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市民の公共をつくる

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講師:福嶋浩彦(東京財団上席研究員、中央学院大学教授、 元我孫子市長、元消費者庁長官)
講義日:2015年6月6日(土)
文責:群馬県高崎市 荒木征二(2015年度参加者)

◆講義のねらい

「公共」とは本来、市民のものである。これまで、「公共」は行政のみが担うものであるという意識が支配的だったが、近年は「官民連携」や「協働」と呼ばれる取り組みが進み、全国に多くの事例がある。そんな中、しばしば見られるのが、一部の事業についてだけ「協働事業」を謳っていつつも、大半の事業は行政の都合であるコストカット、さらに言えば人件費の抑制を目的として委託・下請けに出しているという構造である。効率的な行政サービスを目指すことは当然だが、「何のため」、「誰のため」という視点が抜け落ちていないだろうか。

本講義では、千葉県我孫子市の市長として、市民自治の理念の下で民と官の連携を追求した福嶋浩彦氏を講師に招き、いま一度、公共の本質と、その担い手について考える。

 NPO・企業など様々な「市民の主体」と、主権者である市民の意思で動く「市民の政府(自治体)」が真摯に対話し、対等な関係で連携することによって、人口減少時代における豊かな公共、豊かな市民の生活を実現するという思想や実践について学ぶ機会とする。

また、講義の後半では、サービスの受け手の市民、民間事業者をゲストに招き、民と官の連携で事業の質を高めた事例を紹介する。市民と行政の対話のあり方を学びながら、市民の視点、行政の役割を考える。

◆講義内容

1.福嶋先生講義

  • 福嶋さん0606今後も続く人口減少社会にあっては、市民一人ひとりから出発する社会づくりをしなければならない。
  • この、市民一人ひとりから出発する社会づくりができているか、それを問われるのが、自治である。
  • ちょうど、日本創生会議から介護移住に関しての提言があった(「東京圏高齢化危機回避戦略」)。これは市民一人ひとりの思いからスタートしていない典型。
  • 介護ベッドがなければ、ベッドが空いている地方に移住すれば良いという発想は、市民の思いに寄り添っていない。
  • 受入側の地方にしてみれば、どんなに教育に金をかけても若年層人口が流出し、そのうえ生産年齢を過ぎた要介護者を受け入れるというのは戸惑いも大きいだろう。
  • 要介護者であっても受け入れるべきなのか、各自治体も迷っていると思う。
  • 自治はこの提言とは逆の発想から出発しなければならない。
  • とはいえ、自治体が分権を嫌がっているところもあり、地方分権一括法が施行された2000年時点のレベルに追いついていない実情がある。

 

 【国にはしっかりと意見する】

  • 我孫子市が介護認定を導入する時に独自指針を採用し、認知症患者の24hモニタリングを計画した。もともと市の単独予算でやるつもりだったが、国がそれなら全額負担したいと申し入れしてきた。国に意見するなら徹底的にやる、そうすると一目置かれるという実際の例。
  • 日本創生会議に対しても、誰も意見を言えない雰囲気がある。首長が国に意見できないという状況が問題だ。
  • もし国に言って、市民に実害があるようなら、辞めて責任をとるのが首長。
  • 公共(公)という言葉を、イコール行政と勘違いしている公務員が意外と多い。国の職員でもたまにいる。公共(公)と行政を混同して使っているようだ。
  • 英語で考えると分かりやすいが、公共(公)はパブリック、行政はガバメントだから、全然意味が違う。
  • 最近、公民連携(PPP)という言葉も聞かれる。官民連携では固いイメージがあるからと、官の代わりに公という文字を使ったらしいが、公に対する言葉は民でなく、私だろう。公私連携なら、多少意味が分かる。
  • 公共(公)とは自治体や行政を指しているのではないと、しっかり認識しておく必要がある。
  • なので、「役所の公共」というフレーズはあり得ず、「市民の公共」というフレーズはあり得る。
  • 市民の公共をつくり出すのに必要な道具が、行政である。

 

 【市民には3つの種類がある】

  • 市民(主権者)と行政は対等ではない。主従関係だ。
  • 市民(主権者)は、首長と議会を選ぶ立場にある。一見すると間接民主制のような形態だが、いざとなったら最終的に市民が直接選ぶことになるので、その点が国政と根本的に違う。国政は憲法(前文)に代表者がこれを行うと明記されている。
  • 憲法第95条に特別法を制定する場合の住民投票の規定があるが、これが市民に最終的な選択権があることの好例である。
  • 第95条の規定によると、特別法を制定する際には、首長にではなく、議会にでもなく、直接市民に問うとなっている。首長にも議会にもこの権利はない。
  • ほかにも、法定合併協議会の設置が議会で否決された時には、住民投票で議決を覆すことができるという規定もあり、参考になる。20150606-4
  • 地方自治体の二元代表制では、任期の4年を待たなくてもリコールできるという点でも、国政と異なる関係になっている。
  • 地方自治体には、直接民主制と間接民主制の二面性がある。
  • 各地で住民投票条例の制定が進んでいる。我孫子市型の住民投票条例なら、投票の結果、首長の意思を変えさせることができる。
  • 一見すると地方自治体は間接民主制のようだが、自治の土台にはつねに直接民主制があることを認識しておかなければならない。
  • 市民が選ぶもの

1.選挙で首長と議会

2.市民の直接決定

3.行政と議会が決める過程に参加(市民参加)

  • 結局は首長が決定するのだから、市民参加は意味がないか? いや、市民参加があると首長の意思と決定内容に変化が生じる。
  • 市民の直接決定の場合は、首長は自分の意思を曲げて市民の意思に従う。市民参加がある場合、首長は市民の意見を参考にするが、決定するのは首長。責任とるのも首長。
  • 市民(事業者)と行政は対等な関係。
  • これまでは行政が不得意な部分のみを民間委託してきた。ほとんどが行政側の都合のみで民間委託されてきた。
  • 考えるべきは、「最も質の高い運営をできるのはどこか?」だ。その結果が教育委員会であっても、民間事業者であってもいい。

EX.音楽ホールの運営委託

  • 最も質の高い運営をどこができるのかは、民間との対話がなければ分からない。
  • もちろん、コストと質のバランスも大切。本来、アウトソーシングの目的はコストと質。ただ、コストだけが主目的にならないように注意が必要だ。行政が外に出したいものを民間委託するという考えでなく、民間が行政よりも上手にできる、やりたいと考えているものを民間委託するという考えが大切。
  • そのためにも、市は業務を店晒しにしておかないといけない。→公共サービス民営化事業
  • 市民(住民・受益者)と行政は緊張関係にある。
  • 事業選定の過程に市民が参加。

EX.新宿区は公開プロポーザルで指定管理者を選定。

  • 利用者と向き合うことが大切。ただ、利用者目線は偏りがちなので、主権者・納税者の目線からの議論に発展することも大切。

 

2.事例−①

  • 我孫子市の元市立緑保育園の保育民営化プロセスに際して、当時保護者の立場にあった、元民間委託対策委員会、森口敏也氏と田中玲子氏からの事例報告。

 

3.事例−②

  • 我孫子市の公共サービス民営化事業をうけて、助産師の立場からの母親学級運営を提案し、受託している(一社)千葉県助産師会の足立千賀子氏からの事例報告。

 

4.パネルディスカッション

 福嶋浩彦(東京財団上席研究員、中央学院大学教授、元我孫子市長、元消費者庁長官)、森口敏也(元我孫子市立緑保育園保護者会 民間対策委員会委員長)、田中玲子(同委員会委員)、足立千賀子(千葉県助産師会会長)

パネルディスカッション

福嶋 : 「市はもう決めたから」といって、話合いを始めるというのも、始め方としてはあり得ますかね。

森口: 結果として、議論が始まったのは事実。「決まった」と聞かされたので、せめて事業者選定の場面では意見を言わなくてはと考えた。

福嶋: 民間の保育園は、自分のところの運営に絶対の自信を持っている。民間の保育園が、公設の保育園に劣っているとは決して言えない。もちろん、そんな説明もできない。

森口: 市民は基本的に行政から出てくる情報には無関心。それが当然だと思う。7園協(市内7園の保護者会連絡会みたいなもの)も何も言ってこなかった。

自身に直接火の粉が降り懸ってこないと真剣にならない。重要だった要素はいくつかあったが、一つには当時の園長先生がいる。

常に保護者側に身を置いていて、最後は市を退職して社会福祉法人の職員となって緑保育園の民営化後も支えてくれた。この園長先生の存在は重要。

福嶋: これからは、公務員であっても身分を捨てるという選択があっていい。

こうした、公務員でも仕事を選べるという環境づくりはこれから大切になってくる。

この民間委託対策委員会(以下、民対)のいい点の一つは、そのつながりが今も続いているところ。

田中: ただ、ちょっと思うのは保育士の先生方の給与水準のこと。

これは後になって考えたのだが、大きな問題点だったはず。コスト削減を先生方の給与から当て込んだ形になったのが、果たして良かったのか…

この民対のネットワークはとても良かった。民対の活動は大変だった分、得られたものも大きかった。本当にみんなと一緒にやれて良かった。20150606-2

福嶋: 保育士の増減は、臨時職員で対応しているのが実情だ。

本来の臨時職員の趣旨から逸脱して運用している面が多々あるから、論的に整理する必要がある。

足立: 母親学級は元々市の保健師が担当し運営していた。

保健師さんたちとしては、まず出産がその後の乳幼児段階での問題発見の場と捉えていたので、私たち助産師が手掛けることに反対が強かった。

福嶋: 乳幼児の段階で予測される問題の早期発見まで保健師がやらなくても、できる人がいるのだから、できる人に任せようというのが考え。

保健師さんたちには、もっと目配りしてもらいたい現場がいくつもある。地域のもっと別の問題に踏み込んでもらいたかった。

足立: 実は、この公共サービス民営化事業という仕組みを教えてくれたのは、当時の保健センターのセンター長だった。

福嶋: この民営化事業は仕組みとして、市行政の中でも出来の悪い部署の所管事業に対して、民間から手が挙がる可能性が高い。

市の業務を根底から見直すにも良い機会になった。

足立: 保健師さんも、きっちりとテキストどおりに母親学級を運営していた。でも、助産師ならテキストの先の話もできると常々思っていた。

それは、物差しの当て方の違いであって、どこにどう当てるかで、質の善し悪しも変わってくることになる。市の保健師さんからは、我孫子市の将来目標までしっかりと引き継ぎを受けた。

なので、知識を伝達することが市の保健師さんたちの意識だと感じた。私たち助産師は知識よりも先にあるものを伝えるようにしてきた。母親たちが生活に反映できる知識を伝えてきた。

田中: 保育園の場合、その質はすなわち保育士の質だ。民間委託の仕様書にも保育士さんの年齢構成を謳ってあるが、実際に運用すると、このルールが足かせになっていると聞いた。

とてもいい保育士さんが面接に来てくれたけど、年齢構成の規定に引っかかって採用できなかったと。

こうしたこともあって、仕様書などの文字で質を担保することは、とても難しいことなんだと気づいた。

福嶋: 本当に市民にとって質がよくなることにつながるのかどうかという視点で捉えることが大切。その上で、それは官でやるべきことなのか、民でやるべきことなのかを考えるべき。

森口: 今、目の前にいるお客さんだけを見て、考えていると失敗する。目の前のお客さんにしたことが、どこの誰にどのように影響するかまで思いを巡らせる。そうした感覚が大事だと思う。

足立: 私たちも、母親学級から家に帰った後の母親たちの家庭生活、地域生活を想像している。そうしたアプローチはとても大切なことだと考えている。

福嶋: 縦割りでケンカしているようなら、仕事の取り合いでケンカしてもらいたいものだ。

田中: 一番はじめの、市保育課の説明会がどんな形であっても、きっと保護者たちは、満足しなかったと思う。なぜなら、市の保育に十分満足していたから。

緑保育園の場合は、良い事業者の方が受託してくれたから満足のいく結果になった。

福嶋: 事業者選定の過程は、保護者の方々が主導した。それが、市が主導してやった場合と異なる結果に結びついたのだと思う。

田中: 民対が活動を始めて、早い段階で福嶋市長(当時)と対話できたのが大きかった。

そこで、自治の考えを聞いて、私たちの目も覚めた。やっぱり、トップがしっかりしていると、職員もピリッとしている。

 

◆参加者所見

<緑保育園民営化プロセスについて思うこと>

 我孫子市の事例、緑保育園の民営化プロセスを聞いての私見を整理してみたい。まず、我孫子市保育課が保育園の民間委託を検討するのは、職責として当然のことである。どこの自治体も行財政改革に取り組んでいることであろうし、夜間保育、延長保育や一時預かりなどはなかなか市の直営では対応が難しいだろうとも思う。高崎市でも保育士、保育所園長らから話を聞いてみると、この辺りの柔軟な対応は保育士のシフトを組むのが難しく、臨時・嘱託保育士に超過勤務手当を支払えないなどの理由から、困難だとしている。荒木さん0606

 我孫子市保育課が、こういった要素を加味して保育園の民営化を企図する。市内の保育所の中から、適性を比較検証して緑保育所をチョイスする。ここまでの過程は、市保育課の職責であって、他には委ねられない。ここの部分を市民参加で、などというのでは、それこそ職務を全うしていないとの誹りを免れないだろう。 さて、そうなると私の考えがそもそも市民参加の意義を理解していないということになりそうなので、整理して自分なりの考えをまとめてみたい。

 私は、税で飯を喰っているからには、プロとしてここまでの仕事は当然のことと考えるわけだが、ここで(第1回)講義の片山町長の話が思い出される。片山町長は「政策意思形成過程における住民参加」を強調しておられた。論説(自治基本条例の制定とニセコ町の今〜まちづくり基本条例施行から11年を経て〜 計画行政)でも、「PDCAサイクルの各段階への住民の参画」と述べておられる。政策課題発見の段階から住民参加が予定されているのだろう。ニセコ町を規範として考えるならば、そもそも保育園を民間委託するかどうかの段階から市民参加が望ましいとなる。

 まず、前提として政策意思形成の過程における市民参加に異議はないということである。特に、一般に市民生活に重大な影響がある事案、例えば、産業廃棄物処分場、原発の関連などなどは政策意思形成過程に市民のインカメラ審査が必要な事案であろう。それに対して、教室に扇風機を設置するかといった事案まで市民参加でなければ決定できないとなると首を傾げる。教室に扇風機があるかどうか、保護者としても関心事であるはずだ。しかし、そこは行政として、ニセコ町の言を借りれば専門スタッフとしてしっかりと考えた上で要否を判断すべき問題だろうと考える。

< 福嶋先生の自治モデルについて >

 「主権者市民、事業者市民、受益者市民」といった市民の3つの立場と行政の関係性を平面的に見るのでなく、立体視することが大切。平面的にこの自治モデルを見てしまうと誤る。それぞれの場面ごとに、市民の顔も変われば、行政側の立場も変わってくる。

  このように考えると、このモデルの汎用性が大きく高まる。行政の持つ公権力は主権者市民に対するだけではなく、社団・法人等々の事業者市民にも適用される。また、主権者市民のコントロールは法律行為的な行政行為に対してだけでなく、自治体が純粋自治事務として取り組むようなまちづくり活動に対しても、場合によっては及ぶだろう。

 私たち、職員は常にこのようなモデルを頭の片隅に置いておかなければならない。相対する市民に対して、その時自分がどのような役回りを担っていて、あるいは市民からどのような役を期待されているのか、整理する思考が必要だと思った。

【モデルを平面視する】

荒木さん1

【モデルを立体視する】

荒木さん2

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・ 「市民の公共をつくる」 福嶋浩彦(レポート)

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2011年度
・ 「『住民自治』と『公を担う民』」 福嶋浩彦 (レポート)
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