2016年度のプログラムが終了しました(更新日:2016年12月21日)

2016年度国内調査~熊本県水俣市~:ここに生きる希望をつくる

キーワード:

日程:2016年9月17日(土) ~ 19日(月・祝)
調査地:熊本県水俣市
文責:神奈川県大和市 新郷亜由美(2016年度参加者)

◆本調査の目的

 「まちづくりはそこに住む人々の『想い』から始まる」。

 週末学校では、このメッセージを一貫して伝え続けている。この「そこに住む人々の『想い』」とはどのようなものだろうか。そして、そこからスタートしたまちづくりとは、どのような様相を呈しているのだろうか。

 水俣病という苛烈を極める苦難を抱えながら、地域の自然や風土、そして人と人とのつながりを再起させ、新たな地域の価値を生み出すことで、人々が「ここ」に生きる希望をつくってきた熊本県水俣市。講師の吉本哲郎氏は生まれ育った水俣市を「魂の最も深いところが震えるまち」と表現する。

 本調査では、その地を実際に訪れ、混乱の渦中に身を置きながらも、地域の再生のために尽力し続けてきたキーパーソンらにお会いする。対話を通じて、彼らの地域に対する想いや哲学を肌で感じると同時に、この地域が発する熱量に触れ、真のまちづくりとはどのようなものなのかを探る。

 日々の生活の中に生まれた苦しみを含め、地域の想いを背負い歩み続ける人々に会い、自身の地域に対する見方や姿勢を見つめなおす機会としてほしい。

◆調査内容

(1)プログラムの概要

2016年9月17日~19日の3日間、水俣市での国内調査に参加した。プログラム概要は以下のとおりである。

≪9月17日(土)≫

体験・講義:「水俣に生きるということ」 講師 杉本 肇さん

 水俣市の袋地区でしらす漁師、水俣病資料館の語り部、そして芸人として活動する杉本さんのお話を伺った。ごはんと同じくらいの量の釜揚げしらすが盛られた、しらす丼ぶりの昼食。

杉本水産

杉本水産にて。杉本さんの語りに聞き入る参加者

見学:水俣病資料館

 水俣市明神町にある水俣市立水俣病資料館の見学。1時間程度の短い見学時間だったが、副館長の草野さんに館内の展示について案内していただいた。今年4月に展示のリニューアルを行ったばかりとのこと。

講義:「日本一の読書のまちづくり~生命(いのち)やすらぐまちの実現を目指して~」

講師 冨吉 正一郎さん

使われなくなった県立高校の校舎を利用した施設「水俣環境アカデミア」にて、水俣市の職員、冨吉さんによる「読書のまちづくり」の取り組みの紹介。

アカデミア&本よみ場

  水俣環境アカデミア                             冨吉さんたちの取り組みのひとつである本よみ場

講義:「スウィーツでまちおこし~勝手にまちづくり委員会の取り組み~」

講師 松木 幸蔵さん

水俣市の職員、松木さんによる「勝手にまちづくり委員会」の10年間の取り組みの軌跡の紹介。

講義:「水俣市中央商店街の取り組み」

講師 笹原 和明さん、永里寿敏さん

水俣市中央商店街で洋菓子店を経営する笹原さんと、調剤薬局を経営する永里さんによる、商店街の取り組みや課題などの紹介。

 

≪9月18日(日)≫

講義・体験:「頭石村丸ごと生活博物館」「村めぐり」「食めぐり」

講師 勝目 豊さん、山口 和敏さん

湯の鶴温泉に奥にある、頭石地区の生活博物館の見学。学芸員として活動する勝目さん、山口さんの案内で現地を見学したのち、この取り組みにかける想いをお聞きした。地域のお母さんたちによる沢山の手料理をビュッフェ形式でいただく。

 勝目さんとおかず

雨の中、参加者へ説明をする勝目さん                     手作りのおかずが並ぶ昼食

 

発表:「私の地元学」

参加者が各自作成して持参した絵地図の発表。司会進行も参加者が「議長団」として務めた。発表を聞きながら、各自「自分ならこの絵地図をこうやって使う」アイディアをメモし、発表者へフィードバック。その後、代表者2名による、一代記の朗読。

 OLYMPUS DIGITAL CAMERA

参加者による絵地図の発表

講義:「私のまちづくりの履歴から~職員に期待したいこと~」

講師:吉井 正澄さん

元水俣市長の吉井さんによる講義。事前に参加者から寄せられた質問をもとに、それに答える形式でご自身の経験や想いをお話していただいた。

吉井さんへ

講義終了後、参加者から吉井さんへ地元の特産品を贈呈

≪9月19日(月・祝)≫

振り返り:「自治体職員として自身の果たす役割」

グループワーク形式で、各自で事前に行った地元学の絵地図づくりや一代記、そして今回の調査での気付きを話し合った。その後、今回の調査を経て、各自の地元に戻ったら何をやりたいのかを具体的に報告。

新郷さん_水俣

ポストイット

グループメンバーの気付きを模造紙にまとめた

(2)調査を通じての学びや気づきの考察、所感

日本はそれほど豊かな国ではなくなった、と言われる昨今。

そもそも、「豊かさ」や「幸せ」とは何なのか。「これが自分にとっての幸せ」という基準は人によって様々だが、そもそも行政は、なにが国民にとっての幸せなのか、きちんと想像を働かせることができているだろうか。

 水俣病が発生した当時、国にとって、地域にとって、「経済の発展」は大変重要な課題であった。もちろん現在も、政府にとって経済は最重要課題のひとつだ。ただし、その「経済」の中に「国民の幸せ」という視点を持つことができていないのではないだろうか。

豊かさの基準を「お金があること」「欲しいものが買えること」に置くことに、人々が警鐘を鳴らすようになってから久しい。戦後の「とにかく経済発展を実現して、お金を稼ぐことさえできれば、国民は今よりも豊かに、幸せになれる」という時代を経て、我々はお金を稼ぐことのその先にある幸せを見つめなければいけないステージに来ている。しかしながら行政は、「経済がうまく回って、満足のいく所得さえ得られさえすれば国民は幸せになれる」というお金に基準を置いた国づくり、地域づくりの発想から抜け出せていない。経済が回って、所得を得て、それによって、「一人ひとりの人間が実現したい幸せがある」というところまでは想像しきれていない。

元水俣市長の吉井正澄さんのお話をお聞きして、吉井さんは水俣病の患者やその家族一人ひとりの幸せに目を向けている方だと感じた。

患者に対する補償がなされれば彼らが幸せになれると考えるのではなく、「彼らが水俣病によって奪われた、本当は楽しいはずだった人生の時間」に目を向け、その奪われた幸せに対して思いを寄せていらっしゃった。

また、水俣病の語り部をされている杉本 肇さんからは、自分の両親や祖父母が水俣病になったことによって、子供時代に経験した怖さや寂しさ、そして両親に対して甘えることができず、複雑な気持ちを持ち続けた経験をお聞きした。後から補償がされて、新しい立派な家を建てることができたり、最新の電化製品を買うことができたりしたところで、奪われた家族の幸せな時間は戻ってこない。

袋地区

多くの水俣病患者が発生した、袋地区の海

「幸せや豊かさの基準は人それぞれだから、お金さえあれば各自でうまくやっていってくれるだろう」という問題ではない。お金の先に「実現したい幸せや豊かさ」があること、行政が、お金以外に、国民の幸せのためにやるべきこと、目を向けるべきことがあるのを忘れてはいけない。もちろん、行政が、それぞれの国民にとって何が幸せなのか細かい心配をして、必要以上の手助けをする必要はないのだが。

頭石地区で「村まるごと生活博物館」を見学した中で、最も印象に残ったのは、案内をしてくださった勝目 豊さんの生き生きとした元気のよい姿だった。

山間部の土地に石を積んで造られたここの農地は、面積も狭く、日照時間も限られている。よそ者から見れば、農業によって収入を得るには恵まれているとは決して言えない環境である。

 勝目さん2

参加者に説明をする勝目さん

 OLYMPUS DIGITAL CAMERA

頭石地区の棚田

しかし、勝目さんは本当に幸せそうだった。「子供が都会から帰って来たから自宅を建て直さなければならなくなってしまった」と本当にうれしそうに語る。そして、自分たちが先祖から受け継いで守ってきたこの土地を、雨が降る中しゃんと背を伸ばし、笑顔で見学者たちに案内して回る。豊かであること、幸せであること、そして生活が充実していることとは、こういうことを言うのだと勝目さんの姿を見て感じた。

そして勝目さんたちはこう語る。「市役所を使いたい人は使えばいい。自分でできる人は使わなければいい。」

この村丸ごと生活博物館の取り組みは、当初は行政の補助金を利用して必要な食器などの道具は買いそろえたそうだ。しかし、現在水俣市が行っているのは、見学を希望する団体とのコーディネート役、報告、など事務に関する仕事だけだ。行政による必要以上の手助けは要らない。それよりも、幸せと豊かさの実現のために、行政を必要とする人のために、必要とされることだけをやるのだ。

最終日の振り返りの中で、「国とは何なのか。国益とかではなく、人々の幸せがつながったものが国なのではないだろうか」という意見があった。幸せの実現にお金は不可欠化もしれない。しかし、行政が、経済が回ってお金さえあれば何とかなるという思い込みのままでいては、いけない。お金のその先にある幸せや豊かさに目を向けることが、日本が本当に「豊かな国」になるために必要なことではないだろうか。

以上

 

その他の調査レポートは以下のとおり:

○赤石望(東京都瑞穂町)「水俣市視察を経て~ここに生きる希望をつくる~」

○一色義直(埼玉県所沢市)「水俣レポート」

○陶山朝江(群馬県高崎市)「国内調査レポート」

○髙橋哲雄(福島県郡山市)「ここに生きる希望をつくる」

○廣木孝彦(茨城県高萩市)「国内調査@熊本県水俣市レポート」

○前田浩介(岐阜県可児市)「調べたら好きになる~水俣調査報告書~」

○渡辺浩二(北海道芽室町)「水俣調査に関する考察」

 

関連レポート

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