2016年度のプログラムが終了しました(更新日:2016年12月21日)

(2016年度国外調査)イブニングサイトビジット:「ホームレスキャンプ」参加者レポート②

キーワード:

調査地:米国オレゴン州ポートランド
日程:2016年7月30日(土) ~ 8月7日(日)
文責:東京都福生市 池田悟(2016年度参加者)

◆本調査の目的

オレゴン州最大の都市、ポートランド市とその近郊地域は、豊かな自然と、農業やハイテク産業等の地域産業の隆盛により人口の増加していく中で、行政が積極的に住民を巻き込み、住民主体のまちづくりを行ってきた。その結果、いま「全米一住みたいまち」と呼ばれ国内外から注目を集めている。

 第3回プログラムとなる国外調査は、このオレゴン州ポートランド市地域における市民と行政の関わり方を、現在ポートランドで起きている具体的な事例を切り口とし、講義や現場視察、行政・NPO・住民リーダーなど、様々な関係者との意見交換を通じて学ぶ。日本での常識が通用しない米国での文化環境の中で、ポートランドにおける住民と行政の関わり方を参考に、参加者自身の地域の状況を見直し、分析することで、住民主体のガバナンスのあり方に関する参加者それぞれの考えを確立することを目標とする。

 

◆調査内容

ポートランドプログラムは2011年以来、具体的な事例を切り口にして、地域における実践者や様々なステイクホルダーたちとの意見交換から、ポートランドにおける住民参加を考えると言うアプローチを取っている。1週間と言う短い期間で可能な限り学びを深める工夫の一つだ。事例は、①「MAXオレンジライン開通、パークアベニュー駅完成後のアーバン・グリーンの取り組み」②「アワー・ユナイテッド・ビレッジ:コミュニティづくりにおける巻き込み・実行・経験の語り伝え」の2つ。一つの事例から複数のことを学び取れるよう、プログラムが作りこまれた。

1週間のプログラムは、上記事例を中心として(1)市内探索、(2)講義、現場視察・ヒアリング、(3)イブニングサイトビジット、そして(4)特別セッション(イノベーション・ラボ)で構成された。

以下は、イブニングサイトビジット:「ホームレスキャンプ」に関する参加者レポートである。

 

◆参加者レポート②

(本ケーススタディの参加者レポート①はこちら


コミュニティがもたらすものと可能性(感想)

池田さんそもそも「コミュニティ」というもの(言葉)の漠然とした感じが私は苦手であった。コミュニティには形がない。コミュニティは見方を変えればいかようにも変化する。想像力を欠くせいか、コミュニティとは一体何を指し、何のために存在しているのか、今まであまりイメージがつかなかった。

しかし、今回イブニングサイトビジットでは、フェンスで囲まれた可視化できるコミュニティを目の当たりにし、そこでホームレスという社会的に苦境に追いやられた人々が、自分たちでルールを作り、自治をしながら見せる活き活きとした表情に驚かされた。

私は彼らの表情を見て、これがコミュニティのもたらす本当の効果であり、これがコミュニティなのか、と思った。簡単に言うなら「支えあい」とでも言おうか。とにかく、初めてはっきりとした形でコミュニティに価値を見ることができた。

これを見て、地元にあるコミュニティの見方も変わった。コミュニティが豊かになれば、地域も豊かになっていく考えも今はなんとなく理解できる。

こうした気づきを与えてくれたのが、今回訪れたホームレスキャンプ・ヘーゼルナッツグローブだった。

 

ホームレスだった人たちが生み出した自治(記録)

ポートランド市にあるホームレスキャンプ・ヘーゼルナッツグローブは、リビルディングセンターによるサポートで、9ヶ月前からホームレスの人々が集まり、約25人の小さなコミュニティを形成している。

リビルディングセンターは、資材の再活用によるコミュニティづくりを行っている。そのような活動の中で、コミュニティづくりや、建築のノウハウを持った人々のつながり「ビレッジコアリション」を立ち上げ、資材の提供などを通じて、キャンプ内の人々が自立をしていけるよう支援している。

 

まず、敷地に入る前にリビルディングセンターのマネージャーであるトムさんから事業やキャンプについて話があった。

リビルディングセンターでは、ホームレス問題に対し、建材の提供などの支援をしている。この建材を使ってホームレスの人々が敷地に家を建て、自立することを目指している。そのために、ただ解決策を与えるのではなく、それを考えさせるようにしている。リビルディングセンターは、社会福祉事業を行うNPOではない。あくまで資材などのリソースを使って、コミュニティの形成を図るのが目的の団体だ。

 

ヘーゼルナッツグローブの画期的なところは、まず現在のキャンプ地に元々コミュニティがあり、その後、家を建て始めたというプロセスだ。普通は住居を用意し、そこに人が住む、という逆の手順になる。だが、先にコミュニティができているほうが、地盤がある分コミュニティの持続可能性が高くなる利点がある。

加えて、家を建てるという行為は就労訓練になるうえ、人生のどん底を味わった人間でも、自分で何かできるという成功体験に結びつく。これにより、彼らは自分たちの価値を再発見できる。

また、路上で暮らすことは安全面や衛生面に不安があり、睡眠不足に陥ることもしばしばである。しかし、ヘーゼルナッツグローブのようにフェンスに囲まれることで、安心して眠れるようになる。

フェンスの中には水、トイレなどが確保されている。そうしたものを探さなければいけない不安も解消され、彼らは自分が抱える個々の問題に向き合っていくことができるようになる。

彼らはお金をほとんど持っていないが、コミュニティが持つ資産を共有することで、お金のあまりかからない生活を送っている。そして、キャンプの仲間と関わっていくことで、人に対する信頼も取り戻していく。

なお、資材を置く場所、トイレ、ごみのサービスなどは市が提供しているが、土地は借りているので実際に取得することは難しいという。

 

続いて中に入り、キャンプの成り立ちや今後の展望などを住人に聞いた。

彼らはこのホームレスキャンプに3年ほど前から住み着き、フェイスブックなどを通じて社会にこのコミュニティの存在を投げかけたところ、色々な資材などが届き現在に至るという。

その過程で、市が面倒を見てくれないことを、住人同士で行うようにした。自分たちで自警団を作り、ルールを作って安心して暮らせるようにした。

Dog

敷地内で犬を飼う住人も多い。ポートランド全体でも犬を連れたホームレスが目立った。

 

毎週土曜日には、住民が集まって会議(General assembly)を行い、問題点や新規の事業などについて話し合っている。90%以上の合意がとれない限り、提案は認められない。90%とするのは、決定後にもめないためだ。意見をすり合わせ、9割の合意がとれたときのみ、行動を起こすことにしている。

現在、ヘーゼルナッツグローブは市からも居住地とみなされており、警察も勝手には入ってこない。今、キャンプはとてもうまく運営されているので、これからも住人はコミュニティをより良くしていきたいと思っている。そのために、ホームレスに対する偏見を取り除き、意識を変えるため、音楽コンサートなどの啓発イベントに取り組み始めている。

 

行政の仕事とは何か?(考察)

このホームレスキャンプは、コミュニティの住人が行政に頼ることなく、自分たちで自治を作りだした珍しい例だ。もちろん、彼らだけでは現在のところ自立ができていない。資材を提供するリビルディングセンター、土地を開放するポートランド市、その他さまざまな寄付を行う人など、彼らの背後には多くの人々のサポートが隠れている。

ただし、その後のコミュニティの運営に関しては、そこに住まう彼らの知恵と工夫である。より良いコミュニティを作りたいという想いのもと、ルールを作り、自分たちを律している姿は村落の始まりとも言えるだろう。

そして、無法地帯であったコミュニティに結果的に民主主義のプロセスを取り入れたことは、人間の持つ社会性の表れであると思う。彼らはこのコミュニティでの生活を通して、民主主義への信頼を取り戻したとも語っている。

POP

犬の糞を処理しましょう、という張り紙。日本ではよく行政がこうしたポップを制作し配布している。

 

また、彼らの口からは、行政がやってもうまく行かなかったことを、自分たちでうまくやっているという言葉が聞かれた。それには、例えば薬物中毒者が薬物をやめた、体重が減った(健康問題の改善)など、さまざまなケースがあった。

この話を聞き、では果たして行政が本来やるべき仕事はいったい何なのだろうか、と考えた。やるべきことと、そうでないことに、どこに線引きをしていけばいいのだろうか。

そう考えていくと、実は行政の仕事は絶対のものではなかった。本来、行政の仕事はコミュニティと相対的な関係にあるのだと改めて気づいた。まさに市民ができないことを、自治体が、という補完性の原理そのものである。

にもかかわらず、現状では日本の行政はなかなか仕事を手放すことをせず、業務は増す一方にある。そして、この構造が「行政はなんでもやってくれる」という誤った認識を植え付け、市民・コミュニティが自分の属する地域のこと・問題を考える機会を奪ってしまっているのではないだろうか。行政はしんどく、住民は知らぬ間に機会が失われているという、いわばLose-Loseの不幸な関係だ。この状況は、行政を直接的に頼らず、自分たちでなんとかしようとしているヘーゼルナッツグローブの環境とは正反対である(もちろん、彼らと行政の関係がWin-Winであるとは考えていないが)。

このヘーゼルナッツグローブでは、住人やコミュニティには本来こうした力があるのだ、ということをまざまざと教えられた。

コミュニティと行政の相対的な関係を踏まえつつ、Win-Winの状態に持っていくには何ができるのか。まだはっきりと答えは定まっていないが、行政職員として、そしてコミュニティを形成する一員として、このあるべき姿を模索をしていかなくてはいけないと思う。

以上

 

 

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