めることは、コーディネーター役です。
私たちが求める資料であったり、場の提供などを考えていただきたい。
市民を行動させるための手段を講じたり、課題を伝える仕組みを作ってほしいと思います。

係わりの中で、様々大変ではあったが、自分たちのことなのだから自分たちもやっていこうよという「市民自治」ができていたような思いがあり、初めて参画したような感じがします。 市民参加を進めるとよく聞きますが、プレーヤーとして巻き込む。お客様ではなく「当事者」として、巻き込むことが大切と思い、このような仕組みがどうにかできないかと思います。

市としては、公立、民間の保育園も「質」は同じと考えていて、9時までの延長保育を実現したいと思っていました。
しかし、市の保育園は、障がい児保育を充実していたため、高コスト体質であり、できるだけ、コストを増やさないで、9時までの延長保育を実現させるには、民間のノウハウを活かして実現したいと考えていました。保育園の運営やコストを考えバランスの取れた保育士集団を実現させ「保育の質」を高めたいと考えました。
事業者の選定の際、供給者だけで事業者を決定し、消費者(市民)が不在となる場合が多くあるが、公共サービスの質を評価する際に、必ず消費者の参画をどう作るかが必須になると思います。 ただ、公共サービスの場合、価格と質のバランスを完全に考えているわけではなく、そのことを、考える仕組みも必要と考えます。
また、施設の利用者においては、利用の維持継続、向上を求める声は多く出され、納税者は、税の負担増の場合反対はするが、その使われ方については無頓着なところがみられます。利用者の向上すべきとの声と納税者の負担を増やすなとの声のせめぎあいがあり、結局未来の市民へ負担を増やしている状況で、そうではなくて、みんなの施設なので、みんなで利用を考え、みんなで負担も考えられるようし「質を高めるべき」と思います。
保育園を委託業者へ受け渡す際の引き継ぎ期間を1年間とし、かなりのコストがかかりましたが、十分な引き継ぎができたかと思います。その中で、保育園の園長として勤務してきた職員も委託業者に転職し、引き続き保育園の運営にもかかわっていただきました。
これからの、公務員も、仕事が業者への委託も増えていく中で、仕事を選ぶか身分を選ぶかという選択が出てきます。そのことが、普通に考えることができる環境をつくることが必要になってきます。

本当に市民が動きたいと思う環境に、市民が動く環境をつくっていますか?
こういうことの意見を聞きたい、こう動いてほしいと思っている行政に対し、市民の側からここに意見を言いたい、こういうところに動きたいと思う市民の側とずれていませんかということなんです。そこをちゃんと行政の中から見ていただきたいと思います。

目の前にいる市民とうまくやろうとしてはだめだと思います。その後ろにいる市民のことも見ながら対応を考えなければならないと考えます。