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2016年度国内調査(熊本県水俣市) :頭石村まるごと生活博物館は、住人が元気になる博物館(参加者レポート)

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日程:2016年9月17日(土) ~ 19日(月・祝)
調査地:熊本県水俣市
文責:東京都福生市 池田悟(2016年度参加者)

◆本調査の目的

 「まちづくりはそこに住む人々の『想い』から始まる」。

 週末学校では、このメッセージを一貫して伝え続けている。この「そこに住む人々の『想い』」とはどのようなものだろうか。そして、そこからスタートしたまちづくりとは、どのような様相を呈しているのだろうか。

 水俣病という苛烈を極める苦難を抱えながら、地域の自然や風土、そして人と人とのつながりを再起させ、新たな地域の価値を生み出すことで、人々が「ここ」に生きる希望をつくってきた熊本県水俣市。講師の吉本哲郎氏は生まれ育った水俣市を「魂の最も深いところが震えるまち」と表現する。

 本調査では、その地を実際に訪れ、混乱の渦中に身を置きながらも、地域の再生のために尽力し続けてきたキーパーソンらにお会いする。対話を通じて、彼らの地域に対する想いや哲学を肌で感じると同時に、この地域が発する熱量に触れ、真のまちづくりとはどのようなものなのかを探る。

 日々の生活の中に生まれた苦しみを含め、地域の想いを背負い歩み続ける人々に会い、自身の地域に対する見方や姿勢を見つめなおす機会としてほしい。

 

◆調査内容

【初めに:所感】

水俣調査は、楽しいこと、楽しい人、そして美味しいものでいっぱいの、あっという間の3日間だった。

その中でたくさんの人に会う機会をもらったが、誰も未来に対して愚痴を言っていなかったことが強く印象に残っている。皆、何かしらの形で 水俣という街の中で前向きな取り組みをしていた。

だが、それを見て「水俣は人に恵まれている」、「羨ましい」とは私は思わなかった。私が知らないだけで、自分のまちでも同じように想いを持った人はいるであろうし、福生には福生の良いものがある。

あとはそれをどう組み合わせていくか。そして私がどう動くかだ。

私なりではあるが、週末学校で学んできたことが少しずつ噛み合ってくる、そんな水俣調査だった。

 

【頭石村まるごと生活博物館は、住人が元気になる博物館】

水俣の調査で一番記憶に強く残ったのは、頭石村まるごと生活博物館の村めぐりだった。

千葉、神奈川、広島、山梨、東京といろんな土地に住んできた私だが、中山間地域に行ったことはほとんどない。正直、集落とはどんなものかもあまり想像がつかなかった。頭石

バスを降り、山の傾斜に沿って棚田や家々が並ぶ頭石集落に降り立った。熊本県水俣市頭石地区、30世帯90人の小さな集落だ。

案内をしてくれた山口さんの表情はとても活き活きとしていた。今年の初めに手術をしたという足を若干引きずりながらも楽しそうに村を案内してくれる。

ここが平家の落人が作った里であること、ここにはこんな神様がいて、ここには○○の実がなっていて、これは○○の花で、と聞けば何でも教えてくれる。

ここでの案内が山口さんのひとつの生きがいになっているように私には思えた。

そして楽しいから、地域をもっと良くしようと考える。ドジョウを流して子供たちが触ったりできる場を作ったり、そのドジョウを使ったブランド米作りを考えたり、と地域資源を活かすアイデアを出し続けている。

山口さんは以前娘さんから、定年を過ぎたらやることがなくてダメになっちゃうよ、と心配されていたようだが、それは杞憂のようだ。村まるごと生活博物館は、山口さんを初め地域の人を元気にし続けている。

 

【頭石地区の行政と住人との関係性】

続いて勝目さん、冨吉さんも交えての講義では、いかにして今のような頭石集落になったのか、行政はどう関わってきたのかが語られた。

そもそも今までも頭石地区では、国や県から降ってきた活性化プロジェクトが20年近く前から行われていたそうだ。ただし、今となっては何が残っているのだろうか?と山口さんは言う。

地域の実情は地域に暮らさないと分からない。地域の問題は地域でしか本質的な解決ができない問題なのだ。頭石元気村

山口さんは、何回も「頭石をどうにかせんといかん」と言っていた。そうした想いが結実したのが、この村まるごと生活博物館であり、今の頭石である。

国や県でもなく、一番身近な水俣市のフォローの下でこの博物館が出来上がったことは、何が残ったか、という先の山口さんの言葉を裏付けるものであろう。

 

そのフォローをする側であった市職員の冨吉さん。この頭石地区に来て一番最初にすることは、お母さん方への挨拶だという。冨吉さんは行政職員として地域の住人に信頼されるため、地区に足しげく通い信頼関係を構築してきた。訪れた回数は5年間で250回に及ぶ。

記録や写真撮影、調整など裏方の仕事を数多くこなし、勝目さんから今や「生き神様」と呼ばれるに至る。

冨吉さんは、行政には立派な事務機能がある、という。私は言われるまで気づきもしなかった。そして、その事務機能をうまく使いながら、今の頭石の住人との関係性を構築したのだ。

労を惜しまず、それでいて主役にならず(主役は住人)という、行政職員と住民の理想的な関わり方を見た気がした。

さまざまな成功体験が住民に自信を与え、住民が自走を始める。頭石はまさにそんな集落だった。

 

【吉井元市長が見ていたもの

最終日には、吉井元市長の講義があった。

私は、水俣病の公式謝罪を契機に、心の豊かなまちの実現を目指したことに興味があった。心の豊かさが実現する社会とは何であろうか? と。

その問いに対して吉井さんの答えは、物質的なものを追う社会ではなく、文化的、精神的なものを内包した価値観の多様な社会を指すものだと答えた。これを聞き、1990年代からこうした意識のもとに町づくりを進めようとしていたことに驚いた。

我々は、ポートランドでの視察を終え、「多様性を取り入れることが大事」と口々に言っていたが、水俣の時代を先取りする精神は、ここにも現れていたことを知った。

水俣病という惨禍により、複雑に分裂した街にあってなお多様性を許容しようとする吉井さんの強い意志を感じるとともに、これがもやい直しの一部であることに気づいた。

なぜなら、そもそも、もやい直しは人々の意思を統一しようという試みではない。離れてしまった人と人とのつながりをあるべき姿に戻す取り組みだ。喧々諤々の議論を重ねながら作ったもやい直しセンターも、その多様性を象徴する一つなのだ。

ところで、私は公式謝罪からの、水俣再生の取り組みを勝手ながら「たましいの救済」と考えている。こころよりももっと深い部分、実体も、捉えどころもないものをつなげる作業を、市長のビジョンの下に行った。そういう捉え方をしている。

見方が正しいかどうかはともかくとして、時に行政はそうしたものを扱い得るのだと吉井さんの話を聞きながら感じていた。

先ず隗より始めよ()

水俣では、杉本さん、商店街の笹原さん、永里さん、勝目さん、山口さん、そのほか多くの人々のさまざまな想いを聞くことができた。どの方も、自分の立場から地域のことを考え、たくさんのことを語っていた。だが、冒頭にも述べたように、この方々だけが特別なパーソナリティを持っていたわけではなく、こうした想いを持った人たちがどこの地域にも潜在的にいるはずだ。行政職員とそうした住人がWin-Winの関係でつながれるようになれば、それは街にとって大きな価値となるだろう。

だが机の上には、住人は現れてこない。想いを持つ人たちを見つけるには、やはり行政職員が役所の外を見なくてはいけないのだ。

松木さんのように時には行政への不満を一方的にぶつけられるかもしれないし、時間もかかる、結果もすぐには出てこないこともある。

ただ何もやらないわけにはいかない。池田さん2

もう一つ私がやらなくてはいけないことは、自分の仕事をもっと把握することだ。

冨吉さんは、図書館の勤務になって、自分の仕事を徹底的に調べ、それを元にさまざまな取り組みを推進した。私は、目の前の仕事をこなすことに夢中になって、自分の仕事の根本部分を調べていないことに気づいた。理由があって我々の仕事が存在しているはずなのに、根本部分を知らない。これでは問いが立たない。地域のこと以外にも、調べるものはたくさんあるのだ。

吉本さんは、この水俣調査の最後に「みんな調べない、だから考えない、だから(新しいものを)作れない」と言っていた。地域を考えるうえで、これほど大事なことはないと今は思える。

あるもの探しに行政や市民がすぐに価値を見出すのは難しいだろう。だがそう思うからこそ、水俣調査を通じて何回も出てきた言葉「人様は変えられない」という言葉が響いてくる。自分が変わっていかなければいけないのだ。

まずは身近なところと、自分から。

吉本地元学の教え子(?)として、少しずつ地元学の視点を根付かせていきたいと思う。

以上

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