2016年度のプログラムが終了しました(更新日:2016年12月21日)

市民の未来を守る~健全な財政運営とは~

キーワード:

講師:松本 武洋(埼玉県和光市長)
講義日:2016年6月25日(土)13:30-15:30
文責:週末学校事務局 鈴木 隆

◆講義のねらい

松本市長

行政とは何か。この根本的な問いを考えたことがあるだろうか。

住民の暮らしや健康福祉にまつわること、道路や公園の整備等地域の環境づくり、そして戸籍や住民票の管理等、行政の仕事は多岐にわたる。日々の行政運営は住民から集めた税金を原資に行われており、その使い道を決めることは行政の最も大切な仕事の一つである。人口減少社会に転じたいま、全国の自治体において持続可能な地域経営が求められており、そのためには財政の健全な運営が必要となってくる。

本講義では、埼玉県和光市において数々の財政改革を実行してきた同市市長、松本武洋氏を講師に迎え、財政運営の観点から行政の役割を考える。はじめに、そもそも「健全な財政運営」とは何かを整理した後、「和光市健全な財政運営に関する条例」の策定をはじめとする和光市のまちづくりを広く学びながら、市政を貫く理念を理解し、人口減少社会における行政の役割を考えたい。

◆講義内容

【イントロダクション:健全な財政とは何か】

● 自治体の「ミッション」(使命)は何か
講義のテーマである健全財政について考える前に、そもそも、自治体の果たすべき「ミッション」(使命)=存在意義とは何かを考えたい。一般に、組織のミッションを考える上では、まずサービスを提供する「顧客」が誰かを明らかにする必要があるが、自治体にとって「顧客」とは誰だろうか。地域を経営する立場にある行政の「顧客」は、その地域に住む「住民」という理解でいいのか。「住民」といっても、行政サービスを受ける受益者という立場だけでなく、納税者という立場もある。自然人だけでなく法人も「住民」と考えられるし、域外から通勤通学する人も「住民」と考えられる。自治体としては、このように多様な「住民」を前にして、果たす「ミッション」を考えなくてはならない。
行政の「機能」としては、税・使用料を徴収し、サービスやインフラを提供するということになるが、「ミッション」は、その「機能」をしっかりと果たすうえで常に立ち返るべきものにあたる。和光市では、市長就任後に全庁で議論した結果、「ミッション」を「『住んでよかった』と実感できる行政サービスの提供」と定義した。私たちは、市民の意見も取り入れながら、常に「ミッション」に立ち返ることを徹底して、行政経営をしている。

● 健全な財政とは何か、なぜ必要か
ではテーマに戻って、健全な財政はなぜ必要なのだろうか。地方財政法(第2条1項)に規定されているというのが法律上の要請であるが、具体的には、健全な財政運営は「財政を持続可能なものとし、自治体の行うべき仕事を継続的に全うするため」(大石・岡本著「地方行政」ぎょうせい より引用)に必要と考える。つまり、健全財政は自治体が、これまで述べてきた「ミッション」を果たしていくための必要条件であるといえる。
それでは、健全な財政とは何か。諸説あるが、「たとえば…単年度の収支において赤字を出さない(講師注:単年度収支が大きなマイナスにならない)というだけでなく、長期的に見ても収支の均衡を保持しうるような歳入歳出の構成になっていること」(同、引用)という説明が妥当と考える。
単年度でも、中長期的にも、収支の均衡が取れている財政の構成を維持するのは、現在の自治体運営では決して簡単ではない。もはや右肩上がりの経済ではなく、人口は減少し、公共施設も統廃合を進めなければならない。昔に比べ、首長も、職員も、失敗が許されない時代になってきていることをしっかりと意識すべきである。

【和光市の事例】

● 税等の料金設定の見直し・徴収の強化
 市長に就任する前の和光市では、大手企業からの潤沢な税収を背景に国保・下水道・学童保育クラブ・保育園の料金設定が10年~30年間値上げされないままだった。そんな中、就任直後、リーマンショックの影響を受け、ある大手企業へ約4億円の予定納税分の返納が発生した。これは当時の税収の3%強に相当する。市は「やりくり作戦」と題して徹底的な事業見直しや経常経費の削減、入札差金を残すことに取り組んだが、結果は大幅な税収の減となってしまった。
住民に公開した事業仕分けや、公募委員による大規模事業検証会議も実施したが、金額的には大きな削減は実現できなかった(住民の財政状況や税金の使い道に関心を高めるきっかけとなった)。
さらに国民健康保険特別会計においても予算計上の処理誤りがあり、2億円規模の見込み違いが発生するなど、財政運営の見直しが急務となった。
 これらの状況を受けて、現状に沿った料金設定をすべく、上記の事業の各料金を値上げする議案を提出し、1回目は否決されるものの、値上げ率を譲歩することで可決され、各料金が値上げされることとなった。このことにより、年間3.4億円の自主財源をカバーすることに成功した。住民からの不満は少なくなかったが、適正な料金設定をし、受益者が適正水準の負担をすることで、財政の基礎体力向上に繋がる事例となったと考える。
 料金の値上げだけでなく、滞納政策の徹底を行った。納税コールセンターを設置し、滞納発生後に電話で督促することで早期の解決を図った。また、市単独費のサービス提供(小中学生の医療費の公費負担など)を税の完納者に限ることとしたり、これまで行っていなかった不動産・動産の差押さえ・売却を実施した。これらの施策により、国保税の収納率はV字回復した。

● 財政運営における「住民参加」の重要性

自分でいうのも何かと思うが、首長は日々いろいろな人と会うことで、様々なアイデアを思いつく。講義風景1ただ、思い付きによる首長の暴走は予防しなくてはいけない。和光市では、住民参加型の予算編成を実施しており、計画にのっていないものは実施しない、という方針を徹底している。実施計画案の段階から住民の意見を募集、多くの意見が来るわけではないが、少なくとも意見を言える場は作っているので、あとは住民がそれをどう活かすかである。また、議会での議決に至るまで、情報の公開を徹底している。
以前は住民向けに予算説明会・決算説明会を開催していたが、あまり参加者が多いとは言えなかったので、現在は市長が説明する形での動画配信をしている。また、市長選での公約であった、財政白書を行政と住民が協働で作成することも市長就任以来続けている。
保育園の民営化などにおいては、直接的なサービスの受益者としての住民は、民営化によるサービスレベルの変化などについては問題意識が高いが、納税者の立場から、民営化による費用の削減効果、さらにはそのお金を何に使うのか、という問題について意識が高いとは言えない。これは日本の源泉徴収制度の影響が大きいので簡単なことではないが、「民主主義の根幹」としての税(後述)の使い方を住民と共に議論していくことが大切である。
全国的な少子高齢化、経済の停滞により、どの自治体でも、サービスの切り下げや受益者負担の増加は不可避である。その必要性を住民に納得してもらうためには、情報共有や説明責任の貫徹が必須であり、その手段としての財政規律、財政運営の基本的事項のルール化はもはや不可欠になってきていると考える。

● 財政民主主義を徹底するための「健全財政条例」
そもそも行政の課税権など財政にかかる権限のコントロールは「民主主義の根幹」である。歴史的には、市民の代表である議会の同意がなければ課税できないとする租税法律主義は、近代民主主義の発展とともに確立した。
和光市において、必ずしも財政民主主義が十分に機能してこなかった経緯を踏まえ、財政運営の基本的事項は議決を経る条例で定めるべきであると考え、「和光市健全な財政運営に関する条例」の策定に取り組み、平成25年4月から施行されることになった。
この条例の主な目的は、
・ 財政運営に関する基本的事項(従来から持っていた内規含め)を明確化し、恣意的な運用がないようにすること
・ 不作為による財政悪化が起きないようにルール化すること
・ 条例制定の過程を共有してもらうことで市民や議員の関心を高めることであり、住民が財政状況を把握し、首長や行政の暴走が進まないよう監視するためのツールとなっている。
先行事例を参考にしつつ、和光市の実態を踏まえ無理のない範囲で条例化した。特徴としては、以下の点が挙げられる。
・ 計画行政の実施を規定
・ 公共施設の統廃合の可能性の検討を規定
・ 借入残高逓減を規定(起債残高が増える場合の例外規定有り)
・ 使用料、補助金、委託料の定期的な見直しを義務化
・ 人口一人当たりの起債残高を指標として導入
・ 特定目的基金を含めた実質単年度収支を指標として導入

【まとめ】

● 財政ルールの条例化は、次世代への贈り物
「健全財政条例」は、愚かな経営者の放漫経営を予防するという意味で、「未来の有権者への贈り物」であるといえる。また、健全財政条例は住民が財政を知るツールになり、「行政と住民との情報共有の架け橋」である。さらに、健全財政条例は財政無関心層の議員の存在を許さない仕組みであり、「議員と財政の架け橋」であるともいえる。

◆参加者所見

うらべさん1行政において首長がかわれば自治体の方針が変わるというのはよくあることだが、財政運営においては、どんな首長になろうと恣意的な要素を排除し、持続可能な経営を行わなければならない。そのために簡単には変えられない条例によって財政の在り方についてルールを定めることが重要であると学んだ。民主主義の根幹である税金を私たち自治体職員は日々活用して仕事をしているわけだが、そのことに慣れてしまい、感覚がマヒしてはいないだろうか。もう一度税の成り立ち・原点に立ち返り、目の前の仕事に真摯に取り組んでいるか、無駄遣いは無いか、もっと効率よくできる方法はないか、常に自己点検が必要だと感じた。

印象に残った言葉として「そこに民主主義はあるのか」という投げかけがあった。

住民から集めた税金をどう使うか選択するのは、とても重要な事であるにも関わらず、多くの自治体では、自治体内部の協議で決まってしまうのが多いのではないか。そうではなく、予算が決まるまでの過程を公表し、住民が意見を言える場を確保し、住民の意見を反映した予算編成をしなければならないと感じた。また、日々の仕事をするうえで、しっかり住民の声を聴き行っているのか常に意識しなければならないと思った。

(鳥取県江府町 浦部達洋)

 

すやまさん1「民主主義の根幹は『税』である」という言葉が印象に残っている。自治体の運営を支えているものは税金であるが、払っている住民として、その当たり前のことを忘れてしまっていたように思う。「納税者と受益者が結びつかない。原因の一つは源泉徴収にある」というお話もあったが、自分の払っている税金が、この自治体の運営に使われているのだという実感がない住民も多いのではないか。払ったお金が、どこにどんな風にどれだけ使われているのか、ということが見えてくると、住民にとって、自治体運営が身近になるかもしれない。松本さんの取り組みは、そんな住民の意識を呼び起こすことになり、また、財政運営基本条例を定めることで、未来の住民に対しても、健全な財政を保障していく手助けをしているのだと感じた。

 議会・議員についてのお話も興味深かった。松本さん自身が議員であったから、「議員が自治体の運営をチェックしているのだ」というお話しの内容がしっかりと降りてきた。これまでは、議員の方々はそれぞれの地元住民の要望を通すために動いているようなイメージで、自治体全体のことを見ているような気はしていなかった。しかし、行政が実施する・した仕事をチェックしてもらうのだから、判断できるように「わかりやすい資料」を渡すことは必要なことだと感じた。これまでの、行政職員側が持つ作られたイメージで判断をしてはいけないのだと反省した。

(群馬県高崎市 陶山朝江)