2016年度のプログラムが終了しました(更新日:2016年12月21日)

住民・行政・議会、三者の関係から自治を考える

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講師:中尾修(東京財団研究員、元栗山町議会事務局長)
講義日:2016年6月25日(土)
文責:週末学校事務局 稲垣亜希子

◆本講義の目的

  これまでニセコ町と和光市の取り組みから、地方自治における行政の役割について考えてきた。本講義では、もう一つのアクター、地方議会に焦点を当てながら、改めて自治の本質について考えたい。

  2006年に北海道栗山町で全国初の議会基本条例が制定されてから10年が過ぎた。「議会の情報公開と住民参加」の促進を目的とした同条例の制定が全国各地で進み、現在では700以上の自治体が同条例に則り議会運営を行っている。

  翻って行政はどうか。まちづくり条例(自治基本条例)といった「住民参加・協働」に関する条例が相次いで制定されていることもあり、首長による住民との懇談会の実施やパブリックコメント制度の設置等、「住民参加」のための制度や仕組みは地方議会に先行して整えられている。しかし現場の行政職員は、「住民参加」のための制度や仕組みを、住民によるまちづくりのために運用しているだろうか。

  本講義では、北海道栗山町の議会事務局長として全国初の議会基本条例の制定に尽力した中尾修氏を講師に迎え、二元代表制における行政と地方議会の役割と現状の問題点を整理する。同時に、住民と行政と議会のそれぞれの関係性を再確認し、行政職員の依って立つところを明確にしたい。

 

◆講義内容

●地方自治の仕組み

「住民自身が、自分たちの住んでいる地域の課題を考え、議論して、よりよい地域づくりのために努力することが必要です。このように、住民の意思にもとづいて、それぞれの地方の運営を行うことを住民自治といいます」

 「それぞれの地域はまずは住民自身によって運営されるべきもので、そのために国から自立した地方公共団体をつくるという原則があり、このことは憲法によって保障されています。これを地方自治といいます。」

 「首長と地方議員という、2種類の代表を住民が選ぶこと(二元代表制)が、地方自治制度の特徴です。」

 「地方自治では、首長や地方議員を選挙するだけでなく、住民による直接民主制の要素を取り入れた権利(直接請求権)が認められています。」

 「その地域にとって重要だと思われる個別の問題に関して、地方議員を通じて議論するのではなく、住民による投票によって、住民全体の意見を明らかにしようという動きが活発になっています(住民投票)。住民投票は、具体的な問題について賛成・反対といった意見を住民が直接あらわし、首長や地方議会を動かす機会です。」

  上記はすべて、中学3年生が使用する公民の教科書の記述の一部である。つまり地方自治の仕組みはこれが標準。まずは原則をいま一度確認しよう。

 

●住民代表機関としての議会

  中尾さん二元代表制に基づき、住民は首長と議員をそれぞれ選挙で選ぶ。行政は首長のみが住民から選ばれる独任制機関であり、地域運営の企画、予算編成、執行、評価までを行う。それに対して議会は構成員である議員一人一人が選挙を経ている合議制機関であり、執行に対する決定を行う。すなわち住民は役割の異なる行政と議会の二つの異なる意思をつくるということであり、ここでの微妙なずれがまさに二元代表制の優れた部分と言える。

  以下は片山善博氏(慶応大学教授、元総務大臣、元鳥取県知事)が鳥取県知事就任直後に臨時議会で行った挨拶の一節である。見事にわが国の地方自治制度である二元代表制をあらわしている。

   「私が議会にお諮りする案件について、県民の意思が他のところにあるとすれば、ためらうことなく修正を加えていただきたいと思います。また、私がお諮りしない案件につきましても、県民の意向を踏まえて必要があれば議員各位の発議により条例の制定などに取り組んでいただくことを望みます。これらのことでの遠慮は私には無用でありますし、これがそもそも我が国地方自治制度が想定している議会本来の姿でもあります。県政にずれがあるとすれば、それはもちろん執行部の責任でありますが、同時に議会の責任でもあります。私は県民の代表として、真に県民のための県政を実現するため全力を尽くします。議員各位におかれても、同じく県民の代表として県民の総意を県政に反映させるべく、積極果敢な議会活動を展開されることを切望する次第であります。」

   現在の制度設計上、行政の持つ権限が大きすぎていて、議会とのバランスが取れているとは言えないのが現状である。また、議会には決定した内容に対する説明責任はあるものの、法的責任(賠償責任)までは負わない。議会が決定を下さない限り行政は執行はできないが、決定が自治体に悪影響を与えても、議会議員はその責任を負わないのである。これも欧米各国と異なる制度であり、日本の地方議会の弱いところである。

 とはいえ、議会は一人一人選挙で住民から選ばれた議員で構成されている住民代表機関であり、自治の根幹であると言える。

 

● 住民との直接対話:議会報告会と議会基本条例の意義

  2006年に北海道栗山町で全国初の議会基本条例が制定されてから10年が過ぎた。全国各地で同条例の制定が進み、現在では700以上の自治体が同条例に則り議会運営を行っている。着々と地方議会改革は進んできているが、そもそもなぜ地方議会改革を行う必要があるのだろうか。議会基本条例を定める意味はどこにあるのだろうか。

  多くの地方議会はこれまで意思決定を密室で行ってきた。情報を住民に公開してこなかったその長年のツケが昨今の地方議会への不信に繋がっていると言えよう。行政だけでなく、地方議会も情報公開と情報共有を進めていくことで、住民の信頼を勝ち取っていかなければならない。東京財団は、議会が住民と共に歩んでいくことを明確に規定するべく、議会基本条例の必須要件として、①議会報告会の実施、②請願・陳情者の意見陳述、③議員間の自由討議、の三点を挙げている。

中尾さん_講義風景

  特に情報公開・共有の観点からは①議会報告会の実施が肝要だ。議員は、議員活動と議会活動の両方を行う必要があり、より重要なのは後者である。これまでも各議員が個別に実施する報告会はあったかもしれないが、えてしてそれは自身の支持者に対する限定的な報告に限られることが多かったのではないだろうか(議員活動)。ここでいう議会報告会は、議会における議案の審議過程や議決事項を説明し、住民と意見交換を行うためのものであり、地域経営の一翼を担う議会としての報告会だ(議会活動)。議会報告会は住民と向き合い、信頼関係を築いていくための重要な場だ。住民に持続的に関心を持ってもらうためには、人口減少や格差問題といったテーマを設定したり、若者や女性を対象にした報告会を取り入れるなどの工夫が必要となってくる。そして住民が発するあらゆる質問を想定して備える必要があり、議員は否応なしに鍛えられることになる。

 議会改革の目的は住民自治を深めることであり、住民代表機関の議会にとって住民参加の機会である議会報告会の開催は生命線である。この10年間の地方議会改革の大きな成果は、「議会への住民参加」という考え方が当たり前になったことと言えよう。

 

● 地方議会に対する自治体職員の認識と問題点

  着々と地方議会改革は進んでいるが、翻って行政はどうだろうか。

  行政はそもそも執行機関であるがゆえに現状を肯定する力は大変強く、変化に対しては鈍感だ。事業の企画、予算編成、事業の執行、評価と一連のプロセスをすべて担っているが、これだけの機能を有する体制は先進国中では稀だ。自治体職員は地方自治の仕組みを正しく理解したうえで、自分たちは強い行政権を持つ権力側の人間だということをしっかりと自覚して日々の業務に臨む必要がある。

  強大な権力を持ち、その結果多くの情報を持っている行政と、先述のとおり決定が主な仕事となっている議会とは、その権能においてバランスが取れているとは言えないのが現状である。ましてや主権者である住民との情報格差は推して知るべしである。自治体職員は「情報の優位性」に支えられているのである。

  行政が持つ情報を正確に公開・共有することで、行政が提示する議案に対する質問は増え、内容も厳しくなる可能性があり、自治体職員にとっては避けたいことかもしれない。しかしこのことは結果としては自治体職員を鍛えることになり、行政全体のレベルが上がることにつながる。住民、議会、行政それぞれが切磋琢磨しあうことで、よりよい地域づくりが可能となるだろう。

 また、政治と距離をおいた方がいいと考える自治体職員は多いが、一市民としては自身の暮らす地域づくりのために積極的にコミットしていくことが求められる。また、自治の観点から、身の回りのことだけでなく地域全体のことを考えるようにしてほしい。

 

● 人口減少社会:市町村の現状・地方創生に自治体職員はどう向き合うか

   厚生労働省の人口問題研究所の推計によれば、2005年を境に日本の人口は減少に転じており、遠くない将来である2050年には実に25%減となる。一方これに反比例する形で高齢化率は40%にまで上昇していくことが分かっている。現在、政府の進める地方創生の一環で全国の各市町村がそれぞれの人口推計を出しているが、多くの自治体が人口増加または横ばいとの試算を出しているそうだ。総人口が25%以上減るのに、それぞれの自治体の試算を足し合わせると現在の人口を超えることになるという。現実的な数字でないことは自明である。こうした数字を基に立てる行政計画は、当然ながら非現実的なものとなる。

● 質疑応答

[質問1] 
自分は広報広聴担当として、日々住民の意見を聞いている。同様に議会は報告会を開催し、住民の意見を幅広く聞いている。住民の負担軽減のためにも、行政と議会、同じ場で住民の声を聞き、それぞれの立場で議論しながら政策をつくっていくことはできないのだろうか。
[回答1] 行政と議会はそれぞれ役割が異なるため、同じ場で住民の意見を聞こうとすることは望ましくない。執行機関である行政には住民に対する執行責任(決められたことを効果的に効率的に進める責任)があり、意思決定機関である議会には議決責任(そもそも決める責任)がある。住民から託されているものが根本から異なっている。役割の異なる二つの機関間の競争が二元代表制の本質である。

 

[質問2] 議員の高齢化が当町の課題。報酬が少ないことが原因の一つと考えているが、例えば議員定数を減らし、その分一人あたりの報酬を引き上げて、幅広い世代が参加できるようにしたらいかがか。
[回答2] 定数削減は反対。議会は住民代表機関であり、そこで議論される内容には様々な住民の意見が反映されていなければならない。私見だが、会議をするためには最低でも12~13人は必要だ。その代わりに私が提唱しているのが通年議会にすることである。平日の夜や週末を利用して、様々な人が参加しやすくなるようにしていくとよい。

 

[質問3] 若者や女性にも議会に関心を持ってもらう必要性を痛感しているが、どうすれば関心を持ってもらえるのか。例えば議員自身が議会のことを子どもに教えるという取り組みはどう考えるか。
[回答3] 議員自身が子どもたちと話し合うという考えは、議員の鍛錬にもなるしいい考えだ。例えばワールドカフェ形式で行えば、異なる意見を議論しながら合意をつくっていく訓練にもなるだろう。

 

[質問4] 「行政=権力」という部分をもう少し詳しく説明いただきたい。
[回答4] 行政は多くの権力を持つが、その最たるものが徴税権である。松本武洋氏(埼玉県和光市長)の講義で詳述されたとおり、税金は自治の根源であるが、自治体職員はそのことを認識して日々の仕事にあたっているだろうか。自身の持つ強力な行政権は住民福祉の向上のためのものであるという自覚をしっかり持っていただきたい。

 

 

◆参加者所見

一色さん「講師は、『行政職員は権力を持っていることを意識しなければならない』と再三指摘していた。執行権を保有しない議会との対比を通じて、それが明解に理解できた。(中略)そして、これまで比較的距離のある存在であった議会、議員について、住民自治をすすめるための重要なパートナーであるという認識に変わった。今後、問題意識を高め、私たち行政職員と、議会、議員の機能が、地域住民にとって最大限役立つように、相乗効果を発揮して行けるように努めたい。

といっても、具体的に議員とどのように接すれば良いのであろうか。実は、その質問を親睦会の席で、講師に直接聞いてみた。どの程度の関係性が理想的かと。地元出身で地元に暮らす住民でもあるため、個人的に親しい議員は複数存在する。しかし、そんな議員たちと、顔を合わせてもあまり仕事の話はしないできた。なんとなく、避けるという雰囲気はあったかもしれない。講師の回答としては、市民と議員としての関係性ならば良いということであった。(中略)行政職員と議会とは距離感を保つべきという先入観があり、関心を持つことを避けていた面があったかもしれない。しかし、今回の学習を経て、自分なりの考えをまとめて行く上で、議会の役割や機能がいかに重要であるか、はじめて問題意識を持つようになった。」(埼玉県所沢市 一色義直)

 

荒野さん「議会の追及が職員の能力を高めるという講師の言葉に現れるように、議会と首長が互いに調査や政策形成、住民説明などそれぞれ意見をぶつけ合い切磋琢磨することが、2つの視点でそのまちを検証することができ、より広がりをもった成果が生まれると感じた。そのためには、まず、必要以上に議会を自分から遠ざけないこと。立場は違っても、地域住民の福祉の向上という目標は同じであることから、丁寧な協議で少しでもお互いが成長していくべきだと感じた。改めて認識したが、職員の強さは、情報の優位性に支えられている。行政は事業の企画から評価まで、議会を大きく上回る権限を持っているとともに、情報量の多さで有利な立場を維持しているということだった。しかしそれは、本来のあるべき姿なのだろうか。情報収集に差があることで一方通行の意見ばかりで、実のある協議が展開されていないのではないか。お互いが対等に同じ土俵で協議をすすめていくためには、情報量の差というものは互いに埋めていかなければならない。」(茨城県行方市 荒野晃一)

 

関連レポート

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・ 「住民・行政・議会、三者の関係から見えてくるもの ~全国に広がる地方議会改革~」

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・ 「全国に広がる地方議会改革 ~住民・行政・議会、三者の関係から見えてくるもの~」 
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