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住民自治と自治体改革

キーワード:

講師:片山健也(ニセコ町長)
日時:2014年5月18日(日)9:00~11:30
文責:福井県福井市 宮川和也(2014年度参加者)

本講義の目的

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地方自治の本質は「住民自治」にあるとされる。まちづくりは「住民とともに」行うべき、と多くの人が口にする。では、住民自治とは何だろうか。そもそもなぜ必要なのだろうか。
片山氏は、戦後右肩上がりの経済成長の中で、行政は、地域の相互扶助の力を奪ってしまったと主張する。そして、行政が担ってきた仕事を“解体”して、本来やるべき人に返し、次の社会に引き渡していく仕組みを作ることが、これからの行政の役割だと言う。では、それを達成するには、何が必要なのだろうか。
ニセコ町では、徹底的に「情報共有」と「住民参加」にこだわり、実践を積み重ね、住民自治を鍛え続けている。職員は、政策に住民の日々の暮らし・意思・価値観を反映し、その熟度を高めるべく、日々住民とのやりとりの中にいる。日本初の自治基本条例である「まちづくり基本条例」があるから、住民自治の盛んなまちになったわけではないのだ。
かつては職員として組織の疲弊と戦い、今は町長として住民自治にこだわり続ける片山氏に、住民自治のあり方を聞き、住民自治が達成されると、住民やまち、行政の仕事はどうなっていくのかを考える機会としたい。

講義内容

1.「居眠り自治体」と「先駆自治体」

現在、約1700の自治体があり、どの自治体の住民も、同じような税金を払っている。しかしながら、進んだ自治体(先駆自治体)と何もしていない自治体(居眠り自治体)とがあり、その差は大きい。
民間企業を辞めて自治体職員になったとき、自治体には「時間軸のコスト意識」が無いと感じた。すぐ処理できる書類でも、「○○日以内に処理すればいい」と手元に置き、住民を待たせて当然というような状況だった。なぜコスト意識が無くなるのか?それは、自治体に「権力」があるからだ。権力があるから、目の前の住民のことよりも、制度や前例を守ることを気にするようになる。だから、変わらない自治体は、いつまでも変わらない。
財政担当だった頃、3年間の繰上げ償還計画(総額4億円)を提案したことがある。周囲からは「誰も指示していないのに、なぜ、一担当者がそんな余計な仕事するのか?」と言われた。しかし、現場の担当者が現場の課題に取り組まなければ、一体誰が取り組むのか。まちを思うことについては、担当者も首長も立場は対等である。たった一人の担当者が変える決意を持って行動すれば、首長を動かし、自治体を変えることができる。

2.住民自治はなぜ大切なのか

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首長は選挙で選ばれ、権力を与えられているが、権力は腐敗しやすい。そのため、「社会正義・民主主義・基本的人権」の3つが守られているかを、常に考えながら仕事をしている。
「住民自治」とは、地方自治における民主主義の実践であり、住民が「納得」を得るプロセスである。首長は、政策意思を形成する権力を持っているが、権力を好き勝手に行使してもよい立場とは言えない。もし、権力を濫用した結果、自治体を破たんに追い込んでしまったとしたら、住民の「納得」を得ることはできない。だから、首長が権力を行使するにあたっては、政策意思の形成過程において、住民と意見交換や議論の機会を設けるなど、「住民自治」の要素を出来るだけ取り入れる必要がある。そのようなプロセスを経ることにより、首長が最終的に下した結論に対し、住民の「納得度」を高めることができる。

3.ニセコ町における住民自治の実践事例(ごみ処理施設の建設等)

(1)白紙からの議論
二セコ町では、住民の嫌がるごみ処理施設を建設するにあたり、白紙の状態から住民と議論することを心がけた。稼働時期から逆算して「1年間で建設場所を決めなければいけない」ことを住民に伝え、議論を始めた。

  • まず、建設場所をどうやって決めるかという「決め方」から話し合った。
  • 議論のスケジュールや進め方のルール(ここまで決まったらもう後戻りしない、など)も最初に決めた。

候補地を3か所に絞ったところで、住民と議員とで現場を視察し、優先順位を決定。その後、建設候補地の自治会にお願いした。お願いにあたっては、日本一安全な施設にする(川の水質よりきれいな水しか外に出さない)ことを決めた。このようなプロセスを経ることにより、あとで文句が出るどころか、最後まで反対した周辺住民が今では自主的に施設周辺の緑化整備を行ってくれている。

(2)徹底した情報公開
住民も自治体職員も、同じ情報をもとに議論しなければ、納得度の高い議論はできない。そのため、情報は徹底的に公開することとした。

  • メモ書き、受付印を押していない文書、回覧していない文書でも すべて公開対象とした。
  • 内部の会議もすべて公開対象とした。

結果として、ごみ処理施設の建設地について、「強引に決めたわけではない」ことを、住民に分かってもらうことが出来た。もちろん、人が嫌がる施設が近くに来て、反対しない人はいない。しかし、「反対だが、せめて日本一の施設を作ってほしい」という声が届いた。

(3)住民を信頼しお任せする
ごみ処理施設と同じく、住民と白紙から議論した事例に、ニセコ町学習交流センター「あそぶっく」(図書施設)がある。

  • じっくり2年間議論して作った(先進地視察後、検討期間を1年伸ばした経緯がある)。
  • 維持管理についても、町民が議論し、「かくあるべし」という意見を持つ町民に、運営を任せることにした。

検討の結果、「あそぶっく」は、職員を一人も置かない、町民自慢の図書施設になった(運営は町民が担当し、町は1人分の人件費しか負担しない)。行政の仕事を住民にお任せする(住民を信頼してお返しする)ことが、良い結果につながった事例である。

4.政策意思形成過程に住民の価値観を入れる

例えば、Aという行政課題があった場合、解決手法は1つではない。そこで、どのような解決手法が考えられるか、という白紙の段階から、住民に議論に参加してもらうことにより、様々な価値観、意見が存在するという事実を、住民同士が共有することが出来る。住民が、多様な価値観を認め合いながら、解決手法を絞り込み、政策意思を最適化していく過程に参加することは、住民自治のプロセスそのものであると同時に、首長が最終的な政策意思を決定する際の、良質な判断材料にもなる。
多くの自治体では、政策意思形成過程を非公開として、原案を職員が作成し、審議会の意見やパブコメによる修正を経て決定しているケースが多いのではないだろうか。このようなやり方では、住民の価値観が政策意思に反映される余地が少ないと言える。
また、政策意思形成過程が非公開の場合、採用されたA案のみの行政評価を行うことは、無駄なコストではないだろうか。政策形成過程で採用されなかったB案、C案との比較検討こそが、本当に必要な検討ではないのだろうか。

5.良い風土を継続するための条例

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(1)情報公開条例
首長や職員が変わっても、情報を徹底して公開する「風土」が継続するように(職員の「裁量的秘密主義」の廃止)、情報公開条例を作ることにした。条例は、住民の「知る権利」を守るものであるから、情報を「管理する側」の視点での制度設計はやめようということになった。

  • プライバシーに関わらない情報は、「ご自由にお持ちください」
  • 公開することで、住民の自由な活動に支障が生じたり、プライバシーを侵害する恐れがあるものについてだけ回議が必要。

(2)自治基本条例
ニセコ町の多岐にわたる取り組みが、首長が変わったら白紙に戻るのではないかという不安があったため、自治基本条例を制定し、今やっていることを規定しようということになった。
自治基本条例を作るにあたっては、住民と職員のワーキンググループで徹底して議論するなど、その作成過程が住民自治そのものであった。制定後は、行政の仕事について、「自治基本条例に基づいた仕事になっていない」と、批判を受ける根拠にもなっている。自治基本条例は、地方自治の標準装備と言える。ぜひ、地域の特性に応じた自治基本条例を作ってほしい
なお、ニセコ町の自治基本条例の数ある規定の中で、規定して最も正解だったと思う一つが、首長による自治基本条例の「宣誓」規定とのことであった。

6.ニセコ町におけるその他の取組

(1)まちづくり町民講座
行政のやっていることをもっと知ってもらう主旨で、町民講座を実施している。終わったあとは1時間程度町民と議論をする。住民自治だけでなく、職員の研修という点でも効果が期待できる取り組みである。
このような講座を開催すると、議論の時間に、住民からの要望が出ることがある。その場合、担当課長が意思決定をすればよいと伝えている。その意思決定が最終的に通らず、予算がつかないこともあるだろうが、なぜダメだったのかを再度説明すればよいだけのことだ。職員には、「語れる職員」「責任の所在をはっきりさせる職員」になるように言っている。

(2)財政民主主義 katayama5
「もっと知りたいことしの仕事」は、ニセコ町の予算説明資料。目玉事業や主要な施策だけでなく、すべての事業について、具体的に分かりやすく記載されているのが特徴である。ニセコ町ではこの予算説明資料が全戸配布されており、職員が住民に町政について説明するテキストとしても使われている。
政策意思形成及び予算策定の過程を町民に公開し、参加してもらうこと。そして、財政の実態を分かりやすく詳細に説明することにより、財政に関する説明責任を果たすこと。ニセコ町は、このような取り組みを通じて、「財政民主主義」を実践している。

7.まとめ 行政はサービス産業か?

これからの社会は、住民が自治力を発揮し、互いに助け合う相互扶助の社会を実現していかなくてはならない。社会を市場化し、福祉をサービス化すれば、住民は対価に見合ったサービスを求めるようになり、住民が本来発揮できる自治力、相互扶助の社会が失われていってしまう。
だから、ニセコ町では、「サービス」という言葉を使うのをやめようと試みている。行政の仕事は、お客様にサービスを提供することではない。主権者である住民の意思を反映したまちづくりをし、住民が力を発揮することで、明日を心配せず、生き生きと、喜びを感じながら生きていくことのできる社会を実現することである。

参加者感想

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片山町長のお話や立ち居振る舞いから、「清々しい」印象を受けました。それは、隠し事をせず、伝えるべきことをしっかり伝え、とことんまで議論するという姿勢を貫いておられることからくるものだと思いました。この「清々しさ」が風土として根付いているニセコ町では、職員の皆さんや、住民の皆さんもまた、清々しく生き生きとされているのだろうと思わされました。
ご講義の最後にあった「行政はサービス産業ではなく、住民はお客様ではない」というお話は、特に印象深いものでした。私たちは、「行政は最大のサービス産業である」という言葉を、住民に対して謙虚になるためや、権力のもとで腐敗しやすい自治体職員を戒めるために、深く考えることなく、気軽に使い続けてきました。ですから、何の準備もなく今日から「行政はサービス産業ではなく、住民はお客様ではない」とは言えないし、言っても傲慢な印象を与えるだけで、真意が伝わらないと思います。ニセコ町には、そのような言葉の真意が職員や住民に伝わるだけの、自治の積み重ねがあるのだと思うと、あらためて、その差を思い知らされました。
これからの自治体は、職員や住民が本来持っている力を、いかに引き出していくかが課題になるとと思います。そのためには、ニセコ町の、隠し事をせず、伝えるべきことをしっかり伝え、とことんまで議論するといった、清々しい姿勢が、お手本になると思いました。

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