2016年度のプログラムが終了しました(更新日:2016年12月21日)

まずは問いより始めよ ~課題設定と課題解決~

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講師:亀井善太郎(東京財団政策研究ディレクター兼研究員)
講義日:2015年5月17日(土)12:30~15:00
文責:岐阜県御嵩町 川上敏弘(2015年度参加者)

◆講義のねらい

亀井さん2地域の課題を解決するのが自分の仕事だ。皆さんはそう言う。
では、皆さんが解決しなければならない課題とは何だろう。
首長の公約や、住民から聞こえてくる声やリクエストは課題だろうか。
前任者から引き継いだ仕事や、上司から指示された仕事は課題だろうか。

学校とは違い、誰かが問題を出してくれることはない。誰かが正解を知っているわけではない。
ましてや前例や横並びの事例が正解になるわけでもない。

課題を解決するとどうなるのだろう。
あなたは課題が解決された後のことを考えて、その解決に取り組んでいるだろうか。

課題を解決するということは、解くべき課題を見出すところから始まっている。
誤った課題を解いていては、せっかくの努力もムダになりかねない。皆さんのムダならよいが、皆さんのコストは納税者が負担しているのだから、それはそれで許されることではない。
時間も資源も限られている中、解くべき課題を見出し、数ある課題の中から選び出すことこそが重要である。

実際のところ、地域、役所、個人、それぞれに、本当の課題を見つけるのは難しい。
課題を見出し、解決に至る道すじをどう歩むのがよいのか、具体的に考え、実践できるためには、皆さん一人ひとりが、自分自身の問題として真摯に向き合うことがまず求められている。

◆講義内容

社会をより良くするとはどういうことか。観念としては表現できるが、具体的に考えないと何がしたいのかがわからない。地域の幸せとは何かを具体的に考えていかないとそれは実現できない。それぞれの物差しは社会を構成する個人にしかない。自治体職員として地域社会を相手にして考えていく際に大事なポイントとなる。社会の課題解決は家族、個人、企業でもできる。その中で行政は何を求められているのか。行政の機能や特徴、市民や企業との違いは何かを具体的に考えてみよう。

・インフラを整える  ・教育の機会などを公平に与える

・生活を保障する  ・治安を守る  などの意見が受講生からあった

では、「公平」とは何か。量的な公平なのか、懲罰的な公平なのか。行政職員はその担い手として公権力を行使するが、それをしっかりと考えているだろうか。また「公の利益」とは何か。みんなにとって良いこととは何か。意見の異なる人たちをどう統合していくか。それを考え続けることが大切。

■いろいろな角度から物事をみる

(図1)の立方体は、A面とB面のどちらが前面に見えるか。正解はいずれも前面である。つまり物事の捉え方には、何通りもの見方があり、必ずしもこれが正解というものはないということ。無題「現代」とはこのような時代であって、社会課題にはいろいろなものの見方がある。

同じものを見ても、異なる意見が出る。被災を想定した事例でも、どれが正しいかどうかはその時の状況によって異なる。「時間軸」「スペック」「場所」という3つの論点について、行政職員は、どの課題を優先して考えたのか、決めたことに対してしっかりと説明責任を果たすということが大切。3つの論点だけではなく、他にも想定できるはずである。今回の事例は3.11の時の長野県栄村であった(実際の事例:国は当初、役場の近くに仮設住宅を建てる案を出したが、その時の行政は日常に目を向け、各地域毎に仮設住宅を建てた)。大切なことは、自分たちが何を優先して選択したかをはっきりさせることである。

 

■声なき声を受け止めていく

行政職員はスーツを着て、ネクタイを締めて、書き言葉で説明する。住民はそれを「何か違う」と思っていることが多い。中には反発する人もいるだろう。川上さん2しかし、そればかりが市民の声ではない。「声にならない声」をどう受け止めていけるかが大切だ。

地域社会の中で、行政職員は書き言葉のプロである。皆さんは、そのバックボーンとなる地方自治法や法律、条令について、誰にも負けないという自負はあるのか。行政職員はまちづくりの専門スタッフである。だからこそ、書き言葉を話し言葉の世界の人たちにそのままぶつけてはいないか。地域、家族、日々の暮らしの中には、話し言葉や言葉にならない世界がある。行政の仕事は、話し言葉の世界の課題を書き言葉の世界で実現していくということである。だからこそ、行政は声なき声を受け止めていくこと、そして異なるそれら世界を自由に行き来できるようになることが大切だ。

 ありたい姿は一つではなく、いろいろな形がある。「幸せ」や「豊かさ」は書き言葉では表現しにくい。行政職員は、言葉にならないことや話し言葉を駆使して、課題を見出し、書き言葉を使って解決へと進めていく。また課題の原因をしっかりと見極める必要がある。「みんな」とは誰か、を具体的に考えていくこと。課題を解決するとどうなるのかがわからなければ、それは課題ではない。見えている課題だけではなく「なぜその課題があるのか」を考える。なぜを3~5回繰り返していくことで、課題の真因にたどり着く。そこでようやく課題解決に向かっていく。

■考えを深めるための「対話」

対話をして考えていくことが大切だ。それが正しいか、間違っているかではなく、もっと地域をよくしていくために対話をしていくということを意識してほしい。人間のコミュニケーションには5つあると言われている。①演説、②議論、③対話、④独り言、⑤おしゃべりである。議論はお互いに正しいんだと言っているだけ。大事なのは対話である。そのためには情報共有し、一緒に考えていくということが大切だ。情報を出すにあたっても、書き言葉のままではなく、話し言葉で情報を出していくということを意識してほしい。

黒澤明監督の『生きる』という映画がある。この作品では、基礎自治体の本髄が描かれている。みなさんの仕事は、この『生きる』という映画が描ける仕事なのだ。国や中央省庁がやっている仕事とは違う。国と地方といった上下関係もない。財政が大きいから偉いというわけでもない。大切なのは地域住民一人ひとりの生活に直接関わる仕事をしているということである。かつ、地域の幸せを作るために、その地域の人から集めた税金で暮らしているのである。亀井さん講義

地域の人と一緒になって、本当の声を聴いて、信頼される存在として自治を担える人材となれるよう、何ができるかを考えていただきたい。

【感じたメッセージ】

●概念的で終わるのではなく、「なぜ」を繰り返し続け、自らの考えを掘り下げること

●声なき声を受け止める。話し言葉と書き言葉を自由に超えられるように

●大切なのは「問い」。自分は何のためにやっているのか、具体的に考える

◆参加者所見

かわかみさん

今まで自分は観念的に「なんとなく」仕事をしていたと感じました。論理的な思考やなぜを繰り返し、課題の本質に迫ることをしていなかったように思います。目に見える事象ではなく、本当に解くべき課題をその事象から読み取ることが大切であることがわかりました。

普段、どうしても議論をし、自分の意見の正当性や正しさを主張しがちですが、自治体職員として大切なのは「対話」であり「言葉にならない世界」をどう伝え、課題解決のための政策などに反映させていく必要性を感じました。地域の豊かさを作っていく仕事が行政の仕事だと捉えることによって、すごく前向きになりました。